SONICWIRE

チープな音も“残響”で大変身!音に本気度をプラスする「リアル系リバーブ」特集

2024年5月22日 17:41 by yuk

音楽制作において宅録やソフト音源の使用割合が増す昨今、もう少し立体感が欲しい、自然な響きが欲しいといったニーズは高まりつつあります。

それに呼応するように、ここ数年「スタジオの響きを再現するリバーブ」のリリースが盛んになっています。

今回は、そんなリアル系リバーブを丸っとご紹介します。

リアル系リバーブがウケたワケ

リバーブといえば、映画などの音響効果のために「エコー・チェンバー(残響室)」を用いて残響を生成する放送局規模のシステムが始まり。コンクリートで囲まれた空間にスピーカーとマイクを置くという、なんとも原始的な仕組みです。

それからしばらくして、部屋を作るのはコストが高すぎるということで考案されたのが、EMTに代表される「プレート・リバーブ」です。その名の通り金属板の振動による残響を利用する仕組みで大幅な小型化を実現したものの、それでもベッド一台分程度は軽く超える大きさがあり、スタジオの壁に埋め込んで使用されました。

更に小さくする方法を模索した結果、バネを利用した「スプリング・リバーブ」が商品化されます。持ち運び可能なサイズになり、ギターアンプにも搭載されたことからリバーブという効果を浸透させるのに一役買った存在です。

リバーブユニットを叩いたり、過大入力させると「バチュン」という特有のサウンドが鳴り、ダブジャンルをはじめとして音楽文化に大きな影響を与えました。

その他、テープ・リバーブやデジタル・リバーブなど様々な方法で残響が生み出されていきましたが、現実空間の残響を捉えたのは“超特殊な空間”であるエコー・チェンバー以外に存在しませんでした。

ここにパラダイムシフトをもたらしたのが「IR(インパルス・レスポンス)」技術です。

簡単に言えば現実空間の残響のスナップショットを録るようなもので、あらゆる空間のリアルな残響を再現できるようになりました。

しかし、前述の人工的なリバーブはある種「音楽的な響き」として認知されており、IRはあくまでも選択肢の一つとして、ここ最近まで大きく盛り上がることはありませんでした。

この静粛を破ったのは、UAD『Ocean Way Studios』IK Multimedia『T-RACKS SUNSET SOUND STUDIO REVERB』のような、スタジオの響きを再現するリバーブ製品です。伝説的なスタジオの響きを手軽にトラックに取り入れられるようになり、徐々に市民権を得ることとなります。

このようなスタジオの響きを再現するリバーブは、スタジオの機材やエンジニアによるアドバイスの元、実戦さながらの環境でIR収録が行われます。トップエンジニアの御業にかかったIRは、それまで存在していたものとは一線を画す、自然な立体感と音楽的な響きを高いレベルで両立。現代の制作フローにマッチしたリバーブを実現することに成功しました。

また、マイクや楽器(トラック)をルーム内に自由に配置できる、空間を丸ごとシミュレーションするような技術も発達しており、本当にスタジオで録音したかのような残響処理が可能になっています。

SPITFIRE AUDIO『AIR STUDIOS REVERB』

本格オーケストラ音源の第一人者 SPITFIRE AUDIO の初めてのプラグイン・エフェクトとなる『AIR STUDIOS REVERB』は、教会を改修して作られた 英AIR Studios の Lyndhurst Hall(リンドハースト・ホール) の空間を丸ごと再現することに成功したリバーブ・プラグインです。

Lyndhurst Hall は、フルオーケストラの録音が可能な「スコアリング・ステージ」に属するルームで、「ハリー・ポッター」シリーズをはじめとした映画音楽や、数々の著名なミュージシャンが使用する世界有数の音響空間です。

元々が教会であったことから、他のスタジオには見られない円錐形に近く高い天井高の空間が特徴。独特のモジュレーションがかったような揺らぎのある残響を発生し、気品溢れる質感を与えます。

67,000以上のIRサンプルを元に、設定に応じたIRを再生成する独自の技術が投入されており、Lyndhurst Hall の好きな場所に、好きな向きで音源を配置することができるようになっています。

本格的なシネマティック・スコアリングを指向する方は勿論、リバーブタイムが長めでありながらも、妖艶な質感をまとう残響が欲しい方にオススメです。

最も精細なコンボリューション・リバーブ
税込価格 ¥54,934
  • メーカー:SPITFIRE AUDIO
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

IK Multimedia『T-RACKS SUNSET SOUND STUDIO REVERB』

高い技術力によって初心者からトップ・プロまで幅広いユーザーを抱える IK Multimedia『T-RACKS SUNSET SOUND STUDIO REVERB』は、上でも触れたようにリアル系リバーブの火付け役的存在であり、定番としてなおも君臨しています。

独自のVRM™(Volumetric Response Modeling = 体積応答モデリング)技術により旧来のIRを凌ぐ高い空間再現度を達成しつつ、数々のヴィンテージ機材による音質の変化も併せて再現することにより、まるでサンセット・スタジオで録音したかのような変化を与えます。

残響の質感を複数のルーム/ヴィンテージ・リバーブユニットから選択できるため、主にポップス楽曲などを主軸とし、様々な質感のリバーブが欲しい方にオススメです。

サンセット・サウンドのスタジオ、ブース、プレート・リバーブを再現する、 コンボリューション・リバーブ・プロセッサ
税込価格 ¥16,990
  • メーカー:IK Multimedia
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

VSL『VIENNA MIR PRO 3D』

音楽の都ウィーンに拠点を構える VIENNA SYMPHONIC LIBRARY は、リバーブ・プラグインとしてハイエンドに位置する『VIENNA MIR PRO 3D』をラインナップしています。

「MIR」自体の歴史は比較的長く、リアル系リバーブの草分け的な存在でもあります。VSL社が誇る高度なサンプリング・テクノロジーを遺憾なく振るい、当時初めて“空間の完全再現”をなしえた製品といえます。3Dとして刷新されてからは、アンビソニックスをはじめとしたイマーシブ・フォーマットに対応し、没入感に更なる磨きをかけています。

『VIENNA MIR PRO 3D』の特徴は、3D画面上の好きな位置/角度に楽器(トラック)を配置することができ、視覚情報と一致した残響を具現化できる点です。ルームパックの『MIR 3D ROOMPACK 2 STUDIOS & STAGES』は、クラシック収録の聖地ともいえる「Teldex Studio Berlin」を含む複数のルームを収録しており、デスク上に広大な極上音響空間を展開することができます。

その他には主にクラシックホールを中心としたルームパックをラインナップしており、ハイエンドな環境やクラシカルな残響を求める方にオススメです。

音楽を3Dの世界へ誘う、IRリバーブ&ミキシングツール!
税込価格 ¥102,410
  • メーカー:VIENNA SYMPHONIC LIBRARY
  • カテゴリ:ソフトウェア/ツール

INSPIRED ACOUSTICS『INSPIRATA PROFESSIONAL EDITION』

情報通信技術サービス企業の一部門である Inspired Acoustics は、VSL社「MIR」のように仮想空間上に音源とリスナーの自在な配置を可能とした『INSPIRATA PROFESSIONAL EDITION』をラインナップしています。

スタジオやコンサートホールだけでなく、礼拝堂や住宅の部屋、ライブハウスや公共空間までが収録されており、音楽だけでなく映像作品の制作にも活用できる充実の内容が魅力です。

MIRほどではないものの必要十分な自由度を持ち合わせており、残響の質感調整機能によってリバーブをとことんデザインできるようになっています。

リアルな残響を元に響きをデザインしたい方、音楽用の空間以外も含んだ多彩な残響空間を求める方にオススメです。

究極のイマーシブ・リバーブ・ワークステーション(Pro版)
税込価格 ¥43,740
  • メーカー:INSPIRED ACOUSTICS
  • カテゴリ:プラグイン・エフェクト

さいごに

リアル系リバーブ・エフェクトは、今回紹介できていない日本のスタジオを舞台とした UAD『Sound City Studios Plug-In』 や、扱い易いUIで Teldex Studio Berlin の残響を付加する Samplicity『Berlin Studio』 などを含めて、どんどんと新しい製品が登場しています。

需要があるからこそ供給が増えているわけで、世界のクリエイターが良質な残響を求めている証拠とも言えます。

手持ちのリバーブになんとなく不満を感じている方、一度リアル系リバーブもお試しになってみてはいかがでしょうか?