『東京スコアリング・ストリングス』
SPECIAL INTERVIEW
室屋 光一郎

Presented by SONICWIRE

『東京スコアリング・ストリングス』はいかにして生まれたのか。今回ストリングスの演奏を務めた“室屋光一郎ストリングス”主宰、室屋光一郎氏に伺った。

室屋光一郎ストリングスのアティチュード

室屋光一郎氏: ストリングスの業界に入って少しした頃にいろいろとありまして、独立して活動することになったんですね。その時に僕の演奏を評価してくださる方が何人かいらっしゃって「君が頭でやってみないか」とお声がけいただいて。それが20歳過ぎの出来事であり、“室屋光一郎ストリングス”設立のキッカケなのですが、そこからあっという間にここまで来てしまいました。何気に長いですね。もう20年経ちました。

日本の音楽業界は、非常に多岐にわたるお仕事があり、すべての要求に対応できなくてはなりません。総合的なスキルが必要なんですね。例えばリズムにフォーカスしたもの、音楽的なうねりが多く必要なものであったりと求められる音楽によって使い分けたり共存させたりと、バランスよくその時々で判断する必要があります。その上で感情的な“波”を演奏に反映させられるかどうかも僕にとっては非常に重要になります。

僕は、今の時代に求められていることであったり、作家さんの求める音楽の対して、その上をいく演奏をしたいと常に考えています。コンポーザーが思っていた「予想通り」じゃなくて、「予想していたより音楽作品そのものが良く仕上がった」と思ってもらえるように心がけています。

日本のストリングス

日本の弦楽器奏者は、全般的にキチンとしていて正確な演奏をする傾向にあるように思います。正確なものとか真面目な演奏とかは本当に素晴らしくこなします。

一方で、感じたものをそのまま音として表現することが日本人は不得意なのかなとも感じています。これは日本のカルチャーであり、ちょっと抑えて表現する国民性が影響しているのかもしれませんが、僕はメンバーに対してよりエモーションだったり、エネルギッシュだったりと感情が音に反映されている表現を求めます。ちゃんと自分の音をそれぞれが遠慮することなく出し切って演奏してほしいのです。それをうまくまとめて音楽的に導いていくのが僕の重要な役割になります。

日本のストリングスの技術的なアプローチにエモーショナルな要素をもっと加えられれば、ものすごいものができるのではないか、もっと爆発的に感動するようなものがこの先にあるのではないかとこれからの可能性を感じながらいつも演奏しています。

日本の弦楽器奏者について知ってもらいたいこと

日本の作家さんは人にもよりますが、高度な正確性を求められる方が多いです。作家さんが非常に細かく指示をするのはもちろんですが、「これは弾けないよ」っていう譜面を書いてきたりした上でディレクションも厳しかったりします。そのたびに無理とは思わないで、できる限りのことをして挑戦してきました。おかげで演奏家も技術的にもレベルアップして弾けないと思えたものが弾けるようになったりします。

そういったこともあって、日本の演奏家は正確さや対応力がかなり高いと思います。

世界中の作家さんと一緒に仕事をする機会が増えると、いろいろな要求や感覚の違いが日本の良さと融合していくことでより一層注目してもらえるような、「一体これは何なんだ!」って良い意味で驚いてもらえるような作品が作れると思います。

どうして『東京スコアリング・ストリングス』での演奏を引き受けたのか。

メンバーにこのプロジェクトをいかに理解してもらうかを考えるのに多くの時間を使い、向き合ってきました。演奏家は、自分たちの演奏をライブラリー化してしまうと、自分たちの演奏がいらなくなるのではという不安を持ってしまうと思ったのです。

「これでいいや」となってしまうのではないかという不安です。

しかし時代の潮流を考えると、ライブラリー音源のこういった動きは当然な流れとも思っています。世界ではさまざまなライブラリー音源がすでに何十年も前からいろいろと出ていました。今回は、世界中で起きているその潮流の東京版です。それをメンバーにどうやって誤解がないように理解してもらえるかには気を使いました。

実は最初にこのお話をいただいた時、乗り気じゃなかったです。やっぱりレコーディングは生ものです。エンジニアとアレンジャーとプレイヤーの一期一会なんです。そしてそこでしかできない最高のものを録るつもりでやっているので、レコーディングへの想いに対して「“ライブラリー音源”という自分の音ではあるけど、自分の音楽的な領域から離れるものを録る」ということへのギャップに、このお話を簡単にはお受けすることができない自分がいました。

でも今は、自分のストリングス音源が出ることで喜んでくれる方がいるのだとしたら、それは光栄なことだと思っています。

生のストリングスを知っている方ほど、ライブラリー音源とレコーディングしたものとの違いをちゃんと認識されているように思います。

ですので別物と認識されている上でいろいろと普段のお仕事の内容が良くなる一つの材料となるのならば、それは素晴らしいことだと。

あとはImpact SoundworksのAndrew氏からの素晴らしい情熱的なメールをもらったことも今回の仕事を受けた理由の一つです。

Impact Soundworksにはアマチュアの人の顧客が半分くらいいると聞きました。そして、そういった人たちはストリングスをスタジオで録ることができないと。生の音に触れられないということです。そういった人たちに室屋光一郎ストリングスの音を届けられること。そして喜んでもらえるのであれば、それは嬉しいことです。

そして、そういったことによって生のレコーディングの仕事が無くなるようなものではないということが、色々なお話を聞いて現実を認識していくにつれて納得できるようになったのでお受けさせていただくことになりました。このライブラリー音源を出すことによって日本のストリングスへの関心はもちろんですが、日本の作曲家さんの作る楽曲にも世界の方々に関心を持っていただける機会の1つになると良いなと勝手ながら思っています。

音楽って動きのある生ものだし、感情を乗せればそれが音に表れます。特にストリングスは人数が多いのでその人数分の感情が乗ります。なので、音源と実際の生の演奏はしっかり区別されるだろうと思います。

室屋光一郎

ヴァイオリニスト、室屋光一郎ストリングス主宰

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