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「本来の打弦方法の中で繊細な質感を持たせた、魅力ある音源」 – 飯田俊明 氏による SRM SOUNDS『MAX RICHTER PIANO』レビュー

2025年2月27日 15:00 by knd

クラシカルクロスオーバーを軸に多彩なジャンルで活動を行うピアニスト/作編曲家、飯田俊明 氏に、SRM SOUNDS社のグランドピアノ音源MAX RICHTER PIANOをレビューしていただきました。

本製品の特長をつまびらかにご紹介いただいたほか、実際の画面を使ったサウンドチェックやオリジナルのデモ曲も含む多くのデモ動画も公開していただきました。ぜひ余さずご覧ください!

映画音楽の巨匠Max Richter監修、繊細な表現を得意とするピアノ音源
税込価格 ¥24,563
  • メーカー:SRM SOUNDS
  • カテゴリ:ソフト音源

飯田俊明 氏 のプロフィールはこちら »


またひとつユニークなソフト音源が登場した。

ポストクラシカルと呼ばれるジャンルの旗手マックス・リヒター(Max Richter)監修、彼のスタジオで録音されたピアノ音源だ。


Photo by Lorenzo Zandri

ポストクラシカルは、近年マックス・リヒターのほか、ニルス・フラーム、ヨハン・ヨハンソンなどが代表的な作曲家として注目を集める、静謐さと深みを持った音楽ジャンルのひとつだ。勝手な解釈をお許しいただければ、精神的にはおそらくサティの『家具の音楽』あたりにその萌芽を感じる。ミニマルミュージックにも影響を受けながら発展した歴史を持つほか、ブライアン・イーノなどのアンビエントや、現代音楽ではアルヴォ・ペルト、レポ・スメラなどもその源流に加えて良いように思う。

映画とも深く関わりながら、深遠な世界が近年さらに花開いている。

ポストクラシカルという言葉の生みの親でもあるマックス・リヒターに注目が集まったのは、ヴィヴァルディの『四季』を再構成したアルバム、そしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』あたりではないだろうか。

この映画は、基本的にはヨハン・ヨハンソンが音楽を担当しているが、主要な場面で流れる「On the Nature of Daylight」は、マックス・リヒターの作品だ。

Max Richter – On The Nature Of Daylight

彼監修の音源となれば、一般的なものではないことはすぐにわかるし、とても興味深い。スペックを見てもそれは明らかで、ベロシティ・スプリットは10段階あるにも関わらず、pppからmpまでしかない!それだけでもこの音源のユニークさがお分かりいただけるかと思う。

最近ではニルス・フラームのピアノによる音源など、フェルトを挟んで鳴らすピアノの音源が一つの潮流となっている。

今回の音源はノーマルな打弦のようだが、ハンマーはとてもやわらかく調整されているようだ。(もしかしたらソフトペダルを踏んでいる可能性も?)

蓋を開けたものと閉じたものの2種を収録しているのも、彼らしいチョイスと言える。

おそらく元気なポップスなどには向かないだろうが、ある種の音楽にはばっちりハマる、そんな音源だ。



それでは、動画を中心に紹介していく。

まずは、基本的なサウンドチェックから。

ベロシティ・スプリットの具合についてもチェックしてみる。

次に各マイクの質感を確認。

各パラメーターのチェック

最後に即興的なデモ曲をひとつ。

ロングトーンはこれまでも鳴らしてきたので、少し早めでミニマル寄りの音楽を、OpenとClose二つのプリセットを織り交ぜて作ってみた。

MAX RICHTER PIANO DEMO “Monochrome Rain”

このように、マックス・リヒターのシグネチャー音源というだけあって、明確なコンセプトに好感が持てた。

リクエストがあるとすれば一つだけ。

現状で静謐な音楽を弾こうとすると、強い方の(つまりmpあたりの)サンプルを使うことなく、弱いタッチで、ppp〜pあたりのサンプルだけを弾いてしまいがちだ。

個人的には、キーを強打することなく、mpの弾き方をした時にこの音源の最強音であるmpが出ればより良いような気がした。

現状で静謐な音楽を弾くと、強い方の(つまりmpあたりの)サンプルを使うことなく、ppp〜pあたりのサンプルだけで弾いてしまいがちだ。

もちろんDAWやマスターキーボードで設定する方法もあるが、プラグイン本体にも、Vel 64ぐらいまでの中で全てのサンプルをコントロールできるようなベロシティ・カーブ設定があるとありがたい(VELOCITYのSENSIVITYツマミはあるが、動画で紹介した通り、これとは趣旨が異なる)。

いずれにせよ、マックス・リヒター好きはもちろん、そうでなくとも目指す音楽に合いさえすれば、特に映画音楽的アプローチ等で活用できるだろう。

フェルトピアノという特殊なアプローチではなく、あくまで本来の打弦方法の中で繊細な質感を持たせた、魅力ある音源と言える。

映画音楽の巨匠Max Richter監修、繊細な表現を得意とするピアノ音源
税込価格 ¥24,563
  • メーカー:SRM SOUNDS
  • カテゴリ:ソフト音源
飯田 俊明

(ピアノ・作編曲)

クラシカルクロスオーバーを軸に多彩なジャンルで活動するピアニスト・作編曲家。

多くのCD、TV(NHK、CM)、ゲーム(FantasyStar Online、天外魔境ジライヤ他)、六本木ヒルズ時報、愛知万博(天皇自然館)などパビリオンや、安藤美姫アイスショーなどに作品提供。糸魚川市民ミュージカル「オデュッセイア」3部作を作曲。

最近の制作ではNHKドキュメンタリー「沁みる夜汽車」音楽、NHKドラマ「生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔」音楽、ホリプロミュージカル60周年記念CD、伍代夏子「雪中相合傘」劇音楽などがある。

また岡本知高、柿澤勇人、田代万里生、笹本玲奈、中島啓江、はいだしょうこ、平原綾香、ミネハハ、エスコルタ、劇団四季、宝塚歌劇団のヴォーカリスト、あるいは池田直樹などオペラ歌手、口笛の柴田晶子、オカリナのホンヤミカコ、ジプシーヴァイオリンやジャズ等、多彩なジャンルを演奏・作編曲両面からサポート。

即興を交えた朗読コラボも多く、山根基世、進藤晶子、松平定知、中村獅童、二木てるみ等と共演。

PTNAヤングピアニストコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。

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