音楽家の思考: 甲田 雅人
「モンスターハンター」シリーズや「この素晴らしい世界に祝福を!」など、数々の人気作品の音楽を手掛ける作編曲家 甲田 雅人 氏(DESIGN WAVE)に、普段の楽曲制作やDTMに関することについて伺いました。
普段、楽曲制作を行う環境を教えていただけますか?
[DAW]
- Cubase Pro 12
[PC]
- Windows PC (Core i7-6700K,メモリ64GB)
[オーディオインターフェイス]
- RME ADI-2 Pro FS R
[モニター環境]
- TAGO STUDIO T3-01
- DYNAUDIO ACOUSTICS BM5A Compact
甲田様の音楽的なバックグラウンドや得意なジャンルについて教えていただけますか?
幼少からピアノを習っていたことで(当時はピアノ=クラシックでした)、自然とクラシックに触れました。また父が『クラシック100選』のようなレコード集を持っていて、それを借りては毎日のように聴いていましたので、オーケストラにも親しみを持つようになりました。
「宇宙戦艦ヤマト」や「STARWARS」などの劇伴も大好きでよく聴いていましたが、やはりオーケストラサウンドが好きだったのだと思います。
音楽大学に進学してからはバンド演奏にハマりまして、キーボード担当として多くのバンドを掛け持ちしていました。そこでロックやジャズ・フュージョン、ポップスなど様々なジャンルを経験しました。シーケンサーによる打ち込みを覚えたのもこの時期です。その打ち込みのスキルが、後にゲーム会社への就職に繋がりました。
普段ゲームをプレイしたり、アニメを鑑賞することはありますでしょうか?また、音楽が印象に残っている最近の作品がありましたら、教えていただけますか?
ゲームをじっくりとプレイする機会は減ってしまいましたが、最近だと「Hogwarts Legacy」は印象的でした。やはりあのメインテーマが流れるとグッと掴まれてしまいますね! 音楽の使い方や細かい演出も丁寧に作り込まれていて凄いなぁと。
「Minecraft」も心地よい音楽が多くてお気に入りです。
アニメでは、現在「葬送のフリーレン」を視聴していますが、作品の世界観にマッチした空気感のある音楽には引き込まれます。「鬼滅の刃」も、全編フィルムスコアリングで作ってあり、映像とのシンクロが素晴らしいですね。
「モンスターハンター」シリーズや「この素晴らしい世界に祝福を!」など、数々の人気作品の音楽をご担当されておりますが、それらの楽曲制作にあたって大切にしていることを教えていただけますか?
どちらの作品にもメインテーマがあり、そこから派生したモチーフを作品のいたるところに散りばめていて、作品のカラーや統一感に繋がっていると考えています。
「モンスターハンター」では、モンスターがただ恐ろしいだけでなく、血の通った生き物で大自然の一部であるということを意識して、激しい狩猟シーンでもメロディアスでハーモニックな部分を残すよう意識しました。
「このすば」はコメディー作品ですが、登場人物たちはまじめに頑張っていて、かえってそれが面白いということで、音楽もいたって真面目に作るように心掛けました。
「カプコン」在籍時代の楽曲などは、リアルな音のソフト音源やDAWがある現在とは違い様々な制約があった中での制作だったと存じますが、当時と現在で楽曲制作に対するスタイルや考え方に違いはありますか?
私の在籍当時、30年程前ですが、ゲーム機もサンプリングした音を内蔵音源で鳴らす方式に移り変わった時期でした。メモリも同時発音数もわずかの中、少しでもリアルに聴こえるように試行錯誤していましたが、やはり音色だけでは限界があり、フレーズやアレンジでリアルに聴かせる工夫が必要でした。
お手本として「ドラゴンクエスト」では、PSG(いわゆるピコピコ音)3音程度だったにも関わらず、対位法的なフレーズや装飾音、楽曲の形式などが本物のクラシックのようで、オーケストラの音を想像することが出来ました。
今では、ほぼ制約もなく音色も非常にリアルになりましたが、そこに甘えることなく、フレーズやアレンジもその楽器らしいものを作るように心掛けています。
普段の制作において、オーケストラ楽器をはじめとする生楽器のソフト音源を完パケまでもっていくことはありますか?あるいは、デモやスケッチ用として割り切って使用されていますか?
完パケまで使用することもよくあります。私の場合は、デモの段階でかなり作り込んでしまいますね。やはりイメージが湧きやすいですし、スコア制作を他の方に依頼する際にも、ダイナミクスやスラーの掛け方など、伝わり易いと思います。
また、生収録したものに打ち込みの音源の音をミックスして仕上げることもあります。デモの段階で作り込んでおくと、生で収録したものに人数感をプラスしたかったり、より強調したいフレーズがあったりといった場合に、デモの音源をそのまま重ねてミックス出来るという利点もあります。
普段よく使用するソフト音源を教えていただけますか?
オーケストラ系ですと、基本的には Spitfire Audioの『BBC SYMPHONY ORCHESTRA』ですが、『SPITFIRE CHAMBER STRINGS』や、Cinematic Studio SeriesのSTRINGSやWOODWINDSを使用することもあります。
オケ以外ですと、NIの『KOMPLETE』でかなりの部分をカヴァー出来てしまいますので、多用しています。Spectrasonicsの『OMNISPHERE』や『KEYSCAPE』もやはり外せません。
最後に、ストリングスやブラスなどオーケストラ系のソフト音源を選ぶ際に注目するポイントを教えてください。
まずサウンドと扱い易さでしょうか。生収録にも引けを取らないようなサウンドが、細かい調整を必要とせずに再現できるのが理想です。前述しましたが、私の場合は生収録の音と共存させることもありますので。
また、劇伴の仕事では短期間に何十曲も揃えないといけないということもありますので、最低限の調整で生楽器のような表現が再現出来ると重宝します。
価格は、オーケストラ系の音源は高価なイメージがありますが、生収録の費用と比べれば…。なので気にしません(笑)。
ご回答いただき、ありがとうございました!
Strezov Sampling「AFFLATUS」シリーズ製品レビュー
(作・編曲家)
国立音楽大学を卒業後、株式会社カプコンに入社。
同社を2003年に退社後、フリーランスを経てデザインウェーブ株式会社に所属している。
ゲームやアニメを中心に様々な人気作品の音楽を手掛けており、国内外に多くのファンを持つ。
主な担当作品
- 「モンスターハンター」シリーズ
- 「エルシャダイ」
- 「デビルメイクライ」シリーズ
- 「この素晴らしい世界に祝福を!」シリーズ
- 「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」
- NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」
- 「ピクミンブルーム」
など多数
X | Apple Music | Spotify
SONICWIRE取扱い全製品を表示したい場合は、SONICWIREを日本語で閲覧されることをお奨めいたします。