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「素の状態の音がとても気持ち良い」 / Toontrack社『SDX – Real to Reel』製品レビュー。by青木征洋

2025年12月11日 17:00 by obr

「マーベル・ライバルズ」「ストリートファイターV」「NINJA GAIDEN 4」「ベヨネッタ3」など、数々の作品の音楽を手掛ける作編曲家・ギタリストの青木征洋 氏に、Toontrackから最近リリースされたSDXシリーズ(Superior Drummer 3専用拡張音源)より『SDX – Real to Reel』の魅力を解説いただきました。

Toontrack『SDX – Real to Reel』

新しく出た『SDX – Real to Reel』、デモを聴いただけで「これは良い音だ!」とピンと来たのですが、実際に触ってみてもやはりピンと来る音でした。とりあえずライブラリをロードしてスネアを一発叩いただけで思わず「おっ♪」と音符マークが浮かんでしまう図太い音です。

このライブラリがどれほど由緒正しいスタジオで収録されているかについては以下の製品ページの解説をご覧頂くのが最も手っ取り早いと思います。

部屋鳴りの良さ

ドラムという楽器は、それが鳴り響く部屋までを含めて1つの楽器であると言うことができます。そしてこのライブラリには3種類の部屋があります。ということは、3種類の楽器が収録されているといっても過言では有りません。だったら『SDX – THE ROOMS OF HANSA』の場合4つあるだろって? それはそう。

重要なのはそれぞれの部屋がどのような響きを持っているかです。『SDX – Real to Reel』の部屋はなんというか、ちょうどいい大きな部屋とちょうどいい中くらいの部屋。ちょうどいい小さなブースが収録されているため楽曲に合わせてちょうどいいサイズの部屋、響きを選ぶことができる印象です。

こちらのデモ曲ではBig Roomを使用していますが、アンビエンスが非常に良い感じです。コンプでぶっ潰して誇張してもよし、そのままに近い状態で使ってもよし。今回はそこそこぶっ潰しています。

テープレコーダーの重要性

アナログ・テープマシンStuder A820

普段は『SDX – THE PROGRESSIVE FOUNDRY』『SDX – DEATH & DARKNESS』『SDX – THE ROCK FOUNDRY』を使って下世話なドラムサウンドを目指すことが多いのですが、『SDX – Real to Reel』を使うとそういった過激なアプローチは控えめにして、最小限のプロセスでまとめていきたい気分になります。なぜなら、収録されている素の状態の音がとても気持ちいいからです。

このSDXにはReal to Reelと書いてある通り、Studer A820というテープレコーダーを通った音が収録されています。これが恐らく非常に重要で、これのおかげで心地よい音色変化が起きて余分なプロセスの必要性を削ぎ落としてくれています。

“整えない”音作りのすすめ

個人的には、このライブラリを使うのであればむしろマイクの被り(Bleed)を積極的に増やしていって現実の録音状態に近づけるアプローチをとった方が上手くいくのではと感じます。特にタムに被ったスネア、スネアに被ったハイハット、ハイハットに被ったスネア等を足すことによって、よくも悪くもドラムキット全体に濁りが生じて、それがこのライブラリのキャタクターとマッチした泥臭さ、生々しさを補強してくれます。

そう、クリアに使いたければいくらでも他のライブラリがあります。『Superior Drummer 3』のデフォルトのライブラリでもいいですし、『SDX – THE ROOMS OF HANSA』『SDX – FIELDS OF ROCK』を使ってもいいでしょう。そこで敢えて本作を選ぶのであれば、”整えない”音作りを目指した方が楽しめるのではないかと感じるのでした。

『SDX – Real to Reel』製品ページはこちら

青木 征洋

作編曲家/ギタリスト/エンジニア

2008年に株式会社カプコンに入社し、「戦国BASARA」シリーズや「ロックマンXover」の音楽制作を担当。

2014年に同社を退社した後は「ストリートファイターV」の作曲を担当する等ゲームコンポーザーとしてグローバルに存在をアピール。

2015年アーケード音楽ゲーム「CHUNITHM」への楽曲での参加を皮切りに「GITADORA」「太鼓の達人」等にも楽曲を提供し、音楽ゲームの世界においてもテクニカルギタリストとしての立ち位置を確立する。

また、TVアニメ「メイドインアビス」のOP主題歌の作曲を一部担当する等ゲーム以外のフィールドでの活動も広がりをみせる。

プロデューサーとして2005年にギターインストの流布を目的とした「G5 Project」を開始。4thアルバム「G5 2013」ではオリコンCDアルバムデイリーチャート8位にランクイン。世界中の若手ギターヒーローを集結させたプロジェクト「G.O.D.」のプロデューサーも務める。

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代表作

  • 「Marvel Rivals」
  • 「Street Fighter V」
  • 「NINJA GAIDEN 4」
  • 「Bayonetta 3」
  • 「ASTRAL CHAIN」
  • 「戦国BASARA 3」
  • 「No Straight Roads」
  • 各種音楽ゲームに楽曲提供

など多数