Godspeed/青木征洋 氏が語る、SPITFIRE AUDIO の魅力

僕が初めてSpitfire Audioのライブラリに触れたのは2015年の秋でした。確かHZ Percussionシリーズのセットだったと思うんですが、アンビエンスの音が絶妙で直ぐに気に入ったのを覚えています。特に僕の場合バンドサウンドとフルオーケストラを同居させなければならないケースが多いので、「HZ02 - LOS ANGELES」のドラムサウンドは革命的でした。

それからMuralシリーズ、Sableシリーズ(いずれも既に廃番)と揃えていって、凄く気に入ったのが音の持つ空気感と存在感です。Long(サスティン)を1音置いてMOD WHEEL(モジュレーション・ホイール)を弄るだけでBGMとして成立してしまうような説得力があり、特に弱奏のセンシティブな感じは他のライブラリでは表現出来ないですね。弱奏が美しいライブラリって意外と少ないと思います。多分オーケストラの録り方が良いんだろうなと。

僕はオーケストラというのはホール、スタジオの響きまで含めて一つの楽器だと思っています。例えるならギターアンプのスピーカーユニットがキャビネットと合わせて1つの楽器なのと同じ理屈です。なので、ハコの響きをどう捉えるかはエンジニアの腕の見せどころだと思うのですが、僕はSpitfire AudioのAir Studioでの録り方に魅力を感じています。

Air Studio(イギリス・ロンドン)での収録風景

そしてこれはSpitfire Audioに限らず最近のオーケストラライブラリ全体に言えることだと思うんですが、ライブラリを作る上での技術的な制約(容量やストリーミング帯域、スクリプトの処理負荷等)が解決されていったこともあって、演奏表現の面で人に「これは生演奏なのでは?」と疑わせるところまでは来ていると思います。また音質面で言うと、ライブラリではマイクの被りなどを気にせずにある種理想的な録音が出来るので、いっそ「生収録したらこんなに壮大にならない」みたいな位相の整ったクリーンで太い音が、音質的には実現出来てしまうようになりました。だから、打ち込みにはどんどん気を抜けなくなってきています。

音源の扱いの難しさの話をしましょう。

2000年あたりのGiga SamplerやVienna Symphonic Libraryの登場をきっかけにサンプルライブラリは一気に大容量化し、奏法も非常に多くのものが収録されるようになりました。ただ、リアリティを実現するために結構使い手の努力を要求するライブラリが増えたという課題が2010年代前半くらいまで続いていたように思います。ライブラリが楽器や奏法ごとに細分化されたり、GUIが非常に煩雑になってマニュアル無しには音を出すことすらままならなかったり。

そんな時代を経てここ数年でオーケストラライブラリは簡素化するのがトレンドになっていると感じますが、Spitfire AudioのBMLシリーズも正にその流れの先端をゆくライブラリだと思います。nkiを1つロードしたらあとは鍵盤で適当に弾くだけでそれっぽくなる! なんならミックスバランスも整ってるからDAW側でフェーダーを弄らなくてもOK! リバーブもAir Studioのアンビエンスがたっぷり入ってるから、足りなければアンビエンスマイクをONにしてね! みたいな。特にPerformance Legatoのパッチは制作のストレスをかなり軽減してくれました。今までであれば、例えばRunを打ち込みたい時はRunのパッチを読み込むか、何ならRun専用の音源を買ったりしていたのですが、Performance Legatoならstaccatoからlegatoからrunまでパッチ1つで大体やりたい放題です。

さて、実際にデモの中で使ったのはlegatoとlongとstaccatoだけで、MIDI CCもCC1とCC16とCC21を軽く書いた程度です。ライブラリはBMLシリーズ「HZ01 - LONDON ENSEMBLES」だけを使用しています。先述の通り弱奏がとても良いので、CC1やベロシティは値20~60くらいのレンジを中心に使っています。legatoパッチを使っているとそのままでは和音が打ち込めないので面倒くさがってディヴィジをあまりやらなくなったんですが、その分真面目にハーモニーを考えるようになったのでそれはそれで良かったのかなと。

「Arise (Spitfire Demo Song)」のMIDI トラック。CC1、CC16、CC21 が書かれている。

このライブラリをより上手く使いこなすために何より大事なのはオーケストレーションの知識だと痛感しています。美しく音を積んで美しく楽器をアサインすればどこまででも美しく鳴るし、そうでなければどこまででもチープに鳴ります。一生懸命MIDI CCやベロシティを弄っていてどうしても良い響きが得られない時は大体アレンジメントに問題があるので、面倒臭がらずにノートの配置におかしなところが無いか見直すようにしています。

「Arise (Spitfire Demo Song)」で使用されたライブラリ

エンジニア面で言うと、簡単に説明出来るものでもないですが「ローを大事に」がキーワードかなと思います。ただローを出せば良いという意味ではなく、それぞれの楽器のローをアレンジメント的に、エンジニア的に上手く積み上げていかないとヤジロベエ的なアンバランスなミックスになってしまうなと。

長くなってしまいましたが、リッチな音の出るオーケストラライブラリを探している方はSpitfire AudioのBMLシリーズを是非チェックしてみて欲しいです。

2017年6月15日 青木征洋

Masahiro "Godspeed" Aoki(Producer / Composer / Guitarist)

プロデューサー・コンポーザー・ギタリスト・ViViX統括。東京大学工学部卒。

2005年にギターインストの流布を目的とした「G5 Project」を開始。4thアルバム「G5 2013」ではオリコンCDアルバムデイリーチャート8位にランクイン。

2008年にカプコンに入社し、戦国BASARAシリーズやロックマンXoverの音楽制作を担当。

2014年に同社を退社した後は自身の音楽レーベルViViXとしての活動を本格化させる一方でストリートファイターVの作曲を担当する等ゲームコンポーザーとしてもグローバルに存在をアピールしている。

2016年4月に新世代のギタリストプロジェクト「G.O.D.」としてリリースしたアルバム「G.O.D.111」の収録曲がKONAMIの音楽ゲームGITADORA Tri-Boostに収録されるなど、音楽ゲームにも活動の場を広げている。

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関連情報

Christian Henson(SPITFIRE AUDIO のCo-Founder)が「SPITFIRE AUDIO 10TH ANNIVERSARY」のために来日した際に、Godspeed/青木征洋 氏のプライベート・スタジオを訪問しました。その様子がChristian Henson のYouTubeチャンネルにアップされましたので、全編英語ではありますが、ぜひご覧ください!

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