生々しい音と、指先に反応する自然なタッチ。FAZIOLIを精密にサンプリングしたモンスター音源を、あえてドライな設定にしてみた。
Vienna Symphonic Library社から、Synchron Pianos シリーズに『SYNCHRON FAZIOLI F308』が登場した。
FAZIOLIは、イタリアで1980年代に登場した比較的新しいピアノメーカーだが、世界最大級のフルコンサートグランドF308を中心に注目を集め、ショパンコンクールにも採用されるなど、あっという間にスタインウェイやベーゼンドルファー、ヤマハといった一流ピアノの仲間入りを果たした稀有な存在だ。
ホールで弾く実際のFAZIOLIは、気品のある透明度の高い響きが美しい。ベーゼンほど低域が膨らんでいるわけでも、スタインウェイほどキラキラしているわけでもないが、バランスが取れコントロールしやすい。
またペダルが四本あり、4本目を踏むと全鍵盤がほんの少し押し下げられて、キーの可動域が浅くなる。これにより早いフレーズなどでもppを楽に弾くことができ、例えば高音を優しくppグリッサンドすると、ソフトペダルとは違い、輝きを保ったまま、まるでシルクのような繊細な響きが得られ、とても美しい。
さて『SYNCHRON FAZIOLI F308』は、このモンスターピアノを精密にサンプリングし、マイク・ポジション、ダンパーペダル、リリース、4thペダル、ベロシティなど、一鍵につき最大4200サンプルという、とてつもないモンスター音源である。
音質はFAZIOLIらしく透明感のある上品な音。生々しい。
第一印象はクラシカルなテイストで、大規模音楽ホールにある良く調整されたピアノに近い印象だ。ロックのような金属的な質感ほどではないにせよ、強く弾けばフルグランドらしいある種のパワー感もある。
特にピアノプレイヤーにとって魅力的なのが、非常にナチュラルなベロシティの音色変化だ。
公式の発表はないが、マシンに演奏させることでベロシティレイヤーが60~80程度あるらしく、また単に数だけでなく様々な工夫がされているらしい。
ベロシティレイヤーが少ない音源だと、どうしてもタッチ変化に段差が出て、思ったより強い音が出てしまうなど、録音後にベロシティの微調整が必要になったりすることもあるが、この音源ではそういったことは皆無だ。ピアニストはタッチによって、単に音量だけでなく音色をも変えたいわけだが、ベロシティの変化にボリューム・コントロールを加えている多くの音源に感じられる不自然なニュアンスもほとんど無く、とても自然な反応を実現している。
また自社の大きなホールでのサンプリングにより、アンビエンスを多く含んだプリセットが多いのも「Synchronシリーズ」らしい。
ただ自分が作るジャンルとしては、アンビエンスがやや多いイメージのせいで、このシリーズを使う機会がこれまであまりなかった。
とはいえこの生々しさは魅力的だ。色々なジャンルで活用してみたい。
そこで今回は、「フルグランドを大きなホールの響きを活かして録る」というこの音源の基本的な方向性を承知の上で、あえてどれくらいドライに使えるか、またその場合の質感を試してみた。
以下動画で、音とともにお届けする。
動画内で使用されているTubeとRibbonチャンネルは、スタンダード・ライブラリに加え、別売のエクステンデッド・ライブラリが必要です。
ピアノ音源ほど、人によって好き嫌いの分かれる音源も珍しい。
それはまるでラーメンの評価にも似て、ある人がサイコーっと言ってはばからない音源に幻滅したりすることもある。
そのキャパシティの広さから、様々な顔を持つがゆえ、客観的評価の難しい部分もある。
だが群雄割拠のピアノ音源の中で、ドライな設定をしたこの音源を、特にリアリティやタッチ感といった点で、僕はかなり気に入った。
生楽器とのアンサンブルでも違和感なく溶け込むだろうから、まずは次に予定されている、生オケとのレコーディングで使用してみようかと考えている。
(ピアノ、キーボード、ピアニカ他、作編曲)
クラシカルクロスオーバーを軸に、多彩なジャンルで活動を行うピアニスト、作編曲家。
ドビュッシー、ラヴェルなどに影響を受け作曲を始める。武蔵野音大大学院ピアノ科を修了し、PTNAコンペティションDuo特級最優秀賞受賞。その後、ライブ活動や、スタジオ・イオン専属として制作活動を始める。
現在まで、二期会、劇団四季、宝塚歌劇団出身のヴォーカリストや、岡本知高、田代万里生、平原綾香、ミネハハ、エスコルタ、中島啓江、ジャズの北浪良佳、インストでは、オカリナのホンヤミカコ、タンゴの喜多直毅、口笛の柴田晶子、環境音楽ではドコモ携帯のサウンドデザインを担当した小久保隆などを演奏・作編曲でサポート。50枚以上のCD制作や、ライブ、TV(NHK、CM他)、映画、ゲーム、またアクアパーク品川(メリーゴーランド他)、六本木ヒルズ時報、万博パビリオンなどの施設への作品提供や、安藤美姫アイスショー音楽アレンジなど。
最近の活動には、ミュージカル田代万里生DVD音楽監督、山根基世、進藤晶子、松平定知らアナウンサーとの朗読コンサート、中村獅童との即興朗読コラボ、NHKドキュメンタリー「沁みる夜汽車」音楽作曲、ホリプロ60周年オールスターミュージカルアルバム、NHKドラマ「生きてふたたび、保護司・深谷善輔」、柿澤勇人ミュージカルアルバムなどがある。
演奏力を元に、有機的な表現力を持った打ち込みが評価され、活動の場を広げている。
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