誰も聞いたことがない音が作れる可能性を秘めています。

Vengeance Sound『AVENGER』レビュー by マイナスP(ワンダフル☆オポチュニティ!)
はじめに

こんにちは。今回はソフトシンセサイザーの『AVENGER』のレビューです。

実際に楽曲制作に使ってみたので曲と合わせて見て頂けたら嬉しいです。先に言っておきますけど、文章長いです!WEBだからいいですよね?だって、最強のソフトシンセだったんだもの…。興奮でタイピングが止まりません。

どんなソフトシンセ?

みなさん、いいシンセってどんなシンセですか?「簡単に即戦力な音色が出て、音が太くて自由度が高くて、、」と挙げればキリがありませんが、そういう要望を全部受け止めてくれる最高なソフトシンセがこの『AVENGER』です。

「プリセットで時短派」「波形からじっくり職人派」、どちらも満足できるソフトシンセだと思います。

プリセットでいい音すぐ出る

一見、ツマミや操作できる部分が多くて「複雑そう」とか「めんどいなぁ~」と思いがちですが、画面左上からプリセットを選べば、シンセに疎い人でも簡単にイケてる音色が使えます。このプリセットの出来栄えが、昨今のソフトシンセの良し悪しを決める判断材料にしているDTMerも多いわけですが、『AVENGER』のプリセットはどれも最高にゴキゲンでテンション爆上がりです。

どの音色もインスピレーションを刺激されまくり!プリセットのARPカテゴリなんて、アルペジエーターも組まれているわけなので、インスピどばどばです。

プリセット探してる途中に、「今、欲しい音じゃないけどこの音かっこいいな…」ということって結構ありますよね。そういうときは、FAVボタンでお気に入りにいれておくと、後々さらに探しやすくなります。ブラウジングも優秀で、色んな方法で目当ての音を検索・ソート可能です。これは波形ブラウズと合わせて後述します。

プリセットで目当ての音に近い音が見つかったら、パラメータを一つづつ、少しづつ触っては戻してを繰り返して…全然恐れることはない、UNDO機能もありますよ。

こんな感じでいじってるうちに、各パラメータの役割を覚えられますよね。フィルターやエンベロープ、その他の基本的なシンセのパラメータも、明確な反応を示してくれる上、モジュレーション状態も波形やパラメータが動くので、シンセの音作りの勉強にバッチリだと思います。

▲ジャンル、音の雰囲気、更には検索バーから文字を打ち込んでイメージに近い音を絞り込んでいく

波形から作る

『AVENGER』のオーバービューを見てみますと、シンセで音を作るために必要なセクションがうまく配置されています。僕は、直感的に音が作れる配置でとてもすんなり理解できました。また、タブを追加して、使うオシレータを増やしたり、フォルターを増やしたり、サブ機能画面にしたり、と1画面で必要なものが見えてストレスフリー。

普段は「Logic Pro X」付属の「Alchemy」がメインのソフトシンセで、プリセットは使っておらず、シンプルな波形から音をつくります。そう、実は「波形からじっくり職人派」です。

同じ作り方を『AVENGER』でやってみます。まずイニシャライズ。全て初期状態にします。SEND、INSERT、MASTERのFXも一旦すべてOFFに。僕はこの状態をデフォルトに設定しました。

さぁ、素の波形を聞いてみましょう。そう、僕はこの瞬間が一番楽しいです…。フフフ、お主はどんな音なのじゃ…おぉぉおおぉぉ…パンチがあってクランチでバリッとしてる。中音域がしっかり出てるので、普段使っている「Alchemy」より前に出てくる印象です。この時点で既に、軽くサチュレーションがかかってる印象を受けた。この独特のプッシュ感は、プリセットをチェックしてても感じられたので、これが『AVENGER』の音なんだと理解。こりゃあいいぞ!そこから、オシレータセクションにて、色んな波形をザッピング。基本波形からコンプレックス波形、ウェーブテーブル、生音サンプリングの波形…と、まるで波形の博物館や!....実際にファクトリープリセットだけでも、かなりの数の波形が使えて満足すぎるくらいなんですが、この波形は拡張パックを購入すると、プリセットだけでなく使える波形も増えます。拡張パックも4種類ほどいれましたが、すごく気に入った波形が入ってて嬉しかった。この量に慣れると「Alchemy」だと「少なっ」って思っちゃいました。いやぁ、拡張パックもっと手に入れたくなりますね。完全に沼です。

話を戻して、いつものように音作りしていきます。おおおおぉぉぉ・・・ざっとみた感じですが、フィルターが56種類(!)あって、レゾナンス特性も「additive」と「balanced」の2種類あって、フィルターDriveも3種類、ウェーブシェイパーも18種類、と盛りだくさん。最高か!

▲ウェーブシェイパーの一覧

個人的にはレゾナンスの特性を切り替えられるのが、フィルターの選択肢が広がってとてもいい。例えば、フィルターの特性を生かしたリードを作りたいときは「addtive」を選択するとフィルターを開閉するたびにアグレッシブな音になる。単純に「ちょっと暗くしたいな」とか「オケと馴染ませたいな」とかは、「balanced」が適正レベルになるのでオススメ。タイプが好みでも「もうちょっと暴れ感を抑えられたらなぁ」とか「オケとの混ざりが悪いなぁ」という時にもってこいです。

あと気に入ったフィルターが2つあって、ひとつは「COMBフィルター」。FMした波形にフィルターを開いたり閉じたりしてるだけでめっちゃ気持ちよくて、『AVENGER』のサチュレーション感と相性抜群。

「VPS TALKBOX」っていう「Vowelフィルター」も大好きになったので、あとで紹介するオリジナル曲のベースに取り入れました。“LMFAO”の「Sorry For Party Rocking」のリフみたいな感じが簡単に作れました。フィルターはさらに、FXスロットとマスターフィルターもあるので、マクロ組んでMIDIコントローラー用とオートメーション用、とかで使い分けできていい。

VCA(AMP)部分のSPIKEも非常に好みで、楽曲のアレンジ中に「この音色はもうちょいアタックがつよいといいなぁ」と思った時にここで調整できます。エンベローブシェイパーみたいなかかり方で超アタックが強い音が作れるのでかけすぎ注意ですね。すぐにレベルオーバーする。ただ、この「暴れ馬感」が音色を作る上では必要だと思っていて、誰も聞いたことがない音が作れる可能性を秘めています。

モジュレーションソースについて。エンべロープは好きなだけポイントを追加できるし、LOOPもできるし、カーブ特性も細かく設定できます。LFOは4つと、ソフトシンセにしてはちょっと少なめに感じますが、モジュレーション用のエンべロープが最大8つ(フィルターx4とVCA x4付属の個別の標準ENVとは別に)あるから、ループさせてLFO的に使えば問題ないでしょう。

さらにステップシーケンサーが8つ、ドラムシーケンサーがあって、ピッチモジュール8つ、アルペジエイター8つあるし、なんでもやりたい放題!

気が利いているところは、右クリックドラッグとかでカーブを指数型に変えれたり、つまみだとモジュレーションの量を調整できたりするところや、モジュレーションの適用先をドラッグでつないでアサインするといった細かい操作性と、波形がちゃんとモジュレートされてるところが確認できるところ。LFOで波形のFM FOLDされていくところを見ながら、あぁ、かっこええ音やぁ…と夜更かしするわけです。ここから4つのFXスロットを駆使して、音を作りこむわけです。もうあっという間に時間は過ぎていきます…

シンセ以外の音も出る(ドラム最高)

『AVENGER』はサンプルベースの波形もあるので、生楽器系の音も出ます。中でもドラムは、VENGEANCEクオリティ。且つ、ドラムを選択すると既にお似合いのドラムシーケンスも選んでくれるのが、イケてます。「ここにムーンバートンっぽいドラムをいれたい」とか「パーカッションのイケてるフレーズいれたいなぁ」などの要望にスピーディーに対応してくれます。

僕は「VENGEANCE SOUND」のドラムのサンプルパックを買ってたファンなので、ドラム音源として積極的に使いたい。っていうか、これマジで教えたくないくらいイケてるドラム作れるぞ…。既存曲のリミックスとか、DJライブをする際などには、この「強い音」が最高に合う!というか、既に手持ちのサンプラーにどんどん取り込んでリミックスなど楽しんでます。

ドラムミキサーもオシレータミキサーとは別にあるし、パラ出しして個別に好きなプラグインを当てていくことも可能だし、個別にサンプルを置き換えることも可能、と….最高か!

▲ドラムミキサーの画面

拡張パック、入れました。

今回は僕の好みから下記の4つの拡張パックを導入しました。

ビギナーの方にもわかりやすいようにいうと、拡張パックを『AVENGER』に入れるとこんないいことがあります。

  • プリセットが増える
  • 使える波形も増える
  • 使えるドラムも増える

簡単にいうとこんな感じ。見ての通り、拡張パックの名前がだいたいジャンルになってて、そのジャンルに似合うであろうシンセの音色はもちろん、楽器、ドラム、効果音 etc…などが用意されてるわけです。VENGEANCEクオリティで。

プリセット増えても安心。探しやすい(波形も)

「プリセットが増えると、探すのが億劫」という問題が出てきますが、これは優れたブラウジング機能で解決します。

左上の拡張パックの名前のボタンを押せば、拡張パックごと、カテゴリごとに音色名が出てさらに虫眼鏡のマークを押して、求めている音色の雰囲気、ジャンルなど、当てはまる項目を選択すればソートされていきます。

各拡張パックのプリセットを聞いてみた

ダーク系シンセウェーブな音色が中心で、大好きな“Celledweller”みたいなエレクトロ系オルタナティブロックと相性が良さそう、というのが第一印象。

ベース系やシーケンス系ではシリアス系K-POPとかでも聞こえてくるようなワブル感満載の音色や、まさに即戦力な効果音系も強力。ドラムも、味がありつつも使いやすい音色があって好きでした。

今回レビューするサンプルパックの中では、生音系が充実してる印象。これはハッピーな印象の音が多くて、POPS系でレギュラーチョイスになりそう。

使いどころによっては、シニカルな感じが出しやすいと思います。僕はブラス系とベース、ドラムが気に入りました。この手の「いなため80's disco系」ってVinyl感出すためにLofi寄りのサンプルが多い中、そこは『AVENGER』。サーチュレーション豊富で、音が抜けてくる。

あとは、裏技的な使い方で、エレキベースのアタックだけをシンセベースにレイヤーして輪郭を出したりするのにいいです。『AVENGER』内でレイヤーしてバウンスした方が位相のマッチングが理想的になることが多かったです。

レイヤーも8つまで重ねられるので、音作りの幅が増えて可能性が広がりまくり!“Daft Punk”とか、ちょっと前の“Dua Lipa”、“CHARLI XCX”っぽいアレンジのテイストと相性良さげ。ドラムは今回入れた拡張パックの中では一番好きで、デモ曲のメインのキックとメインのスネアで使っています。

フィルターモジューレーションたっぷりのベース、フューチャーベースらしいシーケンスが組まれたコードパッド系、特徴的な曲線で描かれたピッチモジュレーションのかかったリード系がフューチャーポップ!って感じで素敵。

今回試した中では、ドリーミーなパッド、シーケンスフレーズ、フューチャーベース特有のシーケンス&グラニュラー処理したボイスサンプルのリードとかすぐ出せるので、グッと現代的なアレンジが可能です。

『AVENGER』持ってて、おしゃれポップなCMとかで流れてるようなかわいい音がする現代的なサウンドが欲しいそこのキミ!これだよこれ!このパックぅ!...この手のジャンルは「二捻り」くらいした方がオリジナリティが出て「らしくなる」と思っているので、プリセットでヒントを得て、音色&シーケンスを編集するのが正解な気がしています。

ドラムシーケンスは、他のパックよりも倍のノリのものが多くて、「2回目のAメロはちょっと違うリズムでやりたいな」というときの、第一候補になりそう。個人的には、フューチャーベースど真ん中のリード音が好き。デモ曲では、曲の展開がガラッとかわるCパートで主に使いました。

こっちは『FUTURE POP』に比べると過激なシーケンスが組まれている音色が印象的。ダブステ色の強いベースと、押しの強いリードで悪そうでダーティなK-POPっぽいアレンジなどにベストマッチ。

このパックのオシレーターから構築した808系キックがあるんですが、この音色のMacroがすごく良く組まれていて、目当てのキックベースにすぐたどり着けるんです。いろんなアレンジをしているときに、「Bメロはトラップっぽいキックベースがいいなぁ」とかそういう要望に応えてくれます。

キックベースってサーチュレーション感がキモなんですが、そこは『AVENGER』。(この言い回し気に入った)いいサチュり感出してます。あと、SPIKEの効いたプラック系が最高で主役にも脇役にも重宝しそう。このパックも、Macroで作られたモジュレーションで好きな音に近づくのが一番早かったです。

僕もやりましたが、手元のMIDIコントローラーのノブをこのmacroに割り当ててぐりぐりしてみてほしいです。音を操作してる感触がすごく楽しいし、Modの割り当ても秀逸なので有機的なフレーズが作れると思います。このMacro組んだ人、天才。

実際にオリジナル曲(「Alien feat.初音ミク」)をつくってみた

上記4つの拡張パック+ファクトリープリセット、波形から作った音を使って曲を作りました。

今回は、ヴァーチャルシンガーとギターの音以外は9割『AVENGER』で構築しました。Nine inch nailsやBoom Boom Satellitesっぽい雰囲気が出せた。個別に解説していきます。

■ ドラム

拡張パックの『FUNKY HOUSE 2』の「Retro Disco」というプリセットをほぼそのまま使ってます。パラ出ししてDAW上のトラックでオーディオ化→エディットしています。

■ ベース

前述のVowelフィルターを生かしたシンセベース。OSCは二つ使っていて、アナログシンセ系のSawとWavetableのVoice系の波形をランダムLFOでモジュレーションして、それぞれ2系統のチェインで振り分けて鳴らしています。

さらに、もう一つのランダムLFOでWavetableのサンプル位置とvowelフィルターの開き具合をモジュレーション。サビでは、Vowel成分を抑えたかったので、voice系OSCのFMとフィルターの開閉をMacroで組んだ上に、MIDI コントローラーを割り当ててオートメーションしました。

■ FX系

ティンパニっぽいドーンっ!ていうインパクト音は「cinematic stomp」っていうプリセット。エンベーロープを曲に合わせて調整したくらいでほぼそのまま。リバーヴなどのFXも内蔵のものを使用。

■ Verseのアルペジエーターフレーズ

OSCにJUNO系のSAW波形を入れてENV短め、フェイズとDetune多めの音色で作りました。Filterは「IRIS LP12」で、内蔵FXのEQ+コンプ、内蔵のシーケンサーでフレーズ構築。

■ リフ&サビのオブリフレーズ

FMさせた4つの波形で作ったベル系の音と、Wavetableのベル音を、アップ方向にフォルマントシフトさせた音で立体感のあるフィジカルモデリングっぽい音をつくってみました。FMの操作感が波形グラフィックに反映されるので、すごく音が作りやすい上、多様なシェイパーとエンベロープのカーブ調整で、狙い通りの長さの冷たい音が作れました。

■ Cパートの雰囲気変わるところ全般

ガラッと雰囲気が変わるCパートは、拡張パック『FUTURE POP』のプリセットで構築してみました。プラックや、ヒューマンボイスのグラニュラー系のリードがわかりやすいですね。

コードパッドは、ピッチモジュレーションをかけて、さも多数のオシレーター個別にグライドがかかっているかのような「Prophet-6」のpoly mod的な匂いのある音にしました。

さいごに

『AVENGER』は、前評判がとてもよく気になっていましたが、容量も大きいのでまだいいか、と長年思ってましたが、今回触ってみていろんな悩みが解決したり、新しい扉が開けたり「もっと早く導入しておけば...!」と血の涙を流す(?)ほど最高なソフトシンセでした。

拡張パックも、単なるプリセットが使えるだけでなく、波形も収録されていたりと、学びの要素も多分に与えてくれるので、絶対手に入れていきたいですね。長く付き合う相棒のソフトシンセとして、ベストチョイスなソフトシンセと言えます。

ロック系やPOPS系でのちょい足しシンセにも向いてるし、『AVENGER』があれば他のシンセがなくてもいいほどなので、ビギナーの方にこそオススメしたい!あぁ、楽しかった~

マイナスP(ワンダフル☆オポチュニティ!)

2009年からじーざす、マイナスの二人でサークル活動開始。

じーざすの持ち味である8bitサウンド+αにコミカルな歌詞を合わせた楽曲で、

国内外から支持を集める。ゲームや様々なアーティストに楽曲を提供。

ミックス、マスタリングはマイナスが担当。

代表曲:

「リモコン」「しんでしまうとはなさけない!」「ぼうけんのしょがきえました!」

「にっこり^^調査隊のテーマ」等

YouTube / OFFICIAL WEB / Twitter

【鏡音リンレン】リモコン【MV】/ Remote Control

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