G.M-KAZ 氏
久保田利伸デビュー25周年記念ソングのアレンジや、DREAMS COME TRUEのリミックス等を手がける一方、KREVAの作品のエンジニアとしても知られるベテラン・プロデューサー/エンジニアG.M-KAZ氏。HIPHOPの歴史共に生きてきたそのキャリアは長く濃密で、とてもじゃないがこの場では語り尽くせない。若手からの信頼も厚く、その門戸を叩くものが絶えない彼のプライベートスタジオで、最近のサンプルパックやトラックメイクについて聞いてみた。
実際の制作にサンプルパック(サンプリングCD)を取り入れていらっしゃるとのことですが、どのような素材が一番役に立ちましたか?
G.M-KAZ氏:ビートは自分で作る方だし、自分のビートキットみたいなものは出来上がっているので、ビートはかなり良くないと使わない。だから基本的には上ネタが多くなるかな。もちろん鍵盤を弾いてMIDIでコードを入れてってもいいんだけど、アナログに近い感覚の質感が欲しいので、そうするとループものを使うことが多い。と同時に、アナログ的な素材のループものを選ぶことが多いかな。
メロディーとかコードとかでしょうか?
G.M-KAZ氏:メロディーはオリジナリティーが出せる部分だと思うので、メロディーを触発するようなコードが多いかな。例えばローズとかが多いかもしれない。ピアノはプレイヤーの質がすごく出てしまうし。そういう意味ではソロ楽器に近いものはあまり使わないかな。ギターもソロは使わないけど、カッティングとかは使う。ローズもコード感と質感だね。そういう良い質感のものは探して使うことがある。
ギターというお話が出ましたが、ギター音源の使い方を教えてもらえますか?どんなどころを目指してギター音源を使ってますか?
基本的にそれも質感になるんだけど、自分の場合は自分でミックスをする人なので、エフェクトが多くかかっているものは嫌なんだよね。例えばすぐ使えるようにリバーブとかディレイが掛かっているものが多いと思うんだけど、実はそれってすごく使いづらくて。空気感もコントロールしたいので、ちょっと聞くと細く聞こえるような、本当のミックス前のギターの状態のようなものを探している。例えばがっちりディストーションをかけたギターを使いたかったとしたら、ドライなものにディストーションをかけたい。そのディストーションの部分は作りたいんだよね。だからあまりにも完成されているギターは使いづらいことが多いので、結構シンプルなものが多いかもしれない。あんまりエフェクトがかかってなかったり、あんまり歪みがないもの。
ギターアンプ・シミュレーターとかを後からかけたりした方が良いという感じでしょうか?
そうだね、もしくは本当にギターアンプから出したものを録ったりとかすることもあるので。
サンプル音源(ソフト音源)のギターの音をギターアンプから出すということですか?面白いやり方ですね。
そうね、だから結構クリーンなカッティングとかを使うことが多いね。歪みも昔っぽくしているのを使うこともあるけど、そこを作るのが結構楽しいかもしれないんだよね。
なるほど。ちなみにHIPHOPというジャンルはレコードをサンプルすることで出来上がってきた文化だと思うのですが、現状販売されているサンプリング素材のクオリティーが上がってきたことで、トラックメイクに与える影響などありますか?
そうだね、もしくは本当にギターアンプから出したものを録ったりとかすることもあるので。
ではコンストラクション・キットは曲が良いという基準で選んで、良い部分を取り出すという感じでしょうか。
基本的にHIPHOPが何たるかという話ではなくて、音楽全般的に考えても、特にHIPHOPはそうなんだけど、トラックメイクは選択の連続なんだよね。例えばAとBという曲があって、これのこの部分がいい、あの部分がいい、その楽曲の良いところをチョイスする、何だったら曲自体が良いものをそのまま使ってしまっていいんじゃないかという発想なんだよね。良いものは良いんだよ、それを使って楽曲を作りたいんだよっていう欲求でしかないんだよね。そういうことを考えるのであれば、俺はループ素材も同じだと思うんだよね。ループ素材も、マインド的なことを言ったら人が作ったもの、でも同じだよね、考え方として。だからもっとアナログ的な感覚でループ素材に触れてくといんじゃないかなと思っているんだよね。ものすごくクオリティーの高いサンプルパックとかもあるので、そこは聞いてみる価値はあると思う。それこそ、サンプルパックの楽曲ばかりつなげてるDJになろうかと思うくらいクオリティーが高いよ(笑)。
しかも良い点というのは、2ミックスじゃなくて、2ミックスでは手が届かないカユイところまで手が届くシステムになっているわけじゃない。ある意味トラックのマルチトラック売りな訳で、その楽曲の構成も分かるし、かかっているエフェクトとかも分かるし、勉強する素材としてはものすごく役立つ。使い勝手はものすごくあるなと最近は感じているね。
ではコンストラクション・キットは曲が良いという基準で選んで、良い部分を取り出すという感じでしょうか。
そのまま使ってもいいし、ちょっと別な話になるけど、アナログと同じ感覚で2Mixで波形編集するんだけど、その他のトラックまとめて一緒に波形編集するんだよね。イメージ的には2Mixでやってるんだけど、後から細かく加工できる。バラバラになっているものと2Mixと一緒に波形編集していくってのは非常に面白いことが出来るね。
ちなみにドラムやパーカッションに使うお気に入りのエフェクトとかはありますか?
基本的にパーカッションはコンプで決まるので、自分の場合アナログ、アウトボードが多いかな。どうしても古いアナログ的な音源を選ぶことが多いんだけど、強いて言うとパーカッションってパンチが弱いんだよね。そうすると最近の音楽のハードアタックなドラムと一緒とだと埋もれてしまうんだよ。そういう中で古いパーカッションの音源を使うとイマイチピンとこないんだよね。
なので、それをパキットさせるというのかな、ゴリっとさせるのに、やはりプラグイン的なものだとちょっとパンチが弱いね。古いアナログコンプ、安いもので良いので、結構バチっと突っ込んで、リミッティングして、粒がカチカチいうぐらいな、もちろんイコライジングもして、という感じである程度いじらないと難しいものが多いかもしれないね。
そうしてから、ちょっとフィルターで加工したり。あと空間系のエフェクトはパーカッションにはかかってない方が良いね。キックとかスネアとかハイハットも生音系の音源を使うことが多いんだけど、みなさん見事にかっこいいリバーブがついてる(笑)。それはものすごい好きなんだけど、それで世界観が決まっちゃってるので、全部波形編集するか、細かく切ってサンプラーに取り込むことが多い。要はサスティーン部分をパチっと切っちゃうね。「ターン」って言ってるスネアは、「タッ」って短くして使ったり。ただその場合も生音と、幾つか別な音を足して作ることが多いかな。生音のスネアのアタックが弱いところに、リムを足してみたり、クラップを足してみたり。でも生音的なものは使うことが多いね。深みが違う。「ターン」って伸びてなくて、短くても「ドッ」とか「ポッ」「ドン」とかいう部分に関して言うと、やはり生音系のループ音源じゃないと難しいね。それもだからアナログに替わるものとして、今のサンプル音源の質感で充分だと思ってるね。
ではHIPHOPのビートメイクで、HIPHOPらしいグルーブ、良いグルーブにするためにやっていることなどありますでしょうか?
難しい質問だね~、それが分かったらノーベル賞もらえるんじゃないか(笑)。そうだね~、基本的に自分はいつも円を意識しているんだよね。ビートを縦に切ってないんだよ。1、2、3、4って数えるんじゃなくて、円の筒状のものが前に前に転がってゆくのがビートだと思ってるんだよね。だからその丸く回ってゆく感じを意識しながらビートを聞くようにするんだよね。まあ振り子でも良いんだけど、とにかくそのカチカチという感じじゃなくて、振れている間が大事なんだよね。
その振れてる感じ、回っている感じが正円なのか、楕円形なのかっていうのがグルーブの基本、それを感じられるのが基本だと思うね。楕円だとちょっと歪んで感じられる訳じゃない。ひとつの円を書いてみると分かるけど、スネアがちょっと後になってたら、それを円で表すとちょっと楕円になってるはずなんだよね。だからビートを円で感じるというのは大事かもしれない。真ん中の0度がキックの位置だとして、4/4だったらスネアは90度でしょ、次の3拍目は180度。そうやって360度として考えた時の、それぞれの点の位置が違えばモタりが出来る。だからちょっと歪んでいる円を、どういう風に歪ませるかっていうので、それぞれのグルーブって決まっているという感じ。その感覚を掴んでスネアがちょっと後ならこういう円になるとか、要は元の曲を聞いてどういう円なのかを理解することが大事かもしれないんだよね。
グルーブクオンタイズとかで抽出して、ズレとかを如実に図形化していったら、多分ひとつの図形が出来るはずなんだよね。「Aって曲のグルーブはこういう図形です」、でそれをイメージしながらやる、だから一番根本的なことはグルーブクオンタイズを抽出するということかな。グルーブクオンタイズを抽出して、どのようにハットが前にいってたり、スネアが後にいってたり。
なんかこうみんな「HIPHOPっぽいのはスネアが後なんだよ。」と思ってるかもしれないけど、実はスネアが前だったりする時もあるんだよね。だからホントに良いグルーブだと言わてるものや自分がそう感じるものを、ホントに理解しているか?もちろん感覚で理解している人はその通りやってくれればいい、自分の感覚を信じて。そうでない人は、やはり解析はする必要はあると思うんだよね。そのためにそのままグルーブクオンタイズを活用するのもいいけど、グルーブクオンタイズがどのようにずれているのか、ということを理解しておくと随分違うよね。何かグルーブが変だなと思った時に、「あ、これは実はスネアが前なんじゃないか」ということに気づける、おかしいことに気づけるけど、それが修正出来なければどうにもならないでしょ。それを修正するためにはある程度の研究みたいなものは必要。だからグルーブクオンタイズは必ず抽出するべきだし、まあそれがコントロール出来なければ、グルーブも理解出来ないかもしれないね。
なるほど。ビジュアル化しやすいし、論理的で分かりやすいですね。
まあグルーブについては一言で語れないし、難しいよね。まあしょうがないんだろうと思うよ。そういう情報もなかなか入ってこないし。自分の場合は「音楽を聴け」としか言われなかったけどね。オレもそういうことを教えてくれた人が何人か居たけど、とにかく「レコード聴け、良いものは沢山世の中に出ていて、それが良いと思えることからだと。なぜ良いのか、なんでこのグルーブが良いのかっていうこと、それを自分がホントに良いと思えなきゃ作れる訳がないだろう。」って言われたことがあった。「とにかくそのグルーブが良いんだっていうことを理解するために努力しろ」って。だから毎日クラブやディスコに行ったし、踊ったり踊れなくてもリズムを体で感じて、体感することでしかないよって言われたよね。
ではHIPHOPやR&Bのトラックメイクで一番重視していることとか、ポリシーとかはありますか?
重視していることは何が中心にあるかということ、ポリシーは、何が中心にあるかということを考えることですね。自分が作るにせよ、誰かの曲であるにせよ、誰かの曲であれば誰かが中心にある訳じゃない。そこをブラさないことだね。例えば自分が作るトラックでビートがメインにあるトラックなら、ビートがメインにあるということをブラさないこと。ローズがメインだったらローズをメインに、最初に何がメインになるのかということを明確にすること。ボーカルであれば、ボーカルがメインなんだよね。だからどんなに良いトラックだなと思っても最終的にはボーカルのことを考えて、ボーカルが際立つようにする。
最初に自分が曲を作り出す時のインプレッションというか、衝動的なものを最後までブラさない、迷わずに最後まで行けることが、いつも考えていることかな。まあこれはちょっとポリシーとは違うかもしれない、作り方という感じかな。まあ、あとポリシーとしては、最後に自分が聞いて客観視してもいいし、最終的に「バッ」と聞いて「おおカッケー!」となれるものを目指す(笑)。
ふと他人になって聞けることがあるんだよ。その時に、自分が作ったトラックでも「かっこいいな」って思える瞬間があるんだよね。それを目指しているね、いつも。
ふと客観的になるって難しいですよね。
意外にそういう時ってシビアになって見てしまうものじゃない、それでも「ああいいな」って思える瞬間があるんだよね。「ヨシッ!」「出来た!」って思う時が毎回じゃないけどあるんだよ。出来上がってマスタリング終わって、CDが発売されても「あ~あそこはこうすれば良かったな」って思うことの連続なんだけど、あるんだよ、何回か。ホントに何回かしかないんだよ。でも「あ、出来た。素晴らしいものが出来た。」ってホントに心から思える時があるんだよね。究極の自己満足というか、自己満足を越えている何かがある時があるんだよね。それを毎回目指してるね。自分が感動してしまうという瞬間もあるし、「すごいビートだな」って後で聞いて感じることもあるし、「あれこれオレが作ったんだっけ?」って思う時もあるんだよね。そういう瞬間がやっぱ楽しい。それだけを求めてるかもしれないね。もちろんそれで人がクラブで踊ってたり、ライブで盛り上がってる姿を見れば、また更に良いわけですよ。最終的にはそこだよね。
ではクラブでプレイされることを想定して作ることもあるのでしょうか?
ずっとそうかもしれないね。クラブだけじゃなくて、デカ箱でも、小さなスピーカーでも良いものが良いと思ってるんでね。「デカ箱でしか聞けない」とかって言うのは言い訳でしかないと思ってるので、オレはデカ箱でも良いし、小箱でも良い鳴りをするっていうのは目指してるね。
では最後に、G.M-KAZさんオススメのサンプルパックを教えてください。
Freshtone Samplesの『LOST TAPES VOL.1』はオススメだね。これだけで全部曲を作ったぜ、っていうアルバムを出したいくらいで、しかも「え、これがこうなったの?」っていうのを作れたら、世に出してみたいと思います。それぐらいいじってみたいなと思う素材集だったね。
ブレイクダンスチームRUSHとして1980年代後半にシーンに登場。ZINGIのDJ/トラックメーカー/プロデューサーとして活躍。
近年はエンジニアリングも精力的に手掛けており、自身のスタジオであるP-STUDIOを拠点にKREVAや童子ーTなどの作品に参加している。
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