
一瞬でその地域や文化の空気感に引き込まれるような印象を受けました
「モンスターハンター」シリーズや「この素晴らしい世界に祝福を!」など、数々の人気作品の音楽で巧みなオーケストレーションを手掛ける作編曲家 甲田 雅人 氏(DESIGN WAVE)に、Strezov Sampling社の「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズをレビューいただきました。
以前レビューいただきました同社の「AFFLATUS」シリーズ製品について、その後ご活用いただく機会はありましたでしょうか?
『AFFLATUS BRASS』、『AFFLATUS STRINGS』ともに今でも頻繁に活用しています。音にしっかりとした存在感があり、メロディパートでも使いやすいため、シンプルな打ち込みでも十分に仕上がるのが魅力です。そのため、ラフスケッチの段階から取り入れることも多くあります。
以前のレビュー記事はこちら:
上記2製品を完パケまで使用した楽曲がございましたら、ご教示いただけますでしょうか?
今年オンエア予定のTVアニメ2作品(※)においても、これら2製品を使用しています。生のストリングスやブラスセクションと組み合わせることで、編成のスケール感を広げるような使い方をしています。
また、打ち込みのみで制作した楽曲も数曲ありますが、他の生収録の楽曲とも違和感なく馴染んでおり、非常に自然な仕上がりになっていると感じています。
※2025年7月放送開始「追放者食堂へようこそ!」、2025年10月放送開始「とんでもスキルで異世界放浪メシ2」
それでは、本題である「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズについてお話を伺っていきましょう。まずは、各製品のサウンドを鳴らしたときの第一印象を教えていただけますか?
どの製品も、それぞれに明確なコンセプトと独自の世界観が感じられ、一瞬でその地域や文化の空気感に引き込まれるような印象を受けました。サウンドは非常にクリアかつ美しく整っていながら、時に荒々しさも感じさせる表現力の幅広さがあり、扱いやすくも深みのある印象です。
操作性やGUI、打ち込みやすさに関しての感想を教えていただけますか?
管楽器や弦(弓)楽器などの旋律系では、レガートの追従性が高く、経過音も自然で非常に使いやすいです。そのままでもリアルに鳴りますが、CC1で息遣い(弦楽器では弓の圧)やビブラートの強弱を調整することで、より繊細で豊かな表現が可能になります。
UI(ユーザーインターフェース)も直感的で、Legato・OverlapのON/OFF、リバーブのセンドレベル、マイクの切り替えなど、必要な操作にすぐアクセスできる点が好印象です。また、「AFFLATUS BRASS・STRINGS」のレビューでも触れた「Velocity Dynamic Influencer」が、『JADE ETHNIC ORCHESTRA』や『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』にも搭載されているのは非常に嬉しいポイントです。
PAD系音色は一度に全音色を読み込めて、瞬時に切り替えられる設計になっているため、ストレスなく作業を進められます。
「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズには数多くの民族楽器が収録されていますが、それぞれの製品においてお気に入りのパッチを教えていただけますか?
『BALKAN ETHNIC ORCHESTRA』では「Duduk (ドゥドゥク)」や「Gypsy Clarinet (ジプシー・クラリネット)」の音色・表現力が特に好みです。「Gypsy Romantic Violin (ジプシー・ロマンティック・バイオリン)」も、クラシックのバイオリンとは異なる個性があり面白いですね。クワイアの「Quartet Syllabuilder (カルテット・シラビルダー)」も操作性が良く、今後活用頻度が高くなりそうです。
『JADE ETHNIC ORCHESTRA』では、二胡をはじめとする弦(弓)楽器が豊富で、正直知らない楽器もありましたが、どれも独特の味わいがあり魅力的です。二胡は通常の「Erhu」とビブラートの強い「Expressive Erhu」があり、用途によって使い分けができる点はとても気に入っています。
『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』では、こだわりを感じるストリングスセクションや、他シリーズ同様に完成度の高い管楽器が印象的ですが、「Percussion – Loops」の操作性がとても良く、音色やリズムをスムーズに切り替えられるので、リズム・トラック作りがより楽しくなります。
『BALKAN ETHNIC ORCHESTRA』『JADE ETHNIC ORCHESTRA』では、伝統楽器の他にエスニックなクワイアも収録されていますが、使用感を教えていただけますか?
『BALKAN ETHNIC ORCHESTRA』『JADE ETHNIC ORCHESTRA』ともに特徴のある声色で、一瞬で世界観が構築できるような素晴らしいクワイアです。使用感としましては、「Syllabuilder」の機能が細かく調整可能で、子音ごとに音符の長さや発音のスピードを指定することで、フレーズに合った自然な発音が可能です。
それから、『JADE ETHNIC ORCHESTRA』に収録されている「Hoomai」の操作法が秀逸で、実音を弾いたのちに、倍音を別の鍵盤で重ねていくことで喉歌独特の歌唱法を再現できる仕組みになっており、直感的でわかりやすく、思い通りに操作できる点に感心しました。
『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』にはストリングスのパッチが収録されていますが、『AFFLATUS CHAPTER I STRINGS』のサウンドと比較して違いは感じますか?
音色面では、まず編成の規模感や空間の鳴り方に違いを感じました。特にFarやHallマイクをONにした際の部屋の響きが全く異なります。また『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』には装飾音や半音/全音上がる/下がるなどの Key Switch で味付けができたり、「マイクロ・チューニング機能」で独特のチューニングに変更できたりする点が大きく違うと思います。
『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』には、地域特有の響きを実現する「マイクロ・チューニング機能」が搭載されておりますが、率直な感想を教えていただけますか?
私はとても良い印象を受けました。収録されているスケールの豊富さ(中東地域だけで32種、その他アフリカ、インド、東南アジアなども)と、それを瞬時に切り替えられる操作性も良いですね。各スケールに特有の世界観を感じます。
オーケストラ音源と完全なユニゾンやハーモニーを組むのは難しい場合もあるかもしれませんが、上手に取り入れれば非常に効果的な演出ができると感じます。
お手持ちの音源で「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズと相性がいいと感じる音源を教えていただけますか?
同社の『AFFLATUS BRASS』『AFFLATUS STRINGS』 とは相性が良いと思います。音の馴染みの良さはもちろん、UIの構成や操作感が共通している点も大きな利点です。『AFFLATUS STRINGS』に収録されている エスニック系の楽器とレイヤーしている音色や、アンビエント系の PADとも相性が良いと思います。
他のデベロッパーのエスニック音源と比べて、どういったところが「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズの強みだと思われますか。
まず、地域ごとに特化した構成によって、コンセプトが非常に明確になっている点が挙げられます。そのため Pad/Sparks の様な音色も、その地方に特化したものを揃えることが出来ていると思います。
また、あまり一般的ではないマニアックな楽器が数多く収録されている点も面白いです。それぞれの楽器にサンプルが贅沢に使われていて、音量のダイナミクス・装飾音のバリエーション・RR(ラウンドロビン)の設定など、リアルで自然に聴かせるために丁寧に作り込まれていると感じました。
さらに、クワイア系の音色で「Syllabuilder」が細かく設定できますが、私はこれまでクワイア専用のソフトでしか見たことがありませんでしたので驚きました。
打ち込みや音作りの際に、不便に感じる点はありますか?
あえて挙げるとすれば、『BALKAN ETHNIC ORCHESTRA』に収録されている「Gadulka(ガドゥルカ) Ens Leg & Grooves」のようなリズミックな音色において、テンポがBPM 80/120/150に限定されている点でしょうか。
ただし、この点は『ARABIAN ETHNIC ORCHESTRA』では改善されており、プロジェクトのテンポに自動で追従する仕様になっています。
最後に、「AFFLATUS」「ETHNIC ORCHESTRA」各シリーズをご使用いただいたうえで、Strezov Samplingに対する率直な評価をお聞かせいただけますか?
前回の「AFFLATUS」レビューに続き、今回の「ETHNIC ORCHESTRA」についても、自分でも驚くほど“絶賛”になってしまいましたが、特に忖度しているわけではなく、純粋に感じたことを書かせていただきました。
今回「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズがライブラリに加わったことで、今後さらにStrezov Sampling社の製品が制作の中心となっていくと思います。
レビューいただきありがとうございました!
引き続きStrezov Sampling社の製品をご愛用いただけるということで、今後の作品にどのように組み込まれていくのかにも注目ですね!
甲田 雅人 氏 スペシャルインタビュー 『アニメ・ゲームのエスニック音楽』
(作・編曲家)

国立音楽大学を卒業後、株式会社カプコンに入社。
同社を2003年に退社後、フリーランスを経てデザインウェーブ株式会社に所属している。
ゲームやアニメを中心に様々な人気作品の音楽を手掛けており、国内外に多くのファンを持つ。
オンエア情報
- 2025年7月放送スタート
「追放者食堂へようこそ!」 - 2025年10月放送スタート
「とんでもスキルで異世界放浪メシ2」
主な担当作品
- 「モンスターハンター」シリーズ
- 「エルシャダイ」
- 「デビルメイクライ」シリーズ
- 「この素晴らしい世界に祝福を!」シリーズ
- 「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」
- NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」
- 「ピクミンブルーム」
など多数
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