SONICWIRE

上品さと力強さを兼ね備えた、
使いやすく完成度の高いブラス音源

Cinematic Strings Product Interview Presented by SONICWIRE

今や定番ストリングス音源のひとつとして高い評価を得ている「CINEMATIC STUDIO STRINGS」(以下CSS)、そのブラス版が「CINEMATIC STUDIO BRASS」(以下CSB)だ。

メーカー名はあまり表に出てこないが、CINEMATIC STRINGS社という。そのミュージシャン寄りの設計思想と、上品な質感がお気に入りで、第一弾のCINEMATIC STRINGS2(以下CS2)から愛用してきた。

CSSに続いて、3年間をかけて作られたという同シリーズのBrass版。期待を裏切らない完成度となっている。

というわけで、今回は少し深掘りしてみたいと思う。

まずは音質。

CSSの持つ高級感、上品さを継承しつつ、ブラスらしい力強さも兼ね備えている。

Sustainのダイナミクスは4段階。美しい最弱音から、ハリウッドサウンドにも使える派手なffまで、しっかりと振り幅がある。ただ、ffも決してビービーと薄っぺらいところまでは行かず、上品さを完全には失わないあたりが、いかにもCS社らしい。そのことも功を奏してか、ダイナミクスクロスフェードは、かなり自然で心地よい。

ブレスコントローラーを愛用しているが、この場合もダイナミクスコントロールが快適で、個人的には特に嬉しい。

デフォルトのMIXマイクの音は、クラシック系ほどオフではないが、広めのスタジオが持つアンビエンスを適度に持っていて使いやすい。輪郭がありつつふくよかな響きを持ち、バランス良く仕上げられている。

CSSとの相性はもちろんバッチリ。「CSSは良いけれど、もう少し派手さがあっても」と感じるタイプの人も、CSBの場合は、その点あまり気にならないのではないかと感じる。同じ傾向は持ちながらも、ブラスに求められる華やかな役回りはきっちりこなせる強い音も持っている。

トランペットとトロンボーンのアンサンブルは2本、ホルンは4本(バストロンボーンとチューバはソロのみ)。スタジオでは一般的な本数だし、ポリ数に合わせ本数が増えることを考えれば十分とも言えるが、さらにもう少し厚みが欲しい場合には、ソロとアンサンブルをミックスするという方法も考えられる(音源としては、特に想定していないようだが)。試してみたが、確かに厚みが一段増した。

トランペットからチューバまで、どの楽器も粒ぞろいだが、特に気に入ったのがホルンだ。

広いダイナミクスを持つ楽器にもかかわらず、ダイナミクスクロスフェードの移行が自然なため、クレッシェンドなども問題なくコントロールできる。音域は、E1~G4(YAMAHA)までカバーしている。

参考までに、HornのSustain、Legato onで、簡単に即興的なソロプレイをしてみた。

インターフェースは直感的で、大変わかりやすい。

CSB GUI

CSSなどとほぼ同様ということもあり、同シリーズを使ってきた方なら迷うことはない。

もちろん、ここまでシンプルな形に行き着くには、配置やデザインの洗練ということだけでなく、「何を捨てるか」という命題とも向き合ったはずだが、少なくとも私は、特に不足を感じることはなかった。

例えば、ダイナミクスの入力具合を見るフェーダーなどは見当たらない。

エンジニア的発想に立てば、ホイールの動きに連動したフェーダーを見たくなる気持ちもわかるが、DAW側で確認できれば済む場合も多い。楽器として捉えると、例えば生のトランペットにフェーダーなんてないわけで、それは音で感じればいいこと、CSBにはそういった潔さを感じる。

その分、必要なパラメーターはわかりやすく配置される。楽器としてシンプルに使いやすく、という立ち位置が感じられ、好感が持てる。

音色リストもいたってシンプルで、各奏法は楽器ごとにまとめてロードされる。

奏法違いを沢山用意されて迷う、ということもない。

不要な奏法をメモリーから除外したければ、マトリクスボタンのoption+クリック(windowsではalt+クリック)で、メモリーから簡単に取り除くことができる。

また、全ての楽器を一つにまとめたEnsembleという音色もあり、スケッチなどで便利に使える。

奏法別に見ていこう。

アーティキュレーションは、基本的なものがひととおり揃う。主軸は、ゆったりしたフレーズ用の[Sustain]、速いフレーズ用の[Marcato]だろう。

[Sustain]のレガートは、どの楽器もとても自然で美しい。CSSと同様、ヴェロシティでレガートスピードをスイッチングでき、フレーズの細かなテンポ感に合わせて使い分けられる。ちょっとした違いだが、たしかに強くキータッチすると移行時間が速くなる。このあたりレガートに対するCS社の強いこだわりを感じる。ただレガートの時間分、聴感上発音が少し遅れる感じにはなるので、それに合わせて若干早めにNOTE ONする必要はある。

またSUSTAIN系の音色では、ダイナミクスのCC(デフォルトではCC1)を下げていけば、最弱音のサンプルが発音されている範囲内でも、ボリュームの作用で音量がさらに下がっていき、最後は音が消える。「TO SILENCE」と呼ばれることもあるこの機能は、繊細な表現が可能で、地味ながらポイントが高い。

ただし、NOTE ONのままCC1をゼロにする時、リリースサンプルによるリヴァーブが発音されずに消えるため、特に急激に下げた時など、別枠でリヴァーブをかけていないと不自然に消えてしまうことになる。その点だけ注意が必要だ。(切る瞬間はCCではなく、ノートオフで行うことにより解決する。)

[Marcato]にも、こだわりが詰まっている。

早いフレーズ用のレガートサステイン音色(こちらもヴェロシティに対してレガートスピードが2種に変化する)に加えて、[Staccato]マトリクスにもある Repititions(Staccatissimoよりさらに短い、連打用の短音)を同時に発音できる仕様になっている。

これがとてもよくできていて、ふたつのバランスが良く、なじみ具合も良好だ。このおかげで、スタッカートやアクセントなども含めた自由自在な演奏が可能だ。

この手法自体は昔からあり、ロングトーンの頭に、自分でスタッカートサンプルを加え、アタックを明確にしたり、アクセントを自由にコントロールしようとする人はいたし、第一弾のCS2にも機能として搭載されているが、CSBではRepitition自体が4段階のヴェロシティダイナミクスを持っていることもあり、かなり自然になじんで聴こえる。

また、レガートで弾くときに限り、ヴェロシティが弱いとRepititionを発音しないようになっているなど、できるだけ不自然にならないよう所作が考えられていて、細かなところがよくできているなあ、と感心する。これは、CSSからさらに改良された部分でもある。

確かに、しっとりしたフレーズには、スローなレガートサンプルと柔らかなダイナミクスが用意されているSustainの方がベターだけれど、とはいえMarcatoだけでも、うまくコントロールできれば、ほとんどのフレーズにひとまず対応できる、そんな汎用性のあるパッチになっている。

[Trill]はCSSと同じく、半音か全音の2音を同時に弾くことで、トリルの音程を指定した形で単音が発音され、こちらも直感的だ。(ポリにも対応可、例えば4音弾くと、2声のトリルとなる。)

またダイナミクスクロスフェードもあり、トリルのクレッシェンドなども表現できる。(トロンボーンにはトリルは無し。)

[Mute]もレガートボタンはあるが、こちらは音を聴く限り、レガートというより通常のモノモードのようにも聴こえる。もしレガートサンプルがないとしたら、ちょっと惜しい気もするが、だとしてもそれは贅沢な望みと言うべきかもしれない。ダイナミクスは4段階あり、心地よく推移。ShortとSustainからチョイスできる。(チューバにはMuteは無し。)

[Staccato]は、4段階のヴェロシティによるダイナミクス(ただし一番長いsfzだけは3段階に聴こえる)を持ち、さらに長さの異なる4種のバリエーションを備えているが、聴感上のアタックが全て-60msに揃えてあり、入力後にスタッカートの長さを変えてもタイミングを変更する必要がない。 このあたりもCSSと同じだ。

例えば、遅延60msの音を1トラックにまとめ、トラック全体であらかじめ-60msのマイナスDelayをかけておけば、クオンタイズも自由にかけられるだろう。(そういうこともあって、私はキースイッチはあまり使わず、奏法ごとにトラックを独立させて使うことが多い。)

[Double Tongue]はダブルタンギングをサンプリングしたもので、テンポに同期できる。キーオフすると、タンギングを終えたサンプルがリリースサンプルとして自動的に発音され、直感的に扱える。(チューバにはDouble Tongue無し。)

[Rips]は、トランペットとホルンでは、約1オクターブのグリスアップをサンプリングした短い音が発音される。トロンボーン系では長2度のスライドアップ。(ただしトロンボーンアンサンブルでは、なぜかEb2以下は長二度スライドダウン。)チューバにもこのアーティキュレーションはあるが、楽器の特性上曖昧なグリスとなっている。

[Rips]に[Marcato]をうまく繋げれば、グリスアップしたところでロングトーンという手法も可能だろう。

最後に

以上ざっと見てきたが、スタジオらしい輪郭のあるサウンド、演奏のしやすさ、シンプルなインターフェースなど、かなり使いやすい音源だと感じる。近現代のフルスコアまで再現できるような、いわゆる全部入りのタイプでは無いが、通常の使用においては大活躍できそうだ。

さて、今後へのさらなるリクエストがあるとすれば、最近次第に増えてきたポリフォニックレガートへの対応だ。

和音でリアルな音が出せれば、制作は効率化し、ライブでの使用においてはリアリティーが飛躍的に高まる。このようなハイクオリティな音源で実現されればかなり強力だ。

なお、ビブラートコントロールは付いていないが、これは特にソロ音色などで、サンプルクロスフェード時に、複数の音がにじむ問題がつきまとうため、敢えて避けているようにも思える。

これはサンプルプレイバック音源全体に共通した悩みだが、最近この問題を解決したプラグインも開発され始めており、さらなる可能性に、今後も大いに期待している。

いずれにせよ、オーケストラブラスとして、今後CSBが自分のファーストチョイスとなるのは、今のところ間違いなさそうである。

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飯田 俊明

(ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲)

クラシカルクロスオーバーを軸に、多彩なジャンルで活動を行うピアニスト、作編曲家。

ドビュッシー、ラヴェルなどに影響を受け作曲を始める。武蔵野音大大学院ピアノ科を修了し、PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。その後、スタジオ・イオン専属として制作活動を始める。

現在まで、二期会、劇団四季、宝塚歌劇団出身のヴォーカリストや、岡本知高、平原綾香、ミネハハ、エスコルタ、中島啓江、元ナナムジカボーカル梢、ジャズの北浪良佳、インストでは、オカリナのホンヤミカコ、タンゴの喜多直毅、環境音楽ではドコモ携帯のサウンドデザインを担当した小久保隆などを演奏・作編曲でサポート。50枚以上のCD制作や、ライブ、TV(NHK、CM他)、映画、ゲーム、またアクアパーク品川(メリーゴーランド他)、六本木ヒルズ時報、万博パビリオンなどの施設に作品提供。

最近の活動には、NHKドラマ「ダルマさんが笑った」主題歌作編曲、ミュージカル田代万里生DVD音楽監督、安藤美姫アイスショー音楽アレンジ、岡本知高&サラ・オレインのデュエットアレンジ、春野寿美礼ニューアルバムアレンジ、松平定知らアナウンサーとの朗読コンサート、中村獅童との即興朗読コラボ、NHK BSドラマ「クロスロード」アレンジ、NHKBS-1スペシャル「沁みる夜汽車」音楽作曲などがある。

演奏力を元に、有機的な表現力を持った打ち込みアレンジが評価され、活動の場を広げている。

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