SONICWIRE

アニメ・ゲームの「エスニック音楽」を語る

~「異世界」表現のために、“嘘”が許される音楽の自由さ~

Special Interview Presented by SONICWIRE

「ファンタジー」「異世界」を表現するエスニック風の音楽は、アニメやゲームに欠かせません。今回は、「モンスターハンター」シリーズや「この素晴らしい世界に祝福を!」など、数々の人気作品の音楽を手掛ける作編曲家 甲田 雅人 氏(DESIGN WAVE)に、アニメやゲームに使われるエスニック音楽についてのお話を伺いました。

アニメ/ゲーム作品ではエスニックな楽曲をよく耳にしますが、甲田様もエスニックな楽曲を手掛ける機会は多いですか?
また、今まで制作されたエスニック曲の中で、一番印象に残っている楽曲について教えてください。

アニメやゲーム作品では、ファンタジーや異世界の表現が求められることが多いため、現実とは異なる文化や世界観をエスニックな音楽で描写する機会も多くあります。印象に残っている楽曲を一つに絞るのは難しいのですが、『モンスターハンター』の村や街の楽曲は特に印象深いですね。

『モンスターハンター』の村や街の楽曲について、どのような点がご自身にとって印象に残っていますでしょうか?
例えば、制作当時のエピソードや、音楽で表現しようとした世界観など、ぜひお聞かせください。

『モンスターハンター』シリーズでは、作品ごとに異なる文化圏を背景とした世界観が設定されており、それに合わせてケルト風、和風、カントリー調など、さまざまなスタイルの音楽を手がける機会がありました。こうした経験は自身にとって大きな学びにもなったと感じています。

村や街の音楽以外では、たとえば『オオナズチ』の狩猟曲で、オーケストラに和楽器を組み合わせた編成に挑戦したことが、特に印象に残っています。

エスニック音楽といっても多岐にわたりますが、制作現場ではどのジャンルや地域の音楽をベースにした楽曲を求められることが多いでしょうか?

私の場合、制作現場ではケルト系の音楽を求められることが比較的多いです。ヨーロッパ調の風景や情緒を描写する場面が多いからだと思います。中東系や和風のテイストも、頻繁に使用されています。

普段、楽曲制作でよく使用する民族楽器と、その理由を教えてください。

バグパイプは、一音で世界観を表現できる特徴的な音色を持ち、オーケストラに加えても埋もれずに抜けてくるため、よく使用しています。情景描写だけでなく、戦闘シーンなどで用いても、勇壮さを表現できるところが良いですね。

打楽器では、フレームドラムやタブラあたりの使用頻度が高いと思います。

通常のエスニック音楽と比べて、劇伴として制作されるエスニック音楽はどのような違いや魅力があると感じていますか?
また、エスニック音楽を劇伴に取り入れる際、「自分らしさ」を加えるために大切にしていることがあれば、ぜひお聞かせください。

劇伴ではファンタジー要素が強いため、伝統的なエスニック音楽に厳密に従う必要がないという点が魅力だと感じています。

現実ではありえないような楽器の組み合わせも「異世界」なら成立する。そうした“嘘”が許される自由さが、自分なりのオリジナリティを出す大きな要素にもなっています。

編成に民族楽器を加えるだけでなく、作編曲の視点からエスニック感を演出するために意識していることや、よく用いる作編曲のテクニックがあれば教えていただけますか?

その民族楽器がどのような音楽の中で使用されているかを聴いて、コード進行やリズムの参考にすることはあります。スケールや特徴的なフレーズ、装飾音の入れ方なども参考にすると、よりその楽器の持つ魅力を引き出せると思います。

エスニックな楽曲を制作する際、ジャンル特有のスケールやモード、リズムから着想を得ることはありますか?
また、甲田様がよく使用するスケールやモード、その魅力についてもお聞きしたいです。

もちろんあります。メロディを作る際に、たとえばリディアンの第4音や、アラビア音楽の増2度など、特有の響きを「一番おいしく聴こえる位置」に配置するよう工夫しています。

特によく使うのはドリアン、リディアン、ヨナ抜き音階などですね。それぞれに独特の雰囲気があり、作品の世界観に合わせて使い分けています。

エスニックな楽曲において、耳に残るメロディラインを作る際に意識していることや、劇伴としてのメロディの役割をどう設計されているのか教えていただけますか?

繰り返しになりますが、その楽器の持つ特徴的なフレーズやスケールをメロディラインの中に美味しく落とし込むことを意識しています。

また劇伴では、作品の中の要素、例えばキャラクターごとのテーマ(メロディ)、街や国家のテーマ、そして作品全体を貫くメインテーマなどを整理して設計することで、物語に寄り添った音楽作りを心がけています。

エスニック音楽には独特のリズムパターンが多いですが、シーンの流れを崩さずに自然に聴かせるために意識していることや、リズムの組み方で工夫されている点があれば教えてください。

エスニックなリズムは独特で印象に残るものが多いので、「自然に馴染ませる」というよりは、むしろ意識的にフックとして活かす方向で作ることが多いです。その場面を象徴するようなリズムにすることで、印象を強めることを狙っています。

それでは最後に、オーケストラとエスニック音楽を融合させる際のアプローチの仕方や特に意識していること、苦労される点があればお聞きしたいです。

まず、「なぜこの民族楽器を使うのか?」というところから考えます。その楽器が持つ音色や文化的背景が、作品の世界観にマッチするからこそ選ばれているはずです。

ですので、オーケストラ側はその楽器の持つスケールやリズムを活かすような補強をするアプローチになります。逆に、民族楽器が浮かないように、オーケストラで馴染ませるような工夫をすることもありますね。

ご回答いただき、ありがとうございました!

Strezov Sampling「ETHNIC ORCHESTRA」シリーズ製品レビュー

  • 甲田 雅人 氏 スペシャルインタビュー

  • Strezov Sampling「AFFLATUS」シリーズ製品レビュー

甲田 雅人(DESIGN WAVE)

(作・編曲家)

国立音楽大学を卒業後、株式会社カプコンに入社。

同社を2003年に退社後、フリーランスを経てデザインウェーブ株式会社に所属している。

ゲームやアニメを中心に様々な人気作品の音楽を手掛けており、国内外に多くのファンを持つ。

オンエア情報

  • 2025年7月放送スタート
    「追放者食堂へようこそ!」
  • 2025年10月放送スタート
    「とんでもスキルで異世界放浪メシ2」

主な担当作品

  • 「モンスターハンター」シリーズ
  • 「エルシャダイ」
  • 「デビルメイクライ」シリーズ
  • 「この素晴らしい世界に祝福を!」シリーズ
  • 「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」
  • NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」
  • 「ピクミンブルーム」

など多数

X | Apple Music | Spotify

Demosong Playlist
All Clear