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『FINAL FANTASY VII REMAKE』音楽制作の裏側|SONICWIRE

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本記事はSONICWIRE独自のインタビューと、2022年6月に公開されたSPITFIRE AUDIOのCOMPOSER MAGAZINE掲載記事を基に再編集したものです。

1997年にファイナルファンタジーシリーズの7作目として発売された『FINAL FANTASY VII(以下、FFVII)』は、PlayStation プラットフォームの採用によるシリーズ初の3Dグラフィックとフルモーションビデオ、そして植松伸夫氏による素晴らしい音楽で、ゲーム作品における伝説となりました。

『FFVII』は圧倒的な支持を集め、日本のRPGファンの間で熱狂的な人気を誇っていた同シリーズを、欧米でも有名な作品へと成長させました。今でも『FFVII』を最高のゲームとして評価する人は多く、作品中の音楽に対しても賞賛の声が寄せられており、高い人気を証明しています。

FINAL FANTASY VII REMAKE for The Game Awards 2019(日本語字幕版)

『FFVII』オリジナル・サウンドトラックの中でも、「エアリスのテーマ」や「片翼の天使」は世界的に有名なラジオ番組で何度もオンエアされ、アメリカのテレビ番組ではジャズアレンジが演奏されるなど、ゲーム音楽の枠を超えて何百万人もの聴衆を魅了してきました。植松氏の音楽は、「Distant Worlds」、「Final Symphony」、最近では「FINAL FANTASY VII REMAKE Orchestra World Tour」といったファイナルファンタジーのコンサートでも世界中から観衆を集めました。

FINAL FANTASY VII REMAKEのレコーディング風景

『FFVII』の音楽の生みの親である植松氏は、ゲーム業界のモーツァルトと言えるでしょう。ゆえに、1997年の名作を3部構成で本格的にリメイクする第1弾『FINAL FANTASY VII REMAKE』(以下『FFVIIR』)が2015年にE3 2015にて発表されたとき、多くのファンはあの傑作を彩った楽曲の数々が現代においてどう紡がれるのか興味を持ちました。

FINAL FANTASY VII REMAKE Theme Song Behind The Scenes video (Closed Captions)

『FFVII』のような壮大なゲームを、コアなファンを満足させながらリメイクするのは容易ではありませんが、結果として『FFVIIR』は2020年の発売直後から大きな賞賛を浴びることとなりました。そして、本作はスクウェア・エニックスにとって挑戦的な作品というだけでなく、音楽面でも素晴らしい偉業を成し遂げています。

『FFVIIR』の音楽は、Hollywood Music in Media Awardsの音楽監督賞、The Game Awardsのベストスコア&ミュージック賞、日本ゴールデンディスク大賞のサウンドトラック賞、Game Audio Network Guild Awardsのベストシネマティックカットシーンオーディオ賞など、数々の賞を受賞しています。


『FFVII』を象徴するメロディーをアレンジし、新しい音楽を生み出すまでの経緯について、スクウェア・エニックスのMUSIC DIRECTOR 河盛慶次氏、『FFVIIR』の作曲家 浜渦正志氏、鈴木光人氏、CO-DIRECTOR(SCENARIO DESIGN)の鳥山求氏にお話を伺いました。

Q. 河盛さんにお聞きします。『FFVIIR』では、どのような役割を担われたのでしょうか?

河盛氏: ゲーム中での音楽の鳴らし方をCO-DIRECTOR(SCENARIO DESIGN)の鳥山求、SOUND DIRECTORの伊勢誠と決定し、その内容を作編曲家に発注、ディレクション、実装を担当しました。

Q. 『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』でのアレンジが参考になっていたり、影響を受けた部分はありますか。あるいは全く新しいアプローチになっていますか?

※『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』:『FFVII』の2年後の世界を描く映像作品。河盛氏は編曲を担当した。

河盛氏: 映像作品は、決まった尺に合わせ音楽をつけていきますが、『FFVIIR』はユーザー操作で刻々と変化する状況に合わせ音楽が変化するように制作しているので、『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』とは違うアプローチになっています。

Q. 『FFVIIR』では、原作からストーリーが追加された部分があると思います。これは、オリジナル・サウンドトラックにどのように影響したでしょうか。新しいシーンには、新たなテーマを設定/導入しましたか?

河盛氏: 『FFVIIR』において、新規のキャラクターが絡むシーン、他には原作では短かったフィールドが拡張され長くなっている所等で、新曲が充てられています。 ゲーム自体がオリジナルの良さを持ちつつ、新規要素を追加する事によって、より楽しめる体験になっており、オリジナル・サウンドトラックにも同じ事が言えると思います。過去曲を忠実にアレンジした曲、大幅にアレンジした曲、全く新規の曲、この3つの要素が入っている事で、皆さんにより楽しんで頂けるサウンドトラックになったかと思います。

Q. オリジナル・サウンドトラックには多くの作曲家が参加されていると思いますが、皆さんは共同作業的な環境で制作を行っているのか、それとも個々に独立した環境で制作されているのでしょうか?

河盛氏: 共同作業にはなっておりませんが、担当シーンの前後を動画で共有する等し、他の人が制作した部分との繋がりは、意識してもらうようにしていました。

鈴木氏: 各担当が中心となり楽曲を完成させる事が多いですね。僕の場合はその際に必要となるアレンジャーやプレイヤー、エンジニアまで一括してチームを組んで楽曲を作る事が多く、各自の環境で完結できる物とレコーディングが必要な物とが混在する形です。最も大事にしているのはゲームシーンに沿って各アーティストの個性が複雑に絡み合い、相互作用が生まれる瞬間を取り込み、そしてまとめる部分です。日本では「コライト」という概念があまり浸透していませんが、面白い音やその人だけにしか出せない個性を取り込むのは、メロディやビート、構成を作るのと同じくらい刺激的な制作スタイルと言えるかもしれません。そしてそれらの判断は、ゲーム内で機能的に活きる部分と楽曲クオリティの両側面から判断しています。

Inside FINAL FANTASY VII REMAKE – Episode 4: Music and Sound Effects (Closed Captions)

Q. 『FFVII』の楽曲をアレンジするにあたり、植松伸夫氏の生み出したオリジナルを大切にしながら新しいものにしていく作業はどのようなものでしたか?特に「エアリスのテーマ」、「爆破ミッション」、「片翼の天使 ー再生ー」について教えてください。

河盛氏: アレンジを進めるに際し、大きく二つのポイントがありました。一つ目は、オリジナルではシンセサイザーが特徴的に使われていたので、それを『FFVIIR』ではどの位のバランスで取り入れるか。二つ目は、多くの曲をインタラクティブミュージックで制作しており、メロディーが少ない方が曲をスムーズに切り替えやすいのですが、ファイナルファンタジーはメロディーを大切にする音楽でもあるので、曲をシーンに合わせてシームレスに切り替えつつもメロディーを蔑ろにしない様に制作を進めました。

「エアリスのテーマ」

「エアリスのテーマ」のメロディーはエアリスの感情を表現する為、シーンに合わせて沢山のアレンジバージョンが存在し、素晴らしいメロディーはどんなアレンジになっても芯を失わないと再認識しました。

「爆破ミッション」

今回の『FFVIIR』の音楽を特徴づける、インタラクティブミュージックで構成された最初のユーザー操作部分で流れる曲なので「緊迫感」、「スケール感」、「勢い」にポイントを置き、編曲は、島翔太朗氏の制作になります。

「片翼の天使 ー再生ー」

今回、アレンジするのが一番難しい楽曲の一つではないかと思っていました。ゲーム中では、どんどん緊迫した状況になっていきますが、それに合わせ、原曲の要素を崩さず更にグレードアップし、曲の展開もどんどん緊張感を増していくようになっています。編曲は、西木康智氏の制作になります。

Q. 『FFVIIR』の中で好きな曲(チームが特に誇りに思っている曲も含めて)をいくつか挙げていただき、その理由を教えてください。

河盛氏: 全ての曲に誇りがありますが、オープニングムービーの曲はやはり特別な思いがあります。エアリスが登場し、タイトルが出てくる所に曲を合わせて見た時は凄い高揚感がありました。

鈴木氏: いくつかあげさせていただきます。

「魔晄都市ミッドガル」

魔晄都市ミッドガル初登場シーンのワクワク感と緊張感を含め、『FFVIIR』の世界観を見事に表現している曲です。

「闘う者達」

各シーン毎のアレンジやシームレス再生による楽曲展開があるのが特徴的です。

「STAND UP」

現代的要素を盛り込みつつショーアップされた音楽に特化しており、『FFVIIR』の中でも異質かもしれません。そして音楽に合わせた振り付け(ダンス)で踊るクラウドを見たときの衝撃は今でも忘れません。

「すりつぶねじりキル」

カットシーンからプレイアブルに展開する流れが最高にカッコ良く、ティファ&エアリスの弾けっぷりに加え、爽快感と緊張感が同居しています。今までにないエレクトロニックな「ティファのテーマ」アレンジとしても秀逸です。

「フィーラーのテーマ」

バトル曲として「静」であればあるほどゲーム上での使い方が難しいですが、「過激な静けさ」とも言える素晴らしさです。是非ゲーム上で体験して下さい。

Q. 『FFVIIR』のジュークボックス・アレンジは、オリジナルのメロディーを刺激的な新しいジャンルで聴くことができます。これは誰のアイデアで、なぜ行われたか教えていただけますでしょうか。

河盛氏:鳥山のアイデアになります。

鳥山氏: 『FFVIIR』はミッドガルを脱出するまでのストーリーが描かれますので、オリジナルでその先にある大陸で流れる音楽の多くはまだ温存しておく必要がありました。ただ、オリジナルの特定の曲を聴きたかったというような、それぞれの楽曲のファンの皆様ががっかりしないように、この世界に流れている音楽という設定にして、ジュークボックスで新規アレンジを中心にかけることにしました。ゲーム中よりも幅広い音楽で、街の人々が実際に聞いていそうなジャンルにして様々な要素を加えることで、今後ゲームに登場したときとはまた違う味わいになるようにしました。今後、実際にゲーム内で流れる音楽との違いを楽しみにしてください。

Q. ファイナルファンタジーシリーズ全体のゲーム体験において、音楽の重要性をどのように感じていますか。開発プロセスにおいて、どの段階から音楽の企画は開始されますか?

河盛氏: ファイナルファンタジーというゲームにおいて、音楽がとても重要な役割を持っているというのは植松氏が確立してくれ、ファンの方々も期待してくださっているのは常に感じているので、いつも期待に応えたいと思っています。音楽の企画は、凄くラフな状態で通してゲームをプレイ出来る段階くらいから始まります。

河盛慶次氏と鈴木光人氏

Q. 『FFVIIR』の音楽について、このインタビューの読者が驚くような事実や秘密はありますか?

河盛氏: カットシーンでは、シーンを印象付ける為、キャラクターに関連したオリジナル楽曲からメロディーを引用しています。「闘う者達」のアレンジが派手なシーンで流れる事が多かったので、この曲のメロが一番使用されている印象ですが、実は「神羅カンパニー」が最多です。ゲーム中、色々なアレンジで18曲にメロディーが使用されています。

Q. 鈴木さんへお聞きします。『FFVIIR』では、蜜蜂の館でのシーンを中心に、現代的な新しい音楽がたくさん用いられています。例えば、『ファンク・ウイズ・ミー』、『シンク・オア・スイム』、『ヴァイブ・ヴァレンティーノ』の3曲について、作曲の経緯や影響を受けたアーティストなどを教えてください。

鈴木氏: この3曲について影響を受けたアーティストはいないのですが、3曲それぞれ80年代から始まり90年、2000年代へ繋がるサウンドになっています。ダンスミュージックの大半はドラムパターンと音色、ミックスに特徴があるのでその辺はかなり意識して作り込んでいます。作曲自体は3曲並行でビートから作ったような記憶があり、「今日はドラムだけ」と決めて一日中ドラムだけ作ってる日があったりで楽しかったですね。

Q. 蜜蜂の館では、リズムゲームと連動した音楽が用意されています。曲の構成時に気を付けた点などはありますか?

鈴木氏: リズムゲーとして打点となるアタック感を重視しました。つまり音数少なく叩きやすく、そしてミニマルでわかりやすいダンスミュージック構成です。

Q. 『FINAL FANTASY XIII』の音楽制作に参加されたことで、どのような経験を得ましたか。また、『FFVIIR』の制作を通してどのような学びがありましたか?

鈴木氏: 『FINAL FANTASY XIII』は『FFVIIR』でもご一緒させていただいている浜渦正志氏のマニピュレートという役割で参加させてもらいました。実際には音を差し替えたりドラムを足したり、フレーズをダビングしたり好き勝手にやらせてもらい、最終形を確認してもらうやり方でした。浜渦さん自身、時には言葉を失うような事もあったかと思いますが、それでも自由に任せてくれたのは感謝です。今考えると若気の至りとは恐ろしいものだなと振り返る事が出来ますが、この時ご一緒させていただいた経験の多くは現在に続く礎となっています。

FINAL FANTASY VII REMAKE Theme Song Trailer (Closed Captions)

Q. 『FFVIIR』では、シンセサイザーや電子楽器が多く使われていますが、何に影響を受けていますか?また、スタジオの様子、ゲーム内で使用された機材などについて教えてください。

鈴木氏: シンセサイザーは僕にとって進化を続ける楽器の1つであり生楽器の代用ではありません。音色から音圧までそれぞれ異なった特徴があり、自然界では再現出来ないサウンドや一期一会のサウンドに魅力が尽きません。もちろん沢山のアーティストから影響を受けていますが、「ブレードランナー」や「炎のランナー」など退廃的なサウンドから躍動感まで幅広くシンセサイザーで表現しているヴァンゲリスが作り出す世界観は昔から好きです。同時にネットやSNSから溢れる、今まで聴いた事がない音楽やサウンドに出会うのもとても嬉しいですし刺激になります。シンセサイザーは仕事道具の1つでありながら、僕の人生を設計し、楽しみ、そして無くてはならない存在の1つと言えます。必然的に『FFVIIR』でも登場回数が多くなるというわけです。

Q. 浜渦さんにお聞きします。『FFVII』、『FFX』、そして『FFXIII』三部作を手掛けられた経験から、『FFVIIR』の音楽は他のシリーズタイトルとどのように異なりますか?『FFVIIR』の楽曲で特徴的であったり印象深い曲を教えてください。

浜渦氏: ファイナルファンタジーシリーズはどのタイトルもしっかりと独立した世界観を持っているので、『FFVIIR』が特別大きく違っているという印象はありません。しかしプレイヤーの反響の大きさはかなり強く感じています。そして未だに理解し切れていない部分もたくさんあります。巨大なムーブメントに押し流されるような気持ちの中で制作するのはなかなか経験できず、大変ではありますが、とても面白くもありました。その中でフィーラーは新しい要素だったので、フィーラーに関係する楽曲は落ち着いて取り組むことができ、特別な印象があります。

浜渦正志氏

Q. オリジナルの『FFVII』には、どのように参加されていたでしょうか。また、その経験は『FFVIIR』の制作に役立ちましたか?

浜渦氏: オリジナルにはコーラスの歌唱に参加し、また背景で鳴っているハイドン の「天地創造」 の音源の制作をしました。それ以外の作曲、アレンジは担当していません。その経験が『FFVIIR』の役に立ったということはありません。25年の間にゲームが非常に進化したことや、フィーラーという新しい存在のテーマ曲を担当したこともあって、新しい作品に取り組んだつもりです。しかし懐かしさは随所に感じられました。

FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE - Final Trailer

Q. 『FFVIIR』で新たに作曲された楽曲は、オリジナル・サウンドトラックの中でもDisc5に多く収録されています。新規楽曲の楽器編成や使われている音色は、どのように決められたのかご紹介いただけますか?

浜渦氏: 私はCO-DIRECTOR(SCENARIO DESIGN)の鳥山氏や、オリジナルの楽曲制作者の植松氏に推薦いただいてこの作品に参加することになりました。自分に任されたのはゲームに芯を通すことでもあると感じたため、オーケストラやコーラスなど、『FFVIIR』らしい編成を意識しました。しかしもちろん音楽的には自分のカラーは抑えません。でなければ新しい世界は切り開けないですし、私を指名してくださった意味がなくなってしまうからです。このあたりのバランスをとるのは大変ではありましたが、やりがいもありました。

Q. 「運命の番人」についてお聞きしたいのですが、この曲は3つのトラックに分かれていて、それぞれのパートで音楽が変化していきます。ボス戦の3つのステージをどのような音楽に構成したかったのでしょうか?

浜渦氏: 「運命の番人」の制作は非常に困難を伴いました。映像を手にして取りかかったのが開発終了の約一ヶ月前であったこと、また私がこれまで見たボスキャラのなかで最もその姿形が巨大で楽曲の分数も長かったことから、私自身が難攻不落の敵と戦うという感覚でした。そしてどのプロジェクトでも私は、「これは自分にとって最後のラストバトル曲にする」つもりで書いているので、それが余計にプレッシャーになりました。しかしこのあまりに巨大な敵に引っ張られるように、明るいコード進行や徐々にテンポアップする構造が生まれていきました。

『FINAL FANTASY VII REMAKE』のサウンドトラックは2020年5月より好評発売中。

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