ブラックボックス型生成AIと制作支援AIについて、コンペ作家が考えたこと【宇野水木 氏】
最近、音楽制作の現場でも急速に注目を集めている「AI」技術。
ニュースやSNSで見かける機会は増えたものの、「AIとはなるべく距離を置きたい」という感情から、「実際のところ、自分の曲作りにどう活かせるの?」と疑問や興味を抱いている方も多いのではないでしょうか。
そんな中、クリエイターとAIとの関係性を見つめなおす実践的な場として、EnterTech Universityと一般社団法人 日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)共催による「AI作曲プラクティス講座」の第一弾が、2025年4月から約4カ月間にわたり開催されました。
本記事では、同講座の最終発表会にて「ゴンゾ賞」を受賞した楽曲、Topaz『感情ノイズ』を手掛けたソングライター/プロデューサーの宇野水木氏にインタビューを実施!「AIクリエイター」ではなく、日頃ご自身の手で音楽を生み出している方が、同講座を通じて「AI」とどう向き合い、どのような印象を抱いたのか。今回は、実際の制作現場でのリアルな制作支援としてのAI活用法や、講座を通じて得た実践的なノウハウについてたっぷりと語っていただきました。
Q1. AIを使ってみた率直な感想
SONICWIRE: まずは簡単な自己紹介と、今回の制作でAIを使ってみた率直なご感想を教えていただけますか?
宇野水木: 普段の私は、クリエイター集団「Co-writing Farm(CWF)」の一員として、主にメジャーアーティストへの楽曲提供を行っています。CWFでは基本的にコーライティングで楽曲制作しており、私は自身の得意領域であるトップライン制作、作詞、そして全体の楽曲ディレクションを担当することが多く、アレンジやミックスの工程に深くコミットすることはほとんどありませんでした。
AIを使ってみた率直な感想としては、一口にAIと言っても「ブラックボックス型の生成AI」と「制作・解析をサポートする支援型AI」では、クリエイターにとっては役割が全く異なるということです。
例えば「Suno」のような生成AIは、脳内にある具体的なイメージをそのまま出力させることはできない反面、「自分では絶対に選ばない展開」という予期せぬアイデアを投げてくれます。これは「自分とは全く違う感性を持ったクリエイターとコーライトして、化学変化を楽しむ」感覚に近いかもしれません。
一方で、Stem分離機能や、「Splice」の「Create」機能、各種AI型プラグインといった「支援型AI」は、自分の脳内にあるイメージを具現化するスピードを圧倒的に加速させてくれる、極めて優秀なアシスタントだと感じています。これらについては後述の設問で詳しくお話しします。
Q2. 制作フローとメロディ・言葉作りにおけるこだわり
SONICWIRE: 宇野様は普段、トップラインと作詞をメインに担当されているとお伺いしました。これまでの制作フローや、ご自身のメロディ・言葉作りにおけるこだわりについて教えてください。
宇野水木: 私はコンペ作家なので、まずコンペシートを読み込むところから制作がスタートします。そのコンペで求められているジャンル感の得意なメンバーに声をかけてチームを作り、メンバー内でリファレンス分析、BPM、コード感、尺について議論を重ね、コードとメロディ、簡単なドラムイメージのスケッチを作るというフローが多いです。場合によってはメンバーのトラック先行でスタートすることもありますし、ライティングセッションで制作することもあります。
トップラインと作詞は切り離すことができないと私は思っていて、同じメロディでも歌詞のハマり方次第でキャッチーにもなれば、チグハグにもなってしまいます。そのため「母音の響きがトラックのビートとどう噛み合うか」という、サウンドとしての言葉選びを徹底しています。
耳に残るフック、リズムとしての心地よさ、そして物語性が三位一体になる着地点を探りながら、メロディと言葉を紡いでいく。このプロセスこそが、支援型AIにせよ生成AIにせよ、現時点では到達できていない「人間の領域」だと感じています。
Q3. アレンジ・ミックスにおけるAI搭載プラグインの活用例
SONICWIRE: AI機能が搭載されたプラグインを活用して、ご自身でアレンジやミックスまで挑戦されるようになったとお伺いしました。今回は特別に、『初音ミク NT』をボーカルに迎えた楽曲『八時の方角』も制作いただきましたが、具体的に「どのプラグイン」を「どのような工程」で活用されましたか?実際に使用してみて印象に残っている部分などをお聞かせください。
宇野水木: 今回も私の得意とする「コード進行を確定させてからスタートする形」でAIを活用しました。
【アレンジ工程:「Splice」の「Create」機能など】
まず自分でセクションごとのフレーズを作成し、それを「Splice」の「Create」機能(AIがコードやジャンルに合わせて、「Splice」上の音素材から最適なサンプルを提案してくれる機能)に読み込ませました。そこからジャンルを絞り込んでアレンジの素材を集めていくアプローチです。集めたループ素材を『Hysteresis』などでスタッターやグリッチ感のある現代的な質感にエディットし、『Bloom Vocal Edit』でボーカル・チョップを作成。フックにK-Popライクなエッジを効かせたトラックを作り、そこに『初音ミク NT』の歌に似合うJ-Popなメロディを乗せていきました。
【ミックス工程:『Ozone』 / 『VEA』 / 『Curves AQ』 / 『Fresh Air』 / 『OTT』 など】
ミックスに関しては、これらのAI型プラグインにあるプリセットや、プラグインが提案してくれた結果を、この時はそのまま適用しました。実は、楽曲をストリーミング配信した後に、SONICWIREさんのブログ記事「簡単に音が良くなる『チート』と呼ばれるプラグインを沢山使うとどうなる?」を拝読しました。記事内の「トラック数が少なければワンクリックでも成立するかもしれないが、要素が増えるとやはり飽和してしまう」という指摘はまさにその通りだと思いました。プラグインの挿しすぎで崩壊したミックスは、マスタリング・ツールの力技でもごまかせないなと実感したところだったので。
今回はその「実験」として、2つの音源を用意しました。読者の皆さんにもぜひ聴き比べていただきたいです。
● バージョンA:AIチートプラグインを駆使し、ほぼワンクリックで仕上げたミックス
● バージョンB:同じ素材を、CWFの信頼できるプロのクリエイターの耳で丁寧にミックスし直した仕上がり
AIツールの実力と、人間の耳による繊細な微調整の重要性が一発で伝わる面白い比較になっていると思います。『初音ミク NT』の歌声も、聴き心地がまるで違います。
Q4. クリエイター視点で感じるAI活用の課題と期待
SONICWIRE: 現状のAI活用に対して、「あと一歩足りない」と感じる部分について、率直なご意見を教えていただけますか?「ここが改善されれば」と感じる部分や、未来への期待感なども含めてお伺いしたいです。
宇野水木: 現時点で感じている課題は、「生成AI」と「制作支援AI」が同じ「AI」という一つの言葉で語られてしまっていることです。
私自身、Stem分離やリファレンス分析、アレンジ支援、ミックス支援など、クリエイターの制作工程をサポートする「支援型AI」には大きな可能性を感じています。一方で、テキストプロンプトだけで楽曲を生成するブラックボックス型の「生成AI」については、現状では著作権や学習データなどのルール整備が十分とは言えず、職業作曲家としてコンペ制作に取り入れることはできません。
私が所属しているCWFでも、「テキストプロンプト等によりブラックボックス形式で楽曲を生成する生成AIの使用は、コンペ用楽曲においては原則禁止」という明確なガイドラインがあります。商業音楽の現場においては権利関係が不透明な生成AIは扱えないため、技術的な検証はしつつも実制作のベースに組み込むことはしていません。
そして、支援型AIにしても現状では「ワンクリックの一発提示なら結局“平均点”にしかならない」と実感しました。
私は歌詞のブレインストーミングの壁打ち相手として「ChatGPT」を使うことがありますが、出力されたテキストはそのままでは使いものにならないと感じています。ただし、ラリーを続ける中で出てきた「たった一つの単語」から、私自身の脳が刺激されてひらめきを得ることがあります。この「ひらめきのトリガー」としての役割には、非常に可能性を感じています。
これまではそのインスピレーションを得るために、書店を何時間も巡ったり、古今東西の音楽を漁ったりする時間が必要でした。その探索コストを大幅に圧縮し、クリエイターの脳を効率よく刺激してくれるツールとして、今後のAI進化には期待しています。
一方、本音を言えば未来への期待と同じくらい畏怖もあります。音楽が動画のBGMなどとして利用されるだけなら、現状の生成AIでもすでに十分なクオリティに達しているからです。だからこそ、私たち人間にしかできないエモーションの宿し方や独自の作家性の価値が、今後はより一層問われる時代になるのではないでしょうか。
Q5. AI活用によるメリットと自身の活動への良い効果
SONICWIRE: そうした課題もある中で、AIを活用し、ご自身でできる作業が増えたことのメリットは何だと感じていますか?また今回の制作を通して、実際にご自身の活動にどのような良い効果があったのか、具体例を交えて教えてください。
宇野水木: 最大のメリットは、コーライトを主戦場としてきた私が、「自分の頭の中にある世界を一人でパッケージする手段を手に入れたこと」です。
もしAIのサポートがなければ、今回のようなオリジナル曲を一人でゼロから形にすることは諦めていたかもしれません。それが、Stem分離機能によってリファレンスの構造を深く理解できるようになり、アレンジの引き出しができました。さらに、欲しい素材のイメージがあれば「Splice」ですぐに探せる環境も手に入りました。
私にとってAIは、作曲を代わりに行う存在ではなく、トップライン、作詞という自分の強みを軸にしながら、これまで手が届かなかった工程まで表現できるようにしてくれる「制作の可能性を広げるツール」です。
AIによって制作の方法は変わっていくと思いますが、「何を伝えたいのか」「どんな音楽を届けたいのか」を考えることは、これからもクリエイター自身の仕事であり続けると思っています。私はその核となる部分を大切にしながら、新しい技術としてAIと付き合っていきたいと考えています。

音楽ジャンルの枠を超え「アーティストの個性を再定義」した楽曲を制作するソングライター/プロデューサー。
CWFという多様なリズム、グルーヴ、ルーツを持つ音楽家集団とともに、R&B、Soul、Funk、Disco、Hiphop、Jazzといったブラックミュージックを核としつつもJ-POPマーケットとの接点を意識したミクスチャーな楽曲制作を得意とする。
3歳からエレクトーン、6歳からピアノを学び、ヤマハグレードで即興演奏・聴奏・ソルフェージュを習得。幼少期から培ったジャンル横断的な音楽理解を武器に、コーライトを中心とした楽曲制作を行う。
また、大学卒業後はWeb・雑誌・書籍編集に従事。音楽と編集、両方のキャリアを持つことで、単なる楽曲制作にとどまらず、アーティストの個性や物語を引き出すコンセプトメイク、ストーリーテリング、言語化を強みとしている。
既存ファンに愛されながらも新しい魅力を打ち出したいアーティスト、デビュー前から独自の世界観を構築したいアーティストとの制作を得意とし、楽曲・コンセプトの両面からサポートを行う。
2019年、OH MY GIRL「抱きしめるの」で作家デビュー。
提供アーティスト:岡田紗佳 / Hey! Say! JUMP / 私立恵比寿中学 / EBiDAN / 前島亜美 / JKT48 / 江籠裕奈 / OH MY GIRL / ONE LOVE ONE HEART / クロノヴァ / SparQlew / 足立佳奈 / STARMARIE / フィロソフィーのダンス / TORA PROJECT / 麻弥 / 他
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