SONICWIRE

桑野 聖 氏

PRODUCT SPECIAL INTERVIEW / Presented by Crypton Future Media, INC.

トップアーティストや人気映像作品のサポートで知られる業界屈指の実力派ヴァイオリニストとしてのみならず、作曲・編曲家としてNHK を始め多数のメディアに携わり、音楽企画制作会社とレコーディング・スタジオを設立してからは活動の幅をますます広げる桑野聖 氏。そんな氏の制作環境では、現代最高峰のストリングス音源「CINEMATIC STRINGS 2」「VIENNA APPASSIONATA STRINGS 1」「LA SCORING STRINGS 2.5」が活躍しています。それぞれ個性が異なるこの3 つの音源について、感想を伺ってみました。

まず、音楽経歴をご紹介頂けますでしょうか?

桑野氏:クラシックのヴァイオリニストになるべく東京藝術大学に入りまして、在学中は「東京シティフィルハーモニック管弦楽団」と「宮城フィルハーモニー管弦楽団」(現:仙台フィルハーモニー管弦楽団)のゲストコンサートマスターをやっていました。でもそれから制作に方に興味が出てしまいまして、数年で辞めてしまいました(笑)。それ以来はスタジオにも興味が出てきまして、中西俊博さんというヴァイオリニストと知り合ったことがきっかけで「桑野ストリングス」グループと本格的な制作を始めました。作曲家としてのキャリアのスタートは石川賢治さんの写真集『月光浴』のイメージアルバムへの楽曲提供で、アレンジャーとしては米米CLUB さんの「君がいるだけで」のストリングスアレンジがスタートになります。

2011年に設立されたSPICYHEAD,LLC をご紹介ください。

桑野氏:友人のフルーティスト:中瀬と僕はお互いの音色が好きっていうのがありまして、ならば一緒に活動をしていきましょうよ、ということで「Ensemble Schubale」(アンサンブル・シュベール)というクラシックのユニットを始めたことがきっかけです。中瀬は僕のアレンジも気に入ってくれていて、僕の演奏活動と制作活動をより良くするには会社を作ったほうが良いのではないかと提案してくれたので、一緒に会社を立ち上げました。で、作曲、編曲、レコーディングがスムーズにできるようにスタジオも作ってしまったわけなんですね。まだ作ったばかりのスタジオですが、弦、木管、金管だったらちゃんとレコーディングできるようになっています。直近では布施明さんのオーケストラアレンジアルバムと、「LIGHTNING RETURNS: FINAL FANTASY XIII」のトレーラー(作曲は浜渦正志さん)のヴァイオリン・ソロをレコーディングしています。

制作環境を教えてください。

桑野氏:MacPro(CPU12core, RAM32GB)と、MacMini2 台、MacBookPro1 台、DAW はLogic Pro を使ってます。トラブルが発生すると困るので、MacPro にはパーカッション音源とVIENNA IMPERIALCINEMATICSTRINGS 2LA SCORING STRINGS 2.5、MacMini の1 台にVSL の金管系、もう一台にVSL の木管系、MacBookPro にはVIENNA APPASSIONATA STRINGS 1 を入れ、VIENNAENSEMBLE PRO 5 でコネクションしています。金管と木管を分けるだけでも、MacPro にかかる負荷は相当変わります。MacBookPro はメイン・コンピューターの予備を兼ねています。

Logic Pro ではほぼスコア画面だけを使って制作しています。キースイッチが嫌いなので、MIDI チャンネルでアーティキュレーションを切り替えられるようにしたフルオーケストラのテンプレートを作っています。

「NHK 関係オーケストラ」や「ポップス系オーケストラ」などいくつか作っていまして、今回の仕事に近いのはどれかな?って選べるようにしています。

今お使い頂いている、CINEMATIC STRINGS 2, VIENNA APPASSIONATA STRINGS, LA SCORING STRINGS 2.5 のサウンドの感想をお聞かせください。

桑野氏:あくまで個人的な感想ですが、まずVIENNA APPASSIONATA STRINGS は「整っていて」「丁寧」な印象があります。アグレッシブなゴリゴリ感とかパワー感は弱いですけど、「人数感」は凄い。その人数感から少しツルッとした音がするので、クラシカルでかつロングトーンが多い、ゆったりした楽曲にはすごく合います。

ゴリゴリ感で言えばCINEMATIC STRINGS。この3 つの中では一番安く、収録内容は一番シンプルで、ある意味チープといえばチープなのですが、例えば金管と木管とか他の楽器と混ぜた時に何故か妙に本物染みてきます。これ単体を聴くとタイミングとピッチが微妙に揺れてて、演奏がきっちり整い過ぎてないぶん他の楽器と混ぜた時に映えてくる印象があります。実際本物のストリングスでもかなり揺れていているのですが、それに近い雰囲気があります。

LA SCORING STRINGS 2.5 は使い始めたばかりなので印象の域を出ていませんが、僕が思った通り音色は凄く「ざっくり」している。ぱっと聴きの印象としてはある意味「荒い」。VIENNA APPASSIONATA STRINGS のように最初から音色が「整っている」や「丁寧」なのではなく、このざっくりとした「素材」を使い手の「センス」で使いなさいよ、と言っているかのようね音源ですね。例えば同じ醤油と味醂と酒と鰹節と昆布を使っても作り手によって全然テイストの違う料理が出来るように、この音源に入っている「素材」をどう使うかによって「音」が変わるんだよ、とそう主張しているような印象を受けました。もっともこの「素材」は少々アクが強いのでどう使ってもLASS」の香りはプンプンしますが(笑)。使い方によっては「芯がありながらもまろやか」みたいな音も作れそうなのには期待感が持てます。とは言え、収録時のマイクの位置が非常に近い為なのか、音の芯と輪郭がハッキリとしたいわゆる「強い」音がするので、弦と弓が「擦れる音」が苦手な人には難しいかもしれないですね(CINEMATIC STRINGS と混ぜるとかなり良い感じになりますが)。

どのようなシチュエーションで使い分けているのでしょうか?

桑野氏:以前、水樹奈々さんのオーケストラ・コンサートのアレンジを担当させて頂いたとき、映画音楽みたいな壮大な雰囲気にしてみようかと思ってチェロとヴィオラを細かく刻ませたアレンジをしたんです。その時はCINEMATIC STRINGS でアレンジを進めてたのですが、VIENNA APPASSIONATA STRINGS に弾かせたらどうなるんだろうと思って途中で差し替えてみたんですよね。そしたら音色が柔らかくなり過ぎちゃって。一番価格が安いCINEMATIC STRINGSの方が良かったなんていうことがありました。クラシックっぽい方向性ならVIENNA APPASSIONATA STRINGSですが、映画音楽っぽく派手にするのであれば、製品名通りですがCINEMATIC STRINGS 2 が最適ではないでしょうか。

例えば、リズムがバーンと表に出るようなセッションだと、LA SCORING STRINGS の「弦擦り感」が最適かもしれません。単体で聴いて「キレイな音」、つまりある程度距離感のあるストリングス音源では、ドラムやベース、さらにエレキギターが入って来た時に太刀打ちできないし、最悪モアッとして「消されちゃう」ことがあります。

どのように作曲/編曲を学んだのでしょうか?

桑野氏:言ってしまえば見よう見まねです(笑)「自分が好きな音」はどうやったら出るのかとずっと考えていて、やっぱり耳で聴いたことの「再現」から始めてるのかな。特に和声や対位法、オーケストレーションを勉強したとかはなくて。勉強すればするほど楽に書けるようになるとは思いますが、逆にそこから出れなくなってしまうのもあるみたいなので、自分の耳で聴いて心地良いものを書くようにしてます。なので作曲/編曲を学んだかと言われれば、学んでないと言ったほうが正しいのかもしれません(笑)

これから作曲・編曲する方々にアドバイスをお願いします。

桑野氏:オーケストラのように生の楽器に依存される音楽であれば、「サンプリング音源の端から端」をあえて使わないで制作してみる、かな。作曲と編曲のノウハウとは全く関係ないようですが実は密接に関係していて、最近のサンプリング音源ってすごく良く出来ているので何でも出来てしまうのですが、実はプレーヤーの技術の幅ってそれほど広くないんですね。楽器のことを細部まで把握していないと難しいかもしれませんが、プレーヤーが楽に弾けるような書き方を心がけると、良いアレンジ、オーケストレーションができるようになるかもしれません。やっぱり楽器には得手不得手はあって、その辺、クラシックのフレーズは難しそうに聴こえても案外簡単に弾けてしまうことが多々あります。その辺の法則を自分なりに見つけてみると良いかもしれません。オーケストラを良く鳴らせるアレンジャーさんって、自分で楽器が弾けないにしても、経験則で楽器の得手不得手を分かってるんじゃないかなと思います。

あと、制作を始める前に各楽器の音量バランスを整えておいて、エフェクトを全く使わずに制作してみるのも良いかもしれません。リバーブやイコライザーを全く使わないで曲を鳴らしてみて、そこで何かが引っ込んで聴こえるようであればアレンジが良くない場合が多いです。高品位な制作環境を整えて、そういう訓練をするのもありだと思います。

今後の活動の予定、展望についてお聞かせください。

桑野氏:オーケストラ音源を使った自分のアルバムを作ります。今となってはそれほど珍しくもありませんが、僕なりに音源を「より鳴らせる」ようにするにはどうすれば良いのかを追求して行きたいと思っています。もはや誰もが言っていることですが、コンピューターの中に「自分のオーケストラ」があるわけなんですよね。皆ほぼ等しく。でも同じオーケストラでも指揮者によって音が変わるとすれば、それはバランスだったり「歌わせ方」が重要になってくるわけで、そこを追求すれば、「自分だけの音を作るためのオーケストラ」を作れると思っています。サンプリングに意味を持たせるようなフレージングも追求してみたいとも思っています。

でもやっぱりコンピューターの中の自分のオーケストラは誰もが持てる、使えるんじゃなくて、「オケって誰かが統率をとらないとちゃんとした音が出ないんだよ」ということを示したいとも思っています。生の楽器であってもソフト音源であっても、おそらく方法論は変わらないのではないでしょうか。

桑野 聖 氏

ヴァイオリニスト・作曲家・編曲家。東京芸術大学音楽学部卒業。

「桑野ストリングス」主催。グループリーダー/ソロ・ヴァイオリニストとして多数のCD/アニメ/ドラマ/ゲーム音楽のスタジオレコーディングや、アーティストのコンサートに参加。作・編曲家として劇音楽の作曲や楽曲提供、TV番組/コンサート/アーティスト楽曲のオーケストラ・アレンジを行う。2009年からはフルート奏者:中瀬香寿子とのユニット「アンサンブル・シュベール」のコンサートを精力的にこなすなど、クラシック音楽にも再び情熱を燃やす日々を送っている。

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