10周年を迎えた“Plugin Boutique”にインタビュー!トレンドは?音楽制作の未来は?
世界的な音楽制作ソフトウェアのマーケットプレイスを運営しながらも、人気の音楽理論ツール『SCALER 2』をはじめとした自社ブランド製品の開発にも注力し、今年で10周年を迎えた“Plugin Boutique”。
母体である“Loopmasters”は、1999年から長らく弊社との代理店契約を結んでおり、時に仲間として、時に良きライバルとして共に歩んできました。
10周年のお祝いも兼ねて、“Plugin Boutique”の創設メンバーの一人でジェネラル・マネージャーである、Gareth Halsall氏にインタビューを行いました。
SW:
10周年おめでとうございます!
今日はギャレスさんに対談というかインタビューというか、記念の記事にするために色々とお話しを聞かせてもらいたいと思います。
先ずはじめに、ギャレスさんは普段から音楽制作をしていますか?
PIB:
はい!常日頃からできるだけクリエイティブになるように心がけています。ギターを手に取ったり、コンピューターやMPCの前に座ったりと、音楽制作を積極的に行うようにしています。
主にダウンテンポで、くすんだような、暖かい、サンプル主体の音楽を作っています。
SW:
具体的には、どんな音楽でしょうか?
PIB:
Bonobo、Nightmares on Wax、RJD2のようなプロデューサーが近いと思うのですが、実際に彼らが持つプロフェッショナルな音楽の才能は私にはありません…
レコードからサンプリングし、良いサンプルを見つけ、Logic ProやMPCでスライスすることが多いですね。
音楽を作っていないときは、ライカのフィルムカメラを持って出かけ、写真を撮り、自分の周りの世界を記録するのが好きです。
SW:
私もデジタル一眼を持って散歩していましたが、最近はスマホの画質も驚く程上がってきて、ご無沙汰ですね。フィルムカメラはまた別物なので、羨ましいです。
ちなみに私自身は、耳に入る音楽のミックスを普段から分析していますね。チーム内には演奏/作曲にフォーカスしているスタッフもいます。
Plugin Boutique の生い立ちはどのような流れでしたか?
PIB:
Plugin Boutique の元をたどると、2012年に“Boutique”という、小さなブランドが商品を販売できるようなマーケットプレイスとして生まれました。
Plugin Boutique オフィス風景
SW:
クリプトンは創立の1995年から音声素材のディストリビューターとして事業を開始し、2007年に配信ストアとしてSONICWIREを立ち上げた経緯があります。
1999年には Plugin Boutique の母体となる Loopmasters と契約を結んでいるので、両社の関係としては今年で23年になりますね!
今こうして Plugin Boutique の製品を取り扱えることに喜びを感じていますし、長年同じ土俵で関係を続けられていることに、感慨にひたることもあります。
弊社と Plugin Boutique の共通点として、ストアの運営だけではなく自社ブランドの製品を開発していることも挙げられます。Plugin Boutique ブランド製品の開発はどのような経緯があったのでしょうか?
PIB:
“Boutique”立ち上げ後すぐに、情熱的なプロジェクトとして、自分たちの製品群を開発し始めました。
ドラムンベースのユニット Noisia が、キックドラムの音作りをどのように行っているかを説明する動画を見てインスピレーションを受けた私たちは、キックドラムのプラグインを作るというアイデアをKVRに投稿し、Credland Audio の Jim Credland が同じようなアイデアを持っていたため協力し、間もなく『BIGKICK』が誕生しました。
後に Jim を通じ、Casio CZ シンセサイザーのエミュレーションを制作していた Oli Larkin と連絡を取り、『VIRTUAL CZ』の販売を引き受け、ユニークでニッチなサウンドを持つインストゥルメントのマーケティングを大いに楽しみました。
その後すぐに『CARBON ELECTRA』と『STEREOSAVAGE』を、また2016年には Scaler の初期バージョンも登場しました。
SW:
凄いスピードですね!情熱を感じます。今挙がった Scaler は現在『SCALER 2』となって、SONICWIREでも特に人気のあるプラグインです。
PIB:
音楽理論ツールがあまりない時代に登場したため、Plugin Boutique ブランドで最も人気があります。
私たちはSAMPLIFYチームと長い時間をかけて 初代Scaler を開発し、大成功を収めました。そして今の『SCALER 2』を短いスパンでリリースできたことを非常に誇りに思っています。
音楽理論に悩みを持っている人は、SONICWIREでも販売されている『SCALER 2』をチェックすることをお勧めします。コード進行のアイデアを生成し、マウスを数回クリックするだけで楽曲製作をナビゲートしてくれますよ!
SW:
弊社製品では、2004年に発売した『MEIKO』以降、バーチャルシンガー製品が人気です。当時クリプトンはあらゆる可能性に向かってチャレンジしていく社風で(もちろん今も)、いくつもあった取り組みのひとつだったと聞いています。
直近では、社内で一から作り上げた『初音ミク NT』を展開しています。「クリエイターの個性を反映できるように」というコンセプトのもと、現在も開発を続けています。
Plugin Boutique では、製品を開発する上で、共通のコンセプトはありますか?
PIB:
正直なところ、ありません。
Plugin Boutique の製品達は、私たちが知り合ったクールで楽しい人達との関係から生まれてきました。前述したように、フォーラムへの投稿から始まり、シンセ、ダイナミック・プロセッサー、そして最終的には音楽理論ツールである Scaler と、何年もかけて有機的に発展してきました。
これまで生み出してきた製品達を振り返ると、ラインナップがバラバラな感があり時々笑ってしまいますが、最初に言ったように、Plugin Boutique の製品ラインはこれまでもこれからも情熱的なプロジェクトばかりなので、少しバラバラであるくらいが好きなのです:)
SW:
自社ブランド以外に、ストアとして Plugin Boutique が扱っている今オススメのデベロッパーや製品はなんですか?
PIB:
Excite Audio がリリースしている『LIFELINE EXPANCE』は、今、最も注目されているプラグインです。
特徴の一つとしてはリアンプ機能で、レコーディング・スタジオで何年も使われてきたテクニックですが、プラグインでは初めてです。
SW:
先日ミキシング向けのエフェクトをまとめた『LIFELINE CONSOLE』が新たに発売され、更に注目されていますね!
どちらも欲しいエフェクトにすぐアクセスできるように設計されていて、道具が手に届く範囲に揃えられている、そんな使い勝手の良さがお気に入りです。
様々なツールの利便性がどんどん上がって、プラグインをインサートする作業すら面倒に感じてしまう私にとって、一画面で各エフェクトの状態まで確認できるのはうれしいポイントです。
SONICWIREのトレンドとしても、手を入れなくても出音の完成度が高くなったり、最小限のパラメーターで効果が得られることをウリにしている製品が多い印象です。Plugin Boutique で扱っている製品の傾向はいかがですか?
PIB:
ここ2年くらいのトレンドは、エミュレーションやローファイ・サウンドのFXの人気が高まっている印象がありますね。AudioThing の『REELS』のようなプラグインはとても人気があります。
ローファイでオールドなサウンドの音楽制作は間違いなく今が旬で、私も大好きです。
また、映像クリエイターの増加により、映像の背景となる「ベッドミュージック」や「ストックミュージック」のニーズが高まっていると思います。それがローファイ・ビートの台頭を後押ししているのだと思います。
SW:
そう考えると、音楽を取り巻く環境も大きく変わっていますね。
私の小さい頃は街中でイヤホンをかけている人も見かけませんでしたが、今はサブスクの音楽配信サービスが一般的になり、音楽はより生活に密着したものになったように思います。
音楽を作ることも、より身近になっていると感じますか?
PIB:
SONICWIRE のような素晴らしいストア(弊社も勿論ですが!)を通じて、より簡単にツールを入手できるようになりましたし、価格も以前より手頃になっています。
60年代のように、ミキシングコンソール付きのスタジオを所有しなければ録音できなかった時代よりも、もっと手の届く価格でプラグインを作っている素晴らしいソフトウェア・メーカーが世界中に存在するのです。
SW:
その頃を考えると、ノートパソコン一つ、更に言えばスマホで音楽が作れる時代が来るとは思いもよらなかったでしょうね!
10年前からみても、パソコンのスペックが向上することによって、ソフト音源やエフェクトの品質は飛躍的に向上し続けていますね。
少し誇張した表現にはなりますが、プロと同様の環境を誰でも手に入れられるようになっている印象です。
PIB:
音楽ソフトウェア業界は、『SCALER 2』のような音楽理論ツールを開発する才能ある開発者たちによって活況を呈しています。
ミキシングとマスタリングのプロセスをより身近なものにするために、機械学習やAIに取り組んでいる企業もあります。世界中のサウンドにアクセスできる大規模なサンプルパック・プロバイダーも存在します。
音楽を作るのに、これほどまでにアクセスしやすく、エキサイティングな時代はありません。
SW:
新しいソリューションが沢山出てきていますよね。
今後、市場はどのように変化していくと思いますか?
PIB:
短期的には、AIや機械学習への移行が進むと思います。ワークフローとクリエイティブなアウトプットに焦点が当てられている印象ですね。
クリエイターの誰もが、アイデアをより早く、より簡単にアウトプットできるようにしたいと考えていますからね。
そこから次のステップは、メタバースなど世界中のどこにいても即座につながり、一緒に音楽を作ることができるようなコラボレーション・ツールだと思います。
現在、いくつかの企業がこの分野に参入していますが、今後、より簡単に、よりスマートにコラボレーションができるようになると思います。
SW:
夢が広がりますね!タイムリーなところで、先日ソニコンで最優秀賞を獲得した Sekimen x OD のお二人は「NETDUETTO」で偶然知り合い、受賞作も SYNCROOM や Discord 等のツールを活用しながら遠隔で制作されたことがインタビューで語られています。
コラボレーション・ツールがより一般的なものになり、クリエイターのコミュニティが活発になって新たな音楽が発明されていく。そんな未来があるかもしれません。
夢を語るとキリが無さそうなのでそろそろ締めに入るとして、SONICWIRE とのコラボレーションについて、これからの展望で考えていることはありますか?
PIB:
既に『SCALER 2』や『LIFELINE EXPANCE』でも実施しましたが、引き続き SONICWIRE とその友人である皆様に、限定キャンペーンや限定価格を提供したいと思っています!
そしてこの場をお借りして伝えさせていただくと、Loopmasters の初期から Plugin Boutique に至るまで、ずっと一緒に仕事ができて本当に幸せです!
SW:
最後に、日本のクリエイターに向けて、何かメッセージがあればお伝えください!
PIB:
音楽を作ること、そしてクリエイティブであることを止めないでください!
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