【SONICWIREスタッフコラム】 適正な音圧とは?
2000年代にある種の問題となった音圧戦争ですが、ラウドネス値による音量調整(ノーマライゼーション)がストリーミングサービスに導入されることによって、一定の解決がみられるようになりました。
これにより、「配信先のラウドネス推奨値に合致するように制作すればよい」という意見もあがってくる中で、改めて音圧について考えてみましょう。
※本記事は私的な見解を含みます。意見の一つとしてお楽しみください。
音圧とは、音楽制作の世界では聴感上の音の大きさを表していることが多いです。
音圧はテレビ業界のラウドネス規制に端を発して「ラウドネス値」と呼ばれる指標で表されるようになりましたが、この時何を基準としてレベルを決定するのでしょうか?
先ほどのラウドネス推奨値を基準としたり、各々で目標とする数値を予め決めている方もいらっしゃいますが、そもそも音圧レベルの上下によってどういった作用があるのかを確認してみましょう。
音圧を上げると
小さいボリュームで再生していても楽曲が聞こえやすくなり、電車内でイヤホンを使用して聴いている時のように、周囲のノイズの影響を受けづらくなります。
そのため、音響の面で理想的ではない環境で聴かれることを想定する場合は音圧を上げ目に設定しておくと良いでしょう。
音圧を下げると
大きな音量で聴いても聴き疲れを起こしづらくなります。その反面、小さな音量で聴くと弱音部分が聴こえづらくなります。
そのため、しっかりとした再生環境で大きめな音量で聴かれる想定であれば、音圧を下げ目にしておくと良いでしょう。更に言えば、ライブのように超大音量の環境で鳴らすことが想定される場合は、音圧を上げる意味合いでのリミッターは使用せず、録音したままのダイナミクスで再生されるようにするのが理想です。
このように、音圧レベルを決定するポイントとしてどのような再生環境で聴かれるかを想定することが重要です。
話は戻り、文頭の通り2000年ごろから、競い合うようにより高い音圧を求める「音圧戦争」と呼ばれる状況が発生し、「音圧を上げるとカッコいい」という認識が広がりました。そして、実際にそう感じる方も多いと思います。
しかし、音圧を上げていくとダイナミクスレンジが狭まるため、楽曲の抑揚や演奏のニュアンスといった音楽的な要素が失われる傾向にあります。そのため、今では音圧を極力上げずに音楽制作をするべきだ、との声も大きくなってきました。
現在、ジャズやクラシックでは音圧を上げずに作曲者や奏者の意図を尊重し、ポップスやロックでは音圧を上げてカッコよく仕上げるのが一般的です。
このように、音圧レベルを決定するもう一つのポイントとしてはどういった楽曲表現にしたいのかというのも重要です。
以上のことから、適正な音圧は数値ではなく、聴感で判断するべきだと考えられます。
音楽の方向性・ジャンルによっては、例え配信サービスで再生音量を下げられるとしてもラウドネス推奨値を超えた音圧設定を行うことも悪いことではありません。
基準を決めきれないという方は、目標とする楽曲を基準に調整していくと良いでしょう。
最近では『ADPTR AUDIO METRIC AB』といった、リファレンス楽曲との聞き比べを容易にするツールも登場しており、非常に便利になってきています。
ラウドネスを意識した楽曲制作には、優秀なメータリング・プラグインが欠かせません。自分に合った制作フロー、ツールで試行錯誤してみてください。
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