SONICWIRE

ボカロP “Twinfield”さん に聞く!「夏に透明」の楽曲制作で使用したプラグイン・エフェクトと、その設定をご紹介。

2025年8月1日 12:00 by num

DTMをはじめとした音楽制作の中で、ソフトやプラグイン・エフェクトの存在は非常に重要です。音色やエフェクト1つでもサウンドの聴こえ方が大きく変わってくるため、これらの選定は楽曲の世界を形作るのに欠かせない大きな構成要素となります。

SONICWIREでは、クリエイターの皆さんが楽曲制作に対してどのようなアプローチを取っているかお話を伺い、まとめていく企画、題して「クリエイター・バトン」。実際に楽曲制作に使われたソフトやプラグイン・エフェクト、音源などをご紹介します。

普段から楽曲制作をされている方も、趣味で曲を制作している方も、これから作曲をやってみようと思っている方も、クリエイターが普段どんなソフトやプラグインを“良い”と思って使っているのか、ぜひ読んで参考にしてみてください。

■ クリエイター紹介「Twinfield」さん

第15弾は「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」の収録楽曲「ONESELF」「夏に透明」、マジカルミライ2023で演奏された「レッドランドマーカー」で知られるTwinfieldさんにご担当いただきました!

この先はTwinfieldさんに、実際に使っているプラグイン・エフェクトや楽曲制作におけるこだわりをご紹介いただいております。Twinfieldさんの楽曲はどのように作られていたのか、楽曲制作のポイントや工夫がたくさん詰まっておりますので、ぜひ最後までご覧ください!それではTwinfieldさん、よろしくお願いします!


こんにちは。Twinfieldと申します。sasakure.UKさんからご紹介いただき、本企画をバトンタッチいたしました。とても光栄です。ありがとうございます。

※前回のsasakure.UKさんの記事はこちらからご覧いただけます。

今回は僕の楽曲「夏に透明」で使用しているボーカル用プラグインを主にピックアップしつつ、いつも使っているプラグインやその使い方のヒントを紹介できればと思います。よろしくお願いいたします。

■ ボーカルは超大事

最近は特に実感するのですが、音楽シーンにおいて、ボーカルが奏でるメロディは楽曲の核になることが多いです。

適切にフォーカスされたボーカルは、リスナーをより容易に楽曲の世界に没入させ、込められたメッセージや感情をダイレクトに受け取ってもらうことができます。
結果として楽曲は単なる「良い音」の集合体を超え、リスナーにとって忘れられない体験や感動へと繋がることになると考えています。

楽曲制作に携わる僕たちは、音楽心理学が示唆する「人間のボーカルへの注意の向けやすさ」を深く理解し、その特性を最大限に活かすために、ボーカルへのエフェクト処理やミックスバランスに注目するべきだと考えます。ボーカルと丁寧に向き合うことこそが、リスナーの心に深く届く、真に魅力的な楽曲を生み出すための生命線と思っています。

などと色々言ってしまいましたが、僕自身フィーリングと適当さでぱぱっと処理してしまうことも多いです。
「自分のやりたいようにやる」という芯を持ちながら、ボーカルにしっかり焦点を当てて曲を作る意識と思想があることを踏まえて、ボーカルのためのプラグインを主に紹介できればと思っております。

■ 使用DAW

Ableton『Live 12』

もうかれこれ10年以上使っているメインDAWです。これなしでは楽曲が作れないほど、僕の音楽制作において要となる存在です。直感的な操作ができるシンプルなインターフェース、ダンスミュージックを制作する際に重要な、ループ素材やオーディオ編集の簡単さ。独自で作成した音源やサンプル、エフェクト・チェインなどの管理のしやすさ。アップデートを重ねて上質になった内蔵音源とエフェクト。ユーザーコミュニティの広さなどなど、魅力満載、夢いっぱいのDAWです。

Ableton Live 12

Ableton『Live 12』の販売ページはこちら

ボーカルのためのプラグインとチェインとヒント

僕はコンソールプラグインをはじめとした、一括で色々調整できちゃう“楽ちん”なプラグインが好きです。

理由としては以下の3つ、

  • ほぼ一つのウィンドウで調整できるので視認性が良く、エフェクト量の管理がしやすい
  • 同じプラグインを使うことで、トラック全体通して音のまとまりを作って雰囲気を作りやすい
  • 楽(楽しい)

が挙げられます。手法の多様化によって工程が増えた昨今の楽曲制作現場において、煩雑なミックス作業はクリエイティブの妨げになるので、できるだけ楽にいい結果を出す方法を模索している最中です。

今回紹介する製品と同じものを揃える必要はもちろんなく、同じ役目を持ったエフェクトは各種DAW付属のものでも十二分にあります。また、エフェクトチェインの順番に“正解”は全くありません。自分なりに順番を変えたり二重三重にかけてみたりと、色々試して冒険してみてください。

プラグインの付け足し差し替え、並び替え等が簡単にできるのもDTMのいいところですよね(PCスペックの許す限り…)

■ おすすめプラグイン、ソフトウェア

ボーカルの音作りとミックスで肝になるものを紹介していきます。

iZotope『RX 11』

歯擦音や喉鳴りのような現象が初期段階で気になる場合、DAWに貼り付ける前にRXでボーカルのリペアをしてあげます。ボーカロイドであっても、人の声と同じ処理をしてあげることで、生っぽさ、人っぽさを含むことができると信じて止まないため使用しています。

また、DAW上でディエッサーやノイズ除去系のツールをあまり使いたくない(負荷が高くて動作が重くなる場合もある)ので、こちらである程度波形を丸くしておく目的もあります。

よくしている処理として、

De-clip → De-click → Voice Denoise(ボーカロイドの場合はノイズがほぼないので使いません) → 適度にNormalize

の順番に処理をしています。

デジタルクリップの修復(少量の音割れをなくす) → リップノイズ除去 → その他ノイズ除去 → ボリュームの安定
といったイメージです。

そもそもが高度なノイズ除去、修復ツールであり、オーディオの再構築を促すソフトウェアなので、他にもできることがたくさんあります。
音質劣化を恐れず様々な音源データを改善させることができるツールなので、バージョン関係なくオーディオデータを扱う人なら全員持っていて損はありません。

最先端のニューラルネットワークを導入したオーディオリペアソフトのフラグシップ
税込価格 ¥200,600
  • メーカー:iZotope
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

iZotope『Nectar 4』

ボーカロイドの書き出し、ボーカル録音等の後、扱いやすいボーカルデータを作るため、Nectarを使うことも多いです。

Vocal Assistant機能を使うと、コンプレッション、EQ、ダイナミクスの調整やディエッサーまで、自動で最適解を出してくれるため、僕は音作りの前段階の処理をAssistant機能にお任せすることが多いです。こちらも安心と信頼のiZotope社製オールインワン・プラグインなので、優秀なコンプ/EQ/ディエッサーを始めとした基本エフェクトから、創造性を刺激するハーモニーやリバーブの生成などの「音作り」にも特化しています。お手元にある方はぜひ一括でいろんなボーカル編集をしてみてください。

ボーカルサウンドにさらなる輝きを
税込価格 ¥49,700
  • メーカー:iZotope
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

Waves『CLA Vocals』

ボーカルを前に立たせるために必要なエフェクトが集まっている、同じくオールインワン型のプラグインです。「これ一個でボーカルの音作りとミキシングがなんだか良い感じに済んでしまう」という優れものです。

リリースされて随分経っていますが未だにバリバリ使わせてもらっています。
使い方として、出来上がりかけのオケにボーカルを載せた時、手っ取り早く馴染ませて雰囲気を見るために、必ず使います。

おすすめのプリセットは「Judy Judy Judy」。プラグイン内のリバーブとディレイを切り、そこから各パラメータをいじったりしています。

最近は差し替えることもありますが、いい感じにボーカルがオケと馴染んでマッチしていたらそのまま使うことも多々あります。

Chris Lord Alge Signatureのボーカル用オールインワン・プロセッサー。
税込価格 ¥6,380
  • メーカー:WAVES
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

UAD『Topline Vocal Suite』

最近超使ってます。

こちらもオールインワン型のエフェクトで、コンプ/EQ/リバーブ/ディレイの基本はもちろん、歪み、ピッチのオートシフトやフォルマント、ダブラーやらコーラスやらフランジャーからAirの調整まで、ボーカルの音作りとミックスに必要なエッセンスが揃っています。

アナログ機材のシミュレートプラグインと、その質にも定評があるUADがリリースしていること、かつこの手の一括プラグインの中でも後発のプラグインなこともあって、様々な競合製品のいいとこ取りをしており、現代のボーカルに対するアプローチを余すことなく行える、そんなプラグインです。

自分で各項目を調整していってももちろん良いですし、プリセットが豊富かつどれも粒揃いで、選んでいく内に好きな出音に巡り合うこと間違いなし。
アナログの厚みとデジタルのエッジを兼ね備えた、気持ち良い音が作れる気持ち良いプラグインです。

*ギターやシンセサイザーなど、ボーカル以外のリードに該当する音色で使うのもとってもいいのでお試しあれ

アナログソウル溢れるモダンボーカルの完成系
税込価格 ¥56,250
  • メーカー:Universal Audio
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

ボーカル、楽器問わずメイントラックに必ず挿すプラグイン

Brainworx『bx_enhancer』

一番出番が多いかもしれません。音を持ち上げてしっかり整音したい時はこれ。パンもここで回すことが多いです。

エンハンサーの名を冠してはいますが、サチュレーター、コンプレッサー、EQ、その他ミキシングのための基本的なツールを持った多機能プラグインです。音楽制作に必要なエフェクト要素をこれ一つに凝縮してあるので、音のキャラクター付けからミックスの主要な工程まで完結できるポテンシャルを持っています。

アナログライクなサチュレーションや、キャラクターを選べるコンプレッサー、シンプルで柔軟なEQなどで、楽器やボーカルのポテンシャルを素早く最大限に引き出します。シンプルながら効果的なコントロールで、「これ一つで全てを終わらせる」というアプローチにおいて、効率よく音楽的な結果を得やすい強力なツールです。

瞬時に楽器に活気と魅力を与えるエンハンサー
税込価格 ¥8,149
  • メーカー:PLUGIN ALLIANCE
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

ボーカル、楽器問わずメイントラック、グループトラックに挿しているプラグイン

Brainworx『bx_console Focusrite SC』

ほぼ全てのグループトラックに挿しています。

シンセサイザーなど打ち込みによってデジタルに傾倒しがちなミックスに対して、こちらを挿すことで、モダンかつクリーンでパンチのあるアナログサウンドを付与できます。

単に個別のトラックに使う他、グループトラック全てにインサートすれば、DAW上でスタジオにある巨大ミキサーのシミュレートができるので、まとまりと奥行きを生み出せます。EQ、コンプ、ゲート、ディエッサーを統合した強力なチャンネル・ストリップとして、ミックスに深みと個性を与えるのに最適です。

Sir George Martinのために設計された希少で美しいコンソール
税込価格 ¥61,700
  • メーカー:PLUGIN ALLIANCE
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

サブ(でも必須級)プラグイン

Techivation「M-Blender」

トラック同士の衝突する周波数をクリーンアップする、ミックス効率爆上げプラグインです。

サイドチェイン信号からスペースを作り出し、マスキングを防ぎ、トラック同士を馴染ませるという処理を簡単に適用できます。

ボーカルチェインに直接挿すわけではなく、ボーカルと周波数が被っていそうなトラック(ギター/ピアノ/ストリングス等)に挿して、サイドチェインでボーカルトラックを設定します。そして一番大きいノブをガン回しすれば、それだけでボーカルのためのスペースが簡単に空きます。

今回はボーカル用として紹介していますが、それに限らず周波数帯の被ったキックとベースを整理したり、シンセサイザーとギターを混ぜて馴染ませるために使用したりと、使い方はたくさんあります。手っ取り早くミックス整理をしたいときに大活躍するのでお試しあれ。

Cableguys『ShaperBox3』/ Devious Machine『Duck』


ダンスミュージックを元にしたボーカル曲を作る場合「キックが鳴っている時はボーカルを引っ込める」というアプローチを視野に入れてみるのも、曲のかっこよさに繋がるかもしれません。僕もよくやっています。

ダッキングに使用するプラグインはこちらの2つのどちらかです。(その時の気分で使い分けてます)

エフェクト後段付近に挿して、ミックス量を調整します。(大体40〜70あたりで止めることが多いです)

どれくらいダッキングするかはもちろんお好みです。極端な曲線を描いてみたり、ミックス量を100%にしたり。あわよくばダッキングのスピードを上げたりすることで、面白いグルーヴが生まれることもあるかもしれません。

パワフルでフレキシブルなエフェクトを多数収録!
税込価格 ¥16,104
  • メーカー:CABLEGUYS
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト
ダッキングを簡単にデザインするプラグイン・エフェクト
税込価格 ¥4,059
  • メーカー:DEVIOUS MACHINES
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

■ 最後に

いかがでしたでしょうか。「ボーカルの音作り」と「ミックスのためのプラグイン紹介」に絞っても、結構なボリュームになったかと思います。まだまだ紹介したいプラグインはたくさんありますが、今回はこれくらいで。
Twinfieldはこんなプラグインを使用している。というのを参考にしていただければ幸いです。

■ まとめ

— ミックス・マスタリングの際に心がけていることはありますか?

Twinfieldさん:

アナライザーやメーター、数値などを目視で確認することや、他の曲との比較ももちろん大事ですが、最終的に自分の耳で聴いて「良い」と思えるかどうかが一番大事だと思いますし、納得しやすいと思います。
その時の自分を信じる心を大切にしたいですね。

— なるほど……楽曲制作では迷いや悩みがつきものなので、「自分を信じる心を大切に」という姿勢は、とても大事な心構えですね。

Twinfieldさん、今回はご協力いただきありがとうございました!


第1回・BIGHEADさんからバトンをつなげてきた本企画「クリエイター・バトン」は、ここで一度終止符を打ち、今回のTwinfieldさんで最終回とさせていただきます。

SONICWIREでは今後も、音楽制作に携わるすべてのクリエイターの皆様にとって、有益で刺激的なコンテンツをお届けしてまいります。今後の新企画にも、ぜひご期待ください!

■ 新作アルバム情報

Twinfieldさんの新作アルバム『Sugar Toy Boxxx』が本日より開催の初音ミク「マジカルミライ 2025」クリエイターズマーケットで頒布されます!

この記事でTwinfieldさんの楽曲制作のこだわりを知った後に聞けば、より楽しめること間違いなし!ぜひお買い求めください!

頒布イベント情報

アルバム『Sugar Toy Boxxx』

会場価格:¥2,000

マジカルミライ2025 in SENDAI クリエイターズマーケット

マジカルミライ2025 in OSAKA クリエイターズマーケット

マジカルミライ2025 in TOKYO クリエイターズマーケット

通販・ストリーミング:Coming Soon…

第13弾
sasakure.UK さん

Twinfield

Twinfield

エレクトロサウンドを中心に、ジャンルに捉われずに様々な楽曲を制作、発表している。
ボカロPとしてだけでなく、音楽プロデューサー、トラックメイカー、DJとしても意欲的に活動。
活動範囲はメジャー、インディーズ問わず、作編曲家としてアーティストへの楽曲提供、音楽ゲーム、Vtuber、アイドルへの楽曲提供、劇伴、クラブシーンなど多岐にわたる。
代表作:プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク「ONESELF / feat. 初音ミク」「夏に透明」
マジカルミライ2023「レッドランドマーカー / feat. MEIKO」