SONICWIRE

井内啓二 氏

VIENNA INSTRUMENTS ARTIST INTERVIEW 07 / Presented by Crypton Future Media, INC.

新進気鋭の作曲家として、CMやアニメ、映画、ゲームなど幅広く手掛ける井内啓二 氏。制作環境についても豊富な知識とノウハウを持つ井内氏の制作環境では、VSL全ラインナップが活躍している。そんな井内氏に、VSL製品を活用するメリットから実際の使用例を伺いました。

─まず、井内様の音楽経歴をご紹介頂けますでしょうか?

ピアノとチェロを弾く母に影響を受け、物心付いた頃にはピアノを弾くようになりましたが、その時点では特に音楽への道は考えておらず、母が教えを受けていたピアノの先生に時々レッスンを受けていた程度でした。

中学3年になりほぼ進路も決めていたのですが、当時神童と言われていた同い年のピアニストのコンサートに足を運ぶ機会があり、その時初めて音楽に心底感動し、音楽の道を決めました。その後、地元の音楽高校へ急遽進路を変更し本格的に音楽の勉強を本格的に始めることとなります。

大学は桐朋学園のピアノ科に進みましたが、在学中にバイオリニストの中西俊博さんと出会い、様々なコンサートや舞台、ドラマ、CM音楽等の制作を共にするようになり、劇伴の世界に足を踏み入れるきっかけとなりました。この時の経験や体験が今のスタジオワークの礎となっていると思います。

現在は主に、映画、TV、アニメ、ゲーム、CM、ファッションショーなどに作品を書いています。

─稼働中のVSL製品と使用環境(コンピュータ、DAW、ハードウェア機材など)を教えて頂けますでしょうか?

MacPro(12coreモデル) + Logic Proをメインに使用しており、 VIENNA ENSEMBLE PRO 用としてCore i-7の自作PC(2台)を加えた、計3台で作曲をしています。数年前は7台のMac/PCで環境構築していましたが、12coreのMacProを導入してからは、よりコンパクトな構成となりました。

─稼働中のVSL製品の中で、どの製品が一番のお気に入りでしょうか?

VIENNA IMPERIAL、Clarinet、Strings全般、Glocken、Celestaです。どれか一つに絞るのはちょっと難しいです(笑)。

─ホストツール 『VIENNA ENSEMBLE PRO』 を特にご愛用頂いておりますが、どのような点にメリットを感じますでしょうか?

VIENNA ENSEMBLE は"2"の頃から使用していましたが、"PRO"になってからVST/AU等の制約はもちろん、Mac/WindowsといったOSの縛りから完全に開放された時には、それまでの制作環境から大きく変わりました。具体的には、ホストとなるLogicにはソフトウェア音源を一つも立ち上げず、ほとんどをVIENNA ENSEMBLE PROで接続したLAN上のPCに立ち上げています。

ゲームや映画などの制作では、映像に合わせながら音の演出をしていく事が多々あることと、特にゲームのお仕事などは携わる期間も長く、同一ソングファイルを長期間に渡って調整していく事が多いので、なるべく制作の過程でホストとなるMacへ負担を掛けたくありません。

極論ではありますが、基本的に新規ソングファイルを作成した直後の快適な環境を、プロジェクトの最後まで維持したいのですが、VIENNA ENSEMBLE PROはその要望に応えてくれています。

また、劇伴仕事は楽曲のオーダー数も多く、ごく限られた期間内に50~90曲近い楽曲を管理しなければなりません。VIENNA ENSEMBLE PRO導入前は楽曲毎に楽器や外部ディスクに保存したり、ノートにメモを取っていたりしたのですが、VIENNA ENSEMBLE PROは楽曲毎の設定も全てソングファイルに紐付く為、シーケンサ上から別曲データを選択/ロードし直すだけで、LAN上全ての音源が追従してくれます。音楽を書く以前に避けては通れなかったストレスから解放されることとなり、よりクリエイティブな時間を増やす役割を担ってくれています。

それから32/64bit両方に対応している事から、資産として所有している過去の音源を継続して使用出来ますし、なんと言っても64bit環境下での音楽制作は、主にRAMの使用制限から開放され、大編成のオーケストレーションが可能になったと共に、メモリクラッシュ等によるクリエイティブな時間の浪費がかなり軽減された恩恵が大きいと実感しています。

周囲の作家仲間での導入率は非常に高く、また様々な検証を行う事で情報の共有化を進めています。

─井内様はピアノを弾かれますが、ピアニストの視点から 『VIENNA IMPERIAL』 のクオリティはいかがでしょうか?

コンサートホールでピアノを弾く際に感じる空気感というか、弦の奥まで共振しているような深み、ペダルを踏んだ時に聴こえる「サーッ」というフェルトが持ち上がる時の音がとても臨場感があります。ホールでピアノを弾いている時に聴こえてくる演奏時の音や反響のそれに近いと感じます。全てがこれまでのピアノ音源とは異なる品質だと感じました。

近年、私が書いた作品の中で聴こえてくるピアノの音は、『VIENNA IMPERIAL』か生ピアノです。スタジオでピアノを録音した後にも、『VIENNA IMPERIAL』の音色と聞き比べをして、自分のイメージに近い方を選んだら『VIENNA IMPERIAL』だった、という楽曲もあります。

─VSL製品はどのような用途で使われていますか?楽曲やプロジェクトを教えて頂けますでしょうか?

基本的にはスタジオで生楽器に変更するので、主に楽曲のモックアップ制作に使用していますが、生楽器を含んだエレクトロニカにも使用しています。PlayStation 3本体のアプリケーション: 『フォトギャラリー』 『プレイメモリーズ』 では、Delay成分も音像としてコントロールしたい場合があるので、あえてViennaの音源を使用し、クォンタイズした上でDelayや空間処理を施して行くことが多いです。

また、アニメやゲームなどで状況的な音楽を求められた場合には、各種エフェクトで音を加工したり、臨場感を出していきつつ作曲していく事も多いので、この場合もVienna製品を使用する事が多いです。

現在放映中(2011年10月現在)の 「ぬらりひょんの孫~千年魔京~」 では、普段オーダー頂く楽曲とは異なり、空間や空気感を求められたので、アンビエントのような作品にVienna製品を多用しています。

「とある飛空士への追憶」 の主題歌、 「時の翼」 ではスタジオでSteinwayのピアノを録音したのですが、弾いたピアノがとてもきらびやかな音色でした。楽曲のイメージは落ち着きのある音色のイメージでしたので録音後にVIENNA IMPERIALへと差し替えています。

──どのようにして、オーケストラ/ストリングの作曲・編曲を学ばれたのでしょうか?

これはよく頂く質問で、これといって勉強はしていないので返答に困る事が多いのですが(笑)、小中学校の時から映画やアニメ、ゲームのサントラが大好きで買い漁っては耳コピしてピアノで弾く、といったことをよくしていました。

単に正確な音を聴き取るのではなく、向き合う楽曲が持つ色彩感や雰囲気に重点を置いていたように思います。これは現在作曲する時にも経験として活きていて、管弦楽の教本に書かれている事をそのまま実践するのではなく、まずは自分自身がどうしたいのか、どこから何の楽器で演奏させたいのか、それらを最初から最後まで大切にしています。

弦の"書き"に関しては、ヴァイオリニストの中西俊博さんの演奏を長年に渡り間近で拝見する機会に恵まれたこともあり、弓や指、フレーズの解釈等に至るまで心と身体に染み付いているのが大きい気がします。

管弦楽法はいかにして音の響きや色彩感を操るか、だと思うのですが、それ以前に様々な奏法や楽器の特性を掴めなければ豊かな音色にならないと考えます。

私はピアノしか弾けないのですが、ピアノの弾ける方が書いたピアノ曲の譜面と、そうでない方の譜面はすぐに解ってしまいます。それと同じ事が全ての楽器にも当てはまるのだと気付き、大学時代の友人や後輩、スタジオでの録音を終えた後に演奏者の元へ訪ねていったり、と現在も日々勉強と研究が続いています。

また時折、同世代の作家さんとスコアを持ち寄り勉強会なども積極的に行うようにしています。

─これからオーケストラ/ストリングの作曲・編曲、そしてバーチャルオーケストレーションをされる方々にアドバイスをお願いします。

オーケストラの楽曲を書き始める前に、是非、生のオーケストラを聴きに足を運んで下さい。楽器の編成や配置、それらの違いによって微かに変化する音色の色彩は体感せずには得られません。デスクトップ上でオーケストラをシミュレートする場合、これらの体験が必ず活きてくると思います。

併せて指揮の勉強もしていくと、よりご自身の考える楽曲イメージに近いものになる気がします。私も指揮の勉強を初めて間もないですが、それ以前と以後とでは、明らかに書くスコアの内容が変化していることに気付きます。

我々作曲家の役割は、音楽を通して人に感動を伝える事だと思うのです。まずは自分の中にある感動を形にして表現すること。曲を書く最初から最後まで、これを一貫していけばその過程となる内容に関しては、それが生楽器なのか、打ち込みなのか、個人的には気にしません。

その分、音源や機材選びには厳しく慎重にもなるのですが、最終的には全て自分の耳と心で聴いて判断するようにしています。

時折、音源やソフトを使いこなせてないから音楽が書けない、といった方からアドバイスを求められますが、少なくとも音源・ソフトを使いこなせても、そこから音楽は生まれてこないように思えます。向き合うべくは「音楽そのもの」であって、それらを具現化する一つの要素として機材や音源、更に言えば作曲や編曲における技法、知識を役立てるべきだと考えます。

─今後の活動の予定、展望についてお聞かせください。

現在、いくつか大きなプロジェクトが同時に進行しているのですが、それらのプロジェクトでもVienna製品を多用しています。間もなく公に出来るものもあれば、数年先の公開となるものまでありますが、現時点でも非常に良い感触が得られている作品ばかりですので、楽しみにお待ち下さい。

また、そろそろ自分自身の作品も作りたいと思っていて、スケッチを進めているところです。具体的な内容や方向はまだ決めていませんが、どこかで皆様にお届け出来たらと思います。

最後に、昨年春より主に都内を中心にViennaのセミナーをクリプトンさんと共に開催して参りましたが、毎回沢山の方々と音楽に関してお話出来る機会に恵まれ、非常に嬉しく思っております。

1年前と比べると随分と認知度が上がって来たこともあるので、今後はより実践的な内容として、Vienna製品を使用した「テクニカル」な部分と、「作/編曲」に区別して深くお話出来たらと思っています。ご都合宜しければ、これらのセミナーにも是非遊びにいらして下さい。

それでは、いつも心に音楽を。

井内啓二 氏

1976年3月17日生まれ。桐朋学園音楽大学ピアノ入学 在学中よりスタジオワークに興味を持ちキャリアをスタートさせる。スタジオワーク、作/編曲勉強の為中退。
1999年大学在学中、白井晃演出「ファルスタッフ」(主演布施明、森山良子)にて、音楽監督であったバイオリニスト中西俊博氏の音楽監督助手を努め、以後、氏の元で劇伴を始めとするスタジオのノウハウを受ける。
その後、氏と共にフジテレビドラマ「Fighting Girl」「初体験」の劇伴にてピアノ、マニュピレート、アレンジとして参加。 劇伴作家としてのキャリアをスタートさせる。主にTV、CM、映画、ゲーム、ラジオ、ファッションショーの分野に楽曲を提供。ピアノ、オーケストラ、エレクトロの作風を得意とする。

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