動画あり
ピアノ音源8製品を、宇都圭輝氏が弾き比べ。
オーケストラ音源の老舗、Vienna Symphonic Library社が展開しているピアノ音源シリーズ「Synchron Pianos」。世界各国のハイエンドなグランドピアノ/アップライトピアノをキャプチャーし、本記事執筆時点で8種をラインナップしています。
世界最高峰の収録用ステージ「Synchron Stage Vienna」に設置された複数のマイクを自在にミックスできる他、サンプリングには専用に開発された打鍵ロボットを使用することで、寸分の狂いもない正確なベロシティーでレコーディングが行われます。そのため演奏時のリアリティにおいては、他の追随を許しません。
今回はHoneyWorksでのキーボーディストとしてのご活動や、その他多くの作品への楽曲提供、ライブ活動などで知られるキーボーディスト“宇都圭輝”氏に8製品を弾き比べていただき(動画あり)、同シリーズの魅力とピアノ音源の活用方法を伺いました。思わず聴き惚れてしまう同氏の美しい演奏と共にお楽しみください。
まずは音声を聴きたいという方は、こちらから8製品全ての演奏をまとめた動画をご覧ください!
インデックス
はじめに:「Synchron Pianos」シリーズの収録環境
「Synchron Pianos」シリーズはいずれも、VSL社が保有し、様々なトップ級映画作品の収録でも使用されるスコアリング・ステージ「Synchron Stage Vienna」で収録されています。
さらにその中でも、ルームが大きくふくよかなアンビエンスが得られる「Stage A」、ルームが小さくよりデッドなアンビエンスが得られる「Stage B」があり、製品によって収録ステージが異なります。
今回、宇都氏には「Stage A」「Stage B」の各音源を使用した弾き比べを行っていただき、各演奏にご使用いただいたマイキング設定のスクリーンショット画像をいただきました。
1. SYNCHRON YAMAHA CFX
宇都氏:
Synchron Pianos製品の中でも一番お気に入りのモデルで、自主制作の音源は全てこれにしています。今までピアノをモチーフにした様々なソフト音源に触れてきましたが、その中でもトップレベルに音色が好きですね。
ベロシティによる音色の変化もかなりしっかり再現されており、サンプリングの精緻さを物語っていると思います。
粒立ちがすごく、いわゆるポップやジャズのジャンルに向いている印象です。
2. SYNCHRON CONCERT D-274
宇都氏:
他のモデルと比べると、とにかく音の明るさが特徴的なモデルだなと思います。
「Synchron Pianos」シリーズ製品全てに言えることなんですが、普通のリハスタに比べると残響音が広めで、ポップスに合わせるのは難しい印象があったんです。でもこれは抜けがとにかく良いですし、アタック音がしっかりと出ていてきらびやかな音色だと思います。
J-POPやJ-Rockにも合いそうな音色をしていますね。
3. SYNCHRON BOESENDORFER IMPERIAL
宇都氏:
他のモデルの音源に比べると、響きが豊かで優しい音色だなと感じました。
他のモデルに比べてもペダルノイズが特徴的で、すごく柔らかい落ち着いた音をしています。ジャンルで言うとバラードに合いそうな音質ですね。
4. SYNCHRON FAZIOLI F308
宇都氏:
粒立ちがしっかりしていて、密度も強めですね。
普段はピアノ音源をポップスに使うことが多いので、基本的にピアノ本体に近いコンデンサーやリボンなどのマイクの音量を大きめに設定することが多いです。そういったこともあり、EXTENDEDライブラリに収録されているリボンマイクとチューブマイクの組み合わせがとても良いと思いました。
5. SYNCHRON BOESENDORFER 280VC
宇都氏:
割と明るめな音なのと、「Stage B」での収録ということもありアンビエントな感じの音が抑えめに感じました。そういう特徴もあり、ポップスにすごくマッチしそうです。他の音源に比べると、高音の抜けが特に良いなと思います。
最高音&最低音のアタックがぼやけるピアノ音源が多い中、そこがはっきり&くっきりしているので、打ち込みの人が好むような存在感があるモデルだと感じています。
6. SYNCHRON BOESENDORFER UPRIGHT
宇都氏:
当たり前ですが、「アップライトってこういう音だよな」っていう出音だと思います(笑)
レトロな雰囲気のある優しい音色で、劇伴とかで有用そうです。アップライト全般に言えることですが、ただ丸っぽくすればアップライトというわけではないので、1音弾いた後の質感から「サンプル数すごいんだろうな」と感じました。
スタジオ ベーゼンドルファー アップライト
VSLの最新鋭スタジオによるBoesendorfer Upright Grand 130 ピアノ音源!
¥22,660
7. SYNCHRON BLUTHNER 1895
宇都氏:
他のモデルと比べて、音色が特徴的なモデルです。例えるのであればハープシコードのような印象さえ受けます。
高音の出音は特に豊か&特徴的で、「Synchron Pianos」シリーズの中では一番キャラが立っているのではないでしょうか。
8. SYNCHRON GERMAN UPRIGHT 1904
宇都氏:
印象としては『SYNCHRON BOESENDORFER UPRIGHT』に近いものがあるかなと思いました。
アップライトピアノ特有のアクション機構が、弾いていてしっかり感じられるリアルな音色だなと思います。
アップライトを楽曲の中で必要とする場合に欲しくなる製品です。
スタジオ ジャーマン アップライト 1904
VSLの最新鋭スタジオで収録された、ヴィンテージ・アップライト・ピアノ音源!
¥22,660
宇都氏:
ピアノ音源は数多くありますが、他の製品と比べるとGUIがとてもリッチだなと思いました。またマイキングを細かく調整できるところがすごく便利で、音作りを細かくいじれるのがありがたいです。
宇都氏:
[Play] タブ内の「REVERB」を最小にするのはもちろん、「Synchron Pianos」シリーズはダイナミクスレンジがすごく広いので、「DYNAMIC」の項目は必ずいじるようにしています。特にベロシティによる音量感の差は大きいです。簡単なコンプみたいに使えるので便利ですし、弱い音色でも質感があるように聞かせられるので欠かせません。
また、[Edit] タブ内の「RS Level」という設定は、音の距離感の近さに一役買っていると思います。
この「RS Level」を下げていくことで残響音も消えていくので、パーカッシブな演奏をしたい時にとても有効です。通常のピアノ音源だとリリースサンプルを切ることで不自然な音色になったりするんですが、このSynchron Piano Playerはその辺の処理をちょうどよくやってくれるので、「RS Level」を最小まで下げても無理やりカットされたように感じないのがすごい良いなと思います。
また「Repetition Smear」という項目があるのですが、これをオンにすることで同じ鍵盤を何度も連打した時のアクションがリアルになります。こういった細かい挙動も操作できるのが面白いですね。
キーボーディスト目線で見る「Synchron Pianos」シリーズ
宇都氏:
僕は明るくてアタッキーな音が好きなんですが、『SYNCHRON YAMAHA CFX』の音色は素晴らしいです!
他のピアノ音源では、「ソフトの中で弾いている時の感触」と「現場で実機のグランドピアノを触った時の感触」が全く違うことがよくあるんですが、このCFXについてはそれが全く無いです。低音のサンプルもリアルで、本当にグランドピアノそのものだなと感じました。
宇都氏:
音については本当に申し分ない音源だなと思います。あとは使っている鍵盤と音源のマッチング、Synchron Piano Playerの [Edit] タブ内にあるベロシティカーブの設定などによって、弾き心地が実際のピアノにいかようにも近くなりうると思いました。
僕自身はRoland社のRD-2000を使っていますが、鍵盤のタッチ感と音源のクオリティ的にはかなりマッチしていて弾きやすいです。あとは昔使っていたKAWAI社のVPC1なんかも合いそうな気がします。
作曲者目線で見る「Synchron Pianos」シリーズ
宇都氏:
先の通り基本は『SYNCHRON YAMAHA CFX』にはなるんですが、『SYNCHRON CONCERT D-274』のモデルであるSteinway社のサウンドも、CFXには無い個性やきらびやかさがあって好きです。日本の音楽に合うサウンドだなと思います。
宇都氏:
そうですね。日本の音楽で使われるピアノはクローズなサウンドであることが多いので、お仕事でもそこのドライさを求められることが多いです。『SYNCHRON YAMAHA CFX』はオンマイクのサンプルが非常に優秀で、先日CFXを使用した音源を納品したところすごく喜ばれました。
宇都氏:
あくまでメインはグランドピアノにしつつ、イントロだけ、落ちだけアップライトの音色でローファイな感じにするといったような使い方をすると思います。
アレンジでレトロな雰囲気を出したい時にはグランドピアノのサウンドは少しリッチすぎるので、アップライトのノスタルジーなサウンドはこういうところで重宝しますね。
あと、そもそもアップライトピアノの音源ってバリエーションがほとんどないので、ここまでリアルなアップライト音源を取り揃えてくれる「Synchron Pianos」シリーズの存在は非常に助かります。
スタジオ ベーゼンドルファー アップライト
VSLの最新鋭スタジオによるBoesendorfer Upright Grand 130 ピアノ音源!
¥22,660
スタジオ ジャーマン アップライト 1904
VSLの最新鋭スタジオで収録された、ヴィンテージ・アップライト・ピアノ音源!
¥22,660
宇都氏:
普段の制作での使用シーンというよりは、主に劇伴のような音楽で使用されることが多いのではないかと思います。
ピアノの低音部分はリバース(逆再生)して効果音として使用する手法を取る方も多いので、普通のピアノでは出せないさらに低い音を使うことで、より迫力のあるサウンドになるのではと思います。
ピアノ音源の打ち込みのコツ
宇都氏:
やっぱり自分自身がピアノを演奏する人間なので、各フレーズの前後の挙動についてはかなり気をつけるようにしています。
例えば「このグリッサンドをした直後にこの演奏をするのは無理だよな」といったように演者目線で考えているので、自分のレコーディングしたピアノトラックの中でも一連の流れをちぐはぐにしないことには気を遣っています。
演奏しながら打ち込んだ音も、その辺りの整合性が取れないと思ったところについては修正を入れて滑らかにしています。
宇都氏:
ピアノが弾けない方の打ち込みを見ていると思うのが、「リズムが整いすぎている」ということですね。例えば「ドミソ」といった和音であっても、実際のピアノで演奏された時の弾き始めのタイミングには必ずズレが生じます。なのでアタックを揃えすぎないことが大切です。
また同じく、「ドミソ」のそれぞれの音のベロシティも違うので、3つの音のベロシティが同じになっていると違和感が生じがちです。例えば人間は構造上、薬指の力が弱いので、そこで弾いているであろうものはベロシティを弱くするだけでもかなりリアリティが上がります。
宇都氏:
その通りです。ピアノが弾けない方も一度鍵盤に手を置いてみて、「この指であればこんな打鍵になる」ということを想像しながら打ち込んでみてください。DAWやプラグインに搭載されている「ランダマイズ」機能を使って、タイミングやベロシティをランダム化してしまうのもおすすめです。
また長めのフレーズでMIDIノートを伸ばす方もいますが、「Synchron Pianos」のようにダンパーペダルのサンプルが収録されている製品ではそちらを使ったほうがよりリアルになります。
鍵盤が弾ける方でピアノのフレーズがなかなか思いつかない時は、あえて別の音で演奏しながら考えてみるのもおすすめです。本シリーズであれば『SYNCHRON BLUTHNER 1895』はすごく特徴的な音なので、アイデアの種になると思います!
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