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新たな音楽的要素を与えてくれるツール / AudioThing社『NOISES』レビュー by 阿瀬さとし氏(Cojok / Smash Room)

2022年11月30日 12:00 by iro

作曲家/マニピュレーター/ギタリストとして活躍する阿瀬さとし氏(Cojok / Smash Room)より、独自の着眼点で独創的かつキャッチーな製品をラインナップするAudioThing社のサウンドデザイン・ツール『NOISES』のレビューをいただきました。

『NOISES』をトラック構築の中心に据えて作成いただいたデモ曲もご紹介しています。どうぞご覧ください!

あらゆるノイズ・テクスチャを生み出すクリエイティブなノイズ音源!
税込価格 ¥10,879¥7,071
  • メーカー:AUDIOTHING
  • カテゴリ:ソフト音源

阿瀬さとし氏:

まず、今回『NOISES』を使用したデモソングを制作しました。『NOISES』の音色はプリセット・バンク“Soundscapes Vol.2”を使用。このバンクは世界中(ラスベガス、ダブリン、プラハ、ナポリ、コゼンツァ)の滝、雨、川などの水の音を収録しており、録音にはバイノーラル・マイクが使用されています。このバンクに対し、後述するTRIP機能をONにしてバンク内のサウンドをフェードさせるスピードと、搭載しているFILTERをオートメーションで動かして有機的なリズムを作ることができました。この“ノイズ・ビート”を聴きながらギター、ストリングスなどを重ねていき、1曲のサウンド・トラックとして仕上げてみました。

▲阿瀬氏制作のデモソング。水音で構築したリズムパートを『NOISES』で制作。オートメーションにより操作されている画面中央のダイヤルの動きに合わせて、水音が切り替わっている様子が見て取れる。

AudioThing『NOISES』

ソフト音源 「NOISES」 | SONICWIRE

アイルランドのダブリンに拠点を置くAudioThing。2011年に作曲家、プログラマーのCarlo Castellanoによって設立されたブランドで、創造性を掻き立てるオーディオ・プラグインの開発に取り組んできました。

今回ご紹介する『NOISES』は、ドイツの作曲家であるHainbachと共同開発された音源。本来は耳障りなノイズを音楽的かつ有機的なシーケンスとして柔軟に楽曲に導入することのできるツールです。Mac/Windows対応で、AAX/AU/VST/VST3プラグインとして動作します。本製品はオーディオ・エフェクトではなくインストゥルメント・トラック上で起動するソフトウェア音源となっています。

『NOISES』には、アナログ・シンセ、テープヒス、測定機器、電子機器、磁気実験、フィールド・レコーディングなどで収められた様々なサウンドが用意されています。

▲画面1

『NOISES』を起動するとDAWが停止状態でもデフォルトで割り当てられてるバンクのサウンドが鳴り出します。そこで画面左の黄色に点灯してる四角いTRIGGERボタンを押すと音が止まり、この状態でMIDIキーボードなどでノートONすると音が鳴る仕組みです。SYNCスイッチをFREEからHOSTに切り替えるとノートOFFでもDAWの再生時のみ『NOISES』から音が鳴ります(画面1)。

▲画面2

『NOISES』の核となる画面中央にある大きなダイヤル(画面2)。ここで各バンクに用意されている8つのサウンドを順にクロスフェードさせて切り替えていきます。

もちろんDAWのオートメーションに対応し、場面展開に応じノイズを切り替えてストーリー作成が可能です(画面3)。

ソフト音源 「NOISES」 | SONICWIRE

▲画面3

▲画面4

楽曲内でサウンドをクロスフェードする際にサンプル同士の音量やピッチのバラつきが気になる事があります。その時は下の1~8までの数字の上にポインターを当てると、サンプル毎にボリューム、ピッチ変更できるノブが現れます(画面4)。これで楽曲やシチュエーションにマッチしたダイナミクスとピッチ感に調整ができます。

▲画面5

あと例えば2のサウンドから4のサウンドへクロスフェードさせる際に3のサンプルが鳴ってほしくなければ、下の四角いボタンを押してサウンドをオフることができます(画面5)。実際に曲中で使ってみると、クロスフォードの際に鳴ってほしくないサンプルがあったりするので、使う楽曲ごとにサウンドをオンオフできるのは非常に助かりますね。そして用意されている28個のバンクに加えて、自作サンプルを使用したオリジナル・バンクも作成可能。ノイズ・テクスチャーだけじゃなく、ピアノやストリングスなどのループやボイスサンプルを使ってもとても面白い効果が作れました。是非色々な素材で試してみてください。

▲画面6

画面左下のTRIPセクションが強力(画面6)。ONにすると中央のダイヤルが動いてサンプルがリズミックに切り替わり動的なシーケンスに生まれ変わります。シーケンスパターンもDAWのテンポに同期させて4分、8分などで動かしたりランダマイズ化することも可能です。このセクションを使って、ノイズで構成したリズムトラックなんかを作ることもできます。工場みたいな音で試してみるとBjorkの「Dancer in the Dark」のような世界が作れる訳ですね。

▲画面7

画面右セクションには、フィルターとビットクラッシャーが用意されてます(画面7)。これらはサウンドを破壊するような攻めた使い方をしても良いですが、より楽曲の質感や温度感に寄り添うような繊細な調整もできます。例えばシンセパッドやストリングスなどにノイズをうっすらと混ぜて奥行きつけたい時など、フィルターで質感を馴染ませてみたり。あとノイズのボリュームは上げたくないけど存在感を出したい時など、ビットレートやサンプルレートを下げると音が前に出てくるようになります。

『NOISES』はアンビエント、エレクトロニカ、ポストロックなどの音響系はもとより、映像作品でのサウンドデザインとしても新たな音楽的要素を与えてくれるツールだと言えるでしょう。

AudioThing 社製品一覧ページ

阿瀬さとし(Cojok / Smash Room)
作曲家/マニピュレーター/ギタリスト

2006年アコトロニカ・ユニットCojok(コジョ)結成。2010年、音楽プロデューサー佐久間正英氏に見いだされ、氏主催のレコード会社より作品をリリース。その後はタイムドメインスピーカーを用いた10.2chサラウンド・コンサートの主催、サウンド&レコーディングマガジンによる企画「Premium Studio Live Cojok+徳澤青弦カルテット with 屋敷豪太、根岸孝旨、権藤知彦」に出演。そこから頭角を現し、数多くのCMや劇伴などの作編曲とギター演奏を担当。2019年は映画「おかえり、カー子」(湯浅典子監督、小島梨里杏主演)の音楽を担当。主題歌を飛澤正人氏が3Dミックスを手がける。2020年はポカリスエットCM「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇の音楽を担当。

2021年、自身のユニットCojokと、岸利至・酒井愁からなるユニットTWO TRIBESとのコラボレーションによる作品『MeteM』を発表。2022年はウラニーノの最新作『2020.EP』収録の「2035-プロローグ-」「TOKYO2021」にてギター、プログラミング、アレンジを担当。

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「ポカリ NEO合唱 ドキュメンタリー完全版」(作曲&アレンジ&ギター)

Cojok×TWO TRIBES「MeteM」(ギター&アレンジ&ミキシング)

『MeteM』特設ページ

ウラニーノ「TOKYO2021」(ギター&プログラミング&アレンジ)