
すべてのクリエイターには、“はじめの一歩”がある。
~桶狭間ありさ:試行錯誤を重ねて築いた、劇伴音楽への歩み~
本シリーズでは、音楽を生み出す人たちの原点と現在地をたどり、その制作の背景にある選択や葛藤をひもといていきます。
今回は、音楽制作を続けているクリエイターの中から、数々の映画・ドラマ・アニメなどの劇伴音楽を手掛ける作曲家・桶狭間ありささんに、 試行錯誤を重ねながら自分なりの制作スタイルを築いてきた歩みをお聞きしました。
桶狭間ありさ
愛知県の尾張、桶狭間古戦場跡地で生まれ育つ。
音楽系専門学校を卒業後、2016年より50を超える劇伴作品にアシスタントとして参加。
2020年から作家としての活動を本格的に開始し、アニメ「呪術廻戦」やドラマ「19番目のカルテ」などの音楽を担当。シンセサイザーを用いた派手なEDM系楽曲や、心情系楽曲を得意とする。
Q1. 音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?
幼い頃、近所のおばさんにピアノを教えてもらったことかもしれないです。
Q2. 「曲を作れるようになりたい」と思うようになったのは、どんな気持ちや出来事がきっかけでしたか?
高校生の時に友達とバンドを組んでみたりした時に、いつか作ってみたいなとぼんやり思いました。
Q3. 初めて作曲したとき、どんな環境で、何を使って制作していましたか?
専門学校に入る前の体験授業みたいなもので、Pro Toolsを使って短いフレーズみたいなものを入力したのが初めでした。
――ちなみに最初に購入したDAWは何でしたか?それを選んだ理由も、覚えていれば教えてください。
Pro ToolsとLogicです。全然他のDAWのことも知らなく、学校で使用するという理由で購入しました。
――学校でPro ToolsやLogicを使い始めた頃、最初に「音楽制作って面白い」と感じた瞬間は何でしたか?
Q4. 最初に音楽制作を始める時、機材やソフト選びで迷ったことはありましたか?どんな点で迷ったか教えてください。
何をどうしたらプロの方のような音になるのか全然わからず迷っていました。音源も全然よくわからず、とりあえず学校で使ってるものを買う、みたいな感じでした。
Q5. ソフトや音楽ツールの使い方が分からないとき、どのように解決していましたか?
マニュアルを読んだり、今はYouTubeで解説動画があることも多いのでそれらを見て解決しています。
Q6. 当時は、どんな流れで曲を作っていたのでしょうか?また、現在の制作スタイルとの違いがあれば教えてください。
今も昔もなのですが、特に制作スタイルが定まっておらず...作品によって、ジャンルも違えば使う音も、メロディの形も変えているので、メロディから作ることもあれば、コードから、リズムから、音作りから、と毎回全く違う始まりかたをしています。
――さまざまなジャンルの作品を手掛けられていますが、普段から意識されていることはありますか。また、劇伴制作ならではの面白さや魅力についてもぜひお聞かせください。
それぞれの原作が持つ雰囲気やテンポ感、空気感、キャラクターのタイプを大事に、音作りやジャンルを選んでいます。私が常に意識しているのは、「その作品だからこそ成立する音楽」を作ることです。別の作品では使えない音楽を目指して制作しています。
劇伴制作の面白さも、1作品ごとに全く違う題材で音楽を作ることができることだと思っています。使う音、制作する順番、メロディ、コード、空間の作り方まで毎回異なるため、私は並行して数作品を作ることが非常に苦手なのですが、毎度没頭して「この作品にはどんな音が合うだろう」と考えている時間はとても有意義で楽しいです。
実際の作業に移ると上手くいかず悩んでしまうことも多いのですが(笑)。
Q7. クライアントから細かなオーダーがない場合、どのような思考で「今回はこういう作風でいこう」と方向性を定めていますか。
また、シーンに寄り添う楽曲を制作する際、着想を得るまでの考え方やプロセスについても教えてください。
細かなオーダーがない時は、まず原作や脚本、コンテを読んだときの第一印象を大切にします。さらに主人公の生い立ちや現在に至るまでを掘り下げながらイメージを膨らませていきます。
舞台となる国や土地のイメージも大きなヒントになりますし、主人公の性格によっても音楽は変わります。例えばおとなしい内気な主人公なら、テンポも抑えめで静かな音楽、逆に派手で不良系なら音楽もハイテンポで攻撃的な音楽に、といった感じで、キャラクターにヒントがあることも多いです。
シーンに寄り添う際は、そのシーンに出てくるどの登場人物の思考に合わせるのかをまず考えて、その気持ちを紙に書き出し自分の中で想像します。その際に、なんとなくですがどのくらい音を入れるのか、セリフを邪魔しないよう控えめにするのか、それともメロディを前に出すのかまでイメージし、その後にコードやメロディを組み立てていきます。
Q8. これまで手掛けてきた作品の中で、「自分の作家人生の転機になった」と感じる作品や出来事はありますか?
本当にたくさんあり、今までのどの作品でも、それを聴いてくださり、依頼をしてくださった方々がいるので、1つ選ぶことも難しいのですが、1番は「呪術廻戦」だと思います。
学ばせていただいたというと、プロとして受けている以上不適切なのかもしれないのですが、本当に多くのことを考え、勉強し、経験させていただきました。感謝しかありません。まだデビューして間もない頃だったので、今思うと制作をしていた頃は例えるなら夢のような、少し非現実的な感覚なのですが、今よりもさらにできることが少なく、当時持っている技術でなんとか良いものを、と必死に考えていた覚えがあります。
1作品1作品、自分なりに挑戦するものを決めて制作をしており、納品する度に自分の引き出しは少しずつ増えていってると思うので、今の方がもう少し器用にできるとは思うのですが、何もないからこその必死さが音に表れているのか、「呪術廻戦」の音楽をきっかけにいただくご依頼は今でも非常に多く、自分の作家人生を支えてくれている作品だと感じています。
Q9. これまで音楽と関わる中で、一度立ち止まったり、距離を置こうかなと思ったことはありましたか?
デビューするまでは、割と一直線だったので、苦しいことは多くても音楽を辞めようと思うことはなかったです。デビューした後に、実力が足りないと実感する時やスケジュールを動かされて、何作も納期が被ってしまった時に、辛くて辞めたいと思うことはありましたが、純粋に映像作品やその劇伴が好きなので今の所乗り切れています。
Q10. お仕事として音楽制作に向き合う日々の中で、プライベートではどのように音楽と関わっていますか?
SNSで流行ってる音楽を聴いたり、Spotifyのプレイリストを流したり、音楽を仕事としていない方々とあまり変わらないと思います。
Q11. 音楽制作を続ける中で、音楽そのもの以外に、気持ちを支えてくれているものはありますか?
生活習慣とかですかね。なるべく夜はちゃんと寝て朝は早起きして、一定のリズムで生活するようにするとパフォーマンスは上がりました。
Q12. 普段どんな場所・環境で制作していますか?
Q13. 制作を始めるとき、どんなふうに“制作のスイッチ”を入れていますか?日々制作を続ける中で、意識している習慣があれば教えてください。
ポモドーロのタイマーを回し始めるという作業がスイッチになっていると思います。やる気がない時でもタイマーが動き始めると自然と作業に入ることができています。
※ポモドーロ・テクニック:25分間の作業と5分間の休憩を繰り返すことで、集中力を維持しやすくする時間管理法。
Q14. 「これがあると安心する」「気分が上がる」モノがあれば教えてください。
Q15. アニメのサウンドトラックが主役の劇伴⾳楽フェス「京伴祭」ではステージで演奏されていましたが、ご自身にとってどのような経験でしたか。普段は劇伴制作が中心だからこそ、人前で演奏された際に感じたことや、印象に残っているエピソードがございましたらぜひお聞かせください。
とにかく暑かったです(笑)。
普段はアシスタントもおらず、とにかくずっと一人で自宅で制作をしているため、自分の音楽を聴いてくださっている方々の存在を実際に目で見ることができたのは、とても貴重な経験でした。
私の名前を貼ったうちわを持った方や声を掛けてくださる方々もいて、「本当に自分のことを知ってくださっている方がいるんだ」と、不思議で嬉しい気持ちになりました。また、他の劇伴作家の皆さんと交流し、制作についてお話しできたことも、とても刺激的で貴重な時間でした。
Q16. 音楽制作を始めたばかりの頃の自分に、今声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?
色んなジャンルの音楽を聴いたり、好きな音楽を見つけて、楽しんでねと言いたいですね。
Q17. この先叶えたい夢はありますか?
夢というと少し違うかもしれませんが、作ったことがないジャンルの作品に挑戦してみたいと思っています。最近はサスペンス系が多いので、日常系やスポーツ系、恋愛系だったりと色々な作品を作ってより多くの表現を身につけたいです。
――これから曲づくりを始める人たちへ、一言メッセージをお願いします!
とりあえず、曲作りに間違いはないと思って色んなことに挑戦して、自分の好きを見つけて楽しんでください!
ドラマ19番目のカルテの劇伴です。医療系なのですが、どちらかというとヒューマンドラマよりの作品です。
【使用した主な製品】
音源はSonora CinematicのVERTICALEというピアノを、プラグインはArturiaのTape MELLO-FIをかなり多用しました。
SONICWIRE取扱い全製品を表示したい場合は、SONICWIREを日本語で閲覧されることをお奨めいたします。


