SONICWIRE

すべてのクリエイターには、“はじめの一歩”がある。

~水槽:衝動と試行錯誤で築いた、独自の音楽世界~

Special Interview Presented by SONICWIRE

本シリーズでは、音楽を生み出す人たちの原点と現在地をたどり、その制作の背景にある選択や葛藤をひもといていきます。

今回は、音楽制作を続けているクリエイターの中から、多彩な表現で独自の音楽世界を描くシンガー・トラックメイカーとして活動する水槽さんに、衝動と試行錯誤を重ねながら、自分なりの制作スタイルを築いてきた歩みをお聞きしました。


PROFILE

水槽

自身で作詞、作曲、編曲、プロデュースを手掛ける東京のシンガー・トラックメイカー。

エレクトロ、ロック、ヒップホップなどを独自のスタイルに昇華した”laptop pop”を制作する。的確にリズムを捉えつつも様々な表情を持つ歌声とラップは、情感に溢れ多くのリスナーを魅了する。

これまで発表した楽曲の総再生回数は1億回を突破。
2024年10月クール、TVアニメ『BLEACH 千年血戦篇-相剋譚-』エンディングテーマ「MONOCHROME」を担当。

Vtuberや声優、バンドやラッパーまで、ジャンルを選ばない多くのアーティストやクリエイターと積極的にコラボレーションし、楽曲提供、コライト、ゲストボーカル参加、DJ、ボカロPなど、活動内容は多岐に渡る。

Q1. 音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?

中学生の頃から「歌い手になりたい」という思いがあり、2019年からおよそ2年間、実際に歌い手として活動していました。歌い手として活動する中で、楽曲を作っているボカロPの存在に強く興味を持っていました。特に、“ゼロからイチを生み出している人”たちに惹かれるものがあって。既存曲を歌うだけでなく、自分の音楽を作っている姿に魅力を感じました。

Q2. 「曲を作れるようになりたい」と思うようになったのは、どんな気持ちや出来事がきっかけでしたか?

2019年から2020年頃、歌い手がオリジナル曲を活発に出し始めて、自分でも曲を作ったり、楽曲を提供してもらったりしながら活動していました。そんな中出会ったのが、BTSの音楽です。当時の自分にはこれまで聴いたことのないような音がして、全然レベルが違うと感じるほど大きな衝撃を受けました。

「自分も国内にはないような音楽を作ってみたい」と思ったのがきっかけで、同時に、人と比べられることにしんどさを感じていた時期でもあったので、誰かと比較される土俵ではなく、自分の表現を形にしたいと思って、オリジナル楽曲の制作へ踏み出しました。

Q3. 初めて作曲したとき、どんな環境で、何を使って制作していましたか?

最初の半年ほど使用していたのが、Macに標準搭載されている「GarageBand」でした。自宅のMacひとつで完結できる環境だったので、無料で手軽に始められて、ミックスまで一通り行っていました。ただ、制作を重ねるうちに「できることに限界がある」と感じるようになって、もっと自分の理想に近づきたいと思ったとき、環境を変える必要を感じました。

――ちなみに最初に購入したDAWは何でしたか?それを選んだ理由も、覚えていれば教えてください。

「Cubase」ですね。当時リファレンスにしていたのは、BTSのプロデューサーやメンバーのSUGA、そしてZeddや中田ヤスタカさんといったプロデューサーたちで、彼らがCubaseを使用していることを知り、「自分も同じ環境で作ってみたい」と思ったことがきっかけだったと思います。

Q4. 最初に音楽制作を始める時、機材やソフト選びで迷ったことはありましたか?

正直、音の細かい違いとかはあまり分からないタイプなので、ユーザーインターフェースで選んでましたね。作曲を始めた最初の一年は「Cubase」だったんですが、友人から「Ableton Live」のほうが向いてるって勧めてもらいました。

正直コンポーザーからすると、使用感を1から覚え直さないといけないので、乗り換えるって結構重労働なんですけど、自分にとって Ableton LiveのUIがCubaseと比べてすごく視覚的に分かりやすく、カスタマイズ性も高いんですよ。自分好みの色に切り替える機能があったりして、ほぼデザインで選びましたね。

Q5. ソフトや音楽ツールの使い方が分からないとき、どのように解決していましたか?

「GarageBand」を触っていた時期は、専門用語の壁にぶつかりましたね。アタックやリリース、スレッショルド、リミッター、マキシマイザー、コンプレッサーといった言葉の意味が分からず、ひとつひとつ検索しては理解していく日々でした。用語はだいたい共通しているので、最初にまとめて調べて基礎を押さえたりして、特に「Sleepfreaks」の初心者向け記事をよく読みながら学んでいましたね。最近では「ChatGPT」に質問したりしています。

――覚えることの多さに、挫折しそうになったことはなかったのでしょうか。

あまり“勉強”という感覚はなかったですね。教科書を開いて理論を詰め込むというよりも、「この曲をこんなふうにしたい」「ここにリバーブをかけたい」といった具体的な目的があって、曲作りの中で必要なことを調べていました。どうすれば理想の音になるのかを、その瞬間ごとに探していくって感じです。だからこそ、“挫折”という感覚はあまりなかったです。

Q6. これまで音楽と関わる中で、一度立ち止まったり、距離を置こうかなと思ったことはありましたか?

始めたころはこうしたいのにできない、自分が思った通りの曲が作れない状況がしばらく続いて、経験を重ねるうちに、「ビートを作ったらこう組む」といった自分なりの型が見えてきて、制作スピードは最初の頃の10倍ほどになりました。

技術面で悩む時間が減ったことで、心の負荷は徐々に軽くなっていって、制作の中で向き合うべき悩みは作詞作曲の部分に集約されるようになりましたね。“できないこと”に悩む時間が減ったことで、必要以上に思い詰めることも少なくなったからなのかなと思います。

――今のように形にできるようになったのは、量を重ねたことが大きかったですか?それとも、人との関わりが影響していると思いますか?

最初の頃は、ほとんど毎日のように一人で制作を続けていました。誰かに求められたわけではなく、純粋に「楽しいから」続けていた時間でした。触り始めて一年弱の間は、ああでもないこうでもないと悩み続けて海外のアーティストのようなサウンドに憧れながらも、思うように形にできなくて。

そんな試行錯誤を重ねる中で、ある日ふと「これだ」と思える曲ができて、“自分が本当に作りたかった曲がやっと作れた”と感じたその瞬間が、大きな転機になったのかなと思います。その日を境に、音楽との向き合い方が少し変わったのかなと思います。

Q7. 人と一緒に音楽を作るようになったのは、どのくらいのタイミングでしたか?

1stアルバムでは、「首都雑踏」と「遠く鳴らせ」を自身で制作し、ほかの楽曲は他のボカロPの方々から提供を受ける形で制作していて、共同制作そのものは初期から並行して行っていました。

ただ「まだ人を呼べる段階ではない」と感じていたため、無理にフィーチャリングを広げることはせず、一人で制作を重ねていました。ある程度、自分の理想に近い音を作れるようになったタイミングで、はじめてボーカルという“豪華な楽器”をアサインするということが視野に入ってきました。
満足にできていない状態で人を巻き込むのではなく、まずは自分の土台を作る。その姿勢が、現在の制作スタイルにつながっているのかなと思います。

Q8. 普段どんな場所・環境で制作していますか?

基本は自宅の制作部屋です。旅先で納期がある場合はカフェで制作することもあります。共同制作も基本はリモートで行っていて、楽曲の修正ややり取りもオンライン中心です。場所に縛られないスタイルが、今の制作環境になっています。

Q9. 制作を始めるとき、どんなふうに“制作のスイッチ”を入れていますか?

制作部屋に入ったら、「自分は作曲家だ!」という雰囲気をあえて出す。気持ちを切り替えることで、自然と制作モードに入ってます。制作を習慣にするうえで意識しているのは、「無理にやらないこと」です。作りたくないときに無理をすると、制作そのものが嫌になってしまうので、インスピレーションが湧かない日は潔くやらない。毎日やらなければいけない、というプレッシャーを自分にかけないことが、結果的に制作を長く続けることにつながっているのかなと思います。

Q10. 「これがあると安心する」「気分が上がる」モノがあれば教えてください。

コーヒーを持って制作部屋に入るのが、ひとつのルーティンです。あとはモノじゃないんですけど、眠いのに我慢して作ることはしない。寝たいときは寝る!

Q11. 音楽制作を始めたばかりの頃の自分に、今声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?

全然そのままでいいと思うよと伝えたいですね。あの頃は本当に楽しかったと思うので。今よりも楽しんでいたんじゃないかなと思います。

今はある程度、自分の中で思い描いたものを具現化できるようになりました。それはもちろん良いことなのですが、毎日のように“新しくできるようになること”に出会っていたあの頃とは、少し感覚が違います。
当時は、知らないプラグインや機能に触れるたびに、「こんなことができるんだ」と毎日感動していました。作るたびに発見があって、その新鮮さに支えられていた部分も大きかったと思います。

今はその驚きが少しずつ落ち着いてきているからこそ、「あの頃のワクワクは大事にしていいよ」と、始めたばかりの自分に声をかけたいですね。

Q12. この先叶えたい夢はありますか?

DTMである程度、思い描いたものを具現化できるようになったと話しましたが、まだ手をつけていない分野もたくさんあって。
音楽理論や細かな音作りなどこれまで深く踏み込んでこなかったんですけど、今は無理に挑戦しようとは思っていないです。本当にモチベーションが上がらなくなったときに、やってみようかなって。やってみて、無理だったらまた考えようかな、くらいの気持ちです。

――これから曲づくりを始める人たちへ、一言メッセージをお願いします!

正直、自分がDTMを“上手い”と思ったことはないですし、知識もまだまだ全然ないと思っています。それでも伝えたいのは、「何も知らなくても、とりあえずできる」ということです。

難しそうに見えるかもしれないけれど、可愛いインターフェースを選ぶとか、音を鳴らした瞬間にテンションが上がるシンセを見つけるとか、そんなきっかけで十分だと思います。見た目や直感で選んでもいいです。「難しそうだから」と挑戦しないほうが、もったいないですね。
DTMには、メカっぽくてかっこいい世界もあれば、楽しくて感覚的に触れるものもたくさんあるのでまずは触ってみて、音が変わる面白さを感じてほしいです。


この作品の音、なにを使っている?

曲名:「遠く鳴らせ」

自分がやりたいことを初めて具現化できた曲ですね。ファーストアルバムのラストを飾る一曲ですが、思い入れというよりも“執着”に近い感情があって。今同じ作業をやれと言われたら2時間ほどで終えられますが、当時は3日間ほとんど寝ずに制作してましたね。ただ「これが作りたい」という衝動だけで向き合い続けた時間で、聴くたびに、その頃の自分の熱量が蘇ります。

使用した主な製品

メインで使用したシンセサイザーは、「Serum」「Omnisphere」ですね。細かく一から音を作り込むよりも、「鳴らした瞬間にテンションが上がる音」を大切にしています。プリセットが豊富に用意されていることも大きな魅力で、とにかく“入れた瞬間のかっこよさ”を重視していますね。直感と衝動から生まれたこの曲は、今も特別な存在です。

Demosong Playlist
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