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多田 彰文 氏

劇伴制作におけるEZdrummerとEZX / Presented by Crypton Future Media, INC.

ストリングス音源「LA Scoring Strings」での劇伴音楽制作をご紹介させていただいて以来、今回はなんとTOONTRACK社「EZdrummer」というドラム音源(!)でのレビューとなります。ドラム音源というとポップスやロック、ジャズといったバンド音楽にしか縁がないように思えてしまうかもしれませんが、劇伴、いわゆる背景音楽の世界でも重宝されています。このレビューでは、より制作的な観点からEZdrummerとEZXをご紹介させて頂きます。

劇伴におけるドラムの役割

劇伴、いわゆる背景音楽の世界ではやはりオーケストラを使った制作がその大方をしめており、ドラム音源となると一見縁のない存在のように思えるかも知れませんね。しかしながら、テレビ・映画では昔から積極的に取り入れられており、ジャンルもロックやジャズ、フージョン、ラテン、果てはハウス、テク ノ、メタルやパンクロックまでもが守備範囲である非常に興味深い音楽分野となっています。ドラムスを中心に構築する音楽は、アグレッシブな戦いのシーンや追跡・対峙シーンから心を揺るがすバラードでのクライマックスの場面にまで適応し、よりエモーショナルな世界へ誘う力を持っています。

EZdrummerについて

EZdrummerはEZ(=Easy、簡単)の名のごとく、質の高いドラムサウンド、さらにはMIDIブラウザからアクセスするドラムパターンを直感的にオペレートす ることができます。ドラムパターンは音色をフィーチャリングするような手数の多いものよりかは、楽曲として使用するにちょうど良いものが用意されており、ドラムパターンを提供されたプレイヤーのセンスを感じるクールなパフォーマンスを取り入れることができます。そしてそれらはMIDIファイルになっているので、お使いのDAWのMIDIトラックにドラッグ&ドロップし、さらにエディットしてオリジナルなパターンへと変化させることが簡単にできます。

さらには拡張音源「EZX」シリーズによる、様々なジャンルを網羅したサウンドやドラムパターンがリーズナブルな価格で手に入れることができます。 私自身もいくつか購入していますが、そのなかでもお気に入りはなんと「EZX METAL MACHINE」!ビジュアルインターフェイスにでてくるドラムレイアウトに自然と創作意欲が駆り立てられ用意されているパターンからは、心を熱くさせるフレーズが奏でられますね(笑)

TVアニメ「クロスファイトビーダマンeS(エス)」で使っています。

今まさに放映されていますTVアニメ「クロスファイトビーダマンeS(エス)」(以下、「ビーダマンeS」)の劇伴では「EZ KEYS - GRAND PIANO」と「EZdrummer」を使っており、特にドラムサウンドのほとんどはEZdrummerです。最初はモックアップ用にと思って使っていたのですが、そのサウンドクオリティや表現力の高さに惚れ込み、結局最後まで使うこと に(笑)。打込みにあたって、私の場合はEZdrummer内蔵のドラムパターンをそのまま使う事はありませんが、まるでプレイヤーに演奏して聴かせていただくかのように、パターンをチョイス して参考にしたりします。

画像はその当時の制作時に「EZdrummer」を使用している様子です。

「ビーダマンeS」劇伴での音響監督さんからの音楽発注として、主人公・御代カモンをはじめとするキャラクターテーマにロックミュージック、そして 彼らがバトルをともにするパートナーのビーダマンにはメタルロックや、ハードコア・パンクの要素も匂わせたものに、スケール感を出す時にはオーケストラも付加したサウンドに仕上げて行きます。これは生演奏でやるのであれば色々と大変なところですが、EZdrummerのお陰で、まるでプレイヤーが目の前にいるかのようなパフォーマンスを聴かせてくれるのです。本当にいい時代になりましたねっ!

使用するドラムセットを決め、MIDIでドラムパターン・フィルのフレーズを打込んでいきます。で、その後にProTools上でMIDIをオーディオにしていく訳です。

EZdrummerで用意されているミキサーには各パーツダイレクトの音、トップ、アンビエンス等、マイキングされており、マルチアウトでオーディオトラックに流し込む事により、本当のドラム録音をシュミレーションすることができます。しかしながら私はMIDIノートを振り分け、ダイレクトとアンビエンス等混ぜた状態で個々を録音して行く方法をとっています。これは、それぞれの混ぜ具合を違えて先に音色を作り上げたいという理由からの事で、生ドラムで言うところ、ドラムパーツ毎に別々に叩いて録音して行くようなものでしょうか。もちろん、臨場感を優先にダイレクトとアンビエンスを分けた通常の録音をすることもあります。

EZXシリーズについて

拡張音源「EZX」シリーズについてですが、例えば「EZX METAL MACHINE」では、実はメタル・ハードコアパンク以外にもJ-POP音楽、バラードなどにも非常に良く合います。これは、他の 「EZX」シリーズにも言える事で、各ドラムセットはそれぞれ様々なメーカーのドラムパーツを組み合わせて組んである訳で、例えばバスドラムは YAMAHA、スネアはLudwigやSonorと言った組み合わせがなされているのですね(もちろんTOONTRACK社独自のオリジナルなサウンドも中にはありますが)。それらはEZX製品によって使っているドラムのメーカーなどが違うので、プロの立場からはむしろそのメーカーや形番をチョイスする方が比較的に音の想像を しやすいという理由から選ぶことにもなります。

音のニュアンスについてですが、EZdrummerには残念ながらそれぞれのドラムのピッチやディケイ(音の伸び)をチューニングすることは出来ませんが、これは上位の「Superior Drummer 2.0」との差別化からなのでしょうね。ドラマーを呼んでそのプレイヤーに音作りを完全に任せてしまうという考え方になれば楽ではありますが、要望としてはピッチだけでも調節できたらいいなと思っています。

EZX ROCK SOLIDについて

さてここで、METAL MONTH 2012にて新たに出ましたEZX拡張音源「EZX ROCK SOLID」についてすこし触れてみます。

やはり第一の感想は、ROCKやMETALのみならず様々なジャンルに使えるパワフルなサウンドだという印象です。 "SOLID" という名の通り、密度の濃く太い音を活用する事ができます。

個人的には6.5×14"のAyotte Keplingerや、8×14"のLudwig Black Magic Dampedというスネアドラムが、EZdrummerや他のEZXではハイチューンサウンドが多い印象から一転、深胴のずっしりした音を聴かせてくれたことに嬉しさを感じました。80年代から90年代にかけて流行したあの音を再現したり、さらには新しいサウンドへと取り入れても行けるのではと思っています。

「EZ KEYS - UPRIGHT PIANO」と、実は「EZ MIX 2」なども制作時の良きパートナーとなっています。機会がありましたら是非、それらもご紹介できたらと思っています。また、長らくEZdrummerとEZXを使っていたら、ビジュアル系バンドを組みたくなってしまいました(笑)色々決まり次第、お付き合い頂ければと思っています。

多田 彰文 氏

幼少よりクラシックピアノを、中学時代よりギターを始める。1989年手塚治虫原作「火の鳥」舞台演劇にてシンセサイザー演奏デビュー。その後、辛島 美登里をはじめ、西城 秀樹・野口 五郎など 歌手・アーティストのツアーミュージシャンとして演奏活動を行う。

日本大学文理学部英文学専攻科在学中に作曲・編曲活動を始め、新人アーティストのサウンドプロデュースやドラマ・アニメ・ゲーム等の音楽制作手掛ける。作・編曲・オーケストレーションを小笠原 寛氏、指揮法を大澤 健一氏に師事。

キーボード・ギター・ベースはもとより、木管・金管楽器、ヴァイオリン、パーカッションから大正琴まで、あらゆる楽器を演奏し、スタジオレコーディングでの指揮者もこなす、マルチプレイヤーである。

代表作品劇場アニメ

「クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」TVアニメ

「はっけん たいけん だいすき!しまじろう」TVドラマ

「ウルトラQ dark fantasy」TVアニメ

「サイボーグ009」

株式会社イマジン

公式ブログ「作曲やってま~す!!」

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