SONICWIRE

ポリフォニックレガートが秀逸、
演奏性の高い児童合唱プラグイン

Strezov Sampling Product Interview Presented by SONICWIRE

「ARVA Children Choir」は、2019年から国内リリースが続々と始まっている Strezov Sampling社 のプロダクトである。

日本で急速に注目され始めているこのメーカーについて、まずは概説しようと思う。

Strezov Sampling社は、この業界としては珍しいブルガリアのメーカー。George Strezov を中心に、作曲家とエンジニア等によって構成されている。既に40を超えるプロダクトがあり、現在はそのうち9つが、SONICWIREにより国内リリースされた。

私の同社との出会いは、ブルガリアンヴォイスのプラグインを探してたどり着いた「RHODOPE 2 ETHNIC BULGARIAN CHOIR」だった。

RHODOPE 2 ETHNIC BULGARIAN CHOIR

ロドープ 2 エスニック ブルガリアン クワイヤ

本場で収録した本物のエスニック・ブルガリアンクワイヤ音源

¥54,164

詳細はこちら »

さすが本場と思わせるそのサンプルクオリティーだけでなく、最も気に入ったのが、同社の特長である「Polyphonic True Legato(ポリフォニック トゥルー レガート)」による音色リアリティーと演奏のしやすさである。

和音や多声的なフレーズを弾いた場合でも、レガートサンプルが自然でリアルなサウンド、クリアな立ち上がりと、無駄な尾ひれの付かないすっきりした弾きやすいリリース。レガートのために複数のトラックを用意する必要のない利便性。

まるで本物の合唱を指揮しているような快感を得て、このメーカーそのものに興味を持ち、他のプラグインもチェックしてみると、多くのプラグインで同じ特長を持っていた。

例えば、特にレガートが重要なストリングス音源。

AFFLATUS CHAPTER I STRINGS

アフレイタス チャプター 1 ストリングス

自在な編成とオートディビジ/ポリフォニックレガートを備えた総合ストリングス音源

¥144,738

詳細はこちら »

様々なアーティキュレーションのサンプルを時間をかけて並べ、リアルなトラックを組み立てるのではなく、演奏家として「弾けるプラグイン」を求めていた私にとっては、まさに「これこれ!」というものだった。しっかり加工済みの音質も好みで、個性派ではあるが、お気に入りのプラグインとなった。

音ではなく音楽をサンプリングする、というコンセプトも持っているようで、その具体的な方法はわからないが、収録方法にも独自の哲学が貫かれているようだ。今後注目のメーカーだと感じる。

さてStrezov Sampling社は、合唱の盛んなお国柄を反映してか、合唱プラグインが最も充実しており、現在7種類のラインナップがある。

その中で、チルドレンクワイヤの音源が、今回取り上げる「ARVA CHILDREN CHOIR」である。

Syllabuilder

収録には、ソフィア少年合唱団とブルガリア国営ラジオ児童合唱団の二つが起用されている。とくにソフィア少年合唱団は、日本に複数回来日したこともあり、知名度も高い。

児童合唱団は、その性質上メンバーが頻繁に入れ替わるため、指導者によって伝統のクオリティーを保ちつつ、年によってキャラクターは少しずつ異なる。今回サンプリングされた音は、もちろん非常に訓練された声ではあるが、洗練の中にも多少子供らしい、微笑ましいニュアンスもあって、つい笑みがこぼれる。

この辺りは使い方次第といったところだが、Strezov Sampling はイレギュラーな音を、時にわざと排除しないようなところもあり、リアリティーにつなげている。

二つの合唱団を使っているため、同じ音域でもニュアンスの違う Boys と Girls の両方があるのも嬉しい。特にボーイソプラノはあっても、女声の児童合唱のプリセットは意外に珍しいのではないだろうか。

合唱の他に、それぞれソリストも用意されている。

母音のレガートは、Ah、Ooh、Mm の3種。基本的には Soprano と Alto に分けられ用意されている。

母音とは別に、Syllabuilder機能があり、ある程度発音をコントロールできる。自由に歌詞を歌わせることまではできないが、Luh、Pan、Ki、No、Liya、Rih、Leh、Son、Lah、Liyum、計10種の発音が可能だ。

種類は多くないものの、チョイスは至極簡単で、リストから発音させたい順にクリックしていけば、トリガーするたびに発音が変わってゆく。これによりただの母音だけでなく、発音を伴った声の雰囲気を手軽に出すことができる。

Syllabuilder

私の場合は、曲先デモを作るときに、母音だけだとニュアンスが伝わりにくいので、適当に発音を選んで鳴らしたりすることもあるが、それだけでも効果的だ。

アジャイルレガートという機能もあり、ペダルを踏むことで新たにトリガーしても子音は発音されず、母音のレガートになる。例えば、キーを押すたびにララララとなるところが、ペダルを踏むことで、ラーーーとなる。(その代わり、この時ペダルはダンパーとして機能しない。)

ひとつのキートリガーで、「Luh Pan~♪」など、複数の発音を繋いだ音を発声させる Connect機能、それをクロスフェードで行う Morph機能 も備えている。

しかし、やはり最大の特長は Polyphonic True Legato と言える。

独特のレガートスクリプトだけでなくサンプリングノウハウもあるのだろうが、和音を続けて弾いても、なんの違和感もなく思った通りのサウンドが聴け、速いフレーズにもしっかり反応する。合唱サウンドはレガートなしでも比較的破綻のない傾向の音色と言えるが、それでも単音のレガートパッチを複数トラック用意することなく、1トラック弾くだけでレガート付きのリアルなサウンドを作ってしまえるのはかなりありがたい。

仕組みとしては、どうも一番近い音からレガート移行されるようで、例えば Csus4 から C に移行する際、ミの発音は、きちんとファからミへの移行の音を伴って行なわれているように聴こえる。

それにしても、思えば収録相手は子供である。レガートやダイナミクス、ラウンドロビンまで含めたサンプリングはプロの大人でもかなり根気がいるだろうし、子供には酷だったろう。マニュアルにもその苦労が垣間見え、大変な労作であろうことは想像に難くない。

参考までに、母音のレガートパッチにより即興的に弾いた、短い曲を収録した。

  • Girls Sopranos Ah Legato
  • Girls Sopranos Ooh Legato
  • Boys Sopranos Ah Legato
  • Boys Sopranos Ooh Legato

いずれも、1トラックのリアルタイム入力、4つとも同じMIDIデータを使用している。(なお Boys は、ソプラノ音域の下限が C3 まで無かったため、C3 のみ Boys Alto で補っている。)

以上ざっと見てきたが、全体に楽曲制作をシンプルにしたいと考える同社のコンセプトが随所に感じられ、好感の持てるプラグインである。

個人的には、プラグインとしては貴重な Girls系 のパッチが気に入った。

Girls Performance というパッチを使い、即興的なリアルタイム演奏を元に短い曲を作ってみた。編集はしているが、ほぼ一発でこういった演奏が可能だ。気持ちよく弾けるので、気分が乗りやすい。

シネマティック系や、クラシカルクロスオーバー系のトラックを作るときにコーラスは必需品で、ちょっとパッド的に入れるだけで全体がゴージャスになるありがたい音色である。

中でもボーイソプラノは、これまで最後の味付けとしてよく使ってきた。ここに女声の児童合唱が選択肢として加わったのは実にありがたい。こういった美しくかわいらしいコーラストラックが、リアルタイム演奏するだけでほぼ完成するのは、制作方法として何より心地よい。

制作の簡略化だけでなく、生演奏での使用も検討してみたい。コンサートはもちろん、ミュージカルなどオーケストラにキーボードを加えるような現場にも、選択肢のひとつとなるだろう。

それは、この会社のプロダクト全体に言えることでもある。
今後の展開が非常に楽しみな会社である。

ARVA CHILDREN CHOIR

アーヴァ チルドレン クワイヤ

神秘的な少年少女合唱団音源

¥63,217

詳細はこちら »

飯田 俊明

(ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲)

クラシカルクロスオーバーを軸に、多彩なジャンルで活動を行うピアニスト、作編曲家。

ドビュッシー、ラヴェルなどに影響を受け作曲を始める。武蔵野音大大学院ピアノ科を修了し、PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。その後、ライブ活動や、スタジオ・イオン専属として制作活動を始める。

現在まで、二期会、劇団四季、宝塚歌劇団出身のヴォーカリストや、岡本知高、田代万里生、平原綾香、ミネハハ、エスコルタ、中島啓江、ジャズの北浪良佳、インストでは、オカリナのホンヤミカコ、タンゴの喜多直毅、口笛の柴田晶子、環境音楽ではドコモ携帯のサウンドデザインを担当した小久保隆などを演奏・作編曲でサポート。50枚以上のCD制作や、ライブ、TV(NHK、CM他)、映画、ゲーム、またアクアパーク品川(メリーゴーランド他)、六本木ヒルズ時報、万博パビリオンなどの施設への作品提供や、安藤美姫アイスショー音楽アレンジなど。

最近の活動には、ミュージカル田代万里生DVD音楽監督、山根基世、進藤晶子、松平定知らアナウンサーとの朗読コンサート、中村獅童との即興朗読コラボ、NHK BS 桂由美ドキュメンタリー、NHKBS-1スペシャル「沁みる夜汽車」音楽作曲、ホリプロ60周年記念CDアルバムなどがある。

演奏力を元に、有機的な表現力を持った打ち込みが評価され、活動の場を広げている。

toshiaki-iida WebSite | Twitter | Facebook | Youtube

Demosong Playlist
All Clear