あなたにとって北海道とは?|YouTube再生数1億回超『メズマライザー』のサツキ(32ki)が語る、制作とルーツ
2019年の活動開始以来、型にはまらない楽曲展開と緻密なサウンドメイクで注目を集めるボカロP、サツキ(32ki)氏。爆発的なヒットを記録した『メズマライザー』をはじめ、その独自の音楽性はどのようにして形作られたのでしょうか。今回は、楽曲制作の裏側に迫る「バランス感覚」の正体から、愛用ツール、そして活動の拠点である「北海道」への深い愛まで、じっくりとお話を伺いました。
Q1. 自己紹介
SONICWIRE: 改めて自己紹介をお願いいたします。
サツキ: サツキと申します。ボカロPをやっています。あとたまにイベントとかでDJの真似事もしています。
Q2. 楽曲の「バランス感覚」について
SONICWIRE: 『メズマライザー』や新曲『アヴァート』を拝聴すると、DubstepやColorbassなど、J-POPの枠に収まらない緻密なサウンドメイクがなされている一方で、大衆の心をつかむ「ポップな聴きやすさ」が絶妙なバランスで共存しています。 コアな音楽性とポップスとしてのキャッチーさ、この二つを両立させるために、どのような意図や意識を持って制作されているのでしょうか?
サツキ: 前提として最近は「王道なものを作ろう」とずっと思っています。王道というか、真っ直ぐかっこいいとか、真っ直ぐポップとか、そういう感じです。昔は人と違うことをやろうとか、変な展開ばっかりやってやろうみたいな事を考えていたのですが、「そういう変なことをやろうとするには作曲のことを何も知らなすぎる」と気付いて。その後に自分の中の意識改革として作ったのが『メズマライザー』でした。
でも多分音楽の好みは、挙げていただいたエレクトロなジャンルだったり、Hyperflipみたいなそういう文化に寄っていると思います。根底にそういう物がある人間が、ポップスみたいなのを作ろうとした結果、今の絶妙なバランスになっているのかなと思います。
Q3. 音楽的なルーツと愛用ツール
SONICWIRE: そうした独自のスタイルに落ち着くまでに、どのような音楽的な遍歴があったのでしょうか? 過去に影響を受けたジャンルや、リスペクトしているアーティストがいれば教えてください。
サツキ: 一番好きなミュージシャンがボカロPのトーマさんなんですが、昔は彼のような高速ボカロック、みたいなのを作ろうとしてました。でもそもそも楽器弾けないし、憧れの人の真似事をしても精々下位互換になるだけだなと思ったので早々にその路線はやめちゃいましたね。
その後は長谷川白紙さん経由でBreakcoreというジャンルを知って、そこから段々エレクトロな曲を作っていくようになりました。そして長谷川白紙さんのルーツを辿っていくと、SoundCloudというサイトに辿り着いて。そこで独自の音楽シーンが賑わっていることを知ってから、その方面にものめり込んでいって、色々なジャンルのキメラで出来ているのが現在の自分です。
あとは、たま~にエレクトロスウィングというジャンルも作るのですが、それはぬゆりさんと栗山夕璃さんの影響がかなり大きいです。いずれも、影響を与えてくれた人の二番煎じにはならないよう差別化して曲を作っている……つもりです。出来ているかは分かりません。模倣って結局、リスペクトからは遠い行為だなと、過去に自分が模倣の経験をしているからこそ思っています。
やや話が逸れた気もしますが、現在はBreakcore/Colorbass/Dubstep/Hyperpopあたりの混合っぽいことをしつつ、グラニュラー・サウンドを豊富に取り入れています。明確に「このジャンルを作っています!」みたいなのはスッと言えません。グラニュラー・サウンドはAbleton付属の『Simpler』や『Granulator』、『Hocket』などを使いつつ、imagiro 『autochroma』やOUTPUT 『PORTAL』などといった外部のプラグインも使っています。
Q4. 歌詞に込めた「哲学」
SONICWIRE: ポップなメロディやサウンドとは裏腹に、歌詞には「悲しさ」や「シニカルな視点」、そして最後には「許し」や「救い」といった深みを感じます。 サウンドとはまた別の魅力を持つこの世界観は、サツキさんご自身のどういった経験や思考から生まれたものですか? ご自身の考えを投影されている部分があれば教えてください。
サツキ: そもそも根が厭世主義、もしくは悲観主義気味というか、だから楽曲のテーマを扱う時にネガティブな話しか出来ないんですよね。ポジティブなことも書けるっちゃ書けるんですけど、かなりエネルギーを使う感じで……。なんかカッコつけましたが、言ってしまえばただの捻くれた根が暗い人間です。
歌詞のテーマは、曲名先行のときもあれば内容先行の時もあります。『CIRCUS PANIC!!!』や『第n次元』は曲名先行で内容を考える、『メズマライザー』や『オブソミート』はもともと言いたいことだけが決まっていた感じですね。
自分はとにかく考えることが好きで、一人で答えのないことについて頭を働かせるのが一個の趣味というか。内容はなんでも、SNSを見ていた時や友人と話していた時に感じたこと、散歩中にふと「そういえば」と思ったことから様々。とりあえずメモ帳に雑に書いておいて、その後に使えそうなものをピックアップしていくって感じです。
特に『メズマライザー』以降、仰っていただいたように、オチとして「許し」や「救い」といった前向きな部分に着地することが多いのですが、これは投げっぱなしで終わらせることがあまり好きではないからですね。特に前段がちょっと攻撃的だったり、絶望的な内容のものこそ、「こんなことに怒っています!」「今こんなことで辛いです!」というだけではなくて、それを受けて「どのような自分なりの解答を出すのか」をしっかり明示するまでが責任だと思っています。後味が悪くならなくていいかなと。そこまで考えて、漸く思考を全世界に発信するに足るなと、個人的には思っています。
最近はようやく「そもそも怒りとか、そういうマイナスなところから離れた作詞がしたい」と思うようになって。今、この活動が人生の全てになっちゃってるところもあって。感情とか、外的要因とかも一辺倒になってしまいがちだなと思っています。かなり取り出しやすいところにあるから、よく使っちゃうみたいな。それだと創作者として成長しないと思うし、今の立場でネガティブなこと言っていてもしょうがないのではないかと思えてきたので、今年は敢えて別の引き出しでの作詞をしてみたいです。
Q5. 「北海道」という場所とルーツ
SONICWIRE: ここからは「場所」についてお伺いします。改めて、ご自身が生まれ育ち、活動の拠点としている「北海道」という土地は、ズバリ、サツキさんにとってどのような存在ですか?
サツキ: 冬は本当に寒いし、雪が降ったら外に出るのも億劫になるし、東京とかの都会に比べたら不便なことも多いんですけど。でも、生まれ育った土地だから、ここの気候とか、流れている時間のスピード感が自分の身体に完全に馴染んじゃってるんですよね。無理して背伸びしなくていいし、オンとオフを自然に切り替えられる。等身大の素の自分でいられる場所です。
SONICWIRE: 北海道の中で、特にお好きな場所や思い出のスポット、あるいは「これは美味しい」というご飯など、個人的なエピソードがあれば教えてください。
サツキ: 思い出の場所で言うと、「ウイングベイ小樽」かもしれないです。自分が札幌に出てきたのは大学生の時からで。それまでもっと地方にいたんですが、子どもの頃、月に1回ほど家族で遊びに行くのが当時のご褒美というか、楽しみでした。加えて、小樽の高校に通っていたので、放課後や部活後はよく遊びに行って、何をするでもなくフードコートで駄弁ったり、映画を見に行ったりなどなど……。あそこには自分の青春時代の思い出が詰まってますね。なので、SNOW MIKUのクリエイターズマーケット(即売会)がウイングベイ小樽で開催されているのは、個人的にめちゃくちゃ嬉しいです。
Q6. 札幌に根ざす理由と活動の「軸」
SONICWIRE: インターネットがあればどこでも活動できる時代に、北海道に根ざして活動を続けられている意図は何でしょうか? また、ご自身の活動や精神面にどのような影響を及ぼしていると感じますか?
サツキ: まずはやはり、クリプトンさんの本社が北海道にあるというのが大きいかもしれないです。お膝元、というか。折角これ以上ない土地に生まれたので、ボカロPとして生きていく上では他に出ていく選択肢が考えられないですね。そもそも、自分はあんまり生身を出して表に立つような活動は別にしたくないんですよね。今はDJ出演を月一くらいで行って、即売会にたまに参加するくらいで。DJについては、呼んでいただいているうちはちょこちょこ出ようかなとは思いますが、いずれ徐々にフェードアウトするつもりです。だから東京に定住する意味がそもそも無いというか。
それに加えて、やっぱり北海道が好きなんですよね。当たり前ですけど。特に冬が好きで。真冬の晴れている日に、その時の寒さを肌で感じながら、外を意味もなく歩くのが毎年の楽しみです。身体に纏わりついてこない心地良い寒さというか。確かに肌に触れてはいるんですが、どこか距離が遠いんですよね。何言ってるかわからないと思うんですけど、とりあえず北海道の冬が大好きということです。
サツキとして生身を出すときは、殆どが本州でのイベントです。そのため、北海道にいる時のなんでもないただの一個人の自分から、飛行機に乗って、例えば東京に着いた時に「ここでは自分は“サツキ”として振る舞うぞ」という、ある種の意識の切り替えみたいなものができていると思います。ずっと東京に住んでいたら、そこの境界線が曖昧になって、ちょっと病んじゃいそうかも。
SONICWIRE: 長くクリエイティブな活動を続けていく上で、大切にしている「考え方」や「哲学」などがあれば教えてください。
サツキ: 他人との対話ではなく、第一は自分と対話し続けることかもしれないです。再生数とか、フォロワーとか、勿論全く気にしていないわけじゃないんですけど。もう正直、壁としてデカすぎるものが自分の曲で一つあるので、そればかり追い求めていたらすぐ潰れちゃう気がしますね。
後はまあ、リスナーだけでなく、「同業者受け」みたいなのあるじゃないですか。曲を投稿するだけでXのTLが絶賛一色で埋まるような人。そういうのもめちゃくちゃ憧れますが、結局それも、どうにかそうなろうと思って出来ることではないと思います。なのでまずは、自分がやりたいこと、表現したいこと、挑戦したいこととか、そういうのを第一に創作していきたいなと思っています。今はとりあえず自分のしたいことをとことんしようの時期で、結果的に最近は1ヶ月に1曲以上のペースでMV投稿を行ってます。
Q7. 海外からの反響と今後の展望
SONICWIRE: 北海道から生まれた音楽が、国境を越えて世界中で愛されている現状をどう捉えていますか?
サツキ: 率直に嬉しいです。現在、自分のYouTubeチャンネルでは日本人の比率が30%程度だったり、楽曲のコメント欄が多様な言語で溢れているなど、かなりグローバルなチャンネルになっているのを実感しています。たかだか、一オタクが作った曲が海を越えて沢山の国の方々に聴いていただいているのは、なんだか不思議な気持ちですね。
最近はSAWTOWNEやJamie Paigeなど、海外のボカロPの知り合いも少しずつ増えてきました。ですが、自分が英語を話せないことで、会話でのコミュニケーションができなくて歯痒い思いをしたことや、韓国の即売会に行った時、「カムサハムニダ」のみで二日間を乗り切った事も踏まえて、色々な言語の勉強をして、外国のリスナー等ともお話できるようになっておきたいかも。好きな海外ミュージシャンが、自分の国の言語を覚えて会話してくれようとするその姿勢って、結構嬉しいと思うので。
SONICWIRE: 「北海道から世界へ」という視点も含め、今後の活動で見てみたい景色や挑戦したいことがあれば教えてください。
サツキ: 北海道でのイベントをもっと充実させたい!とも思っています。現状では雪ミク関連か、初音ミク JAPAN LIVE TOURのようなライブが不定期で開催されるくらいで、折角初音ミクの本拠地(?)だし、もっとやれることが沢山あるんじゃないかなあと思っています。自分はクリプトンさんの本社に行こうと思えば簡単に行ける距離に住んでいるので、なにか自分がお力添え出来ることがあればなといつも思っています。それこそ自分が考えていることなんて、クリプトンさん側も一度検討したうえでの現状だとは百も承知で、北海道をもっと盛り上げていければと切に願っています。本当に自分なんでもやります。やれます。
SONICWIRE: 最後に、読者・ファンの皆様へのメッセージをお願いいたします。
サツキ: いつも曲を聴いてくれている、もしくはこの記事を読んでいる皆様、いつもありがとうございます。自分はこれからも変わらず、北国の片隅で曲を沢山作り続けていくと思います。世界中どこにいても繋がれる時代ではありつつ、どうしても最終的には首都圏に様々な娯楽が集中してしまう現状です。ですが、どこに住んでいようが面白いものは作れるし届くと思っているので、これからも変わらず、自分の好きな曲を好きなだけ作っていくので。皆さんも好きな時に聴いてくれたら嬉しいです。
また、Ableton公式サイトでもサツキ氏のインタビューが掲載されています。制作手法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてみてください。
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2019年活動開始のボカロP。型にはまらない曲展開や重厚なサウンド、叙情的な歌詞が特徴的。
代表作:『メズマライザー』『オブソミート』『CIRCUS PANIC!!!』
folder NEWS, SONICWIREニュース, インタビュー/レビュー, クリプトンDTMニュース
label サツキ
