「室屋光一郎ストリングスの生演奏の質感を十分に再現していると感じました。」/『TOKYO SCORING STRINGS』 Review – 石川大樹 氏
室屋光一郎ストリングスをキャプチャーし、そのサウンドを世界に届けるために開発された『東京スコアリング・ストリングス』。今回は、『ファイナルファンタジーXIV』のBGM制作やサウンド実装から、実際に室屋氏の演奏を制作に取り入れてきた経験のあるスクウェア・エニックス所属のコンポーザー“石川大樹”氏にレビューをいただいた。
■サウンド面の特徴や良さ
『東京スコアリング・ストリングス』(以下TSS)の特徴として、サウンド調整のしやすさが挙げられます。今回は3つに分けてご紹介します。
1つ目は、弦8型の小編成を日本のスタジオで収録しているという特性上、各ジャンルに応じたサウンド調整が容易である点です。他社の弦楽器音源は、海外の広いスタジオやホールで収録されているため、スケール感自体は大きいものの響き自体の調整が難しいことが多いです。
具体的には、音源のリリースタイム調整やトランジェントシェイパーでホールの響きを削ることがありますが、このTSSは元々がデッド寄りなサウンドのため、前述のような調整の必要なくすぐに他トラックと混ぜ合わせることができると考えています。
2つ目は、パン自体も緩やかに設定されていることによりミキシングしやすくなる点です。特にコントラバスでは、他社の音源だとパンが右に振られていて2Mixを作り上げる際の土台として使いにくいものが多いですが、この音源はしっかりセンターから鳴るためアンサンブルの土台として非常に重宝すると思いました。メロディやコード進行をしっかり鳴らす必要のあるゲーム音楽では使い勝手が非常に良いと感じています。
3つ目は、「Long アーティキュレーション」におけるサウンドの伸びが、室屋光一郎ストリングスの生演奏の質感を十分に再現されている点です。自分自身、楽曲の演奏を室屋さんにお願いした経験があります。その際に録らせて頂いたサウンドの質感とTSSの質感が非常に近く、室屋光一郎ストリングスの音の再現レベルが高いことが伝わりました。
室屋光一郎ストリングスはメロディの音の伸びやビブラートなどが煌びやかであるという特徴があります。MIDI上のエディットを作りこんでいけば、その鮮やかさを楽曲内でより有効的に使うことができると考えています。
■実践的な使い方の提案
奏法をキースイッチ、レガートの種類をベロシティで切り替えることができるため、Cubase上のエクスプレッションマップとの相性が良いと思います。「Long アーティキュレーション」と「Short アーティキュレーション」において、それぞれ専用のエクスプレッションマップを制作すればより効率的な打ち込み作業ができるでしょう。
更に、「Long アーティキュレーション」では「Short アーティキュレーション」のオーバレイを細かく設定できます。その為、制作したい楽曲に応じて「Long アーティキュレーション」の躍動感を調整することが可能です。
▲選択中のアーティキュレーションにオーバーレイされた「Short アーティキュレーション」の最⼤⾳量などを設定できるSOUNDタブ
また、普段使用するオーケストラ音源とMIDI CCのアサイン(「DYNAMICS」や「VIBRATO」部分を右クリック)を統一することもできるため、色々な音源との組み合わせでも大変重宝する音源です。加えて、前項で記載した通り、立ち上げてすぐに馴染みやすい音が出ますので、ラフ打ち込みとして使用するもよし、CCエディットを追い込んで完パケとして使用するもよしで万能な音源だと思います。
レビューより、室屋光一郎ストリングスの再現度が非常に高いことが伺えました。『TOKYO SCORING STRINGS』を通してより多くの作曲家が室屋さんのサウンドに触れ、日本のストリングスが世界のスタンダードになる日も近いかもしれません。
これからも引き続きご注目ください。
スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。電機メーカーの人事総務部を経て、2019年に株式会社スクウェア・エニックス、サウンド部に入社という謎の経歴を持つ。
これまで『ファイナルファンタジーXIV』の拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』『暁月のフィナーレ』、『ファイナルファンタジーVII リメイク』のBGM制作やサウンド実装を担当している。『ファイナルファンタジーXIV』では祖堅正慶を中心としたサウンドチームの一員として、ゲーム体験にマッチした様々な音楽を日々制作。楽器演奏経験により、主にオーケストラサウンド制作を得意としている。人生で初めてプレイしたRPGはスーパーファミコン版のクロノ・トリガー。
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