SONICWIRE
はじめの一歩 Utae

すべてのクリエイターには、“はじめの一歩”がある。

~音を作る側へ踏み出した、そのはじまり:Utae~

Special Interview Presented by SONICWIRE

本シリーズでは、音楽を生み出す人たちの原点と現在地をたどり、その制作の背景にある選択や葛藤をひもといていきます。

今回は、音楽制作を続けているクリエイターの中から、エレクトロニカやアンビエントを中心に、繊細な音の重なりで独自のサウンドを生み出すトラックメイカー・音楽プロデューサーのUtaeさんに、音楽制作を始めたきっかけや、音づくりへのこだわりについてお聞きしました。


PROFILE

Utae

トラックメーカー / SSW

ポップス、エクスペリメンタルまで網羅したバリエーション豊かな作品を制作。また、アートワーク制作など活動は多岐にわたる。

Q1. 音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?

小学校2年生の時にテレビのCMで使われていたエンヤの曲に惹かれて、それが音楽との出会いとして印象的です。

Q2. 「曲を作れるようになりたい」と思うようになったのは、どんな気持ちや出来事がきっかけでしたか?

CMで聴いていたのをきっかけにエンヤのCDを買ってもらって聴き込んでいたのですが、「いっぱい声が重なっててすごい、どうやって作っているんだろう?」と不思議に思い制作手法を大人に聞いたところ、「多重録音」というキーワードを教えてもらったことがきっかけで作曲、というか音を重ねていくという行為に興味を持ちました。

――「多重録音」という言葉との出会いが、現在の制作にも影響していると感じますか?

今の制作にも大きく影響していると思います。レコーダーなどでサンプリングした物音を取り込んだり、声を録音したりすると、生の揺らぎが重なり合い、カチカチに打ち込みをする時とはまた異なる楽しさを今でも感じます。

Q3. 初めて作曲したとき、どんな環境で、何を使って制作していましたか?

今みたいに作曲ツールが身近ではなかったころだったので、その後何年も座右の銘の如く「多重録音」という四字熟語を心の壁に飾っていました。中学2年生になった頃、ようやく買ってもらえたPCの中にボイスレコーダー機能があることに気づき、それが同時に何個も起動できるとわかったので多重録音ができるのでは?と思いつき、早速複数起動して、1つ目に録音した音を流しながら2つ目にそれをさらに録音しつつ新しい音を重ねる・・・というのを何個も重ねる自力DTMから始めました。

――ちなみに最初に購入したDAWは何でしたか?それを選んだ理由も、覚えていれば教えてください。

ProToolsです。触れるとどこに行っても困らないというふうに聞いたので、ひとまずそれで作曲していました。

Q4. 最初に音楽制作を始める時、機材やソフト選びで迷ったことはありましたか?どんな点で迷ったか教えてください。

ProToolsから別のDAWに乗り換えようと思った時、選択肢が多くて迷いました。当時はポップな曲をよく作っていたりしたのと周りの人もユーザーが多かった「Cubase」がいいかなとも考えたのですが、「Ableton Live」のシンプルなグレーカラーとセッションビューのエクセル的ビジュからは想像もつかないユニークな機能と直感的な操作性に惹かれてAbleton Liveにしました。

――実際に使い始めて「これはLiveならではだ」と感じた機能や、現在も特に気に入っているポイントがあれば教えてください。

音をさまざまな形に加工しやすく、感覚的に操作できるところが気に入っています。特にMax for liveの「Inspired by Nature」という、物理現象や自然界の法則から着想を得たデバイスがあるのですが、 音を自然界のリズムのように変化させることができます。偶然性のある面白い音が生まれるので、今でもよく使っています。

Q5. ソフトや音楽ツールの使い方が分からないとき、どのように解決していましたか?

インターネットに頼ります。ソフトに関しては、基礎をざっくり把握するためにSNSなどでも解説してる発信者の動画を見ます。あとはもう、そのままなんとなく使い続けちゃいます。

Q6. 始めたての頃は、どんな流れで曲を作っていたのでしょうか?また、現在の制作スタイルとの違いがあれば教えてください。

最初はざっくりメロやコードを作って肉付けしていくというやり方で作っていました。最近は、一旦ビートを作ってみてテンションを確かめるみたいな感じもやっています。

Q7. これまで音楽と関わる中で、一度立ち止まったり、距離を置こうかなと思ったことはありましたか?

作品制作においては、「よし、やるぞ!」と強い意気込みで始めたわけではないので、良くも悪くも「もうやめよう」と思ったことはあまりありません。

今も音楽を続けられているのは、作る時間があること、作れる時間と精神的なゆとりがあるからこそだと感じています。私にとって制作は、料理とか編み物、運動、掃除のようなある種のセルフケア的な側面とマインドフルネスに近い感覚もあります。

一方で、音楽そのものが嫌になったというよりは、「音楽をやっている」「若い」「女性」といった肩書きやイメージだけで見られてしまうことで、無力感を覚えたことはありました。
それでも、そうした先入観ではなく、一人のクリエイターとして向き合ってくれる方々に支えられたことで、気持ちのバランスを取り戻し、今も制作を続けることができています。

Q8. お仕事として音楽制作に向き合う日々の中で、プライベートではどのように音楽と関わっていますか?

ただ音を粘土みたいにこねているだけの時間があったり、あてどなく音をいじっている状態が楽しいです。そういう何も考えずに戯れる時間も大切だなと感じます。仕事では手ぐせ以外の新しいやり方だったり音づくりを試してみる機会が多くなるので、そこで得たものをプライベートで応用したりするのも楽しいです。

Q9. 音楽制作を続ける中で、音楽そのもの以外に、気持ちを支えてくれているものはありますか?

写真撮影と散歩。街を歩きながら色々撮っています。時々アーティスト写真などを撮ったりもするのですが、そうやって音楽に関わることができるのはとても嬉しいです。あと、英語の勉強やPodcastを聴くこと。言語を切り替えることで意識も切り替わるし、今いる場所じゃない世界に馳せることで現在地の比重が少しだけ軽くなって良いです。

――写真を撮ることと音楽制作には、ご自身の中で共通している感覚はありますか?

▲Utaeさん撮影スナップ

音のことを考える時は吸音材を置いたり録音するときのマイクの角度や距離、種類、反響具合を色々考慮したりしますが、写真だとそれが光を考える時に似ていているなと感じます。どれくらい明るいか、どれくらい光ってるのか、どこに反射してるのか、と考えてるときにレコーディングみたいだなと。編集するときもミックスをしてるみたいな感覚です。

Q10. 普段どんな場所・環境で制作していますか?

基本的に自宅作業です。最近は小さめのMIDIキーボードで作業するのにはまっています。普通の鍵盤サイズより指が届く範囲が広くていつもはできなかった入力の仕方ができたりしてより体に馴染みます。

――現在使用されている機種を教えていただけますか?また、小型ならではの魅力やおすすめポイントがあればぜひ教えてください。

小型MIDIキーボードは、「KORGのmicro KEY」を使っています。出先で使う用に買ったのですが、軽くて小さいけど鍵盤は厚みがあって深く押せるのでちょうど良いです。
大きい鍵盤を前にすると気負いすぎてしまうなと思う時にも、ひとまずピロピロと軽く作り始めようと思えるので助かります。

Q11. 制作を始めるとき、どんなふうに“制作のスイッチ”を入れていますか?日々制作を続ける中で、意識している習慣があれば教えてください。

昼なら、コーヒーを飲んで取り組むモードに切り替えます。でも、夜の方が外の明るさも部屋の光も一定で環境の変化が少ないので集中しやすいなと感じています。

Q12. 「これがあると安心する」「気分が上がる」モノがあれば教えてください。

カメラです。情景・瞬間を持って帰れるのが楽しいです。2008年ごろのコンデジなのですが味のある写りです。現像しながら音楽を聴いたり、写真の情景に合う曲がなんとなく頭に浮かんだりするいい循環が生まれます。

Q13. 音楽制作を始めたばかりの頃の自分に、今声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?

マウスを使わず作っていたので、マウスを買いなさいと言いたいです。去年デスクトップからノートパソコンに変えて再びマウスを使っていないので、相変わらずですが...。

Q14. この先叶えたい夢はありますか?

北海道の湖のそばか、どこか海外に滞在して作品作りをしてみたいです。いろんなギャラリーを巡ったり、食べ物で環境を取り込みながら、自分の生きてきた記憶がない環境下で脳のスイッチを少し変えたらどんなことを感じたり考えたりするのか、自分の出力のあり方が変わったりするのかが気になります。

――これから曲づくりを始める人たちへ、一言メッセージをお願いします!

始めちゃってください!!


この作品の音、なにを使っている?

曲名:20℃

フルートやカリンバの音を録音しました。有機的なサウンドにしたいなと思いながら作りました。

――制作する中で特にこだわった音や、「ここをぜひ聴いてほしい」というポイントがあれば教えてください。

小粒っぽい音作り、テクスチャー感、少しノイズっぽさなどが残る感じを残しました。
音をきれいに整えすぎず、あえて生っぽい揺らぎや空気感を残すことで、有機的なサウンドになるよう意識しています。その質感にぜひ耳を傾けていただけたら嬉しいです。

――この作品の中で使用した音源やプラグインなどを教えてください。

Ableton Live内蔵のInstrument Rackをよく使いました。フルートやカリンバの音を録音してそのまま使っている部分と、そのオーディオをInstrument Rackに取り込んで演奏している部分を混ぜています。
フルートやカリンバなどの生楽器を取り入れたのは、ピコピコしていない生っぽい音に仕上げたかったのと、自分が演奏できる楽器を使ってどんなサウンドが生まれるのか試してみたい、という実験的な発想から取り入れました。

Demosong Playlist
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