SONICWIRE
はじめの一歩 音を作る側へ踏み出した、そのはじまり 夏海ルイ

すべてのクリエイターには、“はじめの一歩”がある。

~夏海ルイ:音を作る側へ踏み出した、そのはじまり~

Special Interview Presented by SONICWIRE

本シリーズでは、音楽を生み出す人たちの原点と現在地をたどり、その制作の背景にある選択や葛藤をひもといていきます。

今回は、音楽制作を続けているクリエイターの中から、劇伴・BGM制作を中心に活動し、オーケストラからロックまで幅広い表現を取り入れながら独自のサウンドを生み出す作曲家・夏海ルイさんに、試行錯誤を重ねながら、自分なりの制作スタイルを築いてきた歩みをお聞きしました。


PROFILE

夏海ルイ / Rui Natsumi

作編曲家・ベーシスト

5歳よりピアノを始め、高校でギター、大学からベースに転向。東京電機大学卒業後、尚美ミュージックカレッジ作曲学科を卒業。楽器店勤務、制作事務所でのスタジオエンジニア業務やゲームBGM・SE制作、所属アーティストへの楽曲提供などを経て、現在はフリーランスの作編曲家として活動している。

海外ドラマ、アニメ、舞台、ゲームなど、映像作品や物語性のあるコンテンツを中心に劇伴・BGM・SE制作を手掛ける。日本テレビ番組BGM、バンダイ『最響カミズモード!』、TOKYO MX『超普通都市チバ伝説』、ローグライトアクションゲーム『Bless You Again』、保育園の園歌、など、幅広い作品に参加。

2020年より作曲コンテンツを発信するYouTubeチャンネル「夏海ルイの音楽隊」を開始。音楽制作の知識や作曲の面白さをわかりやすく届ける発信が支持を集め、登録者数は10万人を突破している。

Q1. 音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?

母親がBonjoviやLed Zeppelin、Eric Claptonをよく聴く人で、自然と洋楽ロックを聴いて育ちました。その中でも特にBonjoviが大好きでした。

小学5年生の頃、家でケーブルテレビを契約してMTVが見られるようになって。当時アメリカで活躍していた若手ミュージシャン達を深夜こっそりリビングで食い入るように見ていました。「自分もこんなバンドをやりたい!」と本気で思っていましたね。

海外アーティストたちの世界観は、当時千葉で暮らしていた小学生の自分の日常とはあまりにもかけ離れていて、すごく衝撃的でした。人種も性別も違うのに、「こんな世界があるんだ」「自分もそっちに行きたい」と強く憧れていました。

Q2. 「曲を作れるようになりたい」と思うようになったのは、どんな気持ちや出来事がきっかけでしたか?

制作風景

10代の頃バンドを組んだのですが、オリジナル曲を作れるメンバーが誰もいなかったんです。「じゃあ誰が作るの?」となって、自然と自分で作り始めることになりました。

とはいえ、最初から「作曲が大好きで仕方なかった!」というタイプでは全然なくて(笑)。むしろ当時は「曲作りが得意な人に提供してもらうのが一番早いのにな……」なんて、元も子もないことを思っていました。「なんでBonjoviみたいにならないんだ」って打ちのめされましたね。でも、それでもやめなかったってことは、結構楽しかったんだと思います。

Q3. 初めて作曲したとき、どんな環境で、何を使って制作していましたか?

最初に使ったのは「Cubase」でした。DTMを始めたばかりの頃は、音が出なかったり、クリックの出し方が分からなかったりと、制作以前の段階でつまずくことも多かったです。

ただ、当時は工業大学の情報系学科に通っていて、普段からパソコンに触れる機会が多かったこともあり、PCトラブルや思い通りに動かない状況には比較的慣れていました。振り返ると、そうしたストレスへの耐性があったことも、DTMを途中で投げ出さずに続けられた理由の一つだったのかもしれません。

――ちなみに最初に購入したDAWは何でしたか?それを選んだ理由も、覚えていれば教えてください。

自分で最初に購入したDAWは「Logic」でした。当時は「MacでLogicを使っている作曲家が一番イカしてる」と何故か本気で思っていて(笑)。コスパや自分に合っているか、なんて全く考えていなくて憧れだけで選んでいましたね。

Q4. 最初に音楽制作を始める時、機材やソフト選びで迷ったことはありましたか?

iMacと夏海ルイさん

最初は「どこにお金をかければ曲のクオリティが上がるのか」が全然分からなかったですね。

初心者なので、ドラムの音はしょぼいのに何故かタンバリンだけ妙に高音質、みたいなことになっていました。どの楽器の音が曲の足を引っ張っているのか分からないので、「何を買うべきか分からない」というのが一番の悩みでした。

Q5. ソフトや音楽ツールの使い方が分からないとき、どのように解決していましたか?

オンラインレッスンを単発で受けていました。

初心者の頃って、そもそも知らない単語は調べることすらできないんですよね。自分だけで解決しようとするとろくなことにならない、という感覚があったので、「分かる人に聞くのが一番早い」と思っていました。

Q6. 当時は、どんな流れで曲を作っていたのでしょうか?また、現在の制作スタイルとの違いがあれば教えてください。

最初はメロディーとコードだけ作っていました。それをバンドメンバーに持っていって、あとはスタジオで合わせながら作っていく、というスタイルでした。今みたいに完全に一人で完結するようになったのは、BGM制作の依頼を受けたタイミングからです。

Q7. バンドから、劇伴・BGM制作へと活動が広がっていったきっかけがあれば教えてください。

ベースを弾く様子

バンド時代にお世話になっていた制作会社の方から声をかけていただいたことです。当時バンドが解散して私はフリーターでした。サポートでベースを弾く機会は結構ありましたが、「バンドがやりたかったのであって、スタジオミュージシャンになりたかったわけではない」という思いがあり葛藤していました。

そんな時にバンド時代にお世話になった制作会社の方から「ゲームBGMの仕事なら振れそうだけど、やってみる?」と声をかけていただきました。未経験ではありましたが、「よく分かりませんが何でもやります!」という気持ちで飛び込んだのが最初です。

――バンドでの楽曲制作と、劇伴・BGM制作では、音楽との向き合い方にどんな変化がありましたか?

バンドの時は、自分が作った曲がそのままの状態で世に出ることはほとんどありませんでした。ギターパートはギター担当が、ボーカルのハモリはボーカル担当が作ります。一方で、BGMや劇伴制作は、自分が作ったものがそのまま作品として世に出ていくので、最初はそれがとても恐怖でした。

私はずっとバンド畑の人間だったのですが、BGMや劇伴を作るとなるとどうしてもオーケストラ編成の曲を求められる機会が増えていきました。オーケストレーションを独学だけで学ぶのは難しいと感じ、途中で全日制の専門学校に入り直したこともあります。何とか特待生で入って費用を抑えられないか、かなり悪戦苦闘したりしていました。笑

ただ、不思議と苦ではなくて。制作を続けるうちに、BGMや劇伴を作ることがどんどん好きになっていきました。歌もののコンペはなかなか通らなかったのですが、BGMコンペは採用していただける機会が多く、自分に合っている道なのかもしれないと感じるようになりました。

Q8. これまで音楽と関わる中で、一度立ち止まったり、距離を置こうかなと思ったことはありましたか?

「むしろ音楽があるから辛いんじゃないか」と思ってやめた場合の人生をシミュレーションしてみたことはあります。でも実際にはイメージするだけで行動には移せないんですよね。

結局、音楽よりやりたいことがなくて、仮に就職するとしても「どうやったら音楽も続けられるかな」と考えてしまう。自分の中ではずっと音楽がベースにあるんだと思います。

Q9. お仕事として音楽制作に向き合う日々の中で、プライベートではどのように音楽と関わっていますか?

最近は一周回ってCDプレイヤーを買いました。サブスクが主流になってから「アルバム一枚を敬意を持ってじっくり聴く」みたいな体験が減った気がしていて。無駄に面倒なんですけど、結構楽しいです。

制作面では12音技法で遊んでみたりもしています。「いつ使うんだこれ……」という感じです。

Q10. 音楽制作を続ける中で、音楽そのもの以外に、気持ちを支えてくれているものはありますか?

YouTube撮影環境

YouTubeの動画制作ですね。

コメントをもらえるので「作ったものがちゃんと届いている」という感覚を得られるのが、自分にとってかなり支えになっています。音楽制作は一人で黙々と向き合う時間も多いので、視聴者の反応を見ることが良い気分転換にもなっています。

――これまで視聴者からもらって一番嬉しかったコメントや、自分の制作へのモチベーションが爆発したような出来事はありましたか?

YouTubeをやっていると、時にはかなり厳しいコメントやアンチコメントが来ることもあります。ただ、それに対して私以上に怒ってくれる方がいるんです。「私が好きで応援している人を侮辱しないでほしい」というように、私本人よりも怒ってくれる方がいることが、とても印象に残っています。

自分の活動を、そこまで大切に思ってくれている方がいるのだと感じると、「この人たちをもっと楽しませたい」というモチベーションにつながります。また、YouTube経由で作曲のご依頼をいただくことも多く、発信を続ける大きな理由にもなっています。

Q11. 普段どんな場所・環境で制作していますか?

制作デスク周り

家に仕事部屋を一部屋用意していて、窓を防音加工したり、吸音材を貼ったりしています。本格的なスタジオほどではないですが、普通の部屋よりはかなり制作しやすい環境ですね。

気分転換でカフェに行くこともあります。がっつりしたアレンジは難しいんですけど、ドラムフィルを考えたり、コーラスラインを作ったりする作業は外でやることも多いです。

Q12. 制作を始めるとき、どんなふうに“制作のスイッチ”を入れていますか?日々制作を続ける中で、意識している習慣があれば教えてください。

私はかなり怠け癖があるので、制作を続けるための工夫はずっと試行錯誤しています。ポモドーロタイマーを使ったり、「Study With Me」の配信を流して誰かと一緒に作業している気分を作ったりしています。To Doリストは守れた試しがないので、1週間単位でやることをざっくり書いてその時やれそうなものから手をつけることが多いです。

どうしても制作スイッチが入らない日は、カフェや図書館に移動して仕事したり、自分が気づかないだけで体調が悪い可能性があるので栄養あるご飯を食べたりしています。あとはChatGPTに「今から8小節作ります」と逐一宣言するのも意外と効果的です(笑)。誰かに見られている感覚があると少しだけ頑張れるんですよね。

Q13. 「これがあると安心する」「気分が上がる」モノがあれば教えてください。

メカニカルキーボード

音が良いガジェットがあると気分が上がりますね。文字を打つ方のキーボードもメカニカルキーボードを使っていいて、気分転換に違うものへ変えたりしています。打鍵音には結構こだわりがあります。

Rollbahnノート

あとはRollbahnのノートが好きで、思いついたことをメモしたりする時間も気分が上がります。デザインと書き心地が最高なんですよね。

Q14. 音楽制作を始めたばかりの頃の自分に、今声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?

オーケストラ収録風景

肩をトンと叩いて「これからもっと大変になるよ」とニヤけた顔で言いたいですね(笑)。当時はかなり舐めていたので。

でも、そのくらい何も分かっていなかったからこそ怖がらずに飛び込めた部分もあったんだと思います。

Q15. この先叶えたい夢はありますか?

最近はAIの進化もあって、クリエイターは今後かなり淘汰されていくと思っています。特に私のような劇伴やBGMを作る作曲家は、映画やゲームなど“先に作品が存在していること”が前提の仕事なので、受注が止まると成り立たなくなる危うさも感じています。だから最近は、「自分で仕事を作れるようにならないといけない」と考えるようになりました。

例えばゲームや映像作品を企画から自分で作れれば、その音楽も自分で作れる。シンガーソングライターの方って、ある意味すでに“自家発電”できていて強いなと思うんです。もちろん、そこには資金も人もファンも必要なので簡単ではないんですが、今はそこに向かって少しずつ動いています。YouTubeを続けているのもその一つですね。

今はありがたいことにクライアントワークだけで生きていけていますが、5年後は本当に分からない。でも、また打ちのめされながら頑張っていくんだと思います。

――これから曲づくりを始める人たちへ、一言メッセージをお願いします!

この先「展開が思い浮かばない」「なんか音がしょぼい」「何かに似ている気がする」「自分は耳が悪いんじゃないか」みたいに問題が山積みになると思います(笑)。

でも、続けていれば意外と全部なんとなく何とかなっていきます。自分に期待しすぎず、でも“好き”という気持ちには自信を持って、お互い頑張りましょう。


この作品の音、なにを使っている?

『Bless You Again』

最近音楽を担当させていただいた3DアクションRPG『Bless You Again』というゲーム作品にて、BGM制作を担当しております。2026年リリース予定の作品で現在はプレイテストなども進行しています。

世界観がファンタジー作品のため、オーケストラ楽器を基盤に制作していますが、それに加えて、氷が触れ合う音や木が軋む音、鍵が高所から落ちる音など、「日常に存在するけれど、どこか神秘的で美しい音」をサンプリングし、楽器のように使用しています。

また、私自身のルーツがロックにあるため、場面によってはエレキギターやベースなども部分的に取り入れながら、ファンタジー世界の空気感を壊さず、戦闘シーンの迫力や緊張感を表現できるよう意識しています。

ベースは、エレキベースの場合は自分で演奏しています。アトリエZ M#245K-CTMで録音、ウッドベースは主に「Trilian」を使用しています。エレキギターは「SC Electric Guitar 2」を使用しており、内蔵エフェクトはバイパスして、「Guitar Rig」で音作りをしています。その方が、自分としては音作りしやすいためです。

使用した主な製品

「Omnisphere」は、ほぼすべての曲で使用していると思います。「ただのGlockenspielやトイピアノだと少し物足りないけれど、その方向性で面白い音はないかな」と探す時に、かなり重宝しています。

Opening曲とEnding曲はピアノがメインになっており、Kontaktに入っているNew York Phil’sと、「Keyscape」のRich Ballad系の音色を使用しています。どちらも艶っぽく雰囲気のある音が一発で出るので、最近特に気に入って使っています。

また、サンプリングした音は「Battery」に入れて、良いキットができたら保存しています。自分で作ったお気に入りのキットがたくさんあります。ダンジョン曲はバージョン違いの曲がいくつかあるため、同じキットを使うことで、楽曲同士に統一感が出るようにしています。

Demosong Playlist
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