たくさんのエスニック音源の中でも
トップレベルで扱いやすいと感じています。
2020年より劇伴作曲家として活動を始め、既に多くの話題作に携わる新進気鋭の作曲家、桶狭間ありさ氏によるStrezov Sampling 社のエスニック音源レビュー。
もとよりStrezov Sampling 社のクワイヤやエスニック音源を愛用されてきた桶狭間氏。実際の活用例を交えて、スピードが求められる劇伴作曲での使用を前提としたご感想をいただきました。
▲桶狭間氏の制作デスク
Strezov Sampling は、全体的にエスニックな方向に特化している音源が多いので、そういった雰囲気が好きな方や、曲に少し個性を持たせたい時にスパイスとして使用すると非常に良いと感じています。質感や操作性、使用感についてもEditの必要性がない音源がほとんどなので、とにかく時間がない日本の劇伴制作とはマッチするのではないでしょうか。
元音が良いので、外部エフェクトを使用し、より邪悪な音や個性を尖らせた音にすることも好きです。私もですが、劇伴作曲家はたくさんのエスニック音源を持っている方が多いと思いますが、その中でもトップレベルで扱いやすいと感じています。
Strezov Samplingの音源は以前から好きで、特にChoir系の音源は壮大な劇伴曲では必ず使っています。Strezov SamplingのChoir音源はどれも、
- 音の質感クオリティが高いところ
- 特に緻密なエディットをしなくとも綺麗に鳴ってくれる所
- アタック、レガートスピードが細かく調整可能で変に遅れたりしない所
以上3点を気に入っています。
デフォルトのアタックやレガートスピードが早めに設定されているので、立ち上げて鍵盤を鳴らすだけでテンポが速い曲でも綺麗に鳴ってくれます。外部のエフェクト無しで充分すぎるほど音のクオリティも高いので、とにかくスピード感が求められる劇伴の仕事では助かります。
Choir系は、『ARVA CHILDREN CHOIR』『FREYJA FEMALE CHOIR』『RHODOPE 2 ETHNIC BULGARIAN CHOIR』『WOTAN MALE CHOIR』の4製品を使っています。壮大な雰囲気やバトル系の曲で大人数Choirが欲しい時や、怪しげ / 幻想的な雰囲気を出したい時はFREYJA、WOTAN を。民族的な要素が欲しい場合はRHODOPE 2。比較的大人しめな曲で綺麗なChoirが欲しい時にARVA を選んでいます。
『FREYJA FEMALE CHOIR』は幻想的な美しさも兼ね揃えているので、静かで妖艶さ、幻想さを出したいシーンにもぴったりです。分かりやすく使っているのは「大奥」のメインテーマのイントロ部分はFREYJA を使っています。
「大奥」では『WOTAN MALE CHOIR』も使っていまして、"扇子と悪逆" という曲に使用しました。この曲は男性の悪役につけた曲なのですが、WOTAN で怪しい雰囲気を出し、さらに飛び道具的エフェクトを掛けて、より邪悪な音を作っています。元の音が良いので、エフェクトも映えて使いやすいです。かなり奇抜で自分好みの音が作れたので気に入ってます。
FREYJA、WOTAN には息のパッチや、"Shouts" "Clusters"のパッチも含まれており、こちらも劇伴では多用しています。特にWOTAN の"shouts"は荒々しい男声の「オオッ」「ハッ」みたいな声が欲しい時にすごく使いやすいです。
『RHODOPE 2 ETHNIC BULGARIAN CHOIR』は、かなり民族的な発声方法で、ブルガリアンボイスが欲しい時や、少し民族的な要素を入れたい時に重宝しています。エスニックでアジア的な音源にも合うので、「ハヤブサ消防団」の "MixTheme:運命"、「薬屋のひとりごと」の "妓女のお仕事" "春牡丹" でも使用しています。
また、『ARVA CHILDREN CHOIR』にはソロパッチも用意されていて、こちらも綺麗です。ソロパッチに関しては曲のテンポにもよりますが、アタックスピードを結構遅くして、レガートスピードも遅めに設定すると、より自然で美しく聴かせられると感じています。
『PERCUSSION ESSENTIALS X3M』は今回ご提供いただき使ってみました。全パッチを一通り聴いた第一印象は、変な癖や部屋の質感など気になる所が無く、馴染みが良さそうだなという点です。特にアンサンブル系のパーカッション音源は、ガチガチにコンプがかかっていてアタック感が強すぎてしまうような音源も最近多いのですが、そういった癖が無いのでナチュラルに使いやすいと感じました。
あとベロシティによる音色変化も反応が良くていいですね。パーカッションでビートを作る際に一番重要なのがベロシティだと思うので、ベロシティによって最低でも3段階は音色変化（ベロシティ・レイヤー）があり、ボリューム変化の反応が良いのも助かります。パッチにより変わりますがラウンドロビンは最大16サンプルのようで、連打時も同じサンプルが繰り返される連続感は全く気にならなかったです。
あと特に面白いなと思った音が、アンサンブルパッチの中のDjambe 6人のパッチです。まずDjembeのアンサンブル自体私は初めて見ましたし、音的にも普通の太鼓と違ってアフリカっぽい雰囲気が出せて非常に素晴らしいと感じています。このパッチは次のアニメの案件で使おうと密かに計画しています（笑）
また、変にリリースが長く無いのもポイントだと思います。リリースが長すぎて他の楽器と混ぜた時に少し音の濁りを感じてしまう音源もあったりするので、部屋の広さは感じつつも自然に速く消えるようなテールなのは地味に使いやすいです。
『PERCUSSION ESSENTIALS X3M』はソロ系パッチも使いやすそうではありますが、やはり劇伴で少しエスニックな要素が欲しい時にアンサンブルのパッチを使いたいと思いました。
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『BALKAN ETHNIC ORCHESTRA』と『JADE ETHNIC ORCHESTRA』は以前からよく使用していて、『SAMBHALA TEXTURAL ORCHESTRA』は今回提供いただき触れてみました。
BALKAN とJADE には劇伴の救世主とも言えるPads パッチが入っていて、私も何度も助けられました。それぞれでパッチの名前が違うのですが、BALKAN、JADE では"Pads"、SAMBALAでは"Sparks"という名前です。これらのパッチは、Synth、Perc、FXの3種類の音が複合的に鳴るパッチで、この音だけで異世界的な雰囲気であったり、エスニック系な雰囲気を作ることができます。音のクオリティが高いので、このパッチだけでも十分に聴かせられます。BPMが自動ではシンクしないので、曲とパッチのBPMがマッチするかは賭けですが、それさえ合えば劇伴ではかなり使えると思います。私も実際かなり助けられてきていて、特に曲のイントロで使う確率が高いです。「呪術廻戦」の "自閉円頓裏" という曲のイントロはJADE のPads を使用させていただきました。様々な劇伴でよく聴くので、多くの方が使っているのではないかと思っています。
BALKAN とJADE についてはこの音源でしかみたことがない楽器やアーティキレーションが多いので重宝しています。馴染みある楽器でも、例えばBALKAN に入っているトランペットの "Gypsy Trumpet Leg" はかなり独特な演奏方法で収録されていて、このパッチ以外だと、恐らく録音しなければこの雰囲気を出すのは難しいと感じています。エスニックな色を強く出せるので、最近多い転生系、異世界系のアニメでは使いやすいです。
JADE は特にアジア色が強い部分が良いと思います。中国の楽器が特に多く、「薬屋のひとりごと」の制作時にかなり助けられました。
実はBALKAN とJADE にもChoir パッチがあり、こちらもRHODOPE 2 とエスニックという方向性は同じですが、歌い方が全然違うので是非聴き比べていただきたいです。このChoir パッチ1つで1つの音源にできそうなくらいクオリティは高いです。JADE の方にはHoomai（ホーミー）パッチもあって怪しい音を作りたい時にぴったりです。
SAMBHALA はBALKAN、JADE とは少し方向性が違う音源で、楽器の音に対して、自然の音やPad の音を混ぜる事ができるという点で差別化されています。アンビエント系の音楽を作る方々には重宝されそうですが、一番シンプルなEther というPad 系の音を混ぜたりすることは劇伴系の曲だと使いやすそうです。アニメもですが、ドラマで必ず必要とされる静かなシーンでPadとメロディだけのシンプルな曲はこの音源1つでできてしまいそうだと思いました。また、楽器の音を使ってPad を作るという点では、なかなか面白いPad が作れそうです。"Textural Bass Duduk" や "Textural Irish Low Flute" のパッチや "Textural Voices" のパッチでEther の音を大きめに設定すると不思議なPad が作れます。単音でも良いですが、コードにするとより良いです。モジュレーションで強さの調整をしたり、ピッチベンドを使うのも面白いかなと。異世界や不思議な世界観のアニメにすごく合いそうだと思っています。
GUI の中央部分ので各音のバランスや抜き差しなどを調整できるのですが、リバーススイッチがあったり、フィルターを掛けることも可能なので、使い方の幅が広いのも良いですね。
愛知県の尾張、桶狭間古戦場跡地で生まれ育つ。2020年から劇伴作曲家としての活動を開始。「呪術廻戦」や「薬屋のひとりごと」、「大奥」等の音楽を担当。
勢いのあるバトル系楽曲をはじめ、ダークな雰囲気、切ない心情系楽曲を得意とする。
THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール / 呪術廻戦 / 48日後に結婚します。 / ホメられたい僕の、妄想ごはん / 劇場版 呪術廻戦 0 / たびくらげ探偵日記 / 勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う / 最強陰陽師の異世界転生記 / お兄ちゃんはおしまい / 真・進化の実 / バツイチがモテるなんて聞いてません / ハヤブサ消防団 / 薬屋のひとりごと / 大奥 / 肝臓を奪われた妻、他
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