

DAW付属プラグインだけで極上ミックス!!超重要テクニックで楽曲が昇天
先日、『初音ミク NT (Ver.2)』の公開にあたって、筆者がデモフレーズ「Demo Phrase F」のミックスを担当しました。
『初音ミク NT』にはDAWソフト『Cubase LE』が付属しており、音楽制作をすぐに始めることができます。今回の「Demo Phrase F」では、『初音ミク NT』を購入しただけでこんな曲が作れるよ、ということをお伝えしたく、Cubase LE付属の音源のみを使用したバージョンを作り、筆者もCubase LE付属のエフェクトのみを使ってミックスする、という取り組みをすることになりました。
本記事では、このデモフレーズのミックスの進め方と、その考え方を詳しく解説します。
ミックスのビフォー/アフター
何はともあれ、先ずはミックス処理の前後をお聴きください。
ビフォー
アフター
ミックス後の画面。インサートの他に[e]アイコンからアクセスできるチャンネルストリップを使用している。
Cubase LEには、チャンネルストリップに「イコライザー」と「コンプレッサー」が、インサート・エフェクトには主に「VSTDynamics」というゲート/コンプレッサー/リミッターのマルチエフェクト、リバーブやディレイなどの空間系、アンプシミュレーターのような歪系、コーラスなどのモジュレーション系のエフェクトが付属しています。
特にモジュレーション系のエフェクトが充実している反面、インサート・エフェクトとしてのパラメトリック・イコライザーやディエッサー、イメージャーなどがないため、工夫しながらミックスを進めていくこととなりました。
ドラムの処理
ビフォー
アフター
目指す方向性
- ミックスで埋もれ気味なので、メリハリ感/パンチ感を出したい
- モコっとした質感を解消したい
- よりドラムの「生っぽさ」を引き出したい
- ドラムヘッドの皮が鳴っている感じを引き立てる
- 残響はリバーブではなく、オーバーヘッド・マイクやルーム・マイクを活用したい
処理内容
今回はドラム音源に「Groove Agent SE5」が使用されていました。この音源は、画面下部からトラック毎にエフェクトが調整できるほか、リバーブ等のセンドエフェクトやキット単位のエフェクトインサートラックが搭載されており、ソフト音源内でミックスを完結できるような設計になっていました。
オーバーヘッド・チャンネルのサウンドの完成度が非常に高かったため、実際の生ドラムのミックスのようにオーバーヘッド・チャンネルのフェーダーを上げた状態で、他のチャンネルのフェーダーを上げていき、生のドラム感とパンチ感の丁度よいバランスを探していきました。
ルーム・チャンネルは使用しないこともありますが、今回トラック数が少ないため、アタック感だけでなく厚みを持たせる意味を込めてに多めに混ぜています。
インサート段には、少し眠ためな印象のサウンドを際立たせるためにまずコンプレッサーを掛けています。アタックタイムはパンチ感が出るように長めに、リリースタイムは楽曲と演奏のリズム感にマッチするように設定。レシオを上げていくと「パキッ」とした印象になるのでイメージに近いところを探り、最終的には最大に設定しています。
POINT
筆者がコンプレッサーを使う時のテクニック(?)の一つとして、ゲインリダクション・メーターが踊るように意識しながら設定を詰めていくというものがあります。こうすることで、不自然に「コンプが掛かった感」を薄めることができます。メーターを踊らせるためにはリリースタイムが重要で、主にこれを調整してメーターの動きを制御していきます。
これ以降の処理は他のトラックの処理も終えた後に、ソロを使わず全体を見ながらインサートしています。
ここではリバーブをインサートしていますが、厚み感を更に増加させる目的もありながら、音を滲ませる意識で使用しています。ミックス全体を眺めながらDRY/WETを操作し、分離し過ぎず溶け込み過ぎない丁度良いところを探します。
ここでは更にコンプレッサーをインサートしています。ダイナミクスレンジを調整する役割としてインサートしており、アタック/リリースともに短く設定しています。
ミックス全体を眺めながらレシオを操作し、楽曲のイメージに合致するところを探します。VSTDynamicsは[AM]ボタンを有効にすることで、コンプレッションした(音量を下げた)分を自動でボリュームアップしてくれるので、非常に便利です。
ベースの処理
ビフォー
アフター
目指す方向性
- 打ち込みっぽさを解消したい
- 高域のアタックが生演奏よりも強く、均一すぎるので調整する
- 抑揚を出す
- 低音から下支えするような音に仕上げたい
- 曲調的にキックは軽快に鳴るのが良さそうなので、キックより低音を担うイメージ
- ただし、あまり低い周波数に寄せ過ぎず、様々な再生機器で聴こえるように配慮したい
- 安定感のある方向性に仕上げる
処理内容
今回の音色は輪郭の強い音色であったため、少し滲ませつつ丸めていくイメージでアンプシミュレーターを使用しています。特に「DAMPING」の設定は強力で、これを下げると“ユルい”印象のある音になります。低音のDANPINGを下げて重心低めのベースが楽曲を支えているイメージにしています。
ピアノの処理
ビフォー
アフター
目指す方向性
- 伴奏の主役を担うので、ガッツリ目立つように仕上げたい
- 楽器数が少ないので、コード感が安定して出るように強くコンプを掛けるイメージ
- ほかの楽器を邪魔しないように周波数を削りながら、ボリュームは大きくするイメージ
- ほかに高域を担当するパートもいないので、更にブライトな仕上がりにする
処理内容
ピアノにも「HALion Sonic SE」が使用されています。最初からコンプレッションがかかった、元気なサウンドが特徴です。
作曲者の意図を組んで音源には手を入れないことが普通ですが、今回は目指すミックスに合わせてブライトネスやEQを微調整しています。
ボーカルの処理
ビフォー
アフター
目指す方向性
- 既にボーカル処理がある程度されていたので、ビフォーのイメージはなるべく尊重する
- より飾り気のある雰囲気に仕上げたい
- ほかのトラックと混ざった状態で、ハキハキ歌って聴こえるように微調整する
処理内容
もちろんボーカルは『初音ミク NT』が使用されています。ライブラリは「Dark」で、初音ミクの楽曲としては比較的低音域に寄った歌唱になっています。
Cubaseのチャンネルストリップには既にコンプレッサーが設定されていたので、これには触れずに作業を進めていくこととしました。
チャンネルストリップのイコライザーでは、コンプレッション処理によって出過ぎた高域を抑えるように調整しています。また、楽曲全体をプレイバックしながら低域のバンドを操作し、楽曲と声のイメージに合致するポイントを探り、設定しています。
その他の処理
一通りミックス作業が終わったら、ミックス全体の最終調整を行います。
チャンネルストリップをインサート・エフェクトの前段にかける方法が見つからなかったため、ここではすべてのトラックから一度バストラックを通し、マスター段のイコライジングをしています。
今回は低音の濁りを取る役割、輪郭をはっきりさせるような役割、爽快感を演出する役割の3バンドを使用しました。
最後にコンプレッサー/リミッターを掛けています。マスター段でのコンプレッサーは使用しないこともありますが、今回はギュッとミックスを凝縮した風合いにするために使用しています。
「VSTDynamics」では、コンプレッサーのメイクアップ・ゲインで最終的なリミッター段への入力レベルを調整することができます。ここでも強めにリミッターがかかるように設定しています。
POINT
今回はトラック数が少ないことと、楽曲の属するジャンルの印象からも、ミックス作業全体を通してダイナミクスを潰していく方向で調整しました。しかし、時にはエフェクト(特にコンプレッサー)を掛けない勇気も必要です。この記事をみて「とりあえずコンプレッサーを掛けよう」というマインドにならないように注意してください。
さいごに
いかがでしたか?「Cubase LE」に初期搭載されているエフェクトしか使わなくても、良いミックスができたのではないでしょうか。
実際にCubase LEだけでもミックスを仕上げることはできましたが、正直に言えば市販のプラグインがあればもっと“楽に”ミックスを進めることができたと感じました。市販のプラグインの魅力は「できないことができる」以上に、「イメージへの最短距離を叶える」「もっと楽に調整できる」ところにあると思います。
市販のプラグインを導入してみたいといった方には、自分の手でしっかりミックスをやりたい・学びたいならWAVES、AIの力を借りて作曲に集中したいならiZotopeがおすすめです。どちらもセール割引率が非常に高く、特にバンドルがお得になる傾向にあるので、一気にミックス環境を整えられます。
更に便利さやクオリティを求めるようになったら、自分の求めるものに応じて単体のプラグイン・エフェクトを買い足していくことで更なるステップアップにつながります。SONICWIREでは初心者向けから職人向けまで、幅広いプラグイン・エフェクトを取り揃えていますので、是非一度チェックしてみてください。
今回制作したセッションは後日公開する予定です。それぞれのエフェクトをバイパスしたりして効果を検証し、今後の音楽制作ライフにお役立てください!
他にも、各種ミックス解説記事も公開しておりますので、是非併せてご覧ください。
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