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音楽的なアンビエンスがキャプチャーされていて、
いわゆる「良い音」だと断言できます。

Toontrack『EZ DRUMMER 3』変わり種『EZX』レビュー by 阿瀬さとし 氏(Cojok / Smash Room)

作曲家/マニピュレーター/ギタリストとして活躍する阿瀬さとし氏(Cojok / Smash Room)による、Toontrack『EZ DRUMMER 3』と『EZX』のレビューをご紹介します。

仕上がりはもとよりスピードが求められる現場で『EZ DRUMMER 3』を選ばれた理由。そして、いわゆる"ロック"や"メタル"向けのサウンド中心にラインナップされる『EZ DRUMMER 3』『SUPERIOR DRUMMER 3』専用拡張ライブラリ『EZX』シリーズの中で、阿瀬氏自身のアコトロニカ・ユニット「Cojok」での作品作りに使用された『EZX POST-ROCK』を含む、"変わり種"EZXのご感想をお送りします。

EZ DRUMMER 3

EZ DRUMMER 3

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初めて『EZ DRUMMER 3』に触れたのがCM曲のアレンジ仕事の作業中でした。リズム・アレンジの際に長年使っていたドラム音源を立ち上げて作業してたのですが、なかなか曲中にフィットする質感やフレーズが決まらずにいました。そこで何気に『EZ DRUMMER 3』を立ち上げてみたのです。ベースとピアノのトラックはFIXしてたので、そのデータを『EZ DRUMMER 3』のBandmate 機能にインポートしてみるとドラム・パターンが自動生成され、それが見事にハマって「これだ!」ってなりました。

▲ギター / ベース / キーボードのオーディオあるいはMIDI データをインポートすると、そのフレーズに合わせたリズムパターンを自動生成する、『EZ DRUMMER 3』の「Bandmate」機能。

『EZ DRUMMER 3』の中でドラム・パターンを並べてトラックを作っていけるのですが、その中の選択したドラム・パターンを差し替えられるReplace MIDIもとても便利です。曲を再生しながらパターンをどんどん切り替えて試聴ができます。ドラムのみで聴くと「これは段絶対使わない」と感じるパターンでも、曲と一緒に聴くとハマってくれて、しかもそれが思いがけない個性になる事も多々あります。

▲『EZ DRUMMER 3』のソングトラック上でドラム・パターンを並べてトラックを構築する際に、選択箇所のパターンだけを差し替えられる機能「Replace MIDI」。ドラム・パターンの検索画面Grooves タブと同様に、DAWのプロジェクトに同期して再生させながらリアルタイムにパターンを切り替え、試聴が可能。

個人的に一番便利だと感じてるのがGroove Parts 機能。ドラム・パターン内のハイハットやタムだけなど、パート単位での差し替えが可能です。これは出来上がったドラム・パターンからバリエーションを簡単にいくつも作れるので非常に助かっています。それとフィルを色んなパターン試す時にも重宝してますね。あとプレビューする際にベロシティを調整できるのも更に助かっています。僕はプロデューサーの前でドラムの打ち込みをする事も多く、これらの機能の力を借りる事で作業効率が向上し、結果的に良い作品作りに繋がっていると感じています。

▲阿瀬氏お気に入りの機能の一つ、Groove Parts。ドラム・パターンで使用されている個々のパートのMIDI にアクセスし、ソングトラック上のパターンの上にドラッグするだけで、ハイハットのフレーズを別のドラム・パターンのキックに使用するなど、既存のグルーブの特定パートのみ差し替えることができる。

サウンド的な事を言えば、当初『EZ DRUMMER 3』は初心者向けのイメージで、やはり『SUPERIOR DRUMMER 3』じゃなくては・・・と思ってました。ところが実際にサウンドを聴いてみると、ベルリンのハンザ・スタジオで録音されたというドラム・キットはどれも音楽的なアンビエンスがキャプチャーされていて、いわゆる「良い音」だと断言できます。現状でクライアントさんから指摘を受けたこともなく、DAWにマルチアウトしてパラデータを作成して納品まで問題ありません。

EZX - POST-ROCK

EZX - POST-ROCK

EZX - ポスト-ロック

深く豊かな響きが魅力的なEZX拡張ドラム音源!

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『EZ DRUMMER 3』は僕のアコトロニカ・ユニット「Cojok」でも使うようになり、ここからはお気に入りの拡張音源『EZX - POST-ROCK』をご紹介していきます。

『EZX - POST-ROCK』は、アイスランドのレイキャヴィークにあるシガー・ロスが使用するSundlaugin Studiosで録音されたライブラリーです。Sundlaugin Studios(通称Pool Studio)は1930年代にプールとして建てられましたが、1999年にシガー・ロスが自分たちのプライベート・スタジオとして改装しました。この音響的にユニークなアンビエンスを備えたスタジオで収録されたのがアルバム『( )』『Kveikur』などです。

『EZX - POST-ROCK』と同じ"Pool Studio"で収録されたシガー・ロスのアルバム『( )』(Spotify リンク)

『EZX - POST-ROCK』の収録内容ですがデフォルトのドラムキットとなっているのが1964年製のオールドROGERS。その他にTAMA、YAMAHA、SAKAEのキットを収録。そしてSAKAEのみですがマレット、ブラシ、スネアオフで演奏されたキットが収録されています。

▲『EZX - POST-ROCK』を『EZ DRUMMER 3』にロードした画面と、『EZX - POST-ROCK』のドラムキット選択メニュー。SAKAEのキットのみブラシ等のバリエーションが確認できる。また、『EZ DRUMMER 3』はご利用環境に合わせた画面のスケーリングが可能。

全体に重心低めにチューニングされたドラムのサウンドですが、それぞれの個体のキャラクターが明確にキャプチャーされてます。それに加え"Pool Studio"による明るいながらも温かく長い残響が加わり、やはり独特のアンビエンスを感じます。僕はここで収録された作品を沢山聴いてきたので、どことなく安堵感あるサウンドに感じてしまいます。

▲『EZX - POST-ROCK』デモムービ―。

▲『EZX - POST-ROCK』のプリセット・メニュー。

また、『EZX - POST-ROCK』には、シガー・ロスの作品を手掛けてるエンジニアBirgir Jon Birgisson氏が作成した10種類のミキサー・プリセットが用意されています。生ドラムの処理に慣れてなくてもここで幅広いジャンルに対応するドラム・ミックスが手に入ります。『EZX - POST-ROCK』のプリセットはどれも本当に素晴らしいので是非聴いてみてください。

「Original Mix」プリセットを選ぶと、『EZX - POST-ROCK』のレコーディングで使用された全てのマイクがミキサーに表示されます。このプリセットは追加のエフェクト処理が行われていないので、オリジナルのドラム・ミックスが作成できます。

▲『EZX - POST-ROCK』の最もニュートラルなプリセットである「Original Mix」のミキサー画面。『EZX』シリーズの収録サンプルは全てコンプレッサーなどのエフェクトで下ごしらえを済ませた状態で収録されているが、プリセットによっては更にエフェクトが追加され積極的な音作りが行われているものがある。

▲『EZX - POST-ROCK』のアディショナル・ドラム(追加パーカッション)。

あと、スタジオ内の階段や靴、ピアノのボディー、弓を擦った音も収録されており、これらをリズムに取り入れたらビョークっぽいユニークなビートが作れそうです。『EZX』は『EZX - POST-ROCK』に限らず、部屋の思わぬところの音が収録されてるので、画面上に何か目につく物があればクリックしてみるのをおすすめします(笑)。

『EZX』には、各ライブラリーのテーマに沿ったMIDI ドラム・パターンが収録されていますが、『EZX - POST-ROCK』はドラマーArnar Gislason氏によるMIDIドラム・パターンが収録されてます。"Pool Studio"の残響を活かした繊細なゴーストノートの入ったプレイから轟音ギターの中でもかき消されない激しいプレイまでが用意されています。さらに、『EZX - POST-ROCK』に最適化された追加のMIDIグルーブ集『DRUM MIDI - POST-ROCK GROOVES』も別途購入が可能。こちらもArnar Gislason氏によるプレイですがさらにバリエーションの多いMIDIフレーズが手に入ります(画面6)。

DRUM MIDI - POST-ROCK GROOVES

DRUM MIDI - ポスト・ロック・グルーヴ

『EZX - POST-ROCK』を更に拡張するMIDIグルーブ集!

¥3,630

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▲導入した『DRUM MIDI - POST-ROCK GROOVES』のドラム・パターンが『EZ DRUMMER 3』のGrooves 画面に追加された様子。Toontrack 社ドラム音源の専用ドラム・パターン集『DRUM MIDI PACK』シリーズを導入すると、『EZ DRUMMER 3』や『EZX』ライブラリー収録のドラム・パターンと同様に扱うことができる。

「ポストロック」と表された本製品ですが、シューゲイザー、エレクトロニカ、フォークトロニカ、アンビエントなどに最適な数少ないドラム拡張ライブラリーといえるでしょう。ジャンルに縛られずポップスなどに使っても、他にはない個性となり、新しい情景が作れそうなドラム拡張音源ですね。

EZX - ELEMENTS

EZX - ELEMENTS

EZX - エレメンツ

実験的なサウンドデザインとクリエイティブなビートメイキングに最適なEZX拡張音源!

¥11,000

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Black Hole(ブラックホール)Space(宇宙)Earth(地球)と3つのテーマを持つライブラリーです。

  • ▲BLACK HOLE.

  • ▲>EARTH.

  • ▲SPACE.

サンプリングされたアナログ・ドラムマシンやビンテージシンセに、フィールド・レコーディングされた自然音や生物の鳴き声などレイヤーされており、エレクトロニックながらも非常に生命感ある有機的なサウンドとなっています。収録された全てのサンプルはプラグインをほとんど使用せず、実機のテープ・ディレイ、ビンテージ・リバーブなどアウトボードに通され個別にハーモニック処理されています。そのサウンドは奥行きや立体感に加え、温かみのある質感で曲中では存在感を醸し出しつつも馴染みも非常に良いです。

EZX - DARK INDUSTRIAL

EZX - DARK INDUSTRIAL

EZX - ダーク・インダストリアル

インダストリアル・ロックやメタル、サウンド・デザインに適したマッシブなEZX拡張音源

¥11,000

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▲サウンド・デザインによる歪んだ、威圧的な、多層的な、そしてダークなドラムサウンドが特徴の『EZX - DARK INDUSTRIAL』。UI上のビジュアルもいかにも「インダストリアル」な一貫したイメージ。ライザー、アトモスフィア等も収録し、本ライブラリだけに完結させず、他のドラム・ライブラリとの組み合わせてパーカッシヴなテクスチャを生成し。ムードの演出にも活躍する。

ミニストリーやナイン・インチ・ネイルズなどのインダストリアル・ロック、劇伴、ゲーム音楽などに最適なライブラリーです。ドラム、パーカッション、ドラムマシン、ノイズ、物音などの400以上のサンプルが収録されてます。そして『EZX - ELEMENTS』と同様に各キット内のサウンドもほぼ全てがマルチレイヤーされています。その収録されたサウンドはEventideハーモナイザー、イコライザーにGML 8200、Fairchildコンプレッサーなど実機を通して処理がされており、ダークながらも嫌なピークもなく非常に耳障りの良いサウンドとなっています。

EZX - ELEMENTS / DARK INDUSTRIAL 共通の特徴

マクロ

ミキサー画面にはマクロ・コントロールが用意されています。

  • ▲『EZX - ELEMENTS』ミキサー画面

  • ▲『EZX - DARK INDUSTRIAL』ミキサー画面

音源のサウンド調整で重要なディケイ、ピッチ、アタック、サスティンが、エフェクトとしてではなくインストゥルメント領域での調整が可能となってます。また『EZX - DARK INDUSTRIAL』にはローパス・フィルターも用意されています。全てのマクロはDAWからのオートメーションにも対応していて、曲中でストーリーに沿ってサウンドを変化させたり、リズミックにパラメーターを動かしてトリッキーな効果を狙ったりもできますね。

Grooves(MIDIフレーズ)

それぞれのドラムキットに合わせて作られたMIDIフレーズが用意されています。

▲『EZX - ELEMENTS』のGrooves 画面

これらのMIDIフレーズが非常にかっこ良く出来ていて、これを使うだけでも何曲も書けそうなインスピレーションが掻き立てられるリズムが沢山用意されています。もちろん形になった曲を再生しながらプレビューで当ててみて切り替えていき、合うフレーズを探しても良いですね。用意されているMIDIフレーズはパート単位での差し替えもできるので、例えば最初に選んだMIDIフレーズに対してハイハットのみを別のMIDIフレーズからコピペすることが可能です。

▲Grooves 画面内でコピーしたMIDIフレーズのHi-Hat のみを、他のMIDIフレーズへ貼り付けるところ。フレーズ間で特定パートのみをコピペし、すぐにプレビュー可能。『EZ DRUMMER 3』では、これまでDAW 上で行わなければいけなかったような作業を、プラグイン内で完結することができる。

特にドラムのMIDIデータは「スネアはこっちが良いけどタムだけはあっちの・・・」って事が多いので、これはとても有り難いです。『EZX - ELEMENTS』『EZX - DARK INDUSTRIAL』どちらも個性あるサウンドとなってますが豊富に用意されたMIDIフレーズや柔軟なサウンド調整を可能とするマクロなど備わっており、幅広いジャンルや用途で使うことができると思います。

TOONTRACK 製品ページ

阿瀬さとし(Cojok / Smash Room)
作曲家/マニピュレーター/ギタリスト

2006年アコトロニカ・ユニットCojok(コジョ)結成。2010年、音楽プロデューサー佐久間正英氏に見いだされ、氏主催のレコード会社より作品をリリース。その後はサウンド&レコーディングマガジンによる企画「Premium Studio Live Cojok+徳澤青弦カルテット with 屋敷豪太、根岸孝旨、権藤知彦」に出演。そこから頭角を現し、数多くのCM曲や劇伴などの作編曲とギター演奏を担当。2019年は映画「おかえり、カー子」(湯浅典子監督、小島梨里杏主演)の音楽を担当。主題歌を飛澤正人氏が3Dミックスを手がける。2020年はポカリスエットCM「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇の音楽を担当。2023年3月には初著書となる「GarageBandで遊ぼう!~iPhone/iPad無料アプリで音楽する」をリットーミュージックより出版。

Cojok最新リリース情報

阿瀬さとし所属事務所 Smash Room

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