春口 巌 氏
VIENNA SPECIAL INTERVIEW 02 / Presented by Crypton Future Media, INC.
クラシックの本場、VIENNA(=ウィーン)で作られたVIENNA INSTRUMENTS。そんなVIENNA INSTRUMENTSを駆使し、たった一人でチャイコフスキー「春口 巌&ヴィエナ・インストゥルメンツ/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」をリリースされた春口氏に、アルバム制作にまつわるや普段の制作環境などを聞いてみた。
─このアルバムを制作しようと思われた理由をお聞かせください。
チャイコフスキーの曲が大好きで、特にピアノ協奏曲第1番は自分で演奏してみたい曲でした。しかし、自分で演奏して楽しむのと、人に聴いていただくのとは事情が違います。自分が人に聴いていただけるだけの表現力を持っているのかCDというメディアで発表できるレベルにあるのか試してみたかったというのも理由の一つです。ならば、やはり、もっとも好きな曲で、自分の全力を出し切って自分の想いを込めてみようと思ったのです。コンピュータという機械を使ってはいますが、それで自分の想いは伝わるのかどうか試してみたかったのでした。
─詳細な制作環境を教えて下さい。
【入力・演奏】
- MIDI Keyboard: Roland ED PC-70 (現在は、M-AUDIO KEYSTATION 88es)
- Seqencer: Singer Song Writer
- MIDI Interface: M-AUDIO MIDI SPORT 8x8/s (現在は、MOTU midi express 128)
【録音・ミキシング】
- Steinberg NUENDO
また、4台のコンピュータを使って演奏しています。
- PC1 : シーケンサー
- PC2 : 弦楽器専用機
- PC3 : 木管楽器専用機
- PC4 : 金管楽器/打楽器/ピアノ専用機
─制作過程を教えて下さい。
まず、フレーズの区切りが良いところまでをひとつのブロックとし、そのブロックに大雑把にテンポを指定します。次に、MIDIキーボードを使って、シーケンサーに1つずつ音を入力します。一通り入力し終わったら、パートごとに奏法と強弱を指定します。
全パートの入力が終わったら一度再生してみて、パート毎のバランス調整と、微妙なテンポ調整をします。テンポ調整に関しては1音1音に対して調整してく作業が殆どであり、時間を費やしての細かい作業となります。
─苦労した作業を教えて下さい。
楽譜に書かれているものを、自分の思っている形に表現していく過程で、時々、なかなか思ったようにならないことがあります。
1.テンポの難しさ。あるフレーズを構成する音符の並びのそれぞれをどのようなテンポで演奏したら、あるべきフレーズの表現になるのか、「部分的に変えて演奏してみる」という試行錯誤を何度も何度もやって表現を練り上げる必要を感じる時があって、それをやり始めると、数小節のフレーズでも何時間もかかったりします。要は、そのパートの楽器を使って自分で実際に演奏の練習をしているのと同じような状況になるわけです。
2.バランスの難しさ。大きく分ければ、メロディパートと伴奏パートですが、メロディも和音だったり、伴奏パートの中にも重要で少し目立ったほうが良い音があったりします。それで、あるパートの強さを変えてみたり、それでもうまくいかない時は、部分的にパートのボリュームを変えてみたりするわけです。これも何度も試行錯誤をしなければならないことが多いです。
3.Vienna Instruments に用意されていない奏法が必要な時トレモロしながらディクレッシェンドをする。けれど、先頭の音はスフォルツァンドになっていたりするとVienna Insruments では、2つのアーティキュレーション(奏法)を一緒に演奏しないと実現できない表現なので、1つのパートに対して2トラック用意して構成するアーティキュレーションを同時に演奏して実現しました。何と何を合わせれば実現できる表現なのか、これも複数の組み合わせを試してみる必要がありました。実際にはスフォルツァンドではなくフォルテピアノを組み合わせたほうが良かったりするからです。
のべの制作時間を教えてください。
大学の教員なので、学期中は、自分が制作に使える時間は週末だけで、いわば、日曜音楽家の状況です。夏季休業中はまとまった時間が取れるわけですが、細切れの時間を集めて、ピアノ協奏曲第1番は1年くらい、ロメオとジュリエットは3ヶ月くらいでしょうか。
─生のサウンドとVIENNAのサウンドを比較した印象をお願い致します
Vienna Instruments の楽器群は綺麗にサンプリングされているし音程の確かさという意味では、とても安定しているように感じます。例えば、あるオーケストラのメンバーに聞いたところ、「オーボエは音程が不安定なことが多いけれど、Vienna のオーボエはとても正確ですね」と言われました。
─VIENNAのサウンドはどのように処理されましたでしょうか?
VSLのプラグインバンドル 『Vienna Suite』 を使っています。EQ については付属のプリセットを活用し、それでもマスキング等の不都合な現象が起ってしまった場合は、独自の調整を若干行っています。
─このように音楽的に仕上げるために、どのように工夫をされましたか?
「苦労した作業」で答えた内容とダブります。すなわち、ほとんどの場合、苦労したのは「音楽的に仕上げるためだった」とも言えると思います。
─どのような聴かれ方を想定されますか?
音楽ですから、お聴きになる方が好みのやり方でお聴きになればよろしいのではないでしょうか。ポータブル音楽デバイスに入れて、長時間の移動中に聴いていただくのでも良いし、ご自宅で迫力の出る音響システムでお聴きいただくのでも良いと思います。自分は、出張中に飛行機の中で、ポータブルデバイスで聴いたこともあります。私の母はクラシック音楽はあまり聴かない人ですが、午後のお茶の時間にCDラジカセで聴いてくれて、「綺麗なメロディがあるのね」と言ってくれました。
─どのような箇所に注目して聴いて欲しいと思われますか?聴きどころを教えてください。
ピアノ協奏曲第1番:
- 第1楽章:冒頭の美しいメロディ
- 第1楽章:終盤のカデンツァ
- 第2楽章:出だしのフルートソロ
- 第2楽章:中間部のいたずらっ子のような楽しい部分
- 第3楽章:ピアノソロとオーケストラの掛け合いの面白さ
第3楽章 ピアノソロとオーケストラの掛け合いの面白さ
徐々に盛り上がっていって頂点で一気に力が解放されたら静かになって、また盛り上がっていって・・・といった、うねるような全体構成が面白い曲なので、どこかの部分を「聴きどころ」として切り出すのはあまりやりたくないのですが、あえて言うならば
- 13:06 ~ トランペットが他の全パートを相手に戦うような部分
- 14:50 ~ 弦楽器とフルートによる愛情のこもった美しいメロディ
- 20:08 ~ 二人の魂が天に召されていく情景と思われる部分
といった箇所でしょうか。
春口 巌(はるぐちいわお)氏
東京大学理学部数学科卒業、ITメディア系エンジニアとしての道を歩み始める。ビジュアルサイエンス研究所で主任研究員を務め、音楽(MIDIによる演奏情報)をリアルタイム・コンピュータグラフィクスで可視化するソフトウェア「サウンドビジュアライザー」を研究開発。これは現在のVJソフトの先駆けとも言えるものだった。その後、東京造形大学で教鞭を取るようになる。コンピュータグラフィクスを教える傍ら、学生の映像作品に自ら作曲した音楽を付け、その作品が国際学会SIGGRAPHに入選するなど、音楽制作にも注力する。社会人になってから取り組んできたコンピュータ音楽歴は20年を超える。当初はDTM音源を使い、クラシック音楽だけでなく様々なジャンルの音楽を演奏、クラシック音楽の分野では、チャイコフスキー、ベートーヴェン、バッハ、ラヴェル等のピアノ曲や管弦楽曲作品を多数制作している
2000年頃、Vienna Symphonic Library社がTASCAM社のソフトウェアサンプラーGiga Studio用の音源として発売したORCHESTRAL CUBEにより、クラシック音楽を本格的にコンピュータで演奏表現する可能性を見いだす。2005年にVienna Symphonic Library社が新たに開発したVienna Instrumentsによるオーケストラ音源に出会うことにより、更なる表現の可能性を求め、現在は専らこの音源によるクラシック音楽の制作を行っている。現在、尚美学園大学芸術情報学部・大学院教授、東京工芸大学大学院非常勤、女子美術大学非常勤。芸術科学会理事、情報処理学会会員、日本音響学会会員、日本映像学会会員。
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春口 巌&ヴィエナ・インストゥルメンツ
「Winners」 ~Vienna Instruments Strings Arrangement Contest~
- ピアノ協奏曲 第1番変ロ短調作品23(チャイコフスキー)
- 幻想序曲「ロメオとジュリエット」(チャイコフスキー)
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