SONICWIRE

梁邦彦(RYO KUNIHIKO)氏

VIENNA INSTRUMENTS ARTIST INTERVIEW 01 / Presented by Crypton Future Media, INC.

ジャンルを越えた作品を輩出し続け、多数の著名アーティストともコラボレートしてきた実力派作曲家、梁邦彦(Ryo Kunihiko)氏。美しく印象的なオーケストラサウンドが特徴の彼の作品には、積極的に『VIENNA INSTRUMENTS』が使われている。ストリングスをはじめオーケストラサウンドに妥協が許されない世界で、なぜ『VIENNA INSTRUMENTS』が活躍しているのか、導入のきっかけから実際の使用例まで聞いてみた。

─『VIENNA INSTRUMENTS』を導入したきっかけを教えて下さい。

有名すぎるソフト音源であるにもかかわらず、実際に使用したのは2年ほど前からになります。何というか、タイミングが上手く合わなかったと言う感じでしょうか。でも『VIENNA INSTRUMENTS』を実際に使った瞬間から、音色はもとよりその使い勝手の良さに惹かれ、すぐにメインライブラリとして使い始めました。

─『VIENNA INSTRUMENTS』はどのような用途で使いますか?

非常に多岐にわたります。映像作品サントラのデモ制作では必ずと言っていいほど『VIENNA INSTRUMENTS』からスタートしますし、それがそのまま本番で生きてしまう事も多々ありますし、生と『VIENNA INSTRUMENTS』をミックスした時が一番理想に近い場合も多くもちろんその際は潔くその方法をとります。

具体的にはポップス系楽器(グルーブモノ)の入らないオーケストラ作品として、そしてグルーブモノとオーケストラ楽器群がほぼ同等の比率で共存するタイプ、そして逆にグルーブありき作品の上にアクセントとして使用する場合など、本当に多岐にわたりますし、その制約を感じることがほとんど無く制作を進めることが出来ています。

─具体的にどの楽曲で使われましたでしょうか?

僕の新しいソロ作品(ロンドンシンフォニー44名参加)においてはデモ制作段階から活躍してくれたし、もちろんそのまま最終的にも使われました。特に『Appashonata Strings』に生の弦楽器奏者に軽くダビングをしたもらったことで、非常に効果的に大編成弦楽器の音像を再現できましたし、それは新しい発見でもありました。

その他、日本&韓国で公開されている映画、アニメ作品やドキュメンタリー、そして大規模なオンラインゲーム「AION」のサウンドトラックでもかなり使い込んでいますし、『Vienna Ensemble Pro』と言う素晴らしい環境も登場したことだし、これからも大いに使い込んでいこうと思っています。

─サンプルのクオリティーについて、ご感想をお願い致します。

まず音色のイメージとしては「精緻」と言う表現がぴったりだと思います。

ざっくりとした「バーン!さぁどうだ」と言う音像ではなく、きめの細かいサウンドで作り込めば作りこむ程その成果が実際ので音に反映される印象。綿密に収録されたきめの細かいサウンドが特徴ですね。バーン!というサウンドはぱっと聴いた限りではインパクトあるのですが、細かい使い込みになるとどうしても大きく制限されてしまうのと、どうしても音色的にすぐに飽きてしまいます。その点『VIENNA INSTRUMENTS』は「キメが細かいけれどしっかりした、つまり存在感あるサウンド」と言い換えることが出来ると思います。

その次がサウンドバリエーションの豊富さです。これだけのサウンドバリエーションを持った音源集を僕は他に知りません。つまり行き詰まった時の解決への選択肢が多いと言うことにも繋がります。

─『VIENNA INSTRUMENTS』のどのような点が優れているという印象をお持ちでしょうか?

上記の「精緻」なサウンドは「作り込み」によって非常に多彩な表情を見せてくれます。

例えばあるフレーズの表情を変えようと思った際、キースイッチやボリューム、その他をCCで変化させていきますが、その変化させる選択肢が多岐にわたると言うことが僕にとって一番魅力的な部分です。言い換えると、そのフレーズの表情を無限に追い込めると言うことでもあります。

例えばフレーズの中で二番目の音をレガートに変えて3番目をポルタメントに、そして次をスタッカートにと、ここまでは普通に行う行程ですが、ここから後がポイントで、そのスタッカートやマルカートの様々な演奏スタイルの長さや表情を微妙に変えられる(追い込めると言うことが素晴らしい)。

そう言うフレージングはテンポに合わせて行われるのが音楽として定石で、優秀な演奏者はそれを当然のように表現してくれますが、データで打ち込む場合のこういった盲点を細部まで追い込めるというのが今までのライブラリと一線を画している点だと思います。この点だけでも大いに使う価値があると思います。

そしてもう一つは安定度&レスポンスの良さ(操作面での敏捷性)。安定度はまずこういう作業でソフトを扱う際の前提条件ですね。締め切りの迫った状態でのストレスを軽減してくれ、制作に集中出来るアドバンテージは大きいと思います。頻繁にアップデートされるソフトウェアというのは信頼度高いですね。

それからレスポンスの良さ、操作性の良さ(敏捷性)。例えばものすごく細かい音符で入力している際、各音の直前にキースイッチを入れてもそれにしっかりと追従&再現してくれる。これもソフト全体の信頼度として非常に評価すべき点だと思います。

別のソフト音源ではそう言った際、キースイッチやCCに反応しなかったり、最悪のケースはフリーズしてしまったりすることもありますね、、、。これでは実際の使用においてそのソフトにすぐ手が伸びると言うことにはなりません。

─『VIENNA INSTRUMENTS』の収録内容の中で、特に好きな楽器やサウンドはありますか?

『Solo Strings』『Appashonata Strings』、Flute2等に代表されるWoodwinds系、そして最近使い始めた『Vienna Imperial』はとても気に入っています。

─梁邦彦(RyoKunihiko)様は、Abbey Road Studio 1 & 2、Olympic Studio、Angel Studioを始め、ロンドンでのオーケストラレコーディングや、ロンドンシンフォニー、ロンドンフィル、ロイヤルフィルハーモニーなどとのセッションを数多く経験されていますが、これらと比べ、『VIENNA INSTRUMENTS』のサウンドはいかがでしょうか?

僕は大編成での弦の響きがとても好きなので、それを求めて良くロンドンに行きます。『VIENNA INSTRUMENTS』はそう言った生弦全体の質感とは明らかに違いますが、違うからこそ魅力的でもあるのです。同じモノであれば魅力は半減してしまいますからね。

大編成による包み込むようなウォームなサウンド、それからエッジの効いた細かいスピカートで刻まれたスリリングなサウンドなど、求めるサウンドがいつもレコーディングで100%再現されるというわけでもありません。そう言った際、不足した別のキャラクターを付加してくれる、力強い味方でもあります。

先ほども言いましたようにこのライブラリの音色はとても「繊細でキメが細かいけれどしっかりしている」ため、トラックの中に入れるとかなり存在感のあるサウンドになります。

例えば、大編成オーケストラのサウンド(特にホールアンビエンス等が強調されるクラシカルな作品)の中で、収録後どうしてもピンポイントとして、ある楽器のアクセントを付け加えたい場合などは『VIENNA INSTRUMENTS』にうってつけのシチュエーションで、いとも簡単に目的を達成することができます。

そして全体の質感の微調整はもちろん、逆にデータとして打ち込んだ『VIENNA INSTRUMENTS』の方をメインに残し(サウンドの骨格として)、生の弦を色彩を加える役割として使用する場合もあります。これはかなり贅沢な方法ですが、僕は結果として良い聴こえ方をする方を選ぶだけで、その際『VIENNA INSTRUMENTS』ライブラリの存在感を大きく感じます。

─民族楽器が入っている作品も多数作曲されてますが、そのような楽器と『VIENNA INSTRUMENTS』の相性はいかがでしょうか?

全く問題ありません。ジャンルを乗り越えて使用できる普遍的なライブラリではないでしょうか。ただ民族楽器は音程が特徴的なので、もちろんその部分は音楽的にクリアした上での話になりますが。

─ヴァイオリニスト:桑野聖さんのような実際の演奏者の方と共演した時、『VIENNA INSTRUMENTS』は使われましたか?もしそうであれば、どのような使い方をされましたでしょうか?

実際つい最近こういうケースがありました。まず僕がデモのつもりで手弾きしたAppashonata Stringsの響きをバイオリン奏者である桑野君が聴いて「これ、すごい良いじゃん、このまま使おうよ」と言うことで、本来生弦の大編成で録ろうとしていた制作方向がその時から大きく変わり、そのデータを各弦セクションパートに整理&分けてAppashonata Stringsで再生させた上に、ヴァイオリン、チェロを単独でスタジオで重ねたところ、実際の大編成の響きとは又微妙に違った輝きのある魅力的な音像になってくれました。

完成後、彼曰く「明るくてパリ管(パリ管弦楽団)みたいな響きになったね」と。

─使用環境を教えて頂けますか?(コンピュータ、DAW、ハードウェア機材など)

最新Mac Pro&ProToolsHD3、 Logic Pro9、 Sibelius6&PhotoScore、自作ウインドウズマシン7台&サウンドカード(RME Multiface、Lynx Twoなど)

ハードウェア機材に関してはここ4、5年自分でミックスをする様になってから、かなり追い込み世界中から集めました。気に入っている機材はいわゆるビンテージ機材や自分に会うと思われるモノを片っ端から試して選び抜きました。同じ機材でも納得のいくモノに出会うまで次から次へと選び抜きました。

スタジオやエンジニアの人が良いというのは参考意見としてもちろん大事ですが、もっと重要なのは自分の作品に貢献してくれる機材を自分で(たまには友人のエンジニアやミュージシャン達と一緒に)選んで、そして使い込むということだと思います。全てではありませんが、

  • NEVE 5416コンソール
  • NEVE 1084(1073)
  • NEVE 33609×2
  • Focusrite ISA110×8
  • Focusrite ISA115×8
  • GML8200
  • UREI1178×2
  • SSL Xlogic Multi Channel Compressor
  • AVALON AD2055
  • AVALON 2044
  • AVALON 2022
  • AVALON Vt747
  • AMEK Channnel in a Box×4
  • CL9098
  • Tubetch LCA2B
  • Tubetch MP-1A
  • Tubetch SSA-2B
  • Teletronix LA2A
  • EmpiricalLabs EL7 Fatso
  • Millennia HV-3C
  • AMPEX
  • SONTEC MEP250C
  • Lexicon 480L
  • SONY DRE-S777
  • SONY DRE2000A
  • emmLabs ADC8 MK4

─これら機材の中で、『VIENNA INSTRUMENTS』のサウンドはどのように処理をしておりますでしょうか?

これはとても大事な部分ですね。いわゆるこういうライブラリーモノと生音源をそのまま当てると質感の違いからあまり上手くなじむ事は多くありません。その際必要な処理をプラグイン上、または上記のハードウェア機材を駆使して質感を揃え、最終的にはストリングスバスを組み、生音と『VIENNA INSTRUMENTS』の両方をそのシチュエーションに最適な機材を通すことで混ざり合えるようにしてあげることがほとんどです。質感をそろえるという感じの作業ですね。これに関しては曲調やいろんな要素が絡んでくるので、その場での判断が大事で、必ずこうすると言うことではありません。やはり聴感上での判断が求められますね。

─梁邦彦(RyoKunihiko)様は制作からミックスまでこなされていますが、『VIENNA INSTRUMENTS』を使用した時のミックス方法を簡単に教えて頂けますでしょうか?

上の内容とも関連しますが、ライブラリ音源と生楽器そのままではやはり質感の違いから解け合わないことが多いのですが、『VIENNA INSTRUMENTS』の場合質感がしっかりしているので、その辺の処理としては楽というか、そのままいけてしまう事も多いです。

リバーブに関してはライブラリ音源にサンプリングリバーブをかけた音像がどうも好きになれないので(気がつくとものすごい量のリバーブをかけてしまっていることもあり)、僕の場合はLexicon 480L、SONY DRE-S777、SONY DRE2000A等のリバーブリターンをemmLabs ADC8 MK4のDSDモードでAD処理してあげることがほとんどです。

EQは必要な場合、ハードウェアだとFocusrite ISA115やAVALON AD2055、プラグイン上ではSONNOX OxfordEQを使うことが多いです。基本的にオーバーEQに気をつけていますが、余分な帯域を認識して的確にカットしたり、足らない部分を持ち上げると言うことにとどまります。元がしっかりしたモノであればそれを最大限生かすと、そう言う意味で『VIENNA INSTRUMENTS』はとても扱いやすいのです。

その他オケシリーズの場合は各楽器のオーバーコンプに気をつけた方が良いですね。最近はマキシマイザー、レベルコントローラーが氾濫していて誰でも手軽に使えるので。コンプかけ過ぎたりマキシマイザーを強くかけてしまうと全ての楽器が前に出てきてしまい、音像的に全く別物になってしまいます。それも音楽によって面白い場合もありますが、まぁケースバイケースですね。

『Vienna Imperial』をお持ちですが、ピアニストの視点から『Vienna Imperial』のクオリティはいかがでしょうか?

これは、今一番のお気に入りPianoライブラリです。上記のオーケストラ音源にも言えることですが、追い込めば追い込むほど応えてくれるというのが、『VIENNA INSTRUMENTS』の素晴らしいポイントだと思います。ほんの少し触っただけで、これは違うなと思ってしまう人がいますが、このVienna Imperialは懐が深いというか。音色的なバリエーションが多いと言うよりも、そのコントロール性&レスポンスが深いのです。

例えば、ダイナミクスやMIDI Sennsitivity(MIDI感度)が本当に細かいところまで反応してくれる。自分の言うことを聞いてくれるマスターキーボードで本当に追い込んだ場合、かなりの領域まで演奏のポテンシャルを弾き出すことが可能になったといえるのではないでしょうか。ものすごい細かいレベルでのサンプリングサウンドが用意されているので、そのベロシティに対応する音が鳴りさえすれば自分の思ったとおりの演奏に近づくことが出来るのです。これは鍵盤弾きの方には是非追い込んでもらいたい部分ですね。

それからもう一つ、Stereo Width。これが秀逸で、例えばソロピアノの時はステレオ全開ににして心地よく広がったサウンドを。そして例えば生弦や他の楽器が入ってきた場合はそのWidthを調整することで、音像的な場所を上手く確保できます。この機能は他のライブリーでも何度かみかけて実際使ってみたのですが、実際は??なモノが多くその効果は無理に操作している印象で、位相がすれてしまったり、、、、正直、使う気持ちにはなれませんでした。Vienna Imperialの場合、そのパラメータ変化がしっかり音像に反映され、妙な位相の気持ち悪さもなく、非常に有用です。音像狭めればちゃんと前に出てきますし、ソロからアンサンブル、そしてバンドモノまでアプローチがしやすいので、大変重宝します。

後は音色、Close、Player、Stage(Distant)とそれぞれに魅力的な音色がしっかり用意されています。Closeはピアノソロや小アンサンブルに、そしてPlayerはバンドモノに最適ではないでしょうか。その際上記のマスターキーボードとの設定やStereo Widthの調整をお忘れ無いように。

─どのようにして、オーケストラ/ストリングの作曲・編曲を学ばれたのでしょうか?

以前はポップアーティストの編曲&プロデュースを数多く担当しましたが、その際弦やオケの入るアレンジを自分から進んですることにより多くを学びました。元々クラシカルなものが好きだったのですが、バンドプロデュースやソロ活動、映像音楽をたくさん手がけることになり、そう言ったオケとグルーブモノが混在する音楽に大きく興味を持ち始めましたが、最終的にはClaus Ogermanと言う人の存在を知った時、大きく音楽観が変わり今日に至っています。

─これからオーケストラ/ストリングの作曲・編曲する方々に、アドバイスをお願いします。

まず生演奏のことを知ることからスタートですね。音大作曲科のように完璧でなくても良いのですが、やはり実際どういう聴こえ方がするのかを「大枠で知る」。

それを知らずにデスクトップ上だけで音楽を作るのはある意味では面白いかも知れませんが、すぐに限界がきてしまうでしょう。簡単な例として、ポップスではベースがセンターにいてしっかりサウンドのボトムを支えていますがオーケストラの聞こえ方はそうではありません。そして曲のタイプによっては低音の役割も又違っています。そして各楽器の位置&位相など、、それから各楽器音の距離感。当然フルオケではオンマイクが全ての楽器に立っていることは、(特にライブにおいては)多くありませんし、むしろ音像としては遠かったりもします。しかしライブラリ音源をやたらにコンプ&EQをかけて行くとどんどん音像が近づいてしまい、望んでいるイメージとかけ離れたモノになってしまうケースも見かけます。

そこら辺をどういう風に考え、処理するかによってアプローチが全く変わって来ますし、それが又面白い部分でもあると思います。デスクトップ上やスタジオだけでなく、コンサートなどにも足を運び多くの音楽、音源、音色に接して「たくさん考える」と言うことが大事かと思われます。

梁邦彦(RYO KUNIHIKO)氏

ロック ~ ジャズ ~ クラシック、そしてワールド・ミュージックを含む多彩な音楽性を根底に持ち、日本を始め数多くのポップシンガーとの共演、共作、楽曲提供、編曲、プロデュースを行なった後、ソロ活動開始。 それ以降、数多くの映像作品を手がけ多岐にわたる活動を展開。

Abbey Road Studio 1 & 2、Olympic Studio、Angel Studioを始め、ロンドンでのオーケストラレコーディングを10数回にわたり行い、 ロンドンシンフォニー、ロンドンフィル、ロイヤルフィルハーモニーなどとのセッションも数多く経験。

現在はドイツSchott Musicとのコラボレーション、そして日本でオンエアー中のアニメ 『テガミバチ』 の音楽を担当し、NHK ETVドキュメンタリーメイン楽曲制作、韓国での活動など多忙を極める。今年度末、ロンドンシンフォニー44名参加のソロアルバム6枚目をリリース予定。(2009年11月現在)

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