今回は、あのTue MadsenのKEMPER リグがBOGREN DIGITAL社からリリースされたということで早速試させていただきました。

Tue MadsenといえばデンマークにANTFARMスタジオを構えるメタル、ラウドミュージック界では知らない人はいないほど有名なレコーディング&ミキシングエンジニアです。私がメインコンポーザー、ギタリストを務めるバンドBLOOD STAIN CHILDの3枚目のアルバム"Idolator"と4枚目のアルバム"mozaiq"のミックス&マスタリングをTue Madsenに担当していただきました。実際、彼とのやり取りの中でレコーディングの方法やミックスのヒント等を教えていただき学んだこともあり、いつにも増してワクワクして作業させていただきました。

BOGREN DIGITAL "Tue Madsen Signature Kemper Pack 1&2" by RYU/BLOOD STAIN CHILD

全てのリグをチェックしてみて思ったのが、エンジニア視点ならではの、とても実用的なリグであるということです。

シミュレーター等のパッチは誇張してるものが多かったりするのですが、素の音でありながらも絶妙に整えられたTue のリグは、本人のコメントにもあるようにTue自身が使える、使いたいと思うようなサウンドになっています。

アンプヘッド、キャビ、オーバードライブ、ディストーションはもちろん、マイキング、マイクの選定、HAで綿密に音作りしているものと思われます。この辺りも、彼との仕事の中で得たものをこの場でお話しさせていただきたいと思います。

まずは、『TUE MADSEN SIGNATURE KEMPER PACK』の方から解説したいと思います。

アンプヘッドやキャビは、Marshall、EVH、Mesa/Boogie Dual Rectifier と定番が押さえられていますが、中でも注目すべきはLabogaのMr.Hectorでしょう。私がBLOOD STAIN CHILDで彼と仕事をした時も、このMr.Hectorは登場していました。長年に渡って相当愛用しているようです。日本では流通していないので初耳の方も多いと思いますが、このLabogaのMr.HectorがTueサウンドの特徴の一つであると言えます。サウンドはとても分厚く、芯のあるサウンドです。

サンプル音源2 は、リグNo.TM017"MrHectmidLab"と後半リードの部分にNo.018"MrHectMars"を使用しました。こちらはヘッドMr.HectorとLabogaのキャビの組み合わせ、そしてヘッドMr.HectorとMarshallのキャビの組み合わせです。生々しいマイキングの音が聴けます。速いフレーズでもレスポンスが良く、弾きにくいと感じることはありません。

そしてサンプル音源3 では、Tueがミックス&マスタリングを担当した私のバンドBLOOD STAIN CHILDの4枚目のアルバム"mozaiq"に収録されている1曲目"Exotic-6-cordinator"を題材にして、リグNo.TM025"HSB mid"を使用しました。このリグはその名の通りHeaven Shall Burnで使用されているサウンドのリグですね。実際、BLOOD STAIN CHILDの"mozaiq"で聴けるギターサウンドに似ています。倍音の出方がTueサウンドそのものです。

HEAVEN SHALL BURN - The Weapon They Fear

BLOOD STAIN CHILD - Exotic-6-cordinator

もちろんMr.Hector以外の定番アンプのサウンドも素晴らしいサウンドになっています。サンプル4 では、リグNo.TM009 "RectFluxEVH"を使用しました。Mesa/Boogie Dual RectifierにMesa Flux Fiveをかけ、EVHのキャビで鳴らしたリグです。あと全てのリグに言えることですが、絶妙にゲートがかけられており、ライブでも安心して使用できます。

少し余談にはなりますが、そもそも私がTueにミックス&マスタリングをお願いするきっかけになったのが彼が担当したMnemicのアルバム、"The Audio Injected Soul"でした。

その音を聴いた時、あまりに衝撃的ですぐに彼にコンタクトを取りました。私は、BLOOD STAIN CHILDの"Idolator"で彼にサウンドの注文をする際、彼が担当したMnemicのアルバム"The Audio Injected Soul"のようなサウンドにして欲しいとお願いしました。両サイドからつん裂くようなアグレッシブなギターサウンドが固まりになって飛び出してきます。今聴いてもすごい迫力です。

MNEMIC - Door 2.12

BLOOD STAIN CHILD - Live Inside

"mozaiq"ではあえて何も注文せず、お任せでお願いしました。するとHeaven Shall Burnで聴けるような分厚い芯のあるギターサウンドで仕上がってきました。まさにTueサウンドです。彼が手がけた他のアルバムでも同様なサウンドが聴けます。

Tueサウンドでもう一つかかせないのがADK A51というマイクです。Tueはリグ制作の際、このマイクを使用していると思います。このマイクも、Laboga Mr.Hector同様に長年愛用しているそうで、彼の必需品のようです。実際、BLOOD STAIN CHILDのレコーディングの際、このマイクは持っているかと聞かれました。国内では流通されていないので当時は知らなかったのですが、すぐに海外から取り寄せて購入しました。コンデンサーマイクなのですが、程よいハイパス感と充実した中域でダイナミックの良さとコンデンサーの良さがミックスされたようなサウンドでした。

続いて、『TUE MADSEN SIGNATURE KEMPER PACK 2』ですが、こちらはHIGHER GAIN&CRUNCHということでより幅が広くバラエティ豊かなリグとなっています。クリーンサウンドも収録されています。

中でも特に気に入ったのがリグNo.TM "HI2 03 Vio-lence XXX"です（サンプル音源5）。これはまさにMnemicのアルバムで使われているようなアグレッシブで最高にヘヴィな音が固まりで飛びだしてきます。

サンプル音源6 は、クリーン系でTM CC08"JMPCleanMesa57"、クランチにTM CC16"JMPEVH57"を試してみました。クリーンでもGAINを上げていくといい感じのクランチになっていきます。コンプも上手くかけてくれているので弾きやすいです。デフォルトでリバーブやディレイもかかっていますが、今回は外さずにそのまま録ってみました。

ここまで、かなりマニアックな内容まで含んでしまいましたが、本当にTueの本気を感じられるリグだということがわかります。メタル、ラウド系はこれさえあればもう何もいらないんじゃないでしょうか…そうまで思わせられるリグ達です。Tue Madsen秘蔵の機材コレクションを使用した企業秘密ともいえる至高のサウンドを、こんなにお手軽に手に入れることができるなんて…！ギタリストではなくエンジニア視点ならではの実用性の高いサウンド。もう音作りに悩まずに済みます。

どれも即戦力でレコーディング、ライブに大活躍間違いなしです！是非試してみてください！

あと、全てのサンプルのドラムパートで、BOGREN DIGITAL『JENS BOGREN SIGNATURE DRUM SAMPLES』を使用しました。私がいつも使用している音に重ねる形で使用しています。重量感が手軽に得られます。こちらも充実しているので要チェックです。ミックスでの音作りはもちろん、WAVファイルも収録されているので、ライブでのドラマーのトリガー音源にも全然使えますね。