【異国情緒】異世界ファンタジー作品の劇伴でよく聴く「スケール」2選!
「ここではないどこか」である異世界を舞台に、主人公たちが大立ち回りを繰り広げる、異世界ファンタジー作品。
アニメやゲームなどの映像を伴う作品は、雰囲気を盛り上げる楽曲も非常に重要な構成要素です。
そのような異世界ファンタジー作品の劇伴音楽について、前回の記事では「民族楽器」にフォーカスして紹介しましたが、今回は「スケール」に注目して紹介します。
楽曲のスケールを工夫することで、視聴者を作品の雰囲気に引き込んでいる例はたくさんあります。逆に、民族楽器など作品の雰囲気に合う楽器を使っていても、スケールがその楽器が持つバックグラウンドと大きくずれていた場合、雰囲気を損ねてしまうことも……
本記事では、民族楽器との相性が抜群、かつ異世界ファンタジー作品の舞台に使われがちな「中世ヨーロッパ」を感じさせるスケールを2つ紹介します。
スケールとは?
まず、スケールについて軽く触れておきます。
かなりざっくりとした説明になりますが、「ドレミファソラシド」の1オクターブを基準にして、音の高さを調整したり音の数を増減させたりして、それに沿って音を低い順に並べたものがスケールです。
スケールはいわば「定規」で、音の高さやその組み合わせを適切にコントロールするために役に立ちます。
スケールには、伝統的なものから実験的なものまで実に様々なものがありますが、今回は、異世界ファンタジー作品で特徴的に用いられているものの中から、ポップスでもよく用いられる基礎的な「ドリアン」と「ミクソリディアン」の2つを紹介します。
ドリアン・スケール (Dorian Scale)
特徴
※ ドリアン・スケールの一例。この場合「レ」から始まる
ドリアン・スケールは、いわゆる西洋音楽の他にアイルランドやスコットランドの伝統音楽によく用いられる、神秘的で素朴な印象を与えるスケールです。
ルート音~1オクターブ上のルート音まで、音と音の間が「全音」「半音」「全音」「全音」「全音」「半音」「全音」で構成されます。
画像のように、ちょうどピアノの白鍵で「レミファソラシドレ」を弾いた時と同じ構造です。以下、「レミファソラシドレ」を用いて説明します。
このスケールは、「暗さの中に明るさが混じる感覚」が大きな特徴です。
「レミファソラシ♮ド♮レ」の音で構成されるドリアン・スケールは、「レミファソラ」までは「暗い」雰囲気を保っていますが「シ♮ド♮レ」で「暗さが和らぐ感覚」が生まれています。
※ 「レミファソラシ♮ド♮レ」のドリアン・スケール
ポップスやロックなども含め、西洋音楽の文脈に沿った音楽を聴き慣れている人々にとって、「レミファソラ」の音階は大きな「暗い」雰囲気を連想させます。
最後まで「暗い」雰囲気を保たせるには、その後に「シ♭ドレ」もしくは「シド♯レ」と続くスケールを用いることが一般的です。
※ 「レミファソラシ♭ドレ」のスケール。「ナチュラルマイナー・スケール」と呼びます
※ 「レミファソラシド♯レ」のスケール。「メロディックマイナー・スケール」と呼びます
「レミファソラ」から連想される「一貫して暗い雰囲気」への期待と、実際に聴こえてくる「明るさが混じる」響きとのギャップが、ドリアン・スケールに独特の浮遊感を与えているといえます。
伝統音楽での活用例
ミクソリディアン・スケール (Mixolydian Scale)
特徴
※ ミクソリディアン・スケールの一例。この場合「ソ」から始まる
ミクソリディアン・スケールは、いわゆる西洋音楽の他にアイルランドや北欧の伝統音楽でよく用いられる、異国情緒あふれる印象を与えるスケールです。
ルート音~1オクターブ上のルート音まで、音と音の間が「全音」「全音」「半音」「全音」「全音」「半音」「全音」で構成されるスケールです。
画像のように、ちょうどピアノの白鍵で「ソラシドレミファソ」を弾いた時と同じ構造です。以下、「ソラシドレミファソ」を用いて説明します。
このスケールは、ドリアン・スケールと同じく後半に特徴があり、「明るさの中に暗さが混じる感覚」を持ちます。
「ソラシドレミファ♮ソ」の音で構成されるミクソリディアン・スケールは、「ソラシドレ」までは「明るい」雰囲気を保っていますが「ミファ♮ソ」で「明るさが弱まる感覚」が生まれています。
※ 「ソラシドレミファ♮ソ」のミクソリディアン・スケール
西洋音楽の文脈では「ソラシドレ」音階は大きな「明るい」雰囲気を持つ音階で、最後まで「明るい」雰囲気を保たせるには、その後に「ミファ♯ソ」と続くスケールを用いることが一般的です。
※ 「ソラシドレミファ♯ソ」のスケール。「メジャー・スケール」と呼びます
ドリアン・スケールと同様に、「一貫して明るい雰囲気」への期待と、実際の「暗さが混じる」響きとのギャップが、ミクソリディアン・スケールに異国情緒を与えているといえます。
伝統音楽での活用例
異世界ファンタジー作品の舞台とスケールの関係
前回の記事でも紹介したように、異世界ファンタジー作品の舞台として「中世ヨーロッパ」が多く採用されています。
それゆえか、これらの作品を彩る楽曲には、ヨーロッパにルーツを持つ伝統音楽でよく使われる「ドリアン」や「ミクソリディアン」のスケールが採用されているものが少なくありません。
たとえば、最近の例でいうとアニメ『ダンジョン飯』第1クールのオープニングテーマ『Sleep Walking Orchestra』が思い浮かびます。
この楽曲は、メジャー・スケール中心のバンドサウンドで組み立てつつ、イントロとアウトロ、間奏の部分ではミクソリディアン・スケール一色のフレーズを演奏する、という構成になっています。
アイリッシュ音楽を連想させるホイッスルとギターのユニゾンも相まって、中世ヨーロッパを下地にしたRPGのような世界観が描写された『ダンジョン飯』の雰囲気にマッチしています。
余談ですが、「ドリアン」と「ミクソリディアン」は、日本の音楽界に馴染み深いジャンルでもある、いわゆる「ケルト音楽」で頻出するスケールでもあります。
ケルト音楽とは、ざっくり説明すると「ヨーロッパの伝統音楽に影響を受けた現代音楽の総称」です。
歴史的背景や日本での受け入れられ方など、非常に面白いトピックがたくさんあるジャンルですが、今回の記事の主旨とは少し外れてくるため、また別の機会に解説しようと思います。
今回は、異世界ファンタジー作品で世界観のモチーフに使われがちな「中世ヨーロッパ」のイメージと相性が良く、楽曲に浮遊感や異国情緒を与えるスケールを2つに絞って紹介しました。
楽曲に民族楽器を効果的に取り入れたい方はもちろん、明るさと暗さの中間点をさまようような楽曲を制作したい方も、今回ご紹介したスケールを意識して使ってみてはいかがでしょうか?
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