SONICWIRE

坂本英城 氏

VIENNA INSTRUMENTS ARTIST INTERVIEW 05 / Presented by Crypton Future Media, INC.

ゲームの世界観を演出する上で重要な役割を担う"ゲームミュージック"を中心に活動を続け、表情多彩で印象的な楽曲を数多く輩出し続ける作曲家:坂本英城氏。アコースティックサウンドにも定評のある氏の制作環境では『VIENNA INSTRUMENTS』が活躍している。巷には数多くのオーケストラ音源が存在する中で、「どうしてVIENNA INSTRUMENTSなのか」。導入のきっかけから実際の使用例を伺った。

─まず、坂本様の音楽経歴をご紹介頂けますでしょうか?

4歳からクラシックピアノを学びはじめたのですが、当時男の子でピアノを習っている子があまりいなかったこともあり、女の子に白い目で見られていたんですよ。 そこで僕はこのままではモテないと判断し、16歳ころからバンド活動を始めたんです。 ドラマーとしてハードロックやパンクのバンドを組みましたが、やっぱりモテませんでしたね。

その後友達に「これからの時代は打ち込みのできるヤツがモテる」と吹き込まれてMacとRolandのミュージ郎を買って、Pops系の歌モノやオーケストラの打ち込みを始めました。僕の初めての仕事となるゲーム作品はミュージ郎で作りましたね(笑)。でもやっぱりモテない。

シーケンサーをDigital Performerに変えて、PlayStationやGAMEBOY ADVANCEのお仕事をさせていただけるようになってからも、なぜかモテませんでした。 ならば、ということでソフトシンセベースへと環境をドラスティックに変えるためにWindows+Cubaseへと乗り換え、PlayStation2、3、Wii、NintendoDSなどのサウンドを制作するようになったわけですが、やっぱりモテなくて現在に至ります。

ゲーム音楽家というのはどんなジャンルでも素早く作りこなせないといけないので、特に20代の頃はどんな音楽でも作りましたね。でもモテなかった。

─坂本様の音楽制作会社「株式会社ノイジークローク」についてもご紹介頂けますでしょうか?

8年くらいフリーランスで作曲や編曲はもちろん、効果音制作やマニュピレート、楽器のレコーディングやボイス収録のスタジオワークなどやっておりましたが、 ゲーム業界は大手のメーカーほどフリーランスと契約したがらない傾向があるので、より業務の幅を広げるため2004年にノイジークロークという法人を設立しました。 “どうせ味噌ラーメン食べるなら専門店で食べたくない?”という発想から、「ゲームのサウンドだけをこだわり抜いて作る」というニッチさを武器にシェアを広げていきましたね。 実際、ゲームのサウンド作りはハード・ソフト両面の豊富な知識が必要で、複雑で難解な面もあるので、専門的に従事しないとプロフェッショナルな仕事はできないと今でも思っているんですけどね。

2010年にはソーシャルメディア(ニコニコ生放送の「おとや」、Ustreamの「ノイズなやつら。」など)で会社同士の枠組みを超え、 ゲーム音楽の素晴らしさを伝えるために企画・制作した番組のリリースにも成功し、年末にはついに念願だった音楽レーベル「ノイジークロークレコーズ」を発足しました。

ゲームの場合はどんなに素晴らしい音楽を書いてもゲームが売れなければ音楽も一緒に埋もれてしまう。それって芸術・知的財産の浪費だと思うんですよ。 それはあまりにももったいないということで、ゲームが売れようが売れまいが音楽をリリースできる仕組みを作りたかったんです。 第一弾作品として昨年末に「無限回廊 光と影の箱 a Soundtrack」をリリースしました。お陰様で好調にセールスを伸ばしています。

─お持ちの『VIENNA INSTRUMENTS』と使用環境(コンピュータ、DAW、ハードウェア機材など)を教えて頂けますか?

VIENNAは僕の音楽制作環境に不可欠な音源ですね。2011年1月現在で、

以上を所有しております。

使用環境はOSがWindows7の64bit、CPUがIntel Corei7Extreme 980X、メモリは24GB、HDDはSSDと10,000rpmの高速HDDとの併用。オーディオインターフェースはRMEのFireface400です。とにかくオーケストラを制作するときにVIENNAの全音源がストレス無く立ち上がり機能するということを念頭にハードウェアを構成しています。

鍵盤はYAMAHAのm06。コンパクトですが打ち込みには十分です。鍵盤のタッチが好きで愛用しています。

─『VIENNA INSTRUMENTS』を導入されたきっかけを教えてください。

高品質な音であることはもちろんなのですが、良い意味でクセがなく、音源として素直で扱いやすいという点が大きいですね。また必要な奏法だけを読み込むことができ、メモリを効率的に使用できるのも導入のポイントでした。生演奏と遜色ないクオリティまで手を入れていけるというように、作り手側からの介入の余地を残しているところが、僕のようなワガママな人間にはとても重宝するんです(笑)。

─『VIENNA INSTRUMENTS』はどのような用途で使われていますか?

僕はレコーディングをすることが多いので、レコーディング前のデモ制作の際の音源として使用するケースが多いですね。VIENNAはどの楽器も表現がリアルなので、譜面での説明以外に、実際に演奏家にVIENNAのトラックを聴いてもらって奏法を理解してもらうというケースもたくさんありましたね。

もちろんVIENNAのみで制作を完結することもありますし、生演奏とミックスさせることもあります。僕の作品「100万トンのバラバラ」はブラスを中心に据えた楽曲が多いのですが、トランペットとトロンボーン、サックス、クラリネット、スネアは生で録音し、ホルンとチューバ、ティンパニ、グランカッサはVIENNAの音源を使用しました。出音が素直なので、生音とも自然な感じにブレンドされるんです。

1曲で75分07秒もの尺があり、「世界一長いゲーム書き下ろし楽曲」ということでギネスに申請中の最新作「無限回廊 光と影の箱」はピアノ五重奏(ピアノ+弦楽四重奏)という編成ですが、こちらの楽曲もデモの段階ではVIENNAのSOLO STRINGSが大活躍をしてくれました。デモとはいえほぼすべてのパッチを使って制作しましたよ。操作感が非常に軽く、表現力に富んだ音が出るので、逆にVIENNAからインスピレーションを受け、譜面にフィードバックしたりしたこともありましたね。

─「無限回廊 光と影の箱」ではカルテットをレコーディングされましたが、生のサウンドと比べて『VIENNA INSTRUMENTS』のサウンドはいかがでしょうか?

今作は豊かな表情を持つ曲になっておりますので、特にソロのレコーディングでは生演奏に敵わない部分もありますが、手を入れれば入れるほどかなりリアルなところまで表情を持たせることも可能な音源だと思いましたね。 そういう意味ではVIENNAは追い込んでいく楽しみのある音源だと思います。

─『VIENNA INSTRUMENTS』の収録内容の中で、特に好きな楽器やサウンドはありますか?

特に木管ですね。とても生っぽくリアルな音なのでVIENNAでオーケストラを表現しようとした時に強力なスパイスになってくれます。あとはトランペットとホルン。表現の繊細な管楽器を音源化するのは実は難しいと思うのですが、非常に使いやすい音色に仕上がっていると思います。

─どのようにして、作曲・編曲を学ばれたのでしょうか?

音楽の学校に通ったことはなく、完全に独学です。“作曲”は勉強するものじゃないと思ってるんですよ。言葉と同じで、囲まれて生活していれば自然と溢れ出てくるものだと信じているんです。一方、作曲された原型をより美しく心地よくリスナーの耳に届けるために必要な“編曲”は、音源やエフェクター、ミキシングやレコーディングの知識、そしてその応用が物を言う世界ですね。ですので、編曲の技術を身につけるには作曲とは逆に勉強とトライアンドエラーが必要だと思います。

僕はとにかく自分の気に入った音楽であればジャンルを問わずひたすら耳コピすることを繰り返しましたね。真似ることで音色のチョイスや加工の仕方、エフェクトの効果的な使い方、MIDIのなんたるかが身についたと思います。「こんな方法でこの音を作っていたのか!」と気付くこともしばしばで、それはそのまま自分の脳内ライブラリへと格納されていくんですよ。それに自分の好きな曲ですから、完成を心から楽しみにしつつ作業が進められるのも大きいですね。

─これから作曲・編曲する方々にアドバイスをお願いします。

とにかく耳を肥やすことが大事だと思います。音楽は机に向かって学ぶものではないと思っています。音楽を楽しむ前に理論を学ぶことは、音楽の可能性や作曲家の個性を失いかねないので僕は好きではありません。ジャンルを問わずたくさんの音楽に触れ、気に入った音楽があれば歌ったり演奏したりして楽しむ。音楽を体全体で楽しめるようになれば、自然と作曲や編曲の基礎はできていくと思います。

─今後の活動の予定、展望についてお聞かせください。

今後は僕の音楽を聴いてくださる皆様とのふれあいを特に大切にしていきたいと思っています。オーケストラなどのコンサートを開催してお客様の生の反応を肌で感じてみたいですね。また、UstreamやFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアは音楽との相性がとても良いと思っていますので、今まで以上に斬新なコンテンツ作りに更に力を入れていきたいです。また、ノイジークロークレコーズというレーベルを通じ、「ノイジークロークが制作した音楽」という枠組みで音楽を発信し、ブランディングしていきたいです。

坂本英城 氏

早稲田大学文学部卒業。4歳からクラシックピアノを学び、中学時代にゲームと出会い、ゲーム音楽家になることを決意。8年間のフリーランスを経たのち、2004年に株式会社ノイジークロークを設立、作曲家兼代表取締役となる。代表作に「無限回廊」「無限回廊 光と影の箱」「勇者のくせになまいきだ:3D」「100万トンのバラバラ」「428 ~封鎖された渋谷で~」「龍が如く2~4」「AQUANAUT’S HOLIDAY ~隠された記録~」「ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊」など。

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「無限回廊 光と影の箱」

ノイジークロークレコーズより2010年12月29日にリリースされた「無限回廊 光と影の箱 a Soundtrack」。 作編曲は前作「無限回廊」で国内外から非常に高い評価を得た坂本英城。今作では弦楽四重奏とピアノによる、美しく起伏に富んだサウンドが濃密な時間を刻みます。本CDはなんと収録曲1曲のみ! しかしながら、その1曲は「75分07秒」という途方もない長さで、「ゲーム音楽史上類をみない長さの1曲」となっています。レコーディングからマスタリング、アートワークに至るまですべてにこだわり抜いて制作されたサウンドトラックCDです。 ブックレットに掲載の作曲家、演奏家、ゲームプロデューサーによる制作秘話、ロングインタビューも必読です!

■ ノイジークロークレコーズ >>

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