SONICWIRE

日常の“心の動き”を音楽に。ソニコン2025最優秀賞 hinode°氏インタビュー【Reason for Creation】

2025年10月3日 17:00 by knt

【Reason for Creation】

「Reason for Creation」は、次世代の音楽クリエイターが“ツクルこと”を始めた理由に迫るインタビュー企画。彼らの「創作活動」と「日常」、その両面を深掘りしていきます。

今回は、SONICWIRE主催の楽曲コンテスト「ソニコン SONICWIRE CONTEST 2025 – 歌モノ編 –」で、楽曲『夕映えノート』により最優秀賞を受賞した10代のクリエイター、hinode°さんにお話を伺いました。

若くして開花した類まれなアレンジ力と、聴く者の心に触れるノスタルジックな世界観──。その創作の源泉に迫ります。

   

音楽の原風景は、父のレコードと姉のDAW

– まずは自己紹介をお願いします。

hinode°:hinode°(ヒノデマル)と申します。現在は音楽の専門学校に通いながら、個人で作曲やアレンジ、ベーシストとしてのお仕事も少しずつ始めさせていただいています。

– 音楽に最初に触れたきっかけは何でしたか?

hinode°:母がピアノ講師、姉がエレクトーンを弾いているような、音楽が常に身近にある環境で育ったことが一番のきっかけです。父も音楽が大好きで、特にフュージョンなどをよく聴かせてくれましたね。5歳の時にはクリスマスプレゼントで電子ドラムを叩いて遊んでいました。自然と音楽に触れるのが当たり前の環境だったんだと思います。

– DTMを始めたのはいつ頃ですか?

hinode°:DAWに初めて触れたのは小学生の時です。姉が大学進学を機にLogic Proを購入したのを見て、面白そうだと感じたのがきっかけでした。ただ、その頃はループ機能を並べて遊んでいるだけで、すぐに飽きてしまいました(笑)。本格的に楽曲制作にのめり込んだのは、中学3年生のコロナ禍の時期です。自由に使える時間がたくさんできたのを機に、初めて自分のギターとオーディオインターフェースを手に入れ、そこから今まで続いている感じですね。

プロの“響き”への憧れ

– 影響を受けたアーティストについてお伺いします。睦月周平さんや滝澤俊介さんなど、プロの作曲家の方々を挙げられていたのが印象的でした。

hinode°:お二人のことは『アイドルマスター シンデレラガールズ』で知りました。結構早い段階からコード進行やハーモニーに興味があったのですが、お二人の作る音楽は、響きが予測できないくらい“暴れている”のに、メロディーはすごくキャッチーで。そのバランス感覚に強く惹かれて、大きな影響を受けています。自分もそうありたい、と思いますね。

   

– 他に影響を受けたアーティストはいますか?

hinode°:坂本真綾さんは、僕にとってすごく大きな存在です。友人にも『坂本真綾さん好きなの分かるわ』って言われるくらい、無意識のうちにメロディーの作り方などで影響を受けていると思います。姉が持っていた2015年のアルバム『FOLLOW ME UP』を偶然聴いて、衝撃を受けました。

   

景色と日常から生まれるインスピレーション

– 普段の生活の中で、どんな時に「曲を作りたい」と思いますか?

hinode°:日常の風景にふとした変化を見つけ、心が動いた瞬間に「曲を作りたい」と思います。例えば、車に乗っている時に「いつも工事中だった道が完成してる」と気づいたり、駅の売店が新しいコンビニに変わっていたり…。そうした、変わらないように見えて実は少しずつ変化している景色からインスピレーションを受けることが多いです。

– 日常の小さな変化からインスピレーションを受ける、というのはとても素敵ですね。それらをメロディーやコード、音色に変換する際、何かご自身の中で意識しているプロセスやコツはありますか?

hinode°:僕の場合は、まず表現したい「景色」をはっきりと想像することから始めます。ライブの一番最後で流れるような曲にしたいなと思ったら、その光景を思い浮かべながら作っていく。そうすると、自然とメロディーやアレンジもその景色に合ったものになっていくんです。まず感情や情景があって、音楽はそれに付いてくる、という感覚が近いかもしれません。

– 音楽制作以外の時間は、どのように過ごされることが多いですか?

hinode°:大体アニメを鑑賞したり、友人とDiscordで通話したりしていますね。趣味はバイクに乗ることで、高校生の時に免許を取ってからずっと乗っています。

– 最近の“癒し”になっているアニメはありますか?

hinode°:『雨と君と』という作品です。自称“犬”のたぬきを拾ったお姉さんとの日常を描いたアニメなんですが、独特の空気感が流れていて、日々の癒しになっています。

– 制作環境そのものにも、何かこだわりはありますか?

hinode°:ギターやベースは、机から振り返ってすぐ手に取れる位置に置いています。思いついたフレーズの新鮮さが失われる前に、すぐに手を動かせるように意識していますね。

   

   

   

▲hinode°氏の制作デスク。すぐ手に取れる位置に楽器を配置し、インスピレーションを逃さない工夫が凝らされている。

リファレンス用のリスニング環境にもこだわっていますね。普段はiLoudモニターを使いますが、一般的な環境での聴こえ方を確認するために、愛用のMarshall製Bluetoothスピーカーでもチェックしたりします。あと、お気に入りの匂いがするストーンディフューザーを置いて、集中できる空間を作るようにしています。

   

   

   

▲集中できる空間作りに欠かせないというストーンディフューザー。お気に入りの香りが創作活動をサポートする。

最優秀賞受賞楽曲『夕映えノート』について

   

– 受賞楽曲『夕映えノート』についてお伺いします。まずは、この楽曲の制作背景についてお聞かせください。

hinode°:この曲は、東京で少しホームシックになっていた時期に生まれました。楽曲制作が上手くいかないスランプも重なって、地元に帰りたいなと思っていた時に、ふと中学時代の吹奏楽部の「帰り道の景色」を思い出したんです。それが制作の直接のきっかけになりました。僕の地元は群馬の、田んぼに囲まれているような場所でして。その時に感じた匂いや、夕焼けの色、空気感をそのまま音楽で表現したい、という気持ちがこの曲の核になっています。

– その「帰り道の景色」というテーマが決まった後、バラード調であることや、サビが3拍子になる構成は、どのように決まっていったのですか?

hinode°:実はこの曲、学校の課題が制作のきっかけなんです。「何でも作っていいよ」という自由なテーマだったので、これを機に、今まであまり作ってこなかったバラードと、サビが3拍子になる曲に挑戦してみようと思いました。
その音楽的なアイデアを、「帰り道の景色」というノスタルジックなテーマで表現しています。聴く人が情景に没入できるような落ち着いた曲調を意識し、サビの3拍子は当時を懐かしむ心地よさを表現しています。

– 1コーラス目のバラードから、2コーラス目では倍テンポになるなど、目まぐるしい展開が印象的です。こうした急な場面転換を作る上で、特に意識されたことはありますか?

hinode°:一番意識したのは、展開が変わってもリスナーの没入感を途切れさせないということです。1コーラス目で作り上げた帰り道の情景から、聴いている人が急に現実に引き戻されてしまわないようにどうすれば自然に次の景色へ繋げられるかを考えました。僕の中では展開が急に変わる時に、良い突然と悪い突然があって、ただ場面が切り替わるのではなく、「ここから何かが始まりそう」という予感を持たせるような、ストレスのない場面転換を意識して何度も試行錯誤しました。

– 楽曲で使用された Impact Soundworks『Tokyo Scoring Strings 2.0』の魅力と、うまく鳴らすコツがあれば教えてください。

hinode°:『Tokyo Scoring Strings 2.0』は音が非常に完成されている点が一番の魅力です。特にCubase『エクスプレッションマップ』機能と連携させると、本当に生きているような演奏表現ができますね。もともと劇伴音楽の影響で、情景や色を感じさせてくれる弦楽器の音色が大好きなので、それを高いレベルで実現してくれる音源です。

うまく鳴らすコツとしては、合わせ技になりますが、AIを利用したシンセサイザーの『Melisma』というツールで譜面から音を生成して、そのWAVファイルと混ぜて使うこともあります。

   

   

   

▲Cubaseのエクスプレッションマップ機能:様々な奏法(アーティキュレーション)を登録することで、ピアノロール上などで演奏表現の切り替えを簡単にする機能。

音楽で、誰かの心を動かしたい

– 今後の音楽活動のビジョンや目標についてお聞かせください。

hinode°:クリエイターとしてのビジョンは、尊敬する作曲家の方々のように、様々な音楽を自分なりに吸収・消化して、新しいものを生み出していくことです。その中でも、アニメが大好きなので、いつかアニメの主題歌を作ることが一番大きな夢ですね。今回のソニコン受賞は、その夢に向かう上で、今まで持てなかった大きな自信になりました。自分の意図が審査員の方々に伝わったことや、ラジオで曲が流れたことで、今後の活動への喜びも感じています。

– 最後に、hinode°さんが音楽を”ツクル理由”とは何でしょうか?

hinode°:僕自身が音楽に感動させてもらった体験を、今度は自分の作った音楽で他の誰かに届けたい、というのが一番の理由です。誰かを元気づけたり、失恋した人に寄り添ったり…。大きな力ではないかもしれませんが、音楽は人の力になれると思っています。自分もそうありたいと強く感じるので、それが僕が音楽をツクル理由ですね。


hinode°

作家を目指して勉強中の学生

アニソン、フュージョンが大好物

・「ソニコン SONICWIRE CONTEST 2025 – 歌モノ編 -」最優秀賞受賞(2025年)

X(旧Twitter)

YouTube