SONICWIRE

速いフレーズにも対応できる
俊敏な反応、ぼやけない輪郭
新しいアイデアを詰め込んだストリングス音源

『東京スコアリング・ストリングス』レビュー by 飯田 俊明
はじめに

Tokyo Scoring Strings(以下TSS)が注目を集め、ユーザーも広がっているようだ。

録音などは日本で行われたが、IMPACT SOUNDWORKS自体はアメリカのメーカーだ。海外メーカーが日本のストリングスサウンドに興味を持って制作した、という経緯も興味深い。

演奏を担当したストリングスのトップ室屋光一郎氏は、スタジオではお馴染みの売れっ子プレイヤー。筆者も何度かお世話になったが、高い技術力はもちろん、トップとしての確かな耳と、柔らかな物腰でメンバーの力量をしっかり引き出しながら、限られた時間での的確な判断力が素晴らしい。彼だけでなく、一線級の制作メンバーを知って色めき立ったスタジオ関係者は筆者だけではないだろう。

既に色々なところでレビューされているので、ここではTSSの目玉機能LOOKAHEADモードなどを深掘りしつつ、すでに評価の高いロック・ポップス系などだけでなく、リアリティーの真価が問われる情感豊かなストリングスアンサンブルでの表現力や、使用上の引っかかりやすいポイント(つまり筆者が引っかかったポイント)、あるいは活用法についても考えてみたいと思う。

ところで最初に開くと、まず目に付くKONTAKT内のロゴデザイン。「東京スコアリング・ストリングス」とのカタカナ表記に、ちょっとした感慨をおぼえる。和楽器以外で、ここに日本の文字を使ったKontaktプラグインを僕は見たことがない。画面も露骨ではないがちょっと筆っぽかったり、墨絵っぽい色合いがあり、どことなく日本らしい。

サウンドについて

俊敏な反応

ではまず肝心の出音について、音源の顔であるViolin1レガートを中心にみていこうと思う。まずはデフォルトのMIXパッチを試奏してみた。

最大の特長は、俊敏な反応、ぼやけないクリアな輪郭にあるだろう。

これならリヴァーブでごまかさなくとも大丈夫そうだ。

リヴァーブを抜いてみた。

リヴァーブ無しでもリアルなのが嬉しい。これならドライなサウンドで仕上げたいときも問題なく使える。マニュアルを見ていると、Latencyという言葉が何度も使われていて、やはりここがTSSのこだわりポイントのようだし、グリッドに遅れないための機能も満載だが、そもそもの出音にキビキビした反応へのこだわりが感じられる。

音質もクラシカルな音源にありがちな遠さはなく、かといってザラつきすぎるわけでもない。バランスのとれたクリアでナチュラルな印象だ。編成が大きな音源が多い中、ゴージャスすぎないのもジャンルによっては嬉しいところだろう。音の深みや繊細な弱音表現を重視した方向ではないが、明るめの質感がバンドサウンドにはしっかり馴染みそうだし、特に強さのあるフレーズは得意と感じる。極端な音ではないので色々なジャンルでも使える振り幅もあるように思う。またスタジオでは、ストリングス音源に生弦のカルテットを重ねる、などといったアプローチもよくあるが、国内のそういった用途では特に抜群の親和性を発揮するに違いない。これまで生との質感の違いに困っていた人には朗報だろう。

プログラミングも全体にとても丁寧で、概ね思った通りに挙動する。あえて言えば、ビオラやチェロのポルタメントは、ヴァイオリンがしっかりかかっているのに比べ、全体に控えめに感じる。だが薄味な分、これはこれでかえって積極的に使いやすい、という側面もあろう。

贅沢な仕様

TSSのキャパシティは各スペックや容量にも表れている。

複数のマイクを自分でミックスしようとすると、1stヴァイオリンだけで最大7G程度とモンスター級だ。我が家のような非力なスタジオではとてもフルで使う気にはなれないが、マシンスペックの向上をも視野に入れた、妥協なき音源制作への熱意を感じる。

推奨されているMIX済みのパッチでも、1stヴァイオリンで1.3G程度ありなかなかの物量だが、これは一つのパッチに全ての奏法が含まれているからでもある。不要な奏法を後からOffすれば、メモリ節約はある程度可能だ。まとめ方としては、奏法違いでたくさんのパッチが並ぶより、この方が僕は使いやすいと感じる。

以下各スペックを取り出して並べてみた。

ダイナミクスはarcoで5段階。

近年の音源の中でも多い方に属するだろう。レガートになると3段階になるのが惜しいが、レガートフレーズでは、arco発音による出だし部分が特に繊細さを求められるところもあり、なるほどと思わせる。spiccatoでは4段階など、一律ではなくそれぞれ奏法の実情に合わせたダイナミクス数が熟慮の上決定されているようだ。

ビブラートは3段階。

ビブラートのかかり具合を試してみた。

ビブラートは有無の2種類であることも多いが、深さの違い含め3種あるのが嬉しい。

レガートスピードは4種。

レガートは録音したそのままのものをSlowとしているようで、レガート部分の圧縮で4段階作成したのではと思われる。

最も速いVery Fastと最も遅いSlowのニュアンスの違いを聴き比べてみた。

たしかにSlowは少しアタックが柔らかくリアルな印象はあるが、Very Fastも決して不自然ではなく、リアルタイムで弾くなら弾きやすいVery Fastをあらゆるフレーズに使ってもあまり問題はないかな、と個人的には感じた。

ロングノートは10種。

ボウイング違いも充実している。弾きたい奏法(アーティキュレーション)をクリックすると赤く表示される。

ただし以下の三つは選んでも赤くならない。

  • Rebow:弓を返した同音連打。ペダルを踏んだ同音連打で発音。
  • Legato Bow:弓を返したレガート。Vel80以上のレガートで発音。
  • Legato Slur:弓を返さないレガート。Vel79以下のレガートで発音。

どうやら弾き方に合わせ自動選択される奏法は赤くできない、ということのようだ。

ではボタンとしては無意味かというとそうではなくて、これらを選択すると、ちょっとわかりにくいが枠だけ赤くなる。(上記画面ではRebow)

これにより選んだ奏法のパラメーターが下部に表示され、編集はできるという仕組みだ(複数奏法同時選択可)

ショートノートは9種。

これもこだわりが感じられる数だ。しかもCol Legnoなどの特殊奏法には手を出さず、その分ノーマルな奏法に多くのバリエーションを用意している。このあたりコンセプトの感じられるチョイスだ。

弾き比べてみた。

同じベロシティ値で比べているので、SforzandoとDecrescendoの違いがわかりにくいと感じるかもしれないが、Sforzandoはやはり少し強めでビブラートもしっかりめ、アクセント的に強調したい時のニュアンスを持っており、音量も変えて使うと効果を発揮するということだろう。Staccatoと、弓が跳ねてより躍動的なSpiccatoとのニュアンス違いも感じられる。SpiccatoとSpiccato Seccoの違いはこうやって並べる限り微妙だが、Seccoの方がより弓の乗っている時間が短いのか、細かいフレーズを弾いた時少しぼやけにくくなるように聴こえる。

リリースも長さの違いにより4種。

これも多い方だろう。ところが二つ目のリリースを生かそうとしたときエラーが出た。一つ目をOffにするとエラーが消えたので、ひとつしか選べない仕様なのかと最初は思ってしまったのだが、下部にあるMAPタブの設定次第でエラーは消え、例えばホイールを使って瞬時に複数のリリースを切り替えることなども可能だった。二つのリリース音が同時に発音しないよう配慮されているようだ。

以上のように、スペック的にも方向性を明確に見据えた充実の内容といえる。

機能面について

特徴的な3つのモード

さて、TSSで特徴的なのが3つのモードだ。

  • ZERO LATENCY
  • STANDARD
  • LOOKAHEAD

ZERO LATENCYはアタックを削って、とにかく俊敏な反応を求めるためのモードだ。もちろん少しシンセっぽいニュアンスで、レガートもないが、これまでリアリティのためにレイテンシーを我慢してきた身としては、演奏した時にちょっとした快感をおぼえる。とにかくグリッドに合わせた演奏をしたい、という時には非常に便利だ。

STANDARDはごく普通の挙動をするモード。レガートもあり、もちろんレイテンシーは避けられないが、音はリアルだ。

で、注目の3つ目。目玉機能とも言えるLOOKAHEADモードについて以下に見ていきたい。

注目のLOOKAHEAD

ストリングスは大抵最も編集に手間のかかる音色だ。

  • 発音が遅れ、しかも奏法によって遅れ具合が異なるため、クオンタイズがほぼ無力。
  • 奏法が多ければ多いほどリアルになるが、切り替えに手間がかかる。

特に一番困っていたのが、レガートフレーズの遅れ方。第一音はジャストなのに、二音目以降はレガートの移行時間のせいでどうしても遅くなる。遅れ方がノートにより異なるために、トラック全体でマイナスディレイをかけたりするだけでは解決できず、手動の微調整を余儀なくされていた。また音源によっては1音ごとに遅れ方が違うことさえ珍しくなかった。

LOOKAHEADは1秒先読みし、ノートデータを把握してから発音することで、これらの手間を自動化しようという機能だ。先読みとのことだが、挙動としては大きなレイテンシーを持つモードと考えて良い。DAWが停止している時は何も変わらないのだが、動いているときは発音が1秒遅れる。ただこのままだと画面とズレまくるので、DAWでマイナスディレイを1秒かけるか、TSS付属のプラグインで補正する、という仕様だ。

さて1秒先読みをすると、一体どんなことができるのか。

1. 発音タイミングを自動で揃えてくれる。

奏法によってバラバラな遅れ具合を補正する。例えばポルタメントは早めに発音するなど、聴感上グリッドに合うよう各音を自動調整する。

これでやっとクオンタイズがまともに使えるという意味で、実にありがたい。

2. キースイッチなどのコントローラーを使わず、自動で奏法を切り替えてくれる。(Easy Artic On時)

LOOKAHEADモードのEasy ArticをOnにすると、ノートの長さを元に奏法を自動的に選択してくれる。この機能はヴェロシティも関係する仕様なので、ノートレングスとベロシティだけを使って奏法切り替えをおこなってみた。

なるほど、これも先読みにより初めて可能となった機能なのだろう。1秒程度あればショートノートの長さをあらかじめ知ってから再生できるわけだ。この発想は素晴らしく、大きな可能性を感じた。この自動化が可能だからこそ、ショートノートもきめ細かく9種用意したのでは、と考えられる。ヴェロシティが63以下では作用しないので、レガートフレーズ途中の細かな動きなど単音でもstaccatoにしたくない場合は、それも可能だ。

ちなみにヴェロシティをだんだんあげた時の挙動でも確認してみた。最初にEasy ArticをOffにして鳴らしその後On、違いを並べてみた。

機能Onでは、Vel64以上で自動選択がアクティブになった。短いノートだったためにここではspiccato seccoが選ばれている。つまり奏法選択のために、ヴェロシティを二分割している格好で、独特の仕様と言える。

奏法の切り替え方をまとめた表がこちら。(「レガートフレーズ」とはこの場合、ノートオフと次のノートオンが同じタイミングの状態を指す。)

レガートフレーズ
ノンレガートフレーズ
レガート+サステインペダル
Vel 64~127
自動選択(Shorts9種+ Arcoから)
Vel 32~63
Legato Bow
Arco
Porta Bow
Vel 1~31
Legato Slur
Arco
Porta Slur

※Vel 127でSforzando系を発音

一見わかりにくいかもしれないが、誤解を恐れずおおまかに言うと、

Vel64以上は主にノンレガート用

(ノートの長さに合わせ、arcoかショートノートから奏法を自動選択。)

Vel63以下は主にレガート用。

(ノートの長さに関係なくarcoまたはLegato系。)

ということになろう。このようにレガートからPizzまで多くの奏法をノートデータだけで切り替えられる。さすがにトレモロ、トリル、ハーモニクスにはアクセスできないが、それでもステップ入力派にはかなり便利な機能だ。

ただしリアルタイム入力でEasy Articを使うには工夫が必要だ。LOOKAHEADモードは遅れすぎるため、演奏は他のモードですることになるが、ヴェロシティに対する挙動がLOOKAHEADだけ全く違う。そのため、モードを切り替えるとそのままでは演奏内容が意図しない音にガラッと変わってしまうのだ。基本的には、ステップ入力を念頭に置いた機能と言える。

さて、この仕様にはもうひとつメリットがある。コントロールチェンジ無しで多くの奏法にアクセスできるということは、divisiなどポリフォニックなフレーズの時、複数の奏法を1トラックで同時に鳴らすことも可能ということだ。例えば低音でArcoを伸ばしたまま、高音でPizz.なんてことを1トラックでするためには、これまでLogicのアーティキュレーションセット(Cubaseではエクスプレッションマップ)などを使う必要があったが、Easy Articではその設定さえも不要となる。先読み効果で、こういうことができるようになるとは面白い。

付属のプラグインLOOKAHEAD COMPENSATOR。

ところで色々な恩恵を生むこの「1秒遅れ」だが、そのままだと当然画面とずれてしまう。再生時には補正したいところだが、すべてのDAWがこの機能を持つとは限らない。例えばLogicの場合、トラックディレイの設定をマイナスにすることができるのだが、残念ながら-500msまでしか設定できないのだ。

これを解決するのが付属のオーディオプラグインLOOKAHEAD COMPENSATORだ。このプラグイン自体は演奏には影響なく、録音されたものの再生にのみ作用する。またLOOKAHEADモードとセットで使うべきもので、他のモードで再生するときはオフにする必要がある。挙動自体はマイナスのトラックディレイと変わらないが、ワンプッシュでOn/Offできるという意味では、トラックディレイをいじるより楽かもしれない。

工夫されたポリフォニックレガート

さて、TSSはポリフォニックレガートも一味違う。

そもそもポリフォニックレガートには厄介な問題がある。例えばよくあるのが「1声のロングトーンから始まり、その上に2声めが重なってくる」というような場合。この時「1音目のパートがdivisi(分岐)するのか、新しい声部が足されるのか」でレガートの挙動は本来異なるはずだ。

これまでのポリフォニックレガートではdivisiの挙動が普通だった。だがTSSは1音目からレガートせず「新しい声部が足される」表現が可能だ。

聴き取りやすいポルタメントレガートを使って挙動を確認してみた。

このように動画後半のフレーズでは、1音目と2音目がレガートせず独立している。このように鳴らしたいことの方がむしろ多いだろう。ポルタメントがない音色ではそれほど気にならないが、ある場合はこれができないとかなり気持ち悪かったりする。

なぜこのような挙動が可能かというとTSSのポリレガートモードは、レガートにオーバーラップが不要で、逆にオーバーラップするとレガートしないのだ。「ノートオフと次の音のノートオンが同じタイミングの時だけレガートにする」という設定が可能で、だからこそ初めてできた挙動だと言える。特にグリッドにぴったり合ったデータを作れるステップ入力では便利だろう。楽譜で作成したデータを取り込むときなども便利で、あとでオーバーラップさせるひと手間も不要だ。

しかし、このままではSTANDARDモードでのリアルタイム演奏にはとても向かない。レガートさせるのは至難の技だろう。

そこでレガートモード右にあるLatencyツマミが役に立つ。ツマミを上げた分だけズレを許容してレガートしてくれる。ただし「遅れて発音することで単音のままレガートしたいのか声部を増やしたいのかを見極めている」という後出しジャンケンみたいな仕組みなので、上げれば上げるほど当然レーテンシーは増えて弾きにくくなる。ためしにレイテンシーが気にならない程度に少しだけ上げて演奏してみた。するとなるほど、リアルタイム演奏でも思った通りのポリフォニックレガートができて気持ちがいい。ステップ入力に向いた音源だと思っていた先入観が取れ、リアルタイム演奏にも可能性を感じた瞬間だった。

その他のきめ細やかな機能

そのほかきめ細かな機能が豊富に並んでいる。例えばRANGEは、コンプレッサー的な挙動が音源側で行える。これまでなぜなかったのか不思議なぐらいの便利な機能だ。

あるいはOverlay。ロングノートのアタックにショートノートをレイヤーする機能だが、7種の長さから選べるようになっている。もちろん、付加されたショートノートのボリュームはベロシティに応じて変えられるので、アクセントの度合いなど直感的に輪郭を調整できる。

エンヴェロープも、この手の音源ではアタックとリリースしかないものも多い中、ADSRが揃っている。またペダルを踏むと、同音連打の際に弓を返した音になる。こういった便利機能の数々はそつなく搭載し、痒い所に手が届く仕様と言える。

活用方法/まとめ

リアルタイム派の使い方一例

これまで見てきた通り、TSSは主にステップ入力を念頭に置いた機能が多いが、これをなんとかリアルタイム派も生かす手立てはないものだろうか。フレーズ作りはリアルな音を弾きながらの方がインスピレーションが湧くし、録音ではレイテンシーは欲しくないし、奏法は自動選択したいし、クオンタイズも快適に使いたい。

このわがままを実現するため、模索中ながらオートマティックな方法を探ってみた。

1. STANDARDモードでフレーズ作り。

フレーズを考えるときは、レガートもできるリアルな音で試行錯誤する。

2. ZERO LARTENCYモードで録音。

レイテンシーのない音色で、グリッドに合った演奏を録音する。(クオンタイズOn)

このときできるだけヴェロシティが64以上になるように演奏(63以下になった場合は編集)、または64以上にしかならないような設定を行って演奏。

3. LOOKAHEADモードで再生。オプションは全てOn

4. レガートしたいノートを全て選び、Vel63以下にドラッグ。なおかつオーバーラップしないレガートに修正。

(オーバーラップについて、Logicでは今ひとつ良いパラメーターが見つけられず、動画にある通り2段階で対処した。)

以上、ヴィヴァルディ四季のメロディを使って実際に試してみた。

Vel64以上はノートレングスを元に自動選択されている。63以下にしたノートはレガートが発音されている。今のところこれがベターかな、というところだが、もっといい方法があるかもしれない。ジャンルによるところもありそうだ。(「4」のオーバーラップ修正は、LOOKAHEADモードにモノモードがあれば不要だが、今のところ挙動しないようだ。)

なお、ショートノートの自動選択については、挙動はきちんとするのだが、音楽との関係で、修正が必要な場面はどうしても出てくる。上の動画はスムーズに進行しているが(動画編集はしていない)、スムーズな進行のために、演奏内容の微調整で何度かトライする羽目になったことは正直に告白しておこう。しかしひとつずつ編集していくよりははるかに楽で、使い方次第では強力な武器になるだろう。

ゆったりとした情感溢れるフレーズにも

バンドサウンドなどでの元気なフレーズのイメージが強いTSSだが、 反対に繊細で表情豊かなアプローチをするとどのように響くのだろう。弦楽合奏でゆったりとした、ごく短い曲を打ち込んでみた。

Molto Vibratoの効果もあり、このようなエモーショナルなサウンドにも十分使えると感じた。全体にはっきりとした演奏にはなるが、芯があってぼやけない感じが嬉しい。ここでもカラッとした明るさ、明確でクリーンなイメージは変わらず、誤解を恐れずに言えば、やはりどこか聴き慣れた日本の音という感じがする。

今後への期待

ここまで完成度が高いと、逆に欲も出る。

まずアンサンブルパッチがあると有難い。スケッチ的な使用で重宝するのはもちろんだが、自由度の高いポリフォニックレガートを活かして、曲によってはアンサンブルパッチ1トラックだけで仕上げてしまうということも可能なだけに、特に有意義だ。

RUNのサウンドも欲しいところだ。もちろんTSSは早いフレーズにもしっかり対応できるのだが、生弦の駆け上がりなどでは各奏者のズレによる濁りが独特のニュアンスを作る。弦楽器フレーズの最も美味しいところでもあり、あれば強力な武器になりそうだ。

画面は大きく視認性は良いが、DAW画面を同時に見たい時もあり、コンパクトに表示できるモードがあるとなお嬉しい。特にモードの切り替えは頻繁にありそうで、TSSの画面を閉じておくわけにもいかない場面が多い。

LOOKAHEADモードは補正プラグインとセットで使うべきもので、どちらかだけを生かすという状況はあまりない気もする。ふたつをワンクリックでできる方法があると助かるな、と感じた。

とはいえLOOKAHEADの考え方には大きな可能性を感じる。考え方を発展させれば、将来的にいわばレンダリングのようにあとから全体をリアルな音に書き換える、なんてことも可能なのだろうか。夢が広がるし、まだまだ発展の余地がありそうで楽しみだ。

最後に

俊敏性や出音そのものの良さなど、仮にLOOKAHEADモードがなくてもこの音源は十分に魅力的だ。その上LOOKAHEADを使いこなすことができれば作業効率も飛躍的に上がるだろう。

リアルタイムでの使い方は模索途中だが、ステップ入力でのメリットを見てくる中、少し作曲方法をステップに寄せてもいいのかな、という気にもなった。ステップでしか書けないフレーズというものもあるように思う。

もちろん求める音やフレーズによっての向き不向きは、他の音源同様TSSにもあろう。しかし独自性を持つTSSが選択肢の一つとして、様々なジャンルにおいて大きな戦力となることは間違いない。さらにこの音源の存在が日本の音、ひいては日本の音楽そのものの魅力を新しい角度から世界に発信するきっかけになる予感もあり、そうなれば素晴らしいことだと思う。

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飯田 俊明

(ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲)

クラシカルクロスオーバーを軸に、多彩なジャンルで活動を行うピアニスト、作編曲家。

ドビュッシー、ラヴェルなどに影響を受け作曲を始める。武蔵野音大大学院ピアノ科を修了し、PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。その後、ライブ活動や、スタジオ・イオン専属として制作活動を始める。

現在まで、二期会、劇団四季、宝塚歌劇団出身のヴォーカリストや、岡本知高、田代万里生、平原綾香、ミネハハ、エスコルタ、中島啓江、ジャズの北浪良佳、インストでは、オカリナのホンヤミカコ、タンゴの喜多直毅、口笛の柴田晶子、環境音楽ではドコモ携帯のサウンドデザインを担当した小久保隆などを演奏・作編曲でサポート。50枚以上のCD制作や、ライブ、TV(NHK、CM他)、映画、ゲーム、またアクアパーク品川(メリーゴーランド他)、六本木ヒルズ時報、万博パビリオンなどの施設への作品提供や、安藤美姫アイスショー音楽アレンジなど。

最近の活動には、ミュージカル田代万里生DVD音楽監督、山根基世、進藤晶子、松平定知らアナウンサーとの朗読コンサート、中村獅童との即興朗読コラボ、NHKBS-1スペシャル「沁みる夜汽車」音楽作曲、ホリプロ60周年記念CDアルバム、NHKドラマ「生きてふたたび、保護司・深谷善輔」などがある。

演奏力を元に、有機的な表現力を持った打ち込みが評価され、活動の場を広げている。

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