【製品レビュー】Dios/シグナルPが語る、OEKSOUND社『SOOTHE2』『SPIFF』の活用術!
登場以来、類稀なる利便性とその性能で不動の人気を誇っているOEKSOUND社製品。
低音のこもりがちな部分や耳が痛くなる高音など、いわゆる「共鳴」「共振」とも呼ばれる耳障りな音を取り除き、密なミックスを整えるレゾナンス・サプレッサー『SOOTHE2』と、音の立ち上がり(アタック)と余韻(リリース)の強弱をそれぞれ柔軟に調整するトランジェント・コントローラー『SPIFF』の2製品は、エンジニアの中でも注目を集めている逸品です。
今回は作編曲家・作詞家・エンジニアとして広く活動し、「初音ミクシンフォニー2021」のテーマ曲『怪人』を書き下ろしていただいたDios/シグナルP氏に、同社製品の魅力を語っていただきました。
レゾナンス・サプレッサー&ディエッサー『SOOTHE2』
レゾナンスサプレッサー&ディエッサーと聞いて、普通のマルチバンドコンプレッサーやダイナミックEQと何が違うんだろ?と、最初はピンと来なかったのですが、実際に使ってみるとその便利さがすぐに分かりました。
特にボーカルに対して大きな威力を発揮するようで、部屋の音響や機材がしっかりしているスタジオで収録した素材は扱いが楽なのですが、近年は自宅でリーズナブルな機材で収録される機会も多く、人によって録り音の癖が様々であり、そのような素材をもらってミックスするようなエンジニアさんにとっては、毎回どのようにトリートメントするかというのは悩ましいところです。
自宅で歌を録る場合、吸音対策をしているつもりでも、低音域のコントロールは難しく、特に300Hz以下では定在波の発生でモコモコとしたピークが発生してしまい、これが原因で曲の中に埋もれてしまったり、なんだか垢抜けない声になってしまいます。
EQでそのモコモコした部分を取り除ければいいのですが、必要な低域まで削れてスカスカな声になったりしますよね。
特に安いマイクだと元々低域が弱くハイ上がりだったりするので、本当は低域は増したいけどそうするとモコモコしてしまう…という葛藤に悩まされてしまいます。
例えば300Hzにピークがある場合、ダイナミックEQを使えば300Hzに過剰に入力があった時だけピンポイントにリダクションすることでスカスカになるのを防ぐことはできます。『SOOTHE2』はそれに加え、設定したfreqの周辺の倍音のピークまでマルチで検出してくれて、かなり複雑なリダクションをしてくれます。また、なんか鼻声っぽいのを解消したいときなど、音程によって鼻声の原因になっている周波数が移動してしまうのですが、しっかりと追従してリダクションしてくれます。
一般的なディエッサーは設定した周波数にピークがあると、その周波数をリダクションするだけですが、⻭擦⾳のサ行でも「さすせそ」と「し」では発生する周波数が異なり、これもしっかり追従して発生したピークの周波数だけをピンポイントで抑えることが可能です。
他にもツンツンと耳に痛い帯域や過剰なブレス音などの不快な成分を、必要な成分にできる限り影響を与えないままコントロールできます。
このようにすごく複雑な処理を自動でしてくれますが、これらの設定は各パラメーターを弄ったときに、アナライザーがとても分かりやすく反応してくれるため、今どういった変化をしているのかが確認しやすいので、目と耳で確認しながら調整していくと、短時間で理想の処理に近づけていきやすいです。
今まではボーカルの処理に必要だったダイナミックEQ、マルチバンドコンプ、ディエッサーが『SOOTHE2』ひとつで賄えて時短になるので、これからは積極的に使っていこうと思います。
トランジェント・コントローラー『SPIFF』
イコライザー感覚で使用できる高性能なトランジェントツールということで、ドラムのアタックやリリース感にすごくこだわりがある僕としては、試す前からとてもワクワクしていました。
トランジェントを調整できるプラグインは数多くありますが、アタックを強調すると確かに効きは良いのだけど、メーターのピークがすぐ飛び出てしまってその分レベルを下げると結果的にしょぼくなってしまったり、後段にリミッターを置いてピークを抑えて本末転倒になってしまったり、意外と使い所が難しかったりします。
『SPIFF』はイコライザーのように、かなり狭い範囲を狙ってブーストすることができるので、例えばスネアのトップにスティックが当たる音だけを狙うことによって、余計な帯域のアタックが上がらないため、聴感上はかなりアタックが出ているのも関わらず、メーターのピークはあまり上がらないといったような使い方ができます。
スナッピーの帯域だけ狙ってdecayを調整すれば、胴鳴りのぼわつきは抑えたままリリースを維持することができるので、コンプで思いっきり潰したときよりも更にアグレッシブな音作りができますし、逆に胴鳴りの部分を狙えばスネアなんだけどタムのようなぶっとくて重いサウンドに仕上げられます。
イコライザーのように調整できるということは、パーツ単体のチャンネルだけではなく、オーバーヘッドやアンビエンスマイクのチャンネルに含まれる特定のパーツだけ調整するといった使い方もできますし、イコライザーディスプレイに表示されるアナライザーを見ながらやると、簡単に狙った部分を見つけられます。
また、リズム隊だけに限らず、様々なソースに威力を発揮することができます。
例えばシンセで特定の周波数を狙ってsensitivityやdecayを調整すると、シンセに通常あるパラメーターだけではできないような音作りができたり、発想次第で単なるトランジェントツールとは違った積極的な使い方ができます。
『SOOTHE2』と『SPIFF』どちらにも共通して言えるのが、とにかくイコライザーディスプレイが使いやすく、アナライザーが見やすいので、狙ったところに素早く設定することができるのはもちろん、適当にグリグリ弄ってみて偶発的に面白いサウンドを発見できたりなど、枠に囚われない自由な使い方をしてみてもいいかもしれないですね。
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