SONICWIRE

アグレッシブな音色と「機能美」を両立する “Hylen Lab” の設計思想

2026年4月28日 18:00 by fum

国内外のダンスミュージック・シーンで高い支持を得る音楽プロデューサー/DJのHylen氏によって立ち上げられたブランド「Hylen Lab」。シーンの最前線で求められるサウンドの空気感やトレンドを鋭く捉え、自身の楽曲制作やプロデュース・ワークで培ったノウハウを凝縮したサンプルパックやシンセ・プリセットを展開しています。

多くのクリエイターにとって「アイデアの源泉」となりうるHylen Labのプロダクトは、いかにして誕生したのか。
本インタビューを通じて、ブランド立ち上げの背景や各製品の特徴、楽曲制作時のヒントなど、真摯なクリエイター・ファーストの精神が垣間見えるお話をお伺いすることができました。

■ Hylen Labについて

— Hylen Labを立ち上げたきっかけと、ブランド・コンセプトを教えてください。

Hylen:

Hylen Labは2020年にローンチしましたが、その理由は大きく2つあります。

1つ目は、当時私がメインで活動していたジャンルのひとつである「Colour Bass」や「Melodic Riddim」に関するサンプルパックやチュートリアルが、ほとんど存在していなかった点です。海外アーティストの配信アーカイブからサンプルを特定したり、手探りでプラグインを試したりと、非常に苦労していました。

さらに、日本語での情報もほぼ皆無だったため悩んでいたのですが、SNS上で同じ課題を抱えている方が多くいることを知り、「自分のサウンドやプリセットで少しでも力になれれば」と考えたことがきっかけです。

— 自分が欲しかったサウンドを共有したい気持ちから始まったんですね。

Hylen:

2つ目は、具体名を挙げますと、Mitchie Mさんのブログから大きな影響を受けたことです。

DAWで作曲を始めた当初、様々な壁にぶつかる中で助けられたのがそのブログでした。現在ではYouTubeなどで日本語のチュートリアルも増えましたが、当時は情報が限られており、特に日本国内の作曲家は情報をあまり公開しない傾向がありました。そんな中で、多くの知識を共有してくださっていたことに強く感銘を受け、「自分も発信していこう」と考え、ブログやサンプルの公開を始めました。

ブログYouTubeでの積極的な情報発信を開始

ブランド・コンセプトとして掲げているのは、「実験的で最先端のサウンドを、即戦力として提供する」ことです。

細分化された音楽ジャンルの中でも、Hylen Labでは常に新しい領域にフォーカスし、実験的なサウンドがさらに新しいインスピレーションへと繋がることを目指しています。

一方で、そうしたサウンドを楽曲へ落とし込むのは簡単ではありません。そのため、あらかじめミキシングを施したサンプルやプリセットを提供することで、すぐに楽曲制作に活かせる“即戦力”として機能することを重視しています。

— Hylen Labの製品ラインナップは、どのような音楽ジャンルにマッチしますか?

Hylen:

「どんなジャンルにも合います」と言いたいところですが、特に相性が良いのは「Bass Music」や「Experimental」と呼ばれる領域です。「Dubstep」や「Riddim」、「Trap」といった重低音が特徴的なジャンル、そして「Colour Bass」や「Experimental」のような実験的なサウンドを好む方には非常にフィットすると思います。

また、アグレッシブなサウンドが多いため、K-POPとの相性も良いです。
ポップス制作に使用できるプリセットも一部収録していますが、こちらは別途リリース予定ですので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

■ 製品ラインナップについて

— SerumやVitalのプリセットにおいて、特に注力しているポイントはありますか?

Hylen:

SerumやVitalのプリセットは、ポストプロダクション(シンセ後のエフェクト処理)を最小限に抑えられるよう設計しています。

また、マクロコントロールについても、あえてシンプルに保つことを意識しています。例えば「サブベース」のようなシンプルな音に関しては、選択肢を減らすことで、ユーザーが音作りに時間を取られすぎず、作詞やメロディといった他の要素に集中できるようにしたいという意図があります。いわば「プリセット」という言葉の本質に立ち返った設計です。

▲ 即戦力かつエディットのし易さを意識した音色群

一方で、グロウルベースやグラニュラー系のサウンドではマクロを多く割り当てることも可能ですが、あえてすべては埋めず、余白を残しています。これは、プリセットをあくまで“出発点”として、新たなサウンドデザインへ発展させてほしいという考えからです。

実際、私自身もマクロをすべて使い切ってしまうと、後から「オートメーション」を追加する際に調整が難しくなると感じることが多いため、最低でも1〜2個は余白を残すようにしています。

— ドラム・サンプルパック『Hylen Hardware Synthesis Vol.1 ULTRADRUM』では、Hylenさんの楽曲でも使用される機会が多いドラムマシン「Vermona DRM1 MkⅣ」がフィーチャーされていますね。

Hylen:

この作品は、ある楽曲制作の際にYunomiさんから勧められて導入したドラムマシン「Vermona DRM1 MkⅣ」がきっかけです。この機材は設定が非常にシビアで、少し調整を変えるだけで極端に音が変化してしまうのですが、その分スイートスポットを見つけたときの音は格別です。その試行錯誤の過程で生まれた音をまとめたものがULTRADRUMになります。ボーカルが高音質(バイノーラルや96kHz)で収録されることが多い中で、ドラムだけ解像度が低いのはもったいないと感じ、すべて96kHzで録音しています。

このパックでは、ハードウェア特有の揺らぎや質感を身近に感じていただくことを目的とし、録りっぱなしの“RAW”音源と、整えた“Processed”音源の両方を収録しています。

— Serum2プリセット『HLP-006 Peridot for Serum 2』では、EP “Peridot”を基に作成されているとのことですが、楽曲制作の際に作成された音色達がそのまま収録されているのでしょうか?

Hylen:

基本的には楽曲制作時の音色をそのまま収録しています。ただし、一部のベースサウンドはオーディオ化した後にチョップやリサンプリングを行っているため、完全に同一の再現が難しいものもあります。

本作に収録されている「BS – OrganPluck」などは、『Serum 2』の新機能であるマルチサンプルを活用し、生ベース・シンセベース・オルガンをレイヤーしたサウンドです。本来であれば複数のシンセを立ち上げる必要がありますが、1つで完結できるよう設計されています。
シンプルながら楽曲をしっかり支える、即戦力のプリセットです。

— 音楽制作初心者の方におすすめの「最初の一歩」的な使い方はありますか?

Hylen:

まずはVitalシリーズ(HVP-001HVP-002など)をおすすめします。
Vitalは無料で使えるほか、EDMやトランス、ポップスなどにそのまま使える音が多く収録されているため、楽曲の骨組みを作るのに適しています。

ULTRADRUMについてはやや難易度が高いですが、デモソングで使われている音のループが基本的にそのまま入っているので、デモループを並べるだけでも構造理解に役立つため、音作りに挑戦したい方にはおすすめです。

— 使用するだけで楽曲の「核」となる即戦力プリセットが揃っていますが、更に自分なりのオリジナリティを加えるテクニックなどあれば教えてください。

Hylen:

「この音はこう使われる」という固定概念を捨てることでしょうか。
例えば、『HLP-007 Hortensia for Serum 2』 内の「BS – RATBITE」というプリセットでは、フライパンを叩いたようなスネアを、3オクターブでレイヤーしてさらに5度上のハーモニクスを鳴らして作っています。

これをスネアからキックのサンプルに差し替えたらどんな音になるでしょうか。シンプルなホワイトノイズを使われているところを、スプレー缶をシューってやってる音のサンプルに差し替えたらどうなるでしょうか。

意外と日常の中にサウンドデザインのアイデアは埋まっているので、「この音はこう使うべき!」という考え方を捨ててみると、新しい音に出会えると思います。特に『Serum2』内のサンプルベースで作られているプリセットは、1つ差し替えるだけで音がガラっと変わるので、トライアンドエラーで試してみてください。

面白い音ができたら、ぜひ教えていただけると嬉しいです。

■ アーティスト活動について

— アニメ、ゲーム、VTuberへの楽曲提供、そして自身のクラブトラック制作と、非常に幅広く活動されていますが、ジャンルを横断して楽曲を制作する際に大切にしている事を教えてください。

Hylen:

アニメやゲームなどの楽曲提供では、「歌手が最も輝くこと」を第一に考えています。
サウンドも歌詞の情景を補完し、メロディを引き立てるものに徹し、ストーリーを阻害する要素は極力削ぎ落とします。

猫又おかゆ「また、おかえり。」

一方でリミックスでは、あえて原曲から距離を取り、大胆に再構築します。「原曲を聴けばいい」と思われないよう、ジャンルごと作り替えることもあります。
クラブトラックに関しては、すべて自分の責任なので、純粋に楽しんで制作しています。

マーシャル・マキシマイザー – Hylen Remix【可不】

■ 今後の展望について

— 今後Hylen Labではどのような製品展開を予定していますか?

Hylen:

現在は、Serumプリセットの「HSPシリーズ」、Vitalの「HVPシリーズ」、そして「Hylen Hardware Synthesis」シリーズを中心に展開しています。
新作のSerum 2のプリセットもリリースに向けて順調に進んでいます。

また、Hardware Synthesisシリーズも第2弾・第3弾を制作中ですが、こちらは制作に時間がかかるため、長期的に楽しみにしていただければと思います。次回はモジュラーシンセを中心としたものになる予定です。さらに、多くの要望をいただいているギター系サンプルパックについても、年内リリースを目標に進めています。

「Hylen Lab」製品一覧ページ ≫

Hylen

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ダンスミュージックの制作を得意としながら、様々なサウンドメイクも行っており、ベースミュージックには定評がある。2020年にリリースした3rdアルバム”Hydrangea”は、iTunesエレクトロニックチャート1位を獲得。2023年には、KARENTがプロデュースする「初音ミク」×「クラブサウンド」企画”Digital Stars”のテーマソングを担当。同楽曲”UNDERWATER”はプロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミクへの収録も果たした。

作家”宇佐美祐二”としても活動しており、HIMEHINAへ楽曲提供した”提灯暗航”は100万再生を記録。ギターとして参加したにじさんじ所属”不破湊 – 一旦ステイ TONIGHT”はYoutubeにて1000万再生を記録。そのほか初音ミク公式やプロジェクトセカイ、アイドルマスター、電音部、ホロライブ、にじさんじ、ぶいすぽっ!などに楽曲、リミックスを提供するなど、今最も目が離せないプロデューサーの1人である。

Works

  • HATSUNE MIKU Digital Stars 2023 メインテーマ 「UNDERWATER/Hylen feat,Hatsune Miku」:作詞、作曲、編曲
  • HIMEHINA 「提灯暗航」:作曲、編曲
  • ぶいすぽっ!「QUEENS」:作曲、編曲
  • 猫又おかゆ「また、おかえり。」:作詞、作曲、編曲
  • 獅白ぼたん「HOLD ME,Homie?」:作詞、作曲、編曲
  • 雪花ラミィ「ハツコイ♡パティシエール」:作曲、編曲
  • 電音部「ウルトラリズム」:作詞、作曲、編曲
  • 不破湊「一旦ステイ Tonight」:ギター演奏、アレンジ
  • KMNZ – BE NOISY!(Prod. By 水槽):ギター演奏、アレンジ
  • 鹿乃「ドッペル原画と複製ゲンガー」:ギター演奏、アレンジ

HATSUNE MIKU Digital Stars 2023 メインテーマ 「UNDERWATER/Hylen feat,Hatsune Miku」