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最短でカッコいいサウンドを作れる『AVENGER 2』

LOBOTIX 氏が便利機能を徹底解説

Vengeance Sound 『AVENGER 2』レビュー Presented by LOBOTIX

こんにちは!LOBOTIXです。

今回は日本でもとても人気がある、Vengeance Sound『AVENGER』の新バージョン2.0をレビューしていきます。豊富なエキスパンションや即戦力になる音色、鍵盤ひとつで楽曲が成立するほどのシーケンスなどに定評があり、いわゆるクラブミュージックのチートツール的な印象が強いプラグインですが、バージョン2.0ではサウンドデザイン面、音作りの機能がかなり強化されたようです。それではいってみましょう!

AVENGER 2

アベンジャー 2

更なる進化を遂げた、万物を創造する万能型“シンセ”音源

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スペクトラル・グラニュラー・モジュール

まずは新たに搭載されたオシレーター、スペクトラル・グラニュラー・モジュール。オシレーターの選択メニューにあるSpectralです。こちらはサンプルを読み込んで使うかたちなのでひとまずピアノループを選んでみます。

ノートを弾いてみるとサンプルが再生されます。一体なにが新しいのか!こちらは前バージョンからあるGranularから派生したもののようです。まず注目すべきは左上にあるSPECTRAL EXPANDER。

ひとまず音を鳴らしながら大きなツマミを上げてみると…、なにやら歪みのようなノイジーさが加わりアナライザーには周波数が強調されている様子が表示されています。

次に大きなツマミは3時くらいにして、その左下にあるTRSH(スレッショルド)を上げてみましょう。するとノイジーさが減り、サウンドがホワホワという水中に潜ったようなニュアンスに変わります。なにが起きているのでしょうか?

このSPECTRAL EXPANDERは、スレッショルドを超えた帯域の周波数だけを強調することができる機能なのです。

もっと分かりやすい効果を得るためにMODEをデフォルトの+(プラス)から-(マイナス)に変えてみましょう。先程よりもさらにニュアンスが分かりやすいですね。オルガンのようにも聴こえます。

-(マイナス)モードではスレッショルドを超えた周波数は強調するのに加えて、スレッショルドに満たない周波数は切り捨てる、つまり鳴らなくすることができます。これによって部分的なハーモニクスだけが残り、生楽器でもシンセのような不思議なサウンドに変化するのです。

では、この状態からまたスレッショルドを下げていきましょう。するとすべての周波数が極端に強調され、結果ホワイトノイズの特性に近づきザーッというサウンドになるわけです。

ファクトリーに入っているループ素材などを色々ロードしてみると面白い!こちらはハープのフレーズループ。-(マイナス)モードで徐々にEXPANDERを上げていくとこうなります。

さらにEDITORでサンプルの再生位置や速度を変えたり…

FFTフィルターで余分な周波数を細かく削ったり…

ここに2.0で追加されたBITBITEやRUTA VERBなどのエフェクトをかけるとこんなループができました!

せっかくなのでビートにしてみました!ドラムと808ベースも全て『AVENGER』のファクトリーに入っているオシレーターやサンプル素材から作っています。エフェクトも外部のものは一切使わず『AVENGER』内で処理していますが、かなり良い感じ!

こういうTrapなんかでありそうな加工されたループをはじめ、現代のポップスやヒップホップなどで耳にする”楽曲のフックになるサウンドやループ”の制作が『AVENGER』内で完結してしまいます。

グラニュラー系やスペクトラル系は、マイナーなプラグインやエフェクトペダルなどを組み合わせて作るクリエイターも多いかと思いますが、これらの美味しい部分だけをまるっと入れてしまったのは大正解だと思います。

『AVENGER』はとにかくエキスパンション!というイメージもあります。しかしこうしたオシレーターを利用すればすでに持っているエキスパンションや身の回りの音、サンプルを素材にして無限に新しいサウンドエッセンスを加えていくことができるのです!

もちろん外部サンプルもインポートも可能。筆者の録音したフォーリーサウンドもサイバーなダブステップ系のベースサウンドに!

ガムテープをちぎる音からサイバーグリッチ。

ヘアーコームをカリカリやった音もエイリアンの襲来に!!SFXにもかなり強いですね。

新アルペジエーターでランダムフレーズ生成!

次に触れたいのがアルペジエーターに追加されたランダマイザー。ノートのピッチや長さを細やかに調整もできてフレーズ作りの強力な味方になってくれます。

まずはROUTEのARP1をオンにしましょう。そしてARPのエディターを開くと右に小さくサイコロボタンがあり、これをクリックするとランダマイザーの編集画面になります。

鍵盤型UIの右にあるROLLボタンを押すとランダムなアルペジオが生成。鍵盤型のUIはスケールなどを決められます。そして、中央下部にあるDISTRIBUTIONという部分で各要素のランダム具合を細かく設定できるのですが、考えなしにやるとちょっと脈略のない感じになってしまいます(笑)。なので個人的には、ノートをまずC(ルート)だけに固定。それからLENGTH、SILENCEなど各要素を順番にエディットすると良い感じのランダム具合が得られました。

DISTRIBUTIONのコツとしては、まずは中央のスライダー群はゼロ、STRENGTHを最大にします。影響を与えたくない要素のSTRENGTHはゼロにしておくとより分かりやすくなります。とりあえずノートの長さから試したければ、こんな感じから始めます。

スライダーを一つずつ動かしていくと、どんなランダマイズがされているか良くわかります。効きすぎだったらSTRENGTHを下げてみます。なんか良い感じかな、と思ったら次はOCTAVEを、といった流れでやるのがしっくりきました。

面白いのはRATCHET。一つのノートを分割して連打してくれます。すごいのはRATCHETがアサインボタンを右クリックすると音量やピッチもエディットできます。これでさらに複雑なフレーズを作りこんでいけるようです。

そんなこんなで出来たフレーズがこちら。

非常にパワフルなのですが、筆者は自分なりのワークフローを掴むためにまだまだいじり足りないなあと感じております(笑)。慣れたらランダムかつ自分らしいテイストのフレーズが手軽に生成できそうです。

強力な新エフェクトたち!

エフェクトもかなり強力!まずはQ4NTUM。これすごいです。

ディレイエフェクトなのですが、ディレイのウェットサウンドにフィルターや空間系、歪みなどのエフェクトを3種類選んでかけることができます。それらのパラメーターはステップシーケンサーでコントロール可能…というディレイが3台搭載されており、それらをまとめるマスターチャンネルでも3種類のエフェクトとステップシーケンサーが使えます。なんなんだ!?って感じですよね(笑)。

ためしにシンプルなアルペジオにFracturesというプリセットを使ってみます。ドライ音にディレイサウンドを徐々にミックスしている音源です。

いわゆるStutter EditやEffectrixのようなグリッチエフェクトシーケンサー的な効果をディレイに加えることができます。便利なのはステップシーケンサーにあるチェックボックスをSQからENVにするとカーブが使えてオートメーションの感覚でエフェクトをコントロールできるところ。

「そんなんだったらディレイ音だけじゃなくてドライ音にも使いたい!」と思うでしょう。筆者もそう思いました。安心してください、出来るんです。DELAY TIMEにあるFX ONLYというのを選べば遅延なし(ディレイタイムゼロ)のサウンドが使えます。これでGLOBAL MIXを100にすれば普通にグリッチエフェクトシーケンサーとして使えてしまうのです!!

アルペジエーターで作った先程のフレーズに使ってみました。これを一台のシンセの中で出来てしまうのはすごい…!!

次にLo-Fi系エフェクトのBITBITE。ビットクラッシャーです。上部のボタンの列がビットパターンというらしく、その下のスライダーと連動します。

これとCOMPRESS、FEEDBACK、DRIVEあたりのパラメーターあたりがキモのようです。ループ系を汚すのも良いですし、シンプルなシンセの波形もぶっとくてカッコいいサウンドに出来ておすすめ!

Spectralのデモで作った808ベースはサイン波にこれを使ってサウンドデザインしました。こちらはBITBITEに通す前と後のサウンドです。

そして最後に紹介したいのはRUTA VERB。いわゆるShimmer系というリバーブ音にオクターブ処理を施してシンセパッドのようなサウンドが得られるエフェクトです。

これがSpectralやGranularと非常に相性が良く、先のSpectralで作ったループもこれを加えて独特の空間作りが出来ました。

SHIMMER TNのメニューから細かい設定ができ、CREATIVE FEEDBACK MODEはShimmerサウンドがアルペジオのような感じになりとても幻想的です。でもSHIMMER FBの上げすぎに注意!!かなり爆音になります(笑)。

まとめ!!

というわけで本当に盛りだくさんなアップデートで、全てをご紹介するのは正直無理!!(笑)

でも、2.0の核となっている強力なサウンドエンジンの魅力がお伝えできたなら幸いです。

今回のレビューを通して、”Vengeance Soundサンプルパックみたいなループを手軽に自作出来るシンセ”に進化したのかも、と感じました。

Spectralモジュールや、Q4NTUMはちょっとした素材から劇的なサウンドループやフレーズに変えることができるし、シンプルな波形でも強力なアルペジエーターを使いRUTA VERBやBITBITEをかければ質感たっぷりのループに。いじれるパラメーターも多すぎず絞られていて、どうすれば最短でカッコいいサウンドやループを作れるか、というポイントが考えられている印象でした。

ノートをひとつ弾くだけで最高のプリセットサウンド!というのは確かにAvengerの魅力です。でも普段あまり音作りをしない方でも、”とりあえずSpectralになにかロードしてみる”とか、”デフォルトのノコギリ波とBITBITEやQ4NTUMだけで遊んでみる”、など是非チャレンジしていただきたいです!!そんな好奇心や冒険心に確実に応えてくれるシンセです。

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LOBOTIX

(エレクトロニック・ミュージック・アーティスト、 VTuber)

2018年よりDubstep等のベースミュージックを中心にプロデュース。自身のYouTubeチャンネル、LOBOTIX CHANNELではDTMがより楽しくなるような制作チュートリアルを多数アップしている。

ユニークでエッジの効いたサウンドデザインを分かりやすく解説した動画は、DTM初心者をはじめ国内外の実績あるミュージシャンからも好評。海外プラグインメーカーへのプリセット提供や開発にも携わっている。

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