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【外側からの視点】音楽プロデューサーHylenが“普段使っていない”『Avenger 2』と向き合ってみた

2026年7月10日 15:00 by fum

世の中に数多く存在する大容量・多機能シンセサイザー。その中でも圧倒的なクオリティを誇る『Avenger 2』ですが、その機能の多さやキャラクターゆえに、他のシンセをメインに使っているクリエイターからは「実際のところどうなの?」と見られている側面もあります。

そんな“外側からの視点”を持つクリエイターをお招きし、忖度なしの本音で向き合っていただく当企画。

第1回となる今回語っていただくのは、サウンドデザインに精通し、自身でもシンセプリセットの販売を行うアーティスト、Hylen。
普段は『Serum 2』などを愛用し、サウンドデザインにこだわるアーティストの目に『Avenger 2』はどう映るのか?シンセを知り尽くしたアーティストが感じた強みと弱み。そして、それを踏まえた上での割り切り術まで。

単なる製品紹介ではない、実践的なアドバイスが詰まったレビューとなっておりますので、ぜひ最後までご覧ください!

はじめに:実は挫折していた

はじめまして、Hylen LabのHylenです。

2023年にリリースされた『Avenger 2』。シンセサイザーが大好きな私はもちろん発売と同時にデモをダウンロードし、触っていました。しかし悲しいことに、『Avenger 2』は圧倒的に作り込まれた音色を持つ反面、PCへの負荷がとても高いプラグインでした。ひとつのプリセットを鳴らすだけでも一苦労で、なんとか打ち込んではバウンスしてオーディオファイルに変換して……と工夫を重ねたのですが、やはり負荷の問題で購入には至りませんでした。

時は流れ2026年。PCのスペックもかなり上がったので、改めて『Avenger 2』のレビューを行っていきたいと思います。

シンセサイザーやプラグインを買うときの考え方

みなさんは、どのようなときにプラグインやシンセサイザーを購入することが多いでしょうか。GUI(見た目)が良いとき、デモ音源が良かったとき、それとも好きなアーティストがおすすめしていたときでしょうか。

私がプラグインを導入する際に重視しているのは、「今あるプラグインでは実現できないことかどうか」という点です。既存のプラグインと役割が重複してしまうものが多いと、結局は使い慣れたものを手に取りがちになり、せっかく購入しても使用頻度が下がってしまうことが多々あります。

私は基本的にサウンドデザインを行うことが多いため、GUIやインターフェースが直感的で、なおかつハッピーアクシデント(偶然生まれる素敵な音)が起きやすいXfer『Serum 2』に絶大な信頼を置いています。(Hylen LabとしてもSerumプリセットを販売しておりますので、ぜひ手に取っていただけますと幸いです。)

Hylen LabからリリースされているSerumプリセット『Peridot』

そのため、「Serum2で実現できるかどうか」「どのように差別化できるか」を常に考えて購入を検討しています。そのうえで、『Avenger 2』ではどのようなことができるのでしょうか。

インストール

まずはインストールから見ていきます。『Avenger 2』は専用アプリケーション「V-Manager」を用いた独自のライセンスシステムを採用しています。クラウド単位でのアクティベーションが可能なので、PCを複数台使用する方にも安心です。

ファーストインプレッション

無事インストールが完了し、早速Factory Contents(プリセット)を触っていきます。

お、音が完成されすぎている……!

これが最初の感想でした。もし自分がFactoryプリセットを『Serum 2』で再現するとしたら、かなりの時間がかかりますし、エフェクトも多段でかけなければ難しいと感じました。とても良い意味で、アーティストが楽曲で実際に使っている音が、そのまま出てくるという印象を受けました。

▲ Avenger2 Factoryプリセットウォークスルー

シンセサイザーとしての強み

各カテゴリを触ってみて感じたAvengerの強みは、「手を加える余地がない」ほどに作り込まれた音であるという点です。
逆に言えば、サウンドデザインや一からのスクラッチでサウンドを作る用途では設計されていないように感じました。
他のソフトシンセと大きく異なる点として、「右クリックでメニューが基本的に出てこないこと」が挙げられます。これは『Avenger 2』の設計思想の表れなのかもしれません。実際には、パラメーターに対して右クリックを行うと、たとえばShaperのセクションでは歪み具合が確認できたり、ADSRのノブを右クリックするとGUIが現れたりと、かなり独特な挙動をします。「余計な部分には触れず、メロディや他の部分に集中してほしい」というメッセージなのかもしれません。

圧倒的なドラムの強さ

▲ 1500種類ものドラム・ループのライブラリを収録

Avenger 2』のDrum Loopには、Vengeance印のドラムが数多く収録されています。これだけでもとても便利で、サンプルパックを複数購入したのと同等のお得感があります。Vengeanceの過去のサウンドは現在では入手できないものも多いため、そのサウンドが手に入る点はとても魅力的です。
私自身も、ドラムループを書き出したうえでそれぞれ分解し、サンプルとして活用することが多くあります。

悩ましい、近い立ち位置のシンセサイザー

Avenger 2』のサウンドセクションは、できることが非常に多くあります。

サウンド部分だけでもWavetableはもちろん、Granular、Spectral、Loop、さらにはDrum Loopまで、実現できないことがないのではと思うほど揃っています。

  • ▲ 高品位なスペクトラル・グラニュラー・モジュール

  • ▲ アルペジエーターやランダマイザーも搭載

私の所感では、近いシンセサイザーとしてKiloheartsのPhaseplant、そしてUVIの『Falcon』が挙げられます。
機能自体はかなり近いのですが、設計思想は大きく異なります。
たとえばKiloheartsのPhaseplantは「モジュールライク」に作られています。
モジュラーシンセのようにエフェクトの数もスロットも自由に組み合わせられる一方、制約がほとんどないため、「レールが引かれていない」シンセサイザーだと言えます。

それに比べると『Avenger 2』は、できることは非常に多いものの、エフェクトの数もオシレーターの数もある程度決まっているため、あらかじめレールを引いてもらったうえでサウンドデザインを行うことができます。
そしてUVIの『Falcon』も、『Avenger 2』に近い設計思想を持っています。UVIの強みは生音との融合にあり、たとえばBohemian ViolinやCelloシリーズ、『World Suite 3』、『Toy Suite』など、生音とシンセサイザーを統合したサウンドデザインに定評があります

もちろんそれぞれに魅力があるのですが、これらの近いシンセサイザーに共通して魅力的なのは、「レールを引いてくれること」だと感じています。

Wavetableシンセに対する“圧倒的補完力”

できることが多いシンセサイザーは魅力的である一方、その自由度の高さゆえに曲が完成しないという悩みもつきものです。
Serum 2』やPhaseplantのようにサウンドデザインを無限に追求できるシンセに対して、『Avenger 2』はプリセットの時点であらかじめレールを引いてくれます。そのため「作曲」において迷うことがなく、『Serum 2』やVitalとはまた違った形で制作を補完してくれるシンセだと感じています。

フレーズが思いついたときに、とりあえず『Avenger 2』を立ち上げて打ち込んでおくだけで、トラックを膨らませる大きな起点になってくれます。

諸刃の剣……もしくは最強の矛となるか

ただし、プリセットを触っていくとかなり複雑な処理がなされていることがわかり、PCへの負荷は他のシンセサイザーと比べてかなり高くなっています
Avenger 2』のみで楽曲を制作する場合は、それなりのスペックのPCが必要になるでしょう。多くのトラックで使いこなせれば最強の武器となりますが、ある程度のCPU負荷は覚悟しておく必要があります。

真髄は“オーディオ化”にある

先述の通り、音が作り込まれているシンセサイザーであるため、CPU負荷はある程度覚悟しなければなりません。

しかし、その解決策はシンプルです。
オーディオ化してしまえばよいのです

MIDIをある程度打ち込んだうえでパートごとにWAVへ書き出してしまえば、それだけで高品質なLoopが出来上がります。

エキスパンションパックについて

Avenger 2』のプリセット数は、『Serum 2』など他のシンセサイザーと比べるとやや少ない傾向にあります。その分、Vengeance Sound(VPS)が提供しているプリセットパックのクオリティはお墨付きです。特におすすめしたいのは、以下の3つです。

BT Analog Ambience

巨匠BTによるプリセットパック『BT Analog Ambience』。AtmosやPulse Sequenceなど、空間を埋める用途にうってつけです。映画用のサンプルは一般的なサンプルパックより高価になりがちなため、こうしたサウンドが手に入るのは『Avenger 2』ならではの魅力だと感じます。

LOVE303 Vol.1

アシッドシンセこと、TB-303。近年テクノがフェスティバル化しており、Acid Bassの需要は高まっていますが、あのサウンドをソフトウェアで打ち込むにはかなりの技術が必要です。このプリセットパック『LOVE303』は非常にツボを押さえており、特におすすめしたいパックです。

The Collection 2

歌ものやポップス、ボカロP向けにおすすめしたいパック『The Collection 2』です。ポップスやロックに加えたいシンセサウンドが一通り揃っており、これを活用してメロディーやシーケンスを組み立てれば、作詞や歌唱に集中することができます。

総評:余計なことを考えずに、メロディや作詞・作曲に集中できるシンセサイザー

今回『Avenger 2』を触らせていただき、間違いなく1軍入りするシンセサイザーだと感じました。

曲を完成させるためのシンセサイザー」と言っても過言ではありません。

私のように『Serum 2』を触るとサウンドデザインに集中してしまい、楽曲の大事なコードやメロディーの要素をおろそかにしがちな方には、特におすすめできると思います。

また、シンガーソングライターとして活動している方がシンセサイザーの要素を取り入れたい場合にも、最短で強靭な音を得られるシンセサイザーだと思います。

逆に言えば、『Avenger 2』を使って曲のミキシングがうまくいかない場合(そのようなケースはほとんどないと思いますが)、自身のミキシングの技術を見直すタイミングなのかもしれません。
その意味では、ある種ストイックなシンセサイザーだと言えるでしょう。

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Hylen

YouTube公式チャンネル X(Twitter)

ダンスミュージックの制作を得意としながら、様々なサウンドメイクも行っており、ベースミュージックには定評がある。2020年にリリースした3rdアルバム”Hydrangea”は、iTunesエレクトロニックチャート1位を獲得。2023年には、KARENTがプロデュースする「初音ミク」×「クラブサウンド」企画”Digital Stars”のテーマソングを担当。同楽曲”UNDERWATER”はプロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミクへの収録も果たした。

作家”宇佐美祐二”としても活動しており、HIMEHINAへ楽曲提供した”提灯暗航”は100万再生を記録。ギターとして参加したにじさんじ所属”不破湊 – 一旦ステイ TONIGHT”はYoutubeにて1000万再生を記録。そのほか初音ミク公式やプロジェクトセカイ、アイドルマスター、電音部、ホロライブ、にじさんじ、ぶいすぽっ!などに楽曲、リミックスを提供するなど、今最も目が離せないプロデューサーの1人である。

Works

  • HATSUNE MIKU Digital Stars 2023 メインテーマ 「UNDERWATER/Hylen feat,Hatsune Miku」:作詞、作曲、編曲
  • HIMEHINA 「提灯暗航」:作曲、編曲
  • ぶいすぽっ!「QUEENS」:作曲、編曲
  • 猫又おかゆ「また、おかえり。」:作詞、作曲、編曲
  • 獅白ぼたん「HOLD ME,Homie?」:作詞、作曲、編曲
  • 雪花ラミィ「ハツコイ♡パティシエール」:作曲、編曲
  • 電音部「ウルトラリズム」:作詞、作曲、編曲
  • 不破湊「一旦ステイ Tonight」:ギター演奏、アレンジ
  • KMNZ – BE NOISY!(Prod. By 水槽):ギター演奏、アレンジ
  • 鹿乃「ドッペル原画と複製ゲンガー」:ギター演奏、アレンジ

HATSUNE MIKU Digital Stars 2023 メインテーマ 「UNDERWATER/Hylen feat,Hatsune Miku」