「他の楽器が増えても埋もれることがない、メロディやラインがはっきりと見える音です。」/ 『東京スコアリング・ストリングス』 Review – 木村 秀彬 氏
作曲家/編曲家の木村 秀彬 氏より、『東京スコアリング・ストリングス』の製品レビューをいただきました。同氏は、新しく音源を導入する際に説明書を読まず、自身の感覚をたよりに触り始めるという。今回は「説明書は読まない」「とりあえず触ってみる」といった「感覚派」ユーザーにも向けた内容となっています。必見です!
- クリアな音質と高域の伸びが気に入っています。
Violin のパッチを読み込んで最初に音を出してみて、音質面がクリアで素直だなと感じました。収録時にコンプや EQ の処理はされているようですが、音は至ってクリアで自然。加工された印象が全くありません。これまでのストリングス音源のほとんどが高域の煌びやかな部分を感じられませんでしたが、『東京スコアリング・ストリングス』(以下 TSS と総称する。) は高域の伸びがとても気持ちいいですね。曲の派手さを出すために、高域の伸びが欲しくてプラグインを色々使ったりしていますが、TSS であれば曲に応じて EQ を少し使う程度で OK です。
響きはサウンドシティ独特の雰囲気で、暖かいというよりは硬質でクリアな音質。他の楽器が増えても埋もれることがない、メロディやラインがはっきりと見える音です。ロングトーンの時やフレーズのつなぎめで音が変にダンピングしないので、美しい Pad 的なストリングスにもピッタリです。
『TOKYO SCORING STRINGS』収録風景より。
- 丁寧なサンプリングで、滑らかに発音してくれます。
曲のアレンジの中で、ここぞというときはストリングス音源でメロディを奏でることが多いと思います。しかし、従来のストリングス音源では、同じ音が続くメロディを弾く場合に、発音が徐々に弱っていくな〜といつも不自由さを感じていました。そういうときは Spiccato など短い音のパッチを足したりしていたのですが、TSS はレガートパッチで同じ音が続いても、クリアに弾き分けてくれるのが非常に良い点だと思います。ベロシティによって、かなり反応の表情が変わるので曲調やテンポによって使い分けもできそうです。
ストリングスアレンジ必須の駆け上がりのフレーズについては、パッチを分けて奏法を混ぜなくても、レガートパッチで短めの音で打ち込むだけで、しっかり、かつ滑らかに発音してくれました。また、音源によっては 2nd Violin や Viola のサンプリングがちょっと雑だな、と感じることがありますが、TSS はそこも問題ありませんでした。
- 従来のストリングス音源に比べ、フレーズ同士の繋がりが滑らかです。
特に、ショートノートへのアクセスがとても手軽かつフレキシブルで、絶妙な長さや強弱の違うものが多数収録されています。従来のストリングス音源では、「フレーズがもう少し長ければ/短ければいいのに。」と思う事や、一連のフレーズの中でパッチを切り替えると、フレーズ同士の繋がりが音楽的でなくなることがありました。しかし、TSSはフレーズがしっかり見え、音楽的に滑らかであるのがいいところです。
- 他の音源では見たことなかった機能と低ノイズを実現していて、仕上がりがスッキリします。
低音はスッキリしていて、所謂シネマティック系と比べると人数感に物足りなさを覚えるかもしれません。しかし、純粋なオーケストラ編成のものを書く、というよりも最近はシンセとオケを混ぜたハイブリッドスタイルアレンジをされることが多いと思うので、仕上がりがむしろスッキリしてくると思います。
アーティキュレーション面については、他の音源で見たことがなかった、Spiccato Secco、とてもいいですね。近年のスタイルで短い音は必ず必要とされるので実用的です。また、Pizzicato についてはノイズが多いメーカーがいくつかありますが、TSS は全然ないですね。軽い曲で Pizzicato を使いたい場合に、従来の音源だと音像が広すぎてベストなものがなかったが、これは決定版になるのでは、と思いました。
- 空間系の音像コントロールに感動しました。
音像を作り込みたいときに、空間の後付けができるのも調整がしやすくて安心ですね。音像が広い音源を小さく鳴らしたいときの一手間、というのが従来音源を使う上で課題でしたが、TSS であれば細かい部分にこだわって打ち込んだ後に、空間系で音像のコントロールが非常にしやすく仕上がりに感動します。
- 最後に
この音源は「フルオーケストラのように豊かな音像で包み込む」というよりは、「ディティール」にこだわることができる音源。しっかり拘った後に自在に音像をコントロールできます。また、従来のオケ音源は映画的な鳴りだったりホールで聞いているような輪郭が少しぼやけた音源がほとんどでした。そこでソロ音源などを重ねたりと工夫を凝らしてきたわけですが、TSSであればドラマであったり歌もののように、そこまで大きな世界観を演出する必要がないものにぴったりですね。
作曲家/編曲家
東京生まれ、幼少期を米国で過ごす。早稲田大学政治経済学部入学後独学で作曲を始め、 卒業後音楽 理論・編曲を学ぶためバークリー音楽大学へ留学。
Contemporary Writing and Production科卒業後、映像音楽を中心に活動中。
folder NEWS, SONICWIREニュース, インタビュー/レビュー, オーケストラ音源, クリプトンDTMニュース, ストリングス音源, ソフト音源
label IMPACT SOUNDWORKS, TOKYO SCORING STRINGS, ストリングス, レビュー