
すべてのクリエイターには、“はじめの一歩”がある。
~AILI:音楽プロデューサーとしての原点と現在地~
本シリーズでは、音楽を生み出す人たちの原点と現在地をたどり、その制作の背景にある選択や葛藤をひもといていきます。
今回は、音楽制作を続けているクリエイターの中から、音楽プロデューサーとして幅広く活躍するAILIさんに、音楽と出会ったきっかけやトラックメイクを始めた経緯、長年にわたり音楽制作を続けてきた中で培われた制作スタイルについてお聞きしました。
AILI
作詞/作曲/編曲/トラックメイキング まですべてをマルチに手掛ける女性音楽プロデューサー。
幼い頃よりの音楽環境から、PINK FLOYD等のプログレッシヴ・ロックをはじめ、BLACK MUSICほか幅広い音楽にインスピレーションを受けた独自の音楽性を活かして、ジャンルを越えた音楽シーンで活躍。女性としては類い稀なサウンドクリエーターとして独自の立ち位置を確立。
2018年より大阪音楽大学にて特別講師として迎えられ、2022年4月より客員准教授に就任。
AILI名義として様々なフューチャリングアーティストを迎え2009年から2013年まで約4年間 avex rhythm zoneから3枚のオリジナルアルバムをリリース。 全ての楽曲の作詞、作曲、編曲、トラックメイキングを手がけ、EXILE /「Lovers Again」をサンプリングしm-floのVERBALとコラボレーションを果たしたAILI ft. VERBAL (m-flo) /「Memories Again」のスマッシュヒット等、注目を集めた楽曲も多数収録。
また、アメリカ西海岸のアーティストである Warren.G、Fingazzなど様々な海外アーティストとのコラボレーションを実現。全国放送のCMやタイアップ等で度々楽曲が使用され、自身の楽曲のみならず提供楽曲でも数々のヒット曲を世に送り出してきた。
近年では様々なメジャーアーティスト始め、TVCM、WebCM、ファッションショーや企業イベント等のサウンドプロデュース、映画等の映像音楽をなど多方面で楽曲制作。 また海外クリエーター、海外アーティストとのコライトワークにも積極的に取り組んでいる。
2010年 日本クラウン ヒット賞 シングルヒット賞 九州男「1/6000000000 feat. C&K」作曲 第43回 日本有線大賞 受賞曲 Twenty4-7「愛の色」作曲。
Q1. 音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?
常に音楽が流れている家庭で育ったので母のお腹の中にいる時から音楽をたくさん聴いて育ったようです。幼稚園くらいからピアノを習い始め、自ら音を奏でるという習慣で更に音楽が身近になってきたと思います。また、ドラマーだった父の影響でこのバンドのこのギタリストはここが凄い!とか、この曲を作った時エリッククラプトンにはこんな事が起きたんだよ。など、そんな生活環境から自然と興味を持ったと思います。
Q2. 「曲を作れるようになりたい」と思うようになったのは、どんな気持ちや出来事がきっかけでしたか?
――実際のLiveではどんなことがあったのでしょうか?
私たちが最初に作った曲は、HipHopのレコードのインストを使ったもので、ライブではDJがそのトラックをループし、その上でパフォーマンスをするというスタイルでした。
軽いノリで出演したのですが、実際に行ってみると、同世代の出演者たちはプロを目指して本気で活動していて、熱量がまったく違ったんです。リハーサルで他の方の曲を聴きながら、「とんでもないところに足を踏み込んでしまったのかも……」と感じたのを覚えています(笑)。
そんな中で迎えた本番でしたが、ライブ後にイベントオーガナイザーさんから「曲のサビがいいね!また次も出てよ!」と言っていただきました。サビを作ったのは私だったので、それがすごく嬉しくて。一方で、「次も出るなら、もっとプロっぽい曲を作らないと。オリジナルトラックで作らないと!」と、そこで何かのスイッチが入ったんです。それをきっかけに、作曲への熱が一気に高まりました。この時はまだ、まさか自分がトラックメーカーになるとは思ってもいませんでした(笑)。
Q3. 初めて作曲したとき、どんな環境で、何を使って制作していましたか?
初めての作曲は、先ほどお話しした大学時代のユニットでのオリジナル曲制作でした。US Hip Hopのレコードのインストを聴きながら、リリックはノートとペン、メロディは脳みそに記憶です。
そこから初めてローンを組んでYAMAHAのMTRを買い、デモを作ったりLive用にハモ入りのインストを作ったりしました。
その後、トラックメーカーを目指している仲間が多く、制作を手伝うようになったことをきっかけに、自分でもトラックを作るようになりました。自分が弾いたピアノのワンループがHipHopのビートになったとき、「これはヤバい。私がやりたかったことはこれだ!」と感じたことは、今でも忘れられません。 そこからMPC2000XLとKORGのTRITON、Mo Phatなどのモジュールを使ってトラック制作を始めました。
――トラックメーカーとして活動を始めてから、現在の活動につながっていった経緯について教えてください。
トラック制作を始めてからも下積みを続け、数え切れないほどのトラックを作りました。その中からお気に入りのビートを5曲ほど選んでCD-Rに焼き、クラブへ持っていって、ライブをしていたラッパーやシンガーの方々に「私、トラック作ってるの! 聴いて!」と直接渡していました(笑)。
今考えると信じられないような方法ですが、当時は今のようにインターネットでビートを販売する環境もなく、口コミや紹介が主なアピール方法でした。
そんな活動を続けていたある日、横浜のラッパー・Destinoさんが私のトラックを使ってくださることになり、それが初めてのリリース作品となりました。それをきっかけに、横浜のHipHopアーティストの方々に数多くトラックを提供するようになりました。
その後、シンガーのJamosaさんの「Stupid」が初のメジャーリリース作品となり、さらにレーベルのディレクターや楽曲を集める立場の方々との出会いも増えていきました。そうした一つひとつの出会いや経験が、現在の活動につながっています。
――ちなみに最初に購入したDAWは何でしたか?それを選んだ理由も、覚えていれば教えてください。
最初はLogicです。使ってる仲間がいて、触らせてもらったりしていたので私も何の迷いもなくLogicを選びました!その後、CubaseやDigital Performerなど色々使ってみたのですが、結局Logicに戻り今でも一筋です!
――現在もLogicをメインで使用されていますが、AILIさんにとって「ここが好き」「これがないと困る」と感じるLogicならではの魅力を教えてください。
苦楽を共にしてきた「相棒」のような存在で、今となっては替えの効かないものだと感じています。現実的な理由としては、Apple製品になったことで、Logicの開発が今後も続いていくだろうと思ったこともあります(笑)。実際、使い始めた頃には想像もできなかったような機能が次々とアップデートされていて、長年愛用してきたユーザーとして、アップデートを自分のことのように嬉しく、楽しみに感じています。
また、Flex PitchやLogic純正のプラグインの中にも使いやすいものが多く、仮歌の録音やトラック制作でも手放せない存在です。
Q4. 最初に音楽制作を始める時、機材やソフト選びで迷ったことはありましたか?どんな点で迷ったか教えてください。
Q5. ソフトや音楽ツールの使い方が分からないとき、どのように解決していましたか?
今はAIやネットが何でも教えてくれるのでなんて便利なんだ!と日々感動しています。
YouTubeにはチュートリアルなどもたくさんあるし...
そんなものが無かった時代はまず身近な仲間に相談したり、何かエラーが起きてどうにもならない時はRock On Companyの担当さんにSOSを出したり、機材を持ち込んだりして解決してきました。界隈に1人は居た、"困った時に聞いたらなんでも知ってる" みたいな超オタク同業者にも散々助けてもらいました(笑)。
ChatGPTに聞いたり、YouTubeで解説動画があることも多いのでそれらを見て解決しています。
Q6. 当時は、どんな流れで曲を作っていたのでしょうか?また、現在の制作スタイルとの違いがあれば教えてください。
私の基盤はトラックメーカーなので最初はまずトラックからでした。
今はフルプロデュースをさせていただく機会も増え、作詞作曲編曲までやるので、その時向き合う作品のジャンル感にもよりますが、ダンスミュージックだったらまずはビートを固めることが多いです。バラードだったらラフのコードとトップラインが先だったり。ただ、どんな曲でも歌詞の世界観は常に頭の中でイメージしているので、閃いたらボイスメモを録音したりiPhoneにテキストをメモをしておいたりして側面からも構築しています。
トップラインはビートを作りながら降りてくることが多いので、ビート作りと並行して作っています。今も昔もなのですが、特に制作スタイルが定まっておらず...作品によって、ジャンルも違えば使う音も、メロディの形も変えているので、メロディから作ることもあれば、コードから、リズムから、音作りから、と毎回全く違う始まりかたをしています。
Q7. これまで音楽と関わる中で、一度立ち止まったり、距離を置こうかなと思ったことはありましたか?
これはよく聞かれることなのですが...辞めようと思ったことは一度もないんです。
とにかく作って作って作りまくる日々だったので音楽と距離ができたと感じたことも一度もありませんでした。ただがむしゃらに壁打ちしていた時もありますし、10歩進んだと感じる時もあったり。気づけば今に至る感じです。
私の場合は"作る"ではなくて"作りたい"が大きかったから続けてこれたのかもしれません。ただ、いつでも辞めてOK!っていう感覚はずーっと自分の隣に置いてあります。
Q8. お仕事として音楽制作に向き合う日々の中で、プライベートではどのように音楽と関わっていますか?
――キャリアも20年ということで、これまでの活動の中で、「自分にとって大きな転機になった」と感じる作品や仕事はありますか?
どの瞬間にもたくさんの思い出やドラマがあり、一つに絞るのは難しいのですが、一番最初に転機を感じたお仕事は、レゲエシンガーの九州男さんとのさんとの作品です。
作曲家として、自分が携わった作品をたくさんの方に聴いていただくための大きな一歩をいただいたと感じています。
中でも「1/6000000000 feat.C&K」は特に思い出深い作品です。この曲はクラウンヒット賞という初めての賞をいただき、当時は本当に嬉しかったです。今でもそのときの盾を大切に飾っています。
Q9. 音楽制作を続ける中で、音楽そのもの以外に、気持ちを支えてくれているものはありますか?
家族です!
やはりいつでも応援してくれている家族の顔が浮かびます。私の作る曲を楽しみにしてくれているので辛いことがあっても乗り越えてこれたと思います。
Q10. 普段どんな場所・環境で制作していますか?
基本的には自宅のスタジオで制作作業をしています。低音感を確認したり大掛かりな制作をする場合はホームにしてるスタジオで主に作業しています。提供楽曲で本番のボーカルレコーディングなどは外部スタジオで行ったりもします。
――海外での制作も経験されているとのことですが、日本との違いや、印象に残っているエピソードはありますか?
海外でご一緒したクリエイターの方々は、個々のレベルがとにかく高く、自分のキャラクターや強み、武器をしっかり理解した上で、音楽制作や活動に生かしている方が多い印象でした。
特にアメリカやカナダで印象的だったのが、とにかく思い切り褒めてくれることです(笑)。作ったトラックを聴いてもらうと、「Fire!!!!」とノリノリで「最高だよ!」と言ってくれたり、制作中もどんなに些細なアイデアに対しても「それいいね、やってみようよ!」と肯定から入ってくれることが多かったです。
内容が良いか悪いかということとは別に、意見を言った人や、実際に音を作った人に対する敬意がきちんとある。すごく気持ちよく音と向き合える瞬間でした。
とにかくみんなポジティブで、自信に満ちている。そんな雰囲気の中から生まれる音楽っていいな、と感じたのは、日本のシーンとはまた違う部分でした。私自身も、実際の制作現場ではそうした姿勢を心がけています。
Q11. 制作を始めるとき、どんなふうに“制作のスイッチ”を入れていますか?日々制作を続ける中で、意識している習慣があれば教えてください。
私の場合はスイッチというよりモードかもしれないです。制作モードがMaxの時は何をしててもその時作る曲や作りたい曲のことばかり考えているので費やせる時間があればひたすら制作しています。そのモードが落ち着くと数日は作らない。なんてこともあります。そしてまた作るタイミングが来るとそのモードに突入します。
スイッチでいうと、家族が仕事へ出かける時にいってらっしゃーい!と見送って、ドアの鍵を閉めると入る気がします(笑)。
Q12. 「これがあると安心する」「気分が上がる」モノがあれば教えてください。
モノじゃないんですけど、時間ですかね...
制作に対してある程度時間が確保されているとクリエイティブに対して無敵な気持ちになれます。Wavesの『V-EQ3』は最近お気に入りでテンション上がります!あると安心なものはFabfilterの『Pro-Q 4』、CLAシリーズ(Waves)、自分で仮歌を録る時にこれを呼び出せば間違いない!という必須のAILI仮歌プリセットなどです。
あとは飲み物。DTMと好きな飲み物はセットかもしれません!お気に入りのAppleマグと最近は黒豆茶を飲んでいます。
Q13. 音楽制作を始めたばかりの頃の自分に、今声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?
あなたが信じていることをそのまま信じ抜いて大丈夫!と伝えたいです。
駆け出しのころはまだ未知の世界に足を踏み入れ、色々なことを見聞きする中で自分にとって実はマイナスな意見を正しいアドバイスだと思ってしまったり、所謂ハッタリ(笑)かまされた時にそれを見抜けなかったり...そんなことも多々あると思うのですが、でもどこかでちゃんと違和感を感じとって軌道修正できたりしたので、結局は自分を信じることが今に繋がっていると思います。自分を信じた中での失敗には後腐れはありません。経験として強みになっているかと!
Q14. この先叶えたい夢はありますか?
――これから曲づくりを始める人たちへ、一言メッセージをお願いします!
自分を信じ抜くこと!これに尽きるかと。
ワクワクすることをそのまま信じ抜いて欲しいなぁと思います。思うように作れなくてモヤっとすることは最初は日常茶飯事だと思うけど、多分ビートメーカー全員が通過する儀式みたいなものなので壁をブチ破いて欲しいです。
音楽もスポーツも最初から完璧にできる人なんて居なくて、結局は"継続はチカラなり"なのかなぁと思います。私の場合は音楽を愛してやまない自分がいつの時代も自分の最大の味方です。
曲名:BBYBBY
7月31日に発売されたUNIS Japan 1st Mini Album『UNI☆Sparkle!』に収録されている "BBYBBY"
この曲は90'sマイアミベースやアトランタベースにインスパイアされた楽曲で、近年作った作品の中でも珍しく可愛い仕上がりになった曲になります。メンバーさんやファンの方々が楽しく踊れる1曲を目指しました。可愛いけど低音はしっかり仕込んでいます!(笑)
【使用した主な製品】
- Waves / Smack Attack
- Waves / One Knob Louder
- Xfer Records / Serum 2
- Kyle Beats Inc / Drip
「Smack Attack」はBassの処理で大活躍しました。BassをKickのように使いたい曲や、BassやKickのアタックを強調したいときによく使っています。特に808などには重宝しています。
この曲では、昨今珍しいリードソロを入れたので、音色選びにはとても時間を費やしました。最終的には「Serum 2」の音源に着地したのですが、ここではDistotionでうっすら歪ませながらも、音の印象をあまり変えずに前に出したかったので「One Knob Louder」を使っています。
この曲の中でも印象的なPluckのアルペジオは、音作りをとても慎重に行いました。
丁寧にEQで処理したうえで、いい感じのLo-Fi感を出したかったので、Kyle Beats Inc の「Drip」を挿しています。「Drip」は音源にもう一押し味付けが欲しいと感じた時に、まず一度挿してみるお気に入りのプラグインです。
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