【プロの音への第一歩】理詰めで学ぶミックス講座 第一回 – なぜ「ミックス」をするのか?
作曲からミックスまでを一人で完結するのがスタンダードになって久しい昨今。DTM初心者~中級者にとっては、ミックスについて人それぞれ言うことが違って、何が正しいのか分からないという状況に陥りがち。
そんな迷える人々を導いてくれる「理論」に沿って、ミックスについて解説していきます。
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なぜ「ミックス」をするのか?
「どうしてミックスをするんですか?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか?
「音を良くする」というのは、本稿ではNGです。これでは抽象的すぎて何が正解かがわからなくなってしまいます。
私の場合、「音楽を聴きやすくする」という目標を設定しています。各々の楽器がどういった演奏をしているのかを聞き取りやすくする、人間にとって不快な高音を抑える、楽曲の展開を一聴して解りやすくする、といった具体的なプランが立てられます。
具体性を増すことで、「やっていることが正しいのか」を明確に判断できるようになります。
「美味しいりんごを作りたい」を目標にすると、どんなりんごに育てれば分からなくなりますが、「甘い」とか「瑞々しい」と具体的にすれば、それに向けて何をやれば良いのかがわかりやすくなります。
このシリーズでは「音楽を聴きやすくする」を目標に据えて理論を展開していきますが、これが正解というわけではありません。皆さんも今一度ミックスする理由を考えてみてください。
ミックスを3つの要素で考える
先ほど「音楽を聴きやすくする」ことを目標に掲げましたが、これを更に分解していきます。
音楽を分解していくと、表現や展開、目的といった様々なキーワードが出てきます。
本稿ではミックスで主体となる、音楽の「音」の部分に着目して、更に細かく要素を洗い出してみます。
- 周波数
- ステレオイメージ
- ダイナミクス
これら3つの要素を使って、楽器同士を分離させたり、逆に馴染ませることができます。更に応用すれば、曲の展開を作りだすことも可能です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
周波数
周波数帯が同じ楽器、例えばキックとベースをどちらもしっかり聴こえるようにするには、ひと工夫する必要があります。
よく用いられるのが、キックとベースの周波数帯域を棲み分ける手法です。
キックが上の帯域、ベースが下の帯域にくるように配置する場合は、キックの低音を削ってあげるなどして「整理」することで聴き分けやすくなります。
なお、音色には「重心」のようなものがあり、イコライザーでは調整できません。重心を変えたい場合は、音を調整するのではなく音を変える作用のあるエフェクトを選択しましょう(TONEノブを備えたエフェクトなど)。
ソロで聴いた際に少し違和感のある音になっても、全体で聴いたときに違和感がなければ問題ありません。
ステレオイメージ
周波数で棲み分けできない時は、パンニングで逃がすのが効果的です。
例えば、ギターとピアノの周波数が被って聴こえづらい場合も、それぞれ左右にパンを振ることで完全に分離して聴こえるようになります。
非常に便利な反面、頼り過ぎるとスマホのスピーカーのようなモノラルに近い再生環境ではうまく聞こえなくなるので注意が必要です。
エフェクト・プラグインの中にはステレオ感を拡げるものもあります。これを用いれば、ステレオ素材の中央にある成分を薄くして左右に寄せる(逃げる)といったことができます。
ステレオイメージで重要なのが、左右のバランスです。
左右の音量は勿論、左右で周波数の分布がなるべく均等になるように楽器を配置していくことで、聴きやすくなります。顕著な例として、ステレオ黎明期のビートルズ作品はドラムやベースが左に集中したりしていましたが、後に修正されています。
ミックスを始める時、最初にトラック全体を見通してどのように楽器を配置するのかを決めておきましょう。ここで左右で周波数のバランスが取れないと感じたら、アレンジに戻ってトラックを減らすか増やせると理想です。
尚、イメージ画像に加えて、後に説明する「ダイナミクス」も考慮にいれて三次元的に配置できるようになると、よりバランスの良いミックスができるようになります。
ダイナミクス
ダイナミクスは絶対的な音量だけでなく、アタックの強弱やスピード、そして持続音であるかといった時間変化を含めた音量を指します。
打楽器やプラック系のパーカッシブな音色は、ピアノやギターといった持続音と一緒に鳴っていてもしっかりと聴き分けることができます。
これまでの要素を駆使できない場合、例えばピアノとギターを分離させたい時は、どちらか一方のアタック成分を強調したり、あるいはギターをカッティングにアレンジすることで聴き分けやすくなります。
ダイナミックレンジの差が大きいと、分離しすぎて違和感のある、混ざり感のない音響になります。
それを逆手にとって、ボーカルのダイナミクスレンジを他よりも狭くすることによって、目立たせるといったこともできます。
第一回のまとめ
本稿は、なるべく読みやすいように、補足を極力そぎ落とした記事にしました。
この記事だけでは「つまりどういうこと?」と感じてしまう方も多いかもしれません。
先ずは、「周波数」「ステレオイメージ」「ダイナミクス」を分けて意識し、馴染ませたり、分離させることができるというのを試し、体感してみてください。
第二回以降では、より詳細に解説していく予定です。お楽しみに!
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